「いやー、着いてきてるのはいいけど……別に僕一人でも何とかなったんだし、狩りに行ってもいいんだよ?」
「いや、俺もちょっと依頼とかなかったし……こう言うので鍛冶屋とか探したくてな。どっか一点に定めたいんだよ」
「あー、君そういえば特注だからね。そういうところでも鍛冶師がいるって感じかな?」
「そう、固定客としての登録しときたいんだ」
そんな話をしながらとりあえずでベルナ村の方面へと向かって歩いている。今日の服装は単純なズボンと、上はシャツだ。今日は狩りではなく、ナナシの仕事の付き添いに来ている。最近は情報屋としてナナシの名も売れてきたのだ。少し早いが、しかし仲のいい自分たちは売れるだろうなぁ、と推測していた。情報の正確率が高いからだ。その知力を持って全力で情報を仕入れ、そこから予想で多少の先のことを推測していることも伝えるのでハンターからの満足度は高いらしい。
まぁ、狩りと言うのはかなり情報が重要になる。場合によっては為す術なく殺されるのだからそれを重視するのはおかしいことではない。下位の時点では信憑性のある話くらいしか必要にはならないが、上位になると推測ででも情報と言うのが必要になる──G級になれば一層人間として格が増すので情報を多少仕入れつつノリでもなんとかなってしまうと言う怪物的な戦闘力になってしまうと言うことで実はそんなに情報は必要なくなる。
アステオもそういえばそのタイプだ。あれは竜を殺すための機関に半分成っていたと言うこともあり、竜との戦闘についてはそんなに情報が要らなかったらしい。
異常な戦闘勘と言うのはやはり、最前線で竜と殺し合ってきた人間の経験なのだろう。その勘だけで一般の人間の長考より推測できるのだから生物としての格が一個違うとしか言いようがない。
「でも下位ハンターに固定登録ってしてもらえるかな?」
「俺には地上最速で緊急クエストの許可が降りたって言う実績があるから、それを受け入れられたらなぁ……とりあえず流石にいつまでもこの武器じゃあ心許ないだろ。上位に上がったら武器を変えるし、そこからは定期的にそれを強化してもらうつもりだから早いところ見つけておいたほうがいいだろ。たぶんハンターランクの昇格は一ヶ月程度でできると思ってるし……長くて二ヶ月だろ」
「すっごい自信だ……でもまぁそうか。君なら普通にあり得るよなぁ。アレスより竜との戦闘って点については秀でてるんだし」
「あー、あとあれだ。怪力の種を仕入れたい。あれがあれば少しだけゴリ押しが通るからな。あと秘薬の素材も少し用意したいな。時々ミスって被弾するし」
「珍しいね──いや待て。理由を察したぞ。お前ひょっとしたら踏み込むタイミングミスっただろ」
「よくお解りで」
自分の場合読みが粗い、という弱点がある。それさえなんとかできたらカウンターというのは強いんだが、ミスっちゃえば被弾する。だから上位に上がる前にそこらへんを鍛え直したい──龍歴院企画の闘技大会がそう言えばそろそろ開かれるらしい。だから最近は捕獲依頼が多いのだろう。折角なんでそこに参加でもしてみようか、と言うことを思いつつ、
歩く。
どうにもここらへんについては詳しく覚えていない。そもそも別に自分の出身がここではないのだから仕方ないと言えばそれでおしまいだけれども……そう考えながら、ナナシと一緒に歩く。
「秘薬ってそう言えば流通自体は結構してるんだよねぇ。ただなんでこれが少ないのか、と言うと、」
「調合師がいないからだろ? それくらいは教習所で習ったし覚えてるよ」
「君のような馬鹿でもしっかり覚えてたかぁ……」
「おう、お前覚悟しろよ」
「してるよ。さぁ、ばっちこい!」
殴った。
それを望んでいるようだったので殴った。ただ、当然威力は控えめだ。人の目がある。そんなに強く殴ったらこちらが変なの扱いされてしまうから、当然威力は抑えた。
「んー……じゃあなに話そうかなぁ……」
「お前友人との会話に悩むって……」
「いや、馬鹿に知識ひけらかして煽りたいじゃん?」
「殺すぞ」
「まぁ冗談はここまでにして」
そうナナシが言った。
「折角だし君の体質について少し考えてみないかい?」
「まず最初に君の体質についてを簡単にまとめよう」
その言葉のあとに、ナナシの指が一つ立てられる。
