剣に生きる   作:moti-

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残響遺影戦地・■■■■ - 3

 体を前方に飛ばすようにして飛び上がる。頭が体に遅れているのを、意識して戻さないようにする──着地の際に体制を崩すからだ。かくん、と首が前にむくのを抑えつつ、即座に反転する。抜剣した。その剣の輝きが生きていることを示している。

 

 金色の剣──それはセルレギオスの素材で作られた剣だ。銘はナーブアルファルド……の改造もの。装備と合わせて改造されたものを利用してるなぁ! と思いつつ、まず前屈の姿勢から弾け飛ぶように走行に移行する。正面に熱さを感じるが、それを無視して前方の敵……ディノバルドを見る。口に刃を咥えている。口で刃を熱しつつ、同時にそれを引いていた。居合でもするつもりだろう。

 

 回避に失敗したら体がぶった切られて死ぬな、と思った。だがそれで足を止めていたら自分は強くなれない。削ぎ落とせ、その剣で殺されることを自覚しろ。その死線の中で──体が何かに導かれるように、ルートが蒼い戦で構築されていく。本能が導くように、体をその線の通りに動かしていく。

 

 神速の居合が放たれた。それを詳しく観測することもなく、スライディングして股を通り抜ける。ミツネ装備の特徴として、粘液で外皮が装飾されているのでその助けもあり、地面を滑りつつ、足に踏まれることもなく完全に回避を成功させる。

 

 死線を知ることで生に近づく。

 

 死を見たことで、突き動かされる衝動があった。それは体の中で蠢いて、今は脳を支配している──すなわち、

 

 生への執着心。

 

 自分はそう言うものが欠如しているのだと思った。しかし最近、そう言うことはなく、自分は脆い人間だと思い知らされ、そして死を観測した。竜の死でなく人の死だ──それがトラウマとして喉に突き刺さっている。

 

 だから、それが生み出した自分の能力(スキル)

 

 その導きに従って、自分は今生きながらえている。と言ってもこのスキルとよべるものは自分の戦闘経験の発露なので、そんなに正確ではない、と言う欠点がある。自分が戦いを続けるたびに成長を続けるスキル、

 

 それは恐ろしいほど自分から躊躇と言うものを消し去った。

 

 死地に飛び込む。ディノバルドへと向き直り、炎弾が見えた──これは成長すれば切れるだろうか? そう思いつつ、横に軽くステップすることで回避する。炎弾のあとに隙ができるのは知っている。そのため距離を詰めて、相手の口が非常に柔らかくできていることを見抜く。そこに叩きつけるように斬撃をつければ、簡単に肉の中へと入っていく。一切その剣は阻害されることなく、

 

 ディノバルドの頭を切り飛ばした。

 

 

 

 

 やっぱり剣が強いと自分が強くなったような気分になる。

 

 剣へと感覚を合わせることが得意で、だいたい振れば調整できる自分としてはディノバルドと言う試運転をこなしてみて、かなり武器の性能で変わってくるものだと言うことを知る。切れ味がいいと言うのはそれは当然、切れるものも変わってくる。安物のナイフで骨を切断できないように、武器によって攻撃力と言うのは変化してくるのだ。

 

「だからそこらへん、やっぱ積極的に作ってくべきだよな……」

 

 散策しながらそんなことを考えていた。()()()()はやっぱりベルナのほうと相当変わってくるなぁ、と思いつつ温泉たまごを口に含んで、その味にすこし驚かされる。なんかに絡めてみるとまた一つの側面を楽しめるだろう。

 

「うむ、俺には美味いってことしかわからん」

 

 味を表現するのは狩人の役割ではないからなぁ、と思いつつ、しかし美味いことがわかるのでその味にすこし浸る。

 

 そして飲み込んだ。持ち歩いている水の入った瓶をポーチから取り出してその中身を口へと注いで飲み込む。水分を取り戻してからそして息をついた。

 

「なんだって渓流にディノバルドが出てくるんだよ……」

 

 いや、ディノバルドだけではない。かなりの数のモンスターが渓流に集まっており、それが近い距離にあるユクモ村を脅かしている。なので今回自分がこちらに派遣されてきた。

 

 こういうのって上位ハンターの役割じゃないかなぁ、と思うが今回の案件の難易度は非常に低く、先程討伐したディノバルドが一番強いモンスターだ。そいつを討伐した以上、さらに強いモンスターは現れないのではないかなぁ、と思う。

 

「社畜はつらいよ、っと」

 

