斬撃を振り抜いて辺りの土煙を拡散させる。そうして視界を確保することで、完全に感覚任せだった自分のコンディションをチェックする。
どうやら咄嗟の回避は効果があったようで、左腕が動かないこと、剣が半ばから折れたことと耳栓が完全に死んだこと以外に特に問題はない。ならば快調だ。剣が死んでないならまだ戦える。だから快調だ。
剣が軽くなっているので、簡単に振って感覚を慣らす。このサイズなら短剣として扱ったほうがいいなと思う……だが自分、短剣は専門じゃない。ろくに使うこともできないのでやはり普段通りに戦うしかない。大丈夫、軽くなって突きが使えなくなってリーチが短くなっただけだ。戦える。
短剣使いとか正直どんなマジックを使っているのだろうか。
ぶっちゃけ、めちゃくちゃ扱える気がしない。だがしかしそれを扱えないと死、だ──たぶん死ぬと思う。
古龍に勝てなくとも、少なくとも持ちこたえる必要がある。ならば答えは一つ。
「みみっちい耐久だ……!」
体力が持つ限り耐久する。
龍属性の砲撃が飛んできたのでそれを横に飛んで回避する……離れていたのに右手がひりひりして痛い。これ、ゲームとかならスリップダメージ入ってるだろ、と思う。
とりあえず接近する。そっちのほうが実際戦いやすい。龍属性ダメージは接近したほうが薄れる。
龍属性を砲撃……つまりそのものを武器として扱う以上、下手に遠距離で逃げれば死ぬだろう。そう思う。なのでとりあえず接近した。
龍属性は当たるとその側から
龍気活性と言う技術、あれは自分の寿命を削る技だ。利用するのはG級以外には……戦い以外に何も興味のないG級ハンターくらいだろう。生命力を龍気に転換する裏ワザ。
属性すら食らう龍属性の効果で属性攻撃を無力化できるが、自分の体もそれに食わせることになる。なのであまり推奨されない技術だ。外法の類でもある。故にそんなに使う人間はいないし、使える人間もいない。
接近すると翼で攻撃してくる。それを回避しようとして、龍属性がその翼から放出される。それをまともに浴びたせいで、もともと消えそうだった意識が消えかける。
それを堪えて、尻尾側に抜けていく──直後に龍属性のエネルギーが龍──バルファルクから放出される。
龍属性を放出することで異常な速度で飛ぶことのできる龍──そんなの、序盤に出ていい存在じゃないだろ? と思いつつ、剣を振るう。軽すぎるその攻撃はろくに通ることもなく、簡単にその甲殻に弾かれた。
──これ無理ゲーじゃないかなぁ。
そう思いつつ、次の行動を何通りも考えつつ、直後に反射任せで攻撃を回避する。目視が不可能だったそれを回避した──それはいいが、体制を崩しそうになる。それをむりやり食い止めながら、静止する。
左腕が使えないので現在さらに力を込めることは不可能だ。ならば肉質を考えながら攻撃するか、それとも攻撃を諦めるか。すぐに攻撃を捨てる方向を考える。相手のなにが恐ろしいって早いのに固いところだろう。正直生命力が異常とも言える。そんな敵となりゆきで戦うことになるのだからこの世界ってほんとにクソだと思った。
薙ぐのは属性に塗れた右翼だ。それは属性を開放することで見た目よりはるかに広い範囲を攻撃してくる。──見た目があてにならないとかこいつほんとに厄介すぎないか? なんて思いつつ、
前足の下に潜り込んでそれを回避する。翼で打つ攻撃である以上、そこには安置が存在する。その安置は──バルファルクの体の下になる。構造上、飛ばないと攻撃はこちらまでこないからだ。
ただなぎ払いに当たって死ぬ可能性あるから正直心の底から古龍ってクソだと思う。
お前もそうだぞミラルーツ。
当たり前のように乱入してくんなバルファルク。
一生死んどけオストガロア。
歩く害悪シャガルマガラ。
なんでこんなにクソみたいに殺意高いやつしかいないのか。古龍と言う存在は畜生でなければいけないのか。いや古龍は畜生だった。いいから巣にお帰りバルファルク。
