地の底まで落ちていく──
──そこは空洞だった。
いや、空洞ではあるが、印象として与えるのは巣だ。自分は今何かの巣へと連れ込まれた。アレスも問題なく、自分の横であたりを見回している。
地面が生き物の骨でびっしりと埋め尽くされており、わずかに水が染み出している。湖だろうか? 足場を取り囲むように、水が存在する。
──そんな場所で、地面が爆ぜる。
下から飛び出してくるのは2つの頭と、骨の外装をまとった巨大な異形。
「──オストガロアかっ!?」
「ならここは竜ノ墓場と呼ばれる場所か? なるほど、古代林に存在すると聞いてたが……まさか引きずり込まれるとはな」
「お前俺がいなけりゃたぶん今頃食われてるだろうな」
「は? ふざけんな、俺より弱い女に言われたくねぇよ」
互いに言葉を交わし合って状況を確認する。間違いなく勝てるとは思わない。逃げの一手を狙うべきだろう。だが、その巨体の触手の動きの速さは先程のことで理解している──逃げるのも難しいだろう。どちらかが囮になる必要がある。
「どっちがやる?」
「……いや、これ無理だろ。どうせなら切り込んだほうがいいぜ」
「ああ、俺もそう思ってた」
現在言葉は要らないほどに、お互いの思考は一致しているだろう。今まで何度も共闘してきた。教習所時代にも、強敵と戦う機会はあった。
だから互いに言葉にしないでもいいほど互いのことを理解している。しているが、
──こういうのってかっこいいだろ?
「よし、それじゃあ」
「やりますか」
剣を抜いた。軽く疲労状態を考えてみる。どちらも正直疲労していない。オーケー、快調だ。足を地面に打ち付ける。その音で、互いに行動を開始した。
自分は相手の左の触手を、アレスが右の触手を担当する。骨に覆われており、竜頭とでも言うべき……だが全容が公開されている以上触手としかいえないそれに軽く斬撃を通してみたらすんなりと刃が入った。肉質は柔らかいほうだと判断する。──が、斬り飛ばすには難しいだろう。斬撃の最中で触手が硬直したのだ。斬撃に耐えるためだろう。それだけでなく、剣を固めて抜かせなくなるという意図もある。
なので、それに剣が呑まれるまえに引き抜く。結構戦い慣れてるな? と思ったがオストガロアは古龍に分布される、戦闘力に関しては生まれたときから持っているものだろう。
なんせこのオストガロア、ナバルデウスと呼ばれる古龍の幼体すらも喰らうモンスターだ。それだけ凶暴で凶悪。そんなモンスターが、弱いはずもない。
軽くどう攻めるかを脳みそでシミュレートしながらすこし距離を開けた。そこに龍属性のブレスが飛んでくるので、背後へと回転しつつ飛ぶことで直線のそれを回避する。竜頭をくねらせてこちらへと追いかけてくるブレスを竜頭にななめ向きに向かっていくことで避けて、本体を鎧のように覆っている殻へと一度剣を放ってみる。軽くだ。振り抜くと剣が折れる可能性がある。
小気味よい音を立てて剣が弾かれあ、これは駄目だと判断する。この殻は切れる気がしない。割れる気もしない。なるほど、わかりやすく鉄壁の鎧を誇っていた。
こんなやつどうやって昔の人は倒したんだろう、と思いながら、アレスが担当するほうの触手がこちらを潰そうと倒れてくるのを見た。バックステップでその叩きつけを回避し、
「──こう」
直後にその竜頭に飛び込んできたアレスの槍が突き刺さる。
竜頭を叩き割り、内部の触手の先端を穿ちながらアレスがそのまま右足で滑りながら勢いを殺しつつ、左足を大きく踏み込んでランスを突き出す。
体のねじりから放たれる刺突が、触手を深く刳り抜いた。
そのままランスから手を放す。触手が体を固めて離すまいとしているのだろう。だが、
完全にオストガロアに固定されているのならそれを利用すればいい。
跳躍した。前方へと体を飛ばすように、地面を蹴って跳躍する。到底オストガロアの竜頭の高さまでは届かないそれだが、
道中に足場があれば?
