剣に生きる   作:moti-

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死線の空 - 1

 走ることにした。

 

 最近、体力が以前よりもなくなっていることを漸く理解した。最低限剣を振り続けるくらいの体力は必須だ──故に体力の消耗はかなりの問題である。そのため、また走り込みを再開することにする。

 

 そもそも少し前まではどれだけ忙しくてもやってはいたのだ──女になる前までは。それが駄目になっていだている、と言うのは、

 

 おそらく堕落の味を知ったからなんだろうなぁ、と思う。

 

 故に走ることを再開する。

 

 別に、……辛いからやめたわけじゃない。継続することが面倒になっただけだと思う。自分ではそう思っている。辛くて逃げているのならば生まれた時点で自分は逃げているはずだった。そこから逃げていないのは、やはり辛さには耐性があるからだろう。

 

 生まれたころからずっとつきまとう呪いがある。

 

「はぁっ、はぁっ、はあっ、はっ──」

 

 息が上がるのが昔より早いか、と言う感覚だ。強走薬を使えば疲れを無視することができるが、あれは体に悪影響がある。疲れを無視する、と言う状態なので走れるが酸素不足で死にかけたり、痛みも無視できるので骨折を起こして機動力を失ったことに対して何故かの原因を咄嗟に認識できないため、中々危険な薬なのだ。

 

 しかし──今日狩りに行くことを考えればこのくらいでいいか? と言う気持ちがあった。ずっと走っていても無駄なだけだし、と