朝、のんびりとした気候の心地よさに目を覚ます。いつもやっている朝の鍛錬をどうしようか、と考えて、今日はやめておこうと言う結論をする。何故その結論を出したかと言えば単純──今日は、狩りに出るのだ。
防具については昨日もらった服で問題ない。悪路を走るため、靴はしっかりとしたものを履いていく。パジャマと言うのを現状持っていない以上今着ているのはインナーで、そのためインナーの上から昨日もらった服を着る。それで準備は完了なのだが……流石に、顔を洗ってないのは不味いだろうなぁ、と思う。清潔感を保つために必要なことがそれだ。そのため、着たはいいが水が散らないようにまた脱いで、そうして洗面所へと向かう。
顔を水につけ、そうして洗ってそれで問題なく終了だ。ズボンの重みが軽く厄介だが、自分の体にぴったりである以上脱げるなどと言う問題はない。ゆくゆくはこの装備のままでも日常生活が当たり前に送れるようになりたいなぁ、と思う。
ともあれ、
──それで外出の準備は完了だ。
ハンターが狩りに行く際に必須となるものはいくつかある。
一つは食事だ。それ抜きで戦闘に赴くと、スタミナ切れと言う出来事が起こりやすくなる。理由は単純で食事とはエネルギーを補給するためだからだ。そのエネルギーを補給し損ねているのだからスタミナが切れやすい、と言うのは当たり前だ。そして同時に食事を取っていれば思考は動きやすい──それも同様の理由で、故に食事は必須だとされている。食事をとらないことはそのまま死に直結する、とまで言われているのだ。
まぁ食事に関しては一部のハンターは
食事は多く取るが、しかしそれで太るなどと言うのはない。一度の狩りでエネルギーを膨大に消費するからだ。そのため取りすぎと言うことがなく、むしろ枯渇することのほうが多い。
次に必要になるものは、道具だ。道具点検と言うのは欠かせない。命を預けるアイテムであるのだ──軽んじることはできない。それを軽んじるやつは早死にする。そもそも自分は剣に命を掛けているのだ──それなら、装備を軽んじるなどはありえない。ありえてはいけないのだ。
それをやってしまう人間はハンターじゃない。
そんな人間は死んだほうがいい。
そして最後に必要になるのは、
──情報だった。
酒場の端、隅でちびちびと飲み物を飲んでいる青年を見かける。何を飲んでいるのかと見てみれば、水だ。そういえばこいつは水を好むのだったな……と軽く思い出して、贅沢なものだと思いつつもそいつの隣にある椅子に座る。
「……要件はなんだい?」
「ナルガ狩ってくる。軽く渓流の情報をくれ」
「まったく……君たち二人は教習所からずっと変わらないね。そんな過去を懐かしむ僕も変わってないのかもしれないけども……変わらないものはない。それでも変わらないものはある。矛盾のように見えて矛盾していない……それは不思議だと僕は思う。そのことについてはほんとに不思議だとずっと思う。きっかけは君だったんだと思うよ──ごめんね、前置きが過ぎた。ちょっと待ってね」
そう言って、彼は──名を語らぬ青年は、水を口に含んだ。
俺はこいつの名前を知らない。こいつの成り立ちもしらない。一体どこで生まれたのか、それも知らない──それを知る必要はないのだから。自分は彼と友人だ。それで十分だ。
「──うん、今は安定しているはずだよ。環境不安定ではないから乱入はない。でも安心しちゃいけないのはわかってるよね?」
「当然」
ならいい、と言って彼はそのあとに、んー……、と悩ましげな唸り声を放つ。どうしたのか、と思えば、彼はすぐにそれを言った。
「いや、気にしすぎだと思ってるんだけど……最近焼けた甲殻がまた発見されだした」
「……うぇ、古龍案件かよ……」
焼けた甲殻、それはバルファルクと言う古龍が高速で飛行している際に抜け落ちた甲殻だ。それが存在している、と言うことは、
この近辺でバルファルクが存在していることをそのまま指す。
これもミラルーツの仕業かなぁ、と思っていたら頭の中に否定の声が響いた。それなら違うのかも知れない。偶然の一致だろうか。
「君が関わる確率が高いと僕は思っている。教習所であった
「そうだなぁ……」
実は既に関わっている、と言う声を飲み込んで、そうして食事を注文するために徘徊しているウェイトレスに声を掛けた。まずは肉だ。肉と、魚。ここの2つを食えば、速攻戦を狙っている、と言うことになる。肉とはエネルギーだ。わかりやすいエネルギーだ。他者を喰らっていることだから、当然それはエネルギーになる。
「おっ? 今回は速剣スタイルかい?」
「と言うよりはこれから全部速剣で踏み込んで殺すことになるかなぁー……踏み込んで殺さないといけなくなることが多くなるだろうし、あとついでに強くなるべき理由ができたからね」
故に死線に身を置く。
速剣スタイルのやることは単純。
早く踏み込んで、早く振って、早く殺す。
この三拍子だ──故に速剣スタイルと言うのは難しい。単純なことであるが、しかしそれぞれをモンスター相手に通用させれるかと言うのは話が別だ。モンスターを切断するには急所を見極め、一撃で斬撃を通してやる必要があるからだ。技量がなければ途中で静止してしまう。強引に剣を振り抜くと言うことは不可能だ──刃が傷つくし、そもそもそれを通すほどの膂力を出すことがまず人間には不可能だ。
しかし、速剣と言うのはナルガクルガを相手にするならかなりやりやすい部類に入る。切断しやすいサイズだし、攻撃と言うのも素早い動きで撹乱して殺しにくるものなので結構楽に対処ができる。そのため、ここで速剣のスタイルに慣れておこうか、と思う。
と、ここで注文していた料理が到着する。
「おまたせしましたニャ! お客様はいろいろとやることがあると思われるので、全て手軽に取れるように串に刺しておきましたニャ! こちらの皿が、食用に育成されたアプトノスのサイコロ肉にじっくり低温で熱を通したものですニャ! で、こちらの皿は大食いマグロの身を切り出した豪快に焼いたものになってるニャ! 最後に、こっちの皿はどっちにも使えるソースニャ! チーズが嫌いならこれを使うニャ!」
「はーい、ありがとう。これお代ね」
「確かにいただきましたニャ!」
料理を運んできた猫──アイルーは、そう言って、こちらに頭を下げて厨房のほうへと戻っていく。それを見て少し憂鬱な気分になった。
──猫も働いてるのになんで俺仕事してなかったんだろう……。
「そう言えば大食いマグロってそこそこ食える部分はあるけど安いよね?」
「それは子供でもわりと釣れるからじゃないか?」
大食いマグロは基本的にどこでも釣れる。魚を取ってきて、それを食事にする家の子供がよく取ってくることもあるらしい。それを考えれば、安いのもわかるのではないだろうか? と考えつつ、まず肉をソースにつける──チーズよりは、個人的にはこっちのほうが好きだった。しかし魚にはチーズかなぁ、と思う。
何故だろうか。
「速剣スタイルってことはこれからは積極的に?」
「うん。速攻で殺して依頼の回転率を回すよ。真面目にハンターランクを上げないといけなくなってきたからね」
「そっか。頑張りなよ」
「ん」
肉をさっさと胃に詰めつつ、やりとりする。食事を無駄にしてるなぁ、と思うが、自分はさっさと食うことの肯定派だ。だから問題ないな、とすぐに納得して、また肉を口に含んだ。
渓流。
突き抜ける風が心地いい──龍歴院ギルドからここにこようとすると、朝早くても夜につくことになる。そのため、馬車で固まった体を始めにほぐしつつ、夜空を見た。
綺麗なものだ、と思った。紅い彗星が見えているが、それは目に入らないものとする。ともあれ、体もほぐし終わったので行動を開始する。
渓流は全体的に、木々が多い。ユクモ村に木造建築の建物が多いのはこれが理由だろう。自分はそう感じるが、しかしそうでもないかもしれなかった。
まず、崖の方面に行くことにした。崖の方面では大体小型のモンスターがいる──が、今回は何故か一匹も見つけることができなかった。なんでだろうか? と思って見ると、すぐ近くのところに、地面にクレーターが出来ているのが見えた。
「あー……これは逃げるよなぁ……」
噂をすればなんとやら、と言うことで焼けた甲殻がそこにはあった。それを拾い上げる──熱はなく、むしろ冷たいと感じるほどだ。じんわりと手に痛みが走ってくる。
「龍属性……結構強いな? 残滓でこれかよ。流石に古龍はヤバいなぁ……」
すぐに捨てることにした。そして手を見れば、触れていた部分が黒く染まっていることに気づく。それは溶けたとか、侵食された、と言うより、
「食われた、か。これはこれは……古龍ってのは怖いなぁ」
しかし自分が超えるべきものでもあるのだ。なら、この程度で慄いてはいられない。この程度なら普通のモンスターでもできるやつはいるだろう。そう考えれば、それほど恐ろしくはない。しかしこうして初めて龍属性に触れてみて、それは恐ろしいものだと理解した。
これを利用するハンターがいるのだから恐ろしい。
軽く辺りを見回してみて、滝の方面に行くことにする。崖の場所を道なりに進んで、そうして少しすれば続いていた場所に出る。
足元に水が溜まっている。近くに滝があるからそれが原因だろう。それをなるべく
殺意が向けられていることを察した。
「そこか」
ポーチから手早くナイフを抜きつつ、それを殺意から辿った場所に投げた。しかしヒットしたと言う感覚はない。避けられた、と理解する。そうして次に何をするか、と言うのを相手の立場から考える──相手は姿を隠している。ならばまずは優先して一撃を取れるようにリーチの長い、そして重い一撃か、それか遠距離攻撃だ。しかしこの場合、遠距離攻撃とは考え難い。何故ならそれは普通に対応できるレベルだからだ──これが火の玉などなら話は別だが、ナルガクルガはその肉体が頼りだ。
流体状の攻撃でない限りは切れるため、対処できる。故にナルガクルガの遠距離攻撃は防げるのだ。
故に、無効から接近してくることを待つ──下手に動けば意識が避ける。それを防ぐ為、佇んで後の後で切る。
「──来いよ──!」
深く呼吸し、感覚が鋭敏化する。それでうっすらと、相手がどこにいるのかを直感する。即座に抜剣し、
右からかかってきた尻尾を上へと打ち上げ逸らすことで不意打ちを防いだ。
そのまま反転する。反転しつつ、相手の顔を視認した瞬間に剣を振るう──それは二回目の回転で途中で中断させられた。
「チッ……!」
二回目のそれを、駆けて相手の懐に潜り込んで回避する。ぱしゃぱしゃと言う音で水が跳ねるが、しかし服がそれを吸収していないことを感覚から知覚する。中々に高性能な服だ。鎧ほどの重さを持った、高耐久の耐水仕様の服──どれだけの値段がするかなど、考えたくもない。
そうして腹の下に潜り込んで、首が知覚にあるので切り上げようかと考え──それが無茶だと知る。体制が悪い。この体制では剣が通らないだろう。
故に、リーチはキープしつつ位置を調節するために動く。体を動かして、なるべく腹に押しつぶされないように腕と体の間へと移動する。そこならば剣は触れるが、しかしすでにナルガクルガが移動を始めていたためにそれは断念する。
次の行動は僅かな
頭か心臓を潰す──それで、今、この環境ならば殺すことができる。
「それじゃ──」
ナルガクルガが体を上へと持ち上げた。それが来る、と直感する。故に思考を巡らせ、回避のパターンを考え──そうして、振り下ろされる尻尾を横へと跳躍し回避する。
「──ばいばい」
地面に深々と突き刺さったそれにたぶん当たれば危なかったなぁ、と思いつつ、しかし回避した──故にこちらのターンとして、万全過ぎる隙が生まれた。
だから脇から斬撃を叩きつけ、そのまま心臓を撫でて引き裂く。
そうしてそのまま反対まで剣を流して、確実に殺すために首の肉へと剣が入る。そのまま前方へと進めていけば、首を切断できた。
これで心臓と頭を潰して、完全に殺したと言える状況までを作り上げることができた。その事実に納得しつつ、今回の狩りを軽く振り返って自己採点する。
「──落第だな」
今回、斬撃を通せない体制に一度なってしまっている──それは命取りだ。ロングソードが場所の幅が必要だと言え、その状況を作り上げてしまったことは未熟の一言に尽きる。故にそれを落第であると、自分は評価する。
まぁ、ともあれ、
狩猟は成功したのだ──剥ぎ取りナイフを取り出して、そのままナルガクルガへと近づいていく。
伏線も立てていくスタイル。