ランスを踏み跳躍し、なんとか竜頭の高さまで到達した──それで十分だった。いつも通り、何回も続けてきたもの。スマートに、一番効果的な薙ぎ払いの動作での横斬りを放つ。下部分より柔らかい竜頭に食い込み、そのまま締め上げられる速さよりも早く肉が断たれていき、
触手の先端を切り離した。
順調に見えて実はこの勝負、詰みへのルートは多い。
相手が巨体を活かして叩き潰しにきたら死ぬのは確定するし、全力を出されると死ぬ。下手をやらかすと死ぬのは変わっていないし、最悪遠くからブレスを打ち続けられるだけで死亡する。
つまり詰みへのルートは多いのだ。現在順調に行っているのも高速戦闘故である。速攻に努めているから限りなく相手の行動による事故が起きる確率を減らしている──だがそのぶん、自分らの些細なミスで死につながってくる。
つまり現在の方式では自分が如何に詰められるかを確かめられている。
技量を問われている──とはいえ、流石に現在の速攻だけで理解できることがあった。
相手は本調子でなく、もっと言えばそんな中でも本気ではない。言わば
オストガロアが触手を引っ込め、反転した。地面を割りながらその頭を引き出して、
アレスと視線を交わす。それだけで十分だった。可能な限り遠くへと向かい跳躍し、
「────────!!」
咆哮と共に湖が蒼に色を変える。先程まで見ていた空間はすでにない──ただ、蒼い蒼い、幻想的で幻惑的な世界へと乖離した。
耳を抑えた手の中で耳栓が砕け散りながらも多少その咆哮を緩和して脳が弾けるのを防ぎ、着ていた防具も音の衝撃を防いで体を守った。アレスのほうを見ると、盾を構えて音をガードしながらも、大きく
これが
──未だ本気ではないことを。
いや、現在出せる力は引き出しているのだろうと思う。思うが……しかし、現在自分が生きているのが理由とできる。この耳栓はあくまでも下位用に作成されたもので、上位の竜の咆哮を受けられるようにはできていない。だがそれと、自分で塞いだぶんを合わせて凌ぐことができた。
それが本気でないことの証明になる。
「っふー……」
軽く息を吐く。なんだあの反則生命体は。人類に敵うものじゃないだろう? そんなことを考えつつ、隣に戻ってきたアレスに視線を合わせずに声を投げる。
「……なあ、俺の目にはあいつがブレスの用意してるように見えるんだけど」
「奇遇だな、俺もだ。──これ回避できそうにないかな? どう思うよ」
「黙って走るんだよォおおおおおおお!!」
危険を感じて走る。首もとがひりひりする間隔と、伸びた髪の毛が後ろで重い。そろそろ切る必要があるな、とふと思って、
放たれたブレスが自分の髪の毛を焼き切りながら空洞の壁をぶち抜いていく。ブレスの反動でオストガロアが浮き上がっており、それを止めるためにオストガロアが顔を上に向け、
直後、天井が爆裂した。
光が差し込み、壊れた岩が落下してくるのを見て、なんて破壊の規模なのだろうか、と思いつつ軽くアレスを探す。
「随分すっきりしたじゃねぇか」
「あ? そう言うお前こそ盾殆ど溶けてんじゃねぇか。それに背中も結構火傷してんじゃねぇのか? 俺はした」
「右手が蒸発してないのが不思議なくらいだ。装備のおかげって感じか? 手甲の内側は酷いことになってる気がするが……まぁ幸い槍は無事だ。問題ねぇな」
「おう、至極快調ってやつだぜ」
「嘘つけ絶対ボロボロだろ」
その言葉にそうだよ、と返し、オストガロアを見る。
「は?」
──こちらを向いて口を開けている。
その中には龍属性のエネルギー。嘘だろ、と否定しながら、瞬きをしても変わりなくそれが現実ということを伝えてくる。
「──ブレス二連続……!?」
「おう、ちょっと洒落になってねぇぞ馬鹿野郎!」
アレスがそう叫びながら、
直後にブレスが放たれ──
それは嘘のような光景だった。ブレスの前に
そうしてオストガロアを蹴り上げた。
それだけでブレスは行き場を無くし、オストガロアの口内で爆発する。そんなうそのような光景を、アレスと、自分は見ていた。
「──全く、なんでこんなめんどくさいことに馬鹿弟子どもはなってるのやら」
そう言って、その人──アステオはこちらを一瞥する。オストガロアとは多少距離があるが、その声はこちらに何故かよく聞こえてきた。
「上級生物との戦闘は控えろって馬鹿弟子には言ったばかりなんだけどなぁ……? 私はたしかにそう言ったんだけどなぁ……? 手負いだったからいいか。この程度ならいい経験になるし。あ、そうだ。いい機会だしちょぉっと
そう言ってアステオはオストガロアに向き直る。自分のブレスを食らって死んでいないあたりは流石だと言えるが、相当今ので消耗したことは間違いない。だがその巨体は健在だし、未だ体格による強さは揺るがないだろう。そんな相手に、
