まず口に大量に肉を詰め込んだ。舌全体に触れるようにいっぱい詰め込んで、そうして咀嚼の間で味を楽しみながら嚥下できるほどになったら飲み込む。だいたいこんな感じの食べ方を自分はよくする──味わいつつ速さを求めるならこれが丁度なのだ。
まぁ味にはそんなに正確ではないので不味いとか呼ばれるものも美味しく楽しめるのだが。こういうあたり、舌が肥えている人はかわいそうだと思える。なんせ安いもので楽しむことができないのだから。こちらには高いものと安いものの区別がつかないという決定的な弱点があるのだが。
いやそれ損じゃないかなぁ。
とりあえず、ギルドのほうにはハプルボッカのこととバルファルクがきたことを報告しておいた。当然大事なのでギルドはそこから生き残ったことを評価して緊急クエストをこちらに回してきてくれた──もともと、ハプルボッカのクエストを完了できたら実績十分と言うことになっていたらしい。なので今回の件はプラス点になるのだとか。
社畜的にはここで喜んでおくべきだと思う。
武器は新調されて前よりは切れ味が上がっているが、そのぶん切断に特化しているために直ぐに折れるほど強度がもろい。なので新しく武器を作っておく必要はあった。
緊急クエストをクリアしたらここでセルレギオスのクエストに行けるようになる。武器を作るまでは手伝うと言う約束をとりつけているため、緊急クエストは異常なまで安定して勝利できるだろう。ならそこは特に考えることはない──こちらが武器を折らなければ問題はない。
「……いや、お前飯食うの早えよ」
「あ、アレスだ。久しぶり。ナナシは?」
「闘技場のときの幼女に絡まれてる」
その返事に適当にふーん、と返してからポーチを見直す。コートも前回のでかなり傷ついたのでミラルーツに服を集ったのだが、そのせいかなぁ、と思いつつ、
「あ、ナナシ」
「あいつ幼女に負けるくらいクソ雑魚かよ」
「わたしこいつ要らない。……と言うことでハグモ、服持ってこさせたわよ」
ナナシを雑に地面に投げ捨てつつミラルーツの後ろに遣えるように服を持っていたミラさん……ミラボレアスのほうを見て、
「あの、なんかいろいろ飾りが過多だと思うんですけど」
「下に埋もれてるだけです」
そう言って彼女は上のきらびやかなドレスの類の服を全て地面に投げ捨ててから底にあった服をこちらに渡してくる。それを着ていたインナーの上から羽織る──ユクモの方面の、着物とか羽衣とかと言われる服だったと思う。それに着替えていくと、見た目よりは身体を動かしやすかった。動きを阻害しないような構成になっているみたいだった。伸縮もするようで、それで衝撃を吸収するような形になっている。
足のほうはスリットが入っているので動きにくさも全然ない。スカートのような構成だが、このくらいなら男時代の私服でも着ていたので問題ない。
上は羽織るようにしてから腰のあたりで下と共に固定する。袖が広いのが少し心配だが、手首辺りまでしか長さがないのでそんなに心配することはないのだと思う。
「……うん、これはいいや」
総評、防御力を最低限備えつつ動きやすさも十分。やっぱ性能はいいなこれ、と思いつつ、
「これっていくらなんです?」
「……それはミツネシリーズと呼ばれる装備を趣味のままにあの方が改造したものです。値段はそれを一式揃えるのと同じくらいなのではないでしょうか?」
「へぇ、ミツネ装備ってこんな感じになってるんだ。そういえば一時期流行ってた時期があったっぽいんだけども……ナナシは知らねぇかな」
そう思ってナナシのほうを見れば、ミラルーツに睨まれながら食事を取っている姿を確認することができた。ナナシはこちらの発言も聞いてたみたいで、考えるそぶりすら見せずに答える。