「帰れよォ!」
咆哮で脳を潰されないように前兆を見てから耳を塞いだ。それでも脳に響いてくるそれは頭を揺らして意識がブレる。それを舌を軽く噛んで痛覚で意識を保ちつつ、そろそろ体力が持たなくなってきたことを理解する。
これそろそろどっか行ってくれないかなぁ、と思ってるとバルファルクは自身の甲殻の周りに龍属性を覆い始めた。兜のように頭を覆ったそれにとうとうキレそうになりつつ、相手の跳躍、それから地上へ龍属性弾を撒き散らす攻撃を走って距離を開けて回避する──狙い撃ちにされるな? となんとなく思っているとやはりこちらに砲門が向いた。
ほんとに、一撃一撃が即死のレベルだ。そんな相手と戦うのはまだまだ先がよかった──視界にすら映らない砲弾は空間に僅かな線だけ残して消える。それを回避できたのはたぶん勘だ。
勘を研ぎ澄ませば──全てが回避できるだろうか? そう思いつつ、とりあえず未来の推測をする。相手のその攻撃の予兆なんてわからないし、みえない。ならば全てを直感で避けるしかない。
大丈夫、目隠しで歩くのとあんまり変わらないのだから大丈夫。そう言い聞かせて、
直後、バルファルクが飛び立った。
「──は?」
そこで思考が停滞する。全ての予測をぶっち切ってあいつ飛びやがった──そう愚痴を言いたいくらいの最悪だ。そして周りを見渡す。逃げたのだろうか? 陰が見えない。
しかしそうではないだろう、と本能が警鐘を鳴らす。こういう直感は意外に当たるものだ。本能が告げる言葉に耳を傾ける。
──上だ。
流星が降るように、龍属性をまとってバルファルクが突進してくる。それは最初に見た攻撃、二度目はない──おそらく対応できる。自分を狙ってくるのだから簡単だ、と思う。
走る、そして身を投げ出す。
緊急回避と呼ばれているものだ。空中にいる間に吹き飛ばされることでダメージを抑えようとする行動になる。爆発が起こった──吹き飛ばされつつ、地面を転がった。
「……──」
耳が潰れた。それを理解した。耳栓ないと厳しいタイプの攻撃だった……血が流れている感覚でそれを悟る。そして視界も回っている。酩酊しているみたいに、感覚がうまくつかめない。自分が自分でないような感覚──それを思いつつ、立ち上がることすら厳しくて、
その状態で視界は龍属性の弾丸を捉えた。
「ぁ」
死ぬか? 死ぬなぁ。そう思いつつ、確か後ろは──崖だった気がする。これ、当たったら死ぬ……けど回避できない。龍属性の弾丸が迫って、体に当たって、自分の体がきしむ感覚。それを味わいつつ、遅れて痛みがやってきて……それに耐えきれずに視界が霞む。
「……あーあ、つまんねー。もうちょっと楽しい娘だと思ったんどけどなぁ……まぁしょうがねぇか。さて、力試しは終了。お疲れ様──」
──そんな声を、聞こえないはずの耳で捉えて、体に肌の暖かさが触れる。どこか懐かしい感覚のそれは、久しぶりに触れた気がした。霞む視界は一人の男を捉えている。その姿はぼやけて、顔もわからない。けど……何故か安心感があった。
「お? あぁ、──大丈夫だよ、だから寝とけ」
強く抱きしめられて意識は堕ちていく。その感触は、安心感があって、暖かさがあって、──どこか、すごく懐かしかった。
「────」
最後に一つ呟いて、
「──っ?」
どこだここ、と目が覚めてすぐに思った。そしてすぐに発想する──アステオの病院だ。そんな場所にいると言うことは自分は大怪我をしていると言うことで、実際体は微塵も動かない。
どうしてこんな怪我を負ったんだか……そう思って軽く記憶を辿っていると、すぐに思い至る。ああ、バルファルクと戦ったんだなぁ、と。ならば何故自分は生きているのだろうか?
そこが疑問になる──間違いなく死んだと思ったが、……そういえば意識を失う直前に聞いたもの……試練、だったか。ならば自分が今ここにいるのは試練の終了だから、だろうか。ただそう言えばあいつくっそつまんねぇとか言ってなかったか?