「君は行く先々で厄介に巻き込まれる確率が非常に高い。それが一つ」
次に。
「君には一つ、異常と言えるほどの才能が備わってるね。それは殺すための力だ。僕ですらわかる。その力──」
その2つが大きな問題であり、
「──便宜上、これを僕は主人公属性と呼ぶことにした」
「俗だなぁ、おい」
「茶化すな。至って真面目だ」
それはそれでヤバくないか? と思いつつも続きを促す。その間もナナシは辺りを観察しつつこちらに言う。
「この主人公属性と言うものが君の体質だ。これの正確な正体は所謂ご都合主義と言うものを発生させることだと僕は考えている」
「そう言えばいろいろと明け透けに言う小説あったなぁ……ひょっとしてお前それ読んだか? あの作者そう言う人間のことを中二病と呼称してた気がするし」
「うん、読んだ。僕は立派な中二病さ。だから素面で至って真面目に言うね。このご都合主義が発生する理由は? 僕はそれに即座に答えを出したよ。──
そこで言葉を切って、数秒彼は思考しつつ、
「そうだ。君がこうして困難に巻き込まれる理由だ。それは君に力を身に着けてほしいからではないか? そう言う役割ではないか? つまりあれこれのどんぱちと言うのは、君を鍛えるための試練。それでも単純な推測だが、」
「お? なんだ? 厄ネタの予感──」
「──
Oh……と顔を覆った。そうしなければやっていけない。
こちらが前日譚と言うのならば、
──ミラルーツを超える脅威が将来現れるのではないか?
そう言うことになる。ただ、根拠となるものは存在しない。あくまでナナシの勘だ。その勘、と言うのの的中率が高すぎるのでやめてほしいのだが。
お前、その的中率何とかできない?
「まぁ、ほんとに僕の勘だ。それでも思う。君は前日譚だ。どこに続くかと言うのはわからない。わからないけど、君の物語は……続いて、バトンのように誰かに交代する。それが本当かはわからない。それでもそう思った」
「やめてほしいなぁ……」
ほんとに迷惑だからやめろ。
そう会話していると、段々と人通りが少なくなってくる。どういうことだ? と思いつつ、空を見上げたが、まだ太陽は高い。引きこもるには早い時間だ。なんだろうか、と思っていると、
「──ごめん、ちょっと肩借りる」
「え、ちょっ、お前」
「なんで君は普通にいられるんだよ……僕にはここは重たすぎる。
その言葉の直後、
──世界が闇に塗り替えられる。
まず、世界が切り替わる。空に月が上がった。そして段々と、侵食されるように崩れていく世界があった──闇しか見えなくなった。その闇の中で、中心の点で何かが渦めく気配があった。
「なんだ……これ」
とりあえず、だ。前髪を除けてパッチで留める。そうして視界を確保する──本気の時にしか自分はこれをしない。単純に、情報量が多すぎるのだ。普段は前髪ででも隠していないと数分活動するだけで頭痛が現れてしまう。それくらい見えてしまうのだ。
かなり先の風景や、
空気中の塵ですら、
この眼では見えてしまう──そんなのが、見えすぎてしまうことが大変でないわけがなかった。
そして確保した視界で見た世界は狂っていた。闇の中、真っ暗闇の中なのに浮かぶ狂気をぶち撒けたような残酷な世界。
童話だ、と思った。
『昔むかーしの話──……あるところに、とある王国がありました。その王国は初めに禁忌に手を出しました。人間を利用した龍属性エネルギーの精製──竜の機関を利用するより集めやすいもののため、それを利用してエネルギーを精製しました。禁忌。その禁忌に利用されたのは一つの、どこにでもある村。単純に王国に近かったと言うだけで住民が捕らえられ、動力とされました。その中で、一人の少年がいました。その少年だけは逃げ出すことに成功しました。そうして少年は決意します。
「あ……」
ナナシがぼそり、と呟いた。まるでその話を知っているようだった。
『結論から言えば、少年は王になりました──多くの怨嗟に呪われながら。そうして王となった少年は死にました。死を間際に、世界一高いとされた場所から転落して死にました。それは、まるで、少年の人生を指しているようでした。その少年の名は──』
「──ノア。ノア・イコール・ドラゴン……だっけ」
『──ええ。そう。
その言葉と同時に、現れたのは
「……さて」
これ、自分はどうするべきかなぁと軽くつぶやいてみる。この場から立ち去ると言う選択肢はない。こんな狂った空間に友人を置いてはいけない、故に自分はここで静かに待つことにする。
しかし刃を用意しておくことは忘れない。
こんな場所に亜空間を展開していると言うのは敵だ──古龍と言う存在の規格外さを考えれば可能かもしれないが、……古龍は、このように現れることはないと思う。あくまで直感だ。根拠なんてものがあるわけない。
『──ノアの創った
その言葉のタイミングで剣を抜いた。
即座に踏み込んで、抜剣した。斬撃は首筋を切り絶ち、死を確定させる。させる──が、一度死に、そこから再度蘇ることにより言葉を続けようとするそいつの姿を見て
例えばティガレックス希少種なども死んだあとに心臓が脈動する。それを考えれば……竜が生き返ると言うことはそんなにおかしいことではない。再生力が異常過ぎるため、確実に死ぬ状況でも時間をかければ生き返ることができるのだろう。
その上位、災害の具現とされる古龍はならば? 当然──蘇るだろう。それもあまりに早く。それが竜と龍の明確な違いだ。
ただ、この竜と龍の違いと言うのは残機性のモンスターと仮定したら、の話で、当然蘇らないモンスターもいる……むしろそっちが当然多い。
しかしレアケースと言うことは記憶に残りやすかった。故に、そいつが残機性の敵だと断定できる。
『──その【兵器】は──』
「こいつ──再生特化か」
とりあえず首を切り捨てることを続ける。しかしすぐに首が生えて再生するため厄介としか言い様がない。
首を一度切る間も言葉が進んでいくのが唯一ありがたい、と言える。首を飛ばし続ければ言葉を阻害できるのだから。
──イコール・ドラゴン、大戦と言うワードからこいつがなんの話をしたいのかは理解できる。それについて、知る人間は必要ない。必要ないのだ──過去の地獄など、知る人間がいないほうがいいのだ。
例えば自分は、たまたまミラルーツとの交流があった。その縁からそれを知った。それが最悪だと言えた──知らなければ良かったことを知ってしまったのだから。
そもそも世界が滅んだ原因がそれだ。
シュレイド時代より昔の話──竜大戦と呼ばれる歴史の汚点。過去の人類が生み出した竜機兵。イコール・ドラゴン・ウェポンと言う名前のそれは一機の製造に三十もの竜の死骸を必要とする。故に竜と竜機兵で起こった戦争があった。泥沼の戦争、プログラムされた機械の暴走、竜を殺すためだけの存在。
それが竜大戦だ。
そして竜機兵の技術を復刻させようとしたシュレイド文明はたった数日で滅んだ。
故に、その存在を知るものは必要ない──無心で殺していて、そこまで思考してふと思い至った。
それは知っている。名前のない、空っぽの友人だ。しかしそれの正体は? 一体その過去は? 教官の息子とするならば顔が似てなさ過ぎる。養子と考えたほうが自然だろう。ならば、
ナナシは一体何を抱えている?
「──っと、これは完全に殺し切ったか?」
蘇生が終了する。服には血が激しく撒き散らされている。しかし周囲の空間は、元の景色に戻っていた。血の痕跡も、死体もない。
故に、殺し切ったと思おう。剣を納める。
「うん、お疲れ」
「おう、疲れた」
そう言い合って、とりあえず血で気持ち悪いので服を脱ぐことにする。予備の服を持っていなかったので胸を押さえているインナーだけになった。
「服持ってる?」
「情報屋嘗めないでね? 持ってるに決まってるじゃん」
「すげーな情報屋」
そうアホなことを言いつつ、渡された服を着る。インナーのまま出歩く女ハンターはいるが、流石に自分はそれはしたくなかった。
一般的な白シャツなのでこいつ何を想定してこれ持ってたんだ? と思った。が、たぶんこんな風な返り血を浴びた服を変える用だろうなぁ、と思って納得しておくことにする。
教習所時代に変えの服は必須だったし。
「どうする? 鍛冶屋見にいくかい?」
「おう、そうしようぜ。ただ少し飯も欲しいな。軽いものでも探そうぜ」
「OK、カフェでも行こうか?」
「おう、先導よろしく。おらさっさと歩けよ」
「人に物を頼む態度じゃないんだよなぁ……」
古代文明ネタも入れつつ。大体暫くは伏線を用意していくスタンスで