アステオという
「別にさー、武器を持ってきわすれたとかそう言うわけじゃないんだよ。私は結構頑丈なほうで、子供のころアオアシラと殴り合ってたから自分の拳を鍛えたほうが武器より強いと思ってたのさ」
彼女は未だ自然体を保っている。拳を握ってすらいない。警戒しているオストガロアを見ながら、
「そんで、それは正しかった」
オストガロアが地面から傷ついたままの触手を引き出した。竜頭は剥がれたままだが、それよりも手足を確保することを優先したのだろう。
「私は実際にそれでG級の中でも一握りの領域に立ち入ったんだから」
そこまでして──しかし弱体化しているオストガロアは、彼女の敵ではない。
「だからよく見とけ拘り修羅ボーイズ。これが君たちの行き着く場所さ」
直後にアステオの姿が掻き消える。その場から消えて、地面を踏み込みで砕きながらそうして力を練り上げ、触手の根本へと拳を放つ──その工程を、一瞬にも近しい速度で行って、結果として触手が潰れると言う状態が残った。
そのまま地面を蹴り潰したほうの触手の先端を蹴って次の瞬間にはもう片方の触手へと拳を放っていた。潰れる触手、舞い散る血液、その中で踊るようになめらかな動きで旋回したアステオが勢いを保ったまま、
オストガロアの外殻を拳でぶち抜いた。
一点特化の跡として、酷く小さな深い傷が残る。拳を引き抜かれて血が噴き出し、アステオが手を軽く払いつつ呟いた。
「──ま、これがG級の領域ってことさ」
オストガロアが崩れ落ちる音よりも、その言葉のほうが大きく聞こえた。
──決戦が終わって。
ギルドから生きて帰ったことを褒められたり、アステオを呼んだのがナナシの判断だったとわかったり、ギルドからパーティメンバー全員の上位昇格が認められたり、古龍の撃破があったと言うことで龍歴院ギルドはお祭り状態になっている。古代林からベルナ村までは少しだけ距離があるが、アステオの速さを先程見せられた者としてはその距離もあっという間だったんだろうなぁ、と思った。
そんな、いろいろあった日の夜の最後。
俺とアレスと、二人で公園に来ていた。
「──なんか、疲れたなぁ」
オストガロアとの戦闘はそんなに大したものではなかったのに、酷く疲れた。人間いろいろな情報が一気にくると疲れるものである。本日はほんとに、いろいろ激しかった。
この公園は居住区にあるもので、ミラルーツの正体を知った場所だ。思えば全てがあいつから始まっているようであり、実はそんなこともなく、一旦停滞してた物語が続きを歩み始めただけなのだろう。
「お前はいつの間にかからっぽじゃなくなってたな」
「……そうだな」
アレスの答えは平凡なもので、だからなんだかおかしかった。平凡と言う言葉が似合わない要素だらけの男なのに、こんなところでは平凡って言うに相応しいな、と思う。
「俺もさ。……約束が出来て、やることも増えたんだ。お前ほど劇的には変わってないけど、なんか……生まれた意味を知ったような気がしたんだ」
「……そうか」
アレスの相槌にそうだよ、と返す。
「たぶんさ、俺たちの人生には意味があるはずなんだよ。その意味をみんなが探して生きている。だから俺は、ちょっと一足先にそれから抜けるだけ。まぁもっとどんでん返しがあるかもしれないのが人生だし、今こうして自分の人生についてを語って決めるのは早すぎる気もするけど」
「…………」
「たぶん、俺たちがそんな答えを見つけるのは戦いの中で、戦って俺らは生きていくんだ。いや、ひょっとしたら生きることすら戦いかもしれない。負けることだってある。なら俺たちはせいいっぱい勝ちに近付きたいだろ?」
そうだな、とアレスは言った。
そうだよ、と俺は言った。
「──俺たちは、そうして答えを探してく」
月を見上げた。赤かった。その赤が、人生を祝福してくれている気がした。
「──あっ、友情イベントにハブられた……」
声がしたほうを見ればナナシがいる。軽く笑いながらも歩いてきた。その姿を見て、少し笑う。
アレス・レジストレスと名前の無い青年と、ハグモと言う元男。
いつかのからっぽの同盟の中に、何かが満ちている気がした。
下位編について軽い後書き書くので嫌いなかたは無視してください。
下位編終了!終了!終了!
ラストのモチベーション切れが激しく、また暑さで脳みそが死んでたこともあり全体的に後半では息切れしてますね。プロットを詰めなかった罰です。
さて、上位編ですがこの件を反省して細かいプロットを書き詰めるので少し間隔が空く可能性が高いです。なるべく早く終わらせますけども。ただ上位編は一番書きたい場所なのでモチベ切れはないと思います。ええ、たぶん。