あいつ絶対いつかぶった切る。
そう思っていると病室の扉が開き、そこからアレスとナナシが顔を出した。二人はこちらを見ると小さくよう、と手を上げて声を発する。自分もならってそうしよいとするも、体の痛みに腕を上げることができなかったので断念して声を発するだけに留める。
「何があった? てか喉は大丈夫なのか?」
「あーうん、喉はそんなに問題ない。何があったって……ギルドは何か言ってなかったか?」
「おう、なんも言ってなかったな。いや、旧砂漠の一帯が消滅したとか言ってたからたぶんそれか? おう、何があったか言えーや」
「バルファルク来た」
「oh……」
怪物アレスでさえもそう言うのだから古龍と言う存在はとことん規格外なのだな、と思う。ただバルファルクについて伝達がなかったのは不思議だと思う──箝口令でも敷かれてたか? と思ったらやらかしたとしか思えない。
まぁ、たぶん観測班潰されてたから記録がなかっただけだと思うが……いや、ネコタクが観測してるか。なら箝口令かなぁ、と思ってやべぇと思う。
忘れよう。
「……俺の状態は?」
「全身で合計十五箇所ほどの骨折、耳の損傷、龍属性による肉体の侵食損傷──くらいあったんだけどねぇ……属性ダメージ以外は全部消えてるよ。でも腹とか、属性のダメージがダイレクトに通った場所の痕は消えてない。時間をかければ傷は小さくなるけど、消えない可能性な高いね。おめでとう、絶好調だ。あぁ、耳の中で砕けた耳栓の破片が耳の中を傷つけてたからそれは除去したよ。崇めろ」
「死ね」
そう言って中指を立てようとするが、痛いのでやめておく。それをみたナナシが数秒無言で、
「──これ、今のうちに煽るだけ煽れば……」
「俺傷殆ど治ってるんだけど」
痛みがあるだけなので動くことはできるのだ。ただ龍属性の侵食のせいで異常に痛いだけで全然普通に動くことはできるのだから剣だって振り回せる。
「あー、そうそう。お前剣折れただろ? その変えは兄貴がもう用意してるってさ。ただあくまでも繋ぎだからさっさと新しい剣の素材集めろだとよ」
「あー、あとついでに僕から一つ。バルファルクの情報については前々から仕入れてたのがあるんだけど、──あいつ遠くでいたら狙撃してくるし近くによったら怒り状態の龍属性で焼かれるってさ」
その言葉にこちらが黙る。つまり近距離も遠距離も殺しにくる厄介な性能ではないか? そう考えるとガチ過ぎない? と言う気持ちがある。それでもまぁ、たぶんなんとかなるだろうと軽く頭の中で計算してると、
「ああ、あとついでに武器のほうが龍属性と反発しあって表面削れるから切れ味殺しにくるよ。気をつけてね」
「クソ性能じゃねぇか」
「ガンナーだと安心だと思うじゃん?龍属性に生命力食いつぶされるほうが速いから剣士より早く死ぬよ」
「害悪過ぎるだろ」
「うん、だからたぶん君と戦ってたやつも相当手を抜いてただろうね。
だろうなぁ、と思って、そういえば、確認するべきことがあった。
「鏡持ってない?」
「剣ならあるぞ」
「ありがと」
そう言って、目を隠していた髪を上に上げて剣を鏡代わりに利用して自分の調子を確認する。紫は
ならば問題はない。剣をアレスに返しつつ、次にやるべきことを考える。ハプルボッカとバルファルクのことを報告したら──そう言えば。
「ハプルボッカってどうなったんだ?」
「死んでるのが確認されたよ。ヒレが切断されてたのと、龍属性の侵食で体が変色した状態で死んでた。素材からは上位個体だと確認されたから……たぶん、緊急クエスト来るだろうね」
「免除されないかなぁ……」
ただ、緊急クエストがくるのは速い部類だろうから良かったと思う。上位まであと一息、と言う領域にたどり着けるのだ。
「長かったようで短いなぁ……」
まぁ、しかしその前に得物を作り直す必要がある。──折角だし、武器を作るまではこいつらにクエストを手伝ってもらおうか? と軽く考え、それが意外にありだと思ったのであとでそれについて言っておくとする。
まぁ、取り敢えず、
──面倒な戦いだったのだ。しばらくはのんびり休んでおこう。
とりあえず下位編のシナリオを少し削減したのでこれからテンポよく進んでいくと思いますー