下位と上位では明確な差が存在する。
そこには隔絶した差がある──下位が鍛えたことのない一般人程度であるならば、上位は軍人──それほどまでに大きく差が開いてくる。今、自分が近接で切り裂けるのは筋肉が全然鍛えられていない、と言うのが理由だ。
自分はおそらく、上位までの竜は切り裂くことができないだろう。それは筋肉の密度の差だ。それが硬すぎて弾かれる。故に自分が技量を上げること──それは必ず、ハンター業を続ける上では必要になってくるのだ。
と言うことでうってつけなのが闘技場だ。
ハンターとしての技量を育てるには十分な場所──一度、この間もここに来たが、しかしその時とは状況が違う。今回自分がここにいるのは、
龍歴院主催の大会、つまりお祭り沙汰に便乗してのことだ。
下位ハンターと、それぞれを分けるためにルーキー部とベテラン部が用意されている。今回自分が参戦するのはルーキー部だ。それ以上は受けられないので当然と言えば当然なのだが──しかし、このイベントは最高だ、と思う。
なんせ間近で上位ハンターの戦闘を見ることができるのだから。今回自分は参加することにしているが、ルーキーのあとにベテランが始まる流れのために見れない、と言うことはない。
それはそれとして、だ。
「今回、お二方意気込みは?」
「俺、お前、殺す」
「アレスが言語を喪失してる……と言うかハンター殺したら規律に触れるからね? 君そこわかってる?」
「何を言っているのかわかりませんなぁ」
そう、アレスが言って、そこから自分の出番と言うことで呼ばれた。完璧過ぎる美少女な自分は正直、ムード的にあまり歓迎されていない。あちこちから遊びじゃねぇぞとでも言いたげな視線が突き刺さる。
それを無視しつつ、軽く受付のほうへと歩いていく。受付には闘技場の運営をしているだろう青年がいた。それに自分のギルドカードを提出する。
「はい、本人確認完了です。装備については」
「直剣だけでいいです」
「えっ」
「えっ」
顔を見合わせた。そうして、もう一度、
「装備については」
「だから直剣だけ」
「ええ……」
これ、自分の価値観がおかしいのかな? と軽く思いつつ、注文に答えた受付が釈然としない顔で武器を渡してきた。それを受け取り、現在着ている服のまま、闘技場のほうへと歩いていく。武器を振って感覚を合わせた。そのまま闘技場のベースキャンプに到着すれば、
『──それでは、ハグモさんの入場です』
そのアナウンスを聞いて、自分は軽く入場した。そうして抜剣する。いつも通り──いつも通りにやれば問題はない。軽く離れた場所にいるナルガクルガを見て、これはこないだと同じパターンになりそうだなぁ、と思いながら、それは面白くないので、
具体的にどうする? と言えば、いつもの速剣スタイルだ──ただし、普段より早く動く。
「じゃあ」
その呟きと同時に加速した。剣が指の延長のようだ。普段使うものじゃない、競技用の剣──しかしそれは既に感覚を合わせることに成功している。故に普段と同じような斬撃を通すことができるのだ。
その感覚を残したまま、軽くナルガクルガの眼球に剣を突き入れた。
そのまま捻り、感覚で
だから首に斬撃を通して切断した。
なんと言うか、この間の話だ。上位者を連続して殺す機会があったからか何故か理解してしまうのだ。どこを斬れば殺せるか、と言うのが。そして剣をどうすれば斬れるか、と言うのが。
殺しのための技術が一層精錬されてしまったのだ。故に防具は要らない。剣を振るうのを阻害するから。そもそも食うか食われるか──自分が殺すか殺されるか。強者同士の戦いは案外あっさりと片がついてしまう。それと同じ理論で、
自分が殺さなければ死ぬだけだ。
故に防具と言うのが必要ないな、と思ってしまった。ただミラルーツからもらった服については防水性が完璧な上に動きを阻害しないのでこれは着ることをやめないだろう。