「まだ僕らがこのギルドに来る前だね。ディノバルド、ガムート、ライゼクス、タマミツネの情報が集まってなかった時代だ。その時期はとりあえず情報収集を第一とした時代だから、観測しつつ襲ってきたものを狩る、と言うことを続けていたらミツネハンターが増えてね」
「相変わらず無駄に詳しいなぁ」
「だからこそわたしはこいつが嫌いなんだけどね」
「君いちいち敵愾心強すぎないかな? 僕がいつまでも優しいままだと思うなよおい、なぁ」
ふーんとミラルーツが言いその姿が
一瞬で死んだナナシを見下ろしてミラルーツは言った。
「……ま、軽く本気出したらこんなものよ」
「いや軽くでもお前本気出したらヤバイから。こいつ生きてる?」
「……死んだわね……このどうしようもないゴミはほっときましょう」
相変わらずナナシに対して辛辣だなぁ、と思う。そこで死んでるやつが何を抱えているのかは知らないが、やっぱ相当な厄ネタだろうなぁ、と思う──まぁいつものことだ。厄ネタ抱えるのは慣れている。だからそんなに思うことはない。
アレスが言った。
「その装備ってエロさあるよな」
「どこにその要素があるのか俺にはよくわからんがそういうんならあるんだろうな、お前がそう思うなら」
「性癖に正直がモットーにだからな」
教習所時代を振り返れ貴様。
とりあえず、そんな感じの会話を終え、受付へと向かっていく。三人で契約をしておき、そしてまたテーブルへと戻ってくる。
「とりあえず契約しといたわ」
「おう、待て待て貴様。高貴なる俺がまだ飯を食っておろう」
「えっと、主様。食事を奪うのは流石に大人気ないかと」
「この世は弱肉強食だからね。生態系の頂点に座すわたしは食事を奪っても許されるのよ」
「いや許されないからね。とりあえず人を椅子にして食べるのはやめようか。僕は椅子じゃないから」
「いえ……違うわ……椅子。あなたは椅子なの……椅子なのよ……」
「お前ら総じてバカだよ」
そう言って、とりあえず立っているのも疲れるので座ることにした。……体力なくなったなぁ、としみじみ思う。こんなに体力がなかったのは子供の頃くらいだったはずだ。
それだけ自分も衰えたか。
「肉が美味い」
「アレス様、私は飯テロはよくないと思うのです」
「うるせぇ! 俺が! ルールだ!!」
こいつさては調子に乗ってるか? と思ったので殺さなきゃ、と決意する。だがここで刃は抜けない。ギルドに睨まれている……ならば狩場でこっそりと殺すか? セルレギオスが殺したとでも言えばなんとかなるだろうか……?
やめとこう。セルレギオスに断割力はない。あいつの攻撃は基本抉るようなものだ。なのでそれでは騙せない。
そんな日常を──どうにも美しく思える。
狩場についてまずはじめにやることは皆体をほぐすことだ。体をほぐすことは、ほとんど必須になる──上位に上がれば飛行船が利用できるようになるので、こんなことをしなくていいのだが。
今回の狩場は森丘で対象はライゼクス。そんなに強い相手ではない……戦ったことはないこ推定でしかないが、このパーティだとそんなに気負うことはない。
「で、その武器で戦えるの?」
「戦える気がしてないよ」
なんせ貧弱だ。その武器はありあわせでしかない。すぐ折れるだろうが……まぁ、すぐに新しい武器を作るので大丈夫だろう。
たぶん大丈夫だと思う。
とりあえずやることリストに武器を作ることを最優先で加えておいて、固まった体をなんとかほぐして軽く武器の抜刀を試す。
2、3度ふってみてから完全に感覚を揃えきったことを確認して納刀する。そして周りを見ると、どうやら他も準備は完了しているみたいだった。これで戦いの準備はオッケーだ。……そう思ってるとアレスがこちらに言ってきた。
「あのさぁ、思うんだけどお前のその剣に対するセンスは異常だと思うし正直うらやましいわ」
「あ? んだよ唐突に。お前も剣にリソース全振りすればこんくらいできるだろうが」
「いや、俺もできるんだろうけどなぁ……そのぶんこっちはスタイル転向を余儀なくされるから真似したくはねぇな」
「そんなら羨むなよお前……」
「隣の芝は青いってことだよォ!」
「キレんなよ! お前面倒くせぇなお前!!」
そんなやりとりを黙って見ていたナナシを見た。
全身に刻まれている傷はおそらくさっきの傷だろう。ミラルーツのやつほんとにあいつに容赦しねぇな……と思っているとナナシと視線が合った。
ナナシは口に回復薬をぶち込んでこちらにサムズアップを決めた。
そして仰向けに倒れた。
「ナナシぃ──!!」
「ははは、あいつ雑魚だな?」
煽り決め始めたアレスを蹴ったら冗談はさておいて、と言ってナナシは起き上がった。
「とりあえずちゃきちゃきといこうか」
「お前のせいで遅れてるんだよぉ!?」
「うるせぇぞハグモ。お前いつの間に絶叫キャラになったんだよお前」
「うるせぇよお前誰のせいだと思ってんだクソが」
中指だけ立てて先に進んでいた二人を追ってベースキャンプから出ていく。
ベースキャンプを出たらすぐに傾斜が存在している。そこがいつもどおりの森丘の姿だ──ここは下位のときに通い慣れたのでホームグラウンドと言っていいくらいにはここの環境に慣れているのでそんなに問題ない。
「空は赤くないから俺の勝ちフラグ……!」
「お、これは乱入フラグかな?」
「やめろぉ!」
始めの試練は終わったのだから乱入はないだろうと思うが……しかし確約はできないのが怖いよなぁ、と思う。
「……おっと」
エリアを一つ超えると、そこにライゼクスはいた。それを視認した瞬間にアレスが先行して走り出す──現在のアレスの武装は、
「安心安全のランスぅ……!」
その背中に貼り付いて咆哮の衝撃を流させながら、走る。盾から離れすぎないようにして剣を振ってまず
吐息と共に音を放ちながら斬撃を放った。左脇から斬撃を振り抜くようにして、そのまま喉に触れた瞬間に斬撃を通していきながら、切断できないことを悟って剣から手を離した。そして後ろに飛ぶ──出血量は、目に見えて高い。これ、もう少し押し通せば殺せるよなぁ、と思いつつ自分は武器を失ったので逃走する。
「ナナシ任せた!」
「はいはい任された。……アレスガードよろしく」
「あいよ、余裕余裕!!」
ナナシは自分の武器である──大剣を背中から引き抜いた。それを持ったまま、
ナナシは類稀なる頭脳を持っているがハンターにはそれだけではなれはしない。ハンターは相応の身体能力を持っている。そのうちでもナナシは格別だった。
異常に筋力に秀でている。それだけだが、彼のもつ頭脳を組み合わせればそれは異常なまでの能力を叩き出す。
実際、ナルガクルガの顔面を一撃で突き潰したのはこいつだ。そんな人間が弱いわけがない、と言う話だった。
「さて──」
ナナシは言う。その目は冷徹と言えるほど──それが竜への敵愾心のように見えるのは、おそらく気の所為だろうと思う。
「──雷弾から跳躍して電気をまとって滑空叩きつけ、そこから威嚇……跳躍してから叩き落とすか」
直後に言葉通りに放たれた雷弾をアレスが弾いてその背を踏みナナシは跳躍した。大剣分の重さを抱えたアレスはそれに倒れそうになるが、しかしそれに耐え切りナナシの空へと体を飛ばした。
ライゼクスの高さを飛び越えて、そのまま回転するようにしてナナシは大剣を勢いに任せて叩きつける。背面から鱗を叩き割る音が響いた──落下してくるライゼクスに走っていく。この状態なら安定して剣を回収することができる。なんならそのまま殺せるまでもあるのだ。ならば走らない意味がない。
「死──」
剣の柄を手で掴んだ。そのまま上へと切り上げ、
「──ね」
直後にアレスのランスの突進がライゼクスの顔面を弾き飛ばした。
なんか文字が浮かばなかったので時間をかけたにもかかわらず今回は文字数少ないですごめんなさい