 そう言いつつ立ち上がって、内股を意識しつつ歩く。……こういうところから、普段の動きから変更していくことを決めたのだ。今までは普通に歩いていたから、まぁそれでも歩けたが、骨格的には内股になりやすいのだ。この体、実はそんなに筋肉がついているわけでもないのでちょっと気を抜くと内股になってたりとかしたのだが、それを修正することをやめた。

 

 筋肉がつけば全然そんなことはないのだが。

 

 この体でも筋力はあったりする。

 

 どこからそれを捻出しているのか、それが謎だった。

 

 ユクモ村は階段が多いような気がする。あと観光客も多かったりする。時々ブレイブ装備とか、ロックラックの装備とかがいたりする。ユクモ装備も多く見えた。

 

「本場なだけあるなぁ……」

 

 あの笠、個人的にはすごくかっこいいと思う。子供のころは将来ユクモ村で太刀を使ってるかっこいい男になりたかったが現実そううまくはいかないもので、自分は中途半端な直剣を使っていてなんなら性別すら違っている。

 

 戻してミラルーツ。

 

 観光客を誘うように屋台なんかもかなり出てたりする。そこを通りつつ、温泉たまごだけで腹が満たされるわけがないので何か、別のものを頼もうかと考える。そうなると何がいいだろうか? 辺りを見渡して、好きな串焼きを販売していたのでとりあえずそこを選択する。

 

「すいませーん、串焼き2つ」

 

「……おっと? これは奇縁だな……了解。2つだな?」

 

 どこかで聞いたことのある声だった。どこで聞いたのだったか、と思いながら、2つでいいと了承する。

 

 木の串に刺された肉が、音をたてて焼けていく。それを見ながら、軽くどこで聞いたのだったかを思い返そうとして、そして思い出せそうになかったから忘れることにする。人間一番記憶に残るものは匂いらしいが、しかしそれを嗅ぐのも変質者と思われるだろう。なのでそれはやめておく。

 

「はいどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って串焼きとゼニーを交換する。歩き出してすぐにその肉を口に入れて、一口噛んだ。肉が断割されるようにして潰れる感触。そこから染み出した肉汁が口の中に広がる。舌の上で弄ぶようにして味を楽しみ、飲み込んだ。

 

「美味い」

 

 これ2つじゃ足りそうにないなぁ、と思いながら、

 

 歩く。

 

「……なーんか、変な感じだ」

 

 いつもはもっと大変だ。だがいつもはもっと充実している。じゃあ何で自分はこんなに、満喫しているはずなのに退屈が残っているのだろう? と考えてみて、

 

「……ああ、仲間(ともだち)がいないんだ」

 

 馴れ合い、カテゴリ内共生、からっぽの同盟。そんな名前でつるみ始めた友人がいないからこんなに暇なのだろう。ユクモが悪いわけではなくて、単純に自分の問題だった。

 

 ……過去よりも、やっぱり弱くなっているように思える。それがいいことなのか悪いことなのかわからないけど、なんか、──なんとなく、これは()()()と心が訴えている。

 

 何かが崩れ去るように、何かが砕けるように、何かが嗤っているように、自分の中で何かが欠けているような気がする。

 

 ……体が弱っている。それに影響されて心も弱っているようだった。なんでこの体はこんなにも重いのだろう? 少し考えて、脳がとろけるようにそのことを考えさせなかった。

 

「あのー! ハグモさーん!」

 

「はーい!?」

 

 大声で名前を呼ばれ、軽く声の方向を見ると受付嬢の姿があった。そちらに駆け足で近づいていくと、依頼書を持っている姿が見える。

 

 どうしたのだろう、と依頼書に目を通すと、

 

「──クエスト」

 

「はい、そうです。先程渓流の方で竜車の残骸が見つかりまして……周囲に粘液が散布されていたことからタマミツネの仕業だと見られています。被害で出てしまった以上、ギルドとしては討伐依頼を出さざるをえないのです……すいませんが、この依頼受けてもらえませんか?」

 

「はいはい、俺は社畜だからね。全然出撃できますよー、と」

 

 剣へと視線を落とす。鞘に包まれていても尚、そいつは獲物を求めているような光沢を放っていた。

 

 

 

 

 空は暗い。暗いということは夜か、閉鎖空間にいるかなのだが、今回は夜のほうにはいる。空の暗さは市に直結する可能性がある故にハンターは率先して夜目を鍛えることを習う。教習所で基礎の基礎として定着させるのだ。全体的に、ハンターは視力がいい。運動する物体を視認しなければいけないからだ。

 

 また、自分が特殊なだけで他のハンターははじめにモンスターについてを深く観察する。その個体特有の癖というものを観察して探しつつ、罠を仕掛けていくのだ。これはハンターの基本戦術だったりする。罠を張る専門の罠師だって存在するほど、罠というのは重要になってくる。

 

 それをしないのは自分が剣を極めたいからだ。いや、その言葉は語弊がある。剣の道に終わりはない。極めたなんて存在しないのだ。

 

 ただ、剣の果てを見たい──頂を知りたい。青天井なその世界の、存在しえない最上限。そこへと到達したいのだ。

 

 そんなことができないことはわかっている。わかっている、けど。

 

 やっぱり自分はそこを目指したい──案外、その欲求は自身の死よりも重いのかもしれない。死に怯える自分がそんなことを覚えつつ、体を解し終わったのでそろそろ行動を開始することにする。

 

 ベースキャンプを出て、早速粘液を発見した。こんなところまでモンスターはくるものなのか、と軽く感心しつつ渓流のベースキャンプって位置的に結構危ういのではないかと思う。ただ、今回のこれはタマミツネだからこそ通れたと考えたほうがいい──次のエリアにつながる道を見てそう思った。

 

 人が並んで四人通れるか、と言うほどの狭さのエリアの境を歩いていく。ここの道はタマミツネと言う、サイズ的に小さいモンスターだからなし得たことだろう、と思いつつエリアを抜けると、

 

 タマミツネはそこにいた。

 

 タマミツネはすぐそこにいた──視界にすぐ入るほど、わかりやすくそいつはそこにいた。体を丸めるようにして縮こまりながら、そいつは停止している。……髪をかきあげて見て、そいつの瞼が閉じられていることを見た。寝ているらしい。

 

 現在の渓流の環境は激化している、と言える。そんな環境なので警戒せずにはいられない。上から強襲される危険もあるのだ。なので周囲を警戒しつつ、タマミツネへと近付いた。

 

 タマミツネは寝る際に粘液を周囲に散布してから寝る。それに足を取られるとタマミツネは起きるので、そこには注意を払いつつ、タマミツネを見ながら剣を抜いた。抜剣した状態ならたいていの攻撃は受け流すことが可能なので、その状態で警戒しつつ、タマミツネの粘液に触れないように歩いていく。

 

「ふぅ……」

 

 声を絞りつつ、喉からかろうじて音として絞り出した吐息で、体の力を抜く。

 

 眠っているとき、生き物は基本的に襲われると対抗できない。なので自然に生きるものはそこを対策しているのだが……知恵を身に着けた、人間のみの特権は、それを掻い潜る方法を啓示する。

 

 このタマミツネが完全に熟睡していることを悟った。それでもすぐに起きれるのだろうが、しかし基本的に一撃で仕留める相手に対してリカバーが早いなど、無意味も同然だ。

 

 剣を振り上げる。

 

 剣を振り上げて──そのタマミツネが、酷く傷ついていることに気づいた。

 

 目を凝らせば見える、その竜の傷。痛そうだなぁ、と思った。その傷はどこで負ったのだろうか? 縄張り争いか? 一体何故、この竜はここまで傷ついているのだろうか?

 

 表皮には傷は存在しないように見える。しかし、よく見れば鱗がわずかに欠けていたり、置が滲んでいたりする。口の周りは特に顕著だ。吐血の跡……だろうか。それを見ると、内臓が傷ついているのだろう、とわかる。

 

 だが竜の生命力と言うものは異常に高いし、再生力も高い。内臓が傷ついても飯食って寝たらすぐ治るはずなのだが。

 

 ──毒か? 真っ先にその線を考える。傷が再生しなくなる毒。……魔境のほうで、たしか壊毒と言う毒があったはずだ。だがそれは天廊と言う場所の番人が持つ毒のはずだ。こんなところでその症状が観測できるはずがないし、そもそも壊毒を喰らえば下位程度の竜なら再生が間に合わないはずだ……極少量の壊毒だろうか?

 

 あるいは──狂竜症。

 

 この線を考えたほうが間違いがないと思う。ゴア・マガラと言うモンスターが撒き散らす狂竜ウイルス。それに感染・悪化すると回復力が低下するのではなかったか、と思って、

 

「──薄い壊毒なら、あるいは……? いや、それよりも──」

 

 いつの間にか降ろしてしまっていた手を再度、振り上げる。

 

「──殺さなくちゃ、ね」

 

 そのまま、鱗の隙間に斬撃を滑り込ませた。




一週間の隔日を経てしまい申し訳ございません。
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