ともあれ、自分は観客席に座っている。これから始まるのはアレスの死合。あいつ無様に死なねぇかな、と思って、事故で死んでくれと思いつつ見ることにする。
防具の上から頭を掻いた。
これから始まるのは自分の死合だ──それはわかっている。しかし、さっきあれほどあっさり殺されると、うーん、としか思えない。
故に、そんなに気乗りしない。折角だから初手でビーム撃ってくるくらい殺意高かったら嬉しいんだがなぁ、と思いつつ許可が出たので入場する。
そうして、入場してからその場所を見ると、たくさんの視線が突き刺さる。それに求められているものはなにか? と考えたときに真っ先にブレイクダンスが出てきたがその思考を投げ捨て、殺しへと意識を向けかえる。
実のところ、ハグモと言う人間と自分──アレス・レジストレスの戦いかたは絶対的に違うが、似ている。ハグモも自分も初手必殺を狙うと言う点では変わりがない。
しかし自分のスタンスは──
「さーって、やっちゃうか!? アレスさんのかっこいいところ見せてやるよぉ──! 俺は脇役じゃねぇからな! そこんところよろしく!!」
そう叫びつつ、軽くヘビィボウガンをしゃがみつつ構え、
──数秒後、中規模の爆発が起こる。
それに飲み込まれた敵──ナルガクルガは即座に爆炎から飛び出してきた。飛びかかりのモーションだな? と軽く推察し、
「だから貴様は畜生なのだ」
そう言いつつ、大きく開けられた口に先程まで使っていたヘヴィボウガンを叩き込みつつ跳躍し、そいつの頭を踏みつけて無理矢理口を閉めさせる。
そうして腰から本命の武器を抜いた。
それは双剣だ。正直得意な武器ではない──しかし、使えないわけじゃない。故に持ってきた。ノーモーションで鬼人化──その上、真・鬼人化状態へと持っていく。そこから空中で体へ力をためつつ、そのまま着地の際に悶えているナルガクルガへと叩きつけた。
そうして獣宿しを発動させる。
そのまま血風独楽を全段叩き込み、左腕を引きちぎる。
そして転倒したそいつの顔面に、
ラセンザンをぶち込んだ。
わかり易く怪物だったな。それがその勝負を見た──否、虐殺を見た自分の感想だった。あまりにも圧倒的過ぎる勝利、鮮やかな完結、鮮烈な必殺──それが今、目の前で行われていた。それについて別にすごい、と思うことはない。
レジストレス──その称号は本当に、怪物的なまでの武芸者を意味する言葉。家系の名ではあるが、述べた通りに一人一人が化物のような戦闘能力を誇る。そのレジストレスならば、特にそれがすごいと言った印象はない。最高傑作は未だ実力を隠している。それがはっきりと、自分にはわかった。
「中々面白い戦いかたじゃない? 彼」
「……ん? あぁ、お前か。久しぶり……でもねぇな」
話しかけてきたのはミラルーツだった。こちらが椅子にスペースを作れば、そこへと座ってそいつは会話を続ける。
「あの気に食わないナナシとか言うのと違って──あの子は面白いわね。貴方がいなければあちらがわたしの敵だったかもしれないわ」
「ふーん……だが俺がお前の敵だ。だからたらればに意味はないな。俺げ死んだらあいつに役割がいくだけだろうよ」
「ええ、その通りね。でもわたしの敵は貴方がいいわ。あんなにこっそり暑苦しい子は好みじゃないもの」
「ふーん……」
こいつの趣味は知らないが、その言葉に自分は冷徹だと言われているのだろうか、と思った。それだけ思って次のナナシの試合を待つ。ここにアレスが合流する頃にはナナシの番かなぁ、と思いつつ片付けられていくナルガクルガの死骸を見ていると、
『現在順位は一位、ハグモ様──二位、アレス様──三位──』
「お? 俺の勝ちか?」
「そうっぽいわね」
「よう!」
その言葉と共に、
胸が鷲掴みにされた。
「──ぉ、おう。やっほーアレスぶち殺すぞ」
「やめろ……やめるからやめろよ」
そう言いつつ、胸から手が外されたことにほっとしつつとりあえずミラルーツとは逆方向の、自分の隣に座ったアレスを殴っておく。
「いやー、ないわー。マジでないわー。ほんとアレスないわー」
「連呼すんなよぉ!? 別にいいだろスキンシップじゃねぇかよ」
「よくねぇんだよマジで」
長く触れられてると変な気分になるから。
まぁ戦闘終了後と言うことで昂ぶっているのだろう。敵が弱すぎて消化不良だっただろうので、テンションが高いのも別に不思議ではないのである。
「あー……ナナシはそろそろか?」
「掃除終わったしそろそろだろ」
「わたし、こういうの見てると人間ってほんとに滅んで然るべしよねって思うわ。それはそれとしてわたしあいつ気に食わないし嫌いだわ」
「いったい何がお前のその敵愾心を刺激してるんだ……?」
「それは──」
続きを言おうとして、
──ナナシが入場する。
実のところ、実際の戦闘ではナナシと言う男は自分が一番強いんだろう、と思っている。
ハグモは完全にメタを張れる。アレスは一撃で殺せば問題なく勝てる。故に殺し合い、と言う実戦になれば自分が一番強いだろう、とナナシは思っている。そしてそれは正しく、実際ナナシと言う男は『からっぽ同盟』の中では一番強い。
そんな彼であるから。
今回はタイムでハグモに勝利するくらいにはあっさりと終わるだろうと言うことを既に
そもそも自分に観測の時間を与えたのが間違いなのだ。ナナシと言う男には、三十秒もあれば相手を観測し終えることができる。さらに時間が増せば、
相手についての全てを理解できる。
死骸だって確認したのだ。故に、
──彼はこの戦闘が一撃で終わるだろうと言うことを予感していた。
ハグモは二撃だった。アレスはド派手に遊んで三十二撃。主人公が二──それでもナナシは一撃で終わらせる自信がある。
故に入場した。
次に大嫌いな相手を視界から消したいかのように早くも飛びかかってきたナルガクルガに、
大剣を正面から突き刺した。
それだけで顔面が正面から割れて死んだ。それで自分の勝利が確定した──僅か二秒。それがナナシと言う男が竜を殺したタイムだった。
あいつマジで怪物だなぁ、と記録更新の声を聞きつつ、これであとは上位ハンターの試合までのんびりしてるかぁ、と言った感じになってくる。そうして席を立とうとして、
「ただいま」
「んぅ……っ」
ナナシが帰ってきた──その手が自分の胸部にあった。これ、こいつら一回頭切り飛ばしたほうがいいな……? と思いつつ後ろを向くと、
既にナナシはミラルーツの手によって大打撃を食らってた。
「おぉぉい!? なんだお前のこいつへの敵意!」
「関係ないって知ってるの。関係ないって知ってるのよ……! けど体が抑えられないの……! お願い! 死んで!!」
「止めてとか殺してとか言う場面じゃねぇのかよ!?」
「いいぞもっとやれ。頭潰せ頭」
「やめて……死ぬ……」
「死ねよ! クソ雑魚! 今すぐ死になさいよ!」
「僕下位でトップ取ったはずなんだけどなぁ!?」
そもそも君誰なのさ、とのナナシの言葉に言葉にミラルーツが返す。こちらを指さして、
「知らない? わたし、この子の保護者なの。この子にセクハラを働いたあなたを殺す権利、わたしにはあるのよ」
「ならアレスにもやってくれよ……」
その言葉を無視しつつ、何故か戦慄しているナナシが気になったのでなんだろう、と思っていると、
「──そんな──」
「ぇ、なにこれシリアスフラグ?」
「知らね。たぶんギャグだろ」
ナナシが言う。
「──こんなロリからこんなに僕の性癖ぴったりなやつが生まれるだと……!?」
「おい、あいつ中身俺ってこと忘れてねぇか?」
「いや、外見良ければ別にどうでもいいから。と言うことでハグモ、セックスしよう」
「嫌だからね……? お前ら嫌だからね……?」
ナナシがミラルーツにまた殴られてるところを見つつ思う。こういう馬鹿な話が懐かしいなぁ、と。
正直ぶっちゃけますと本番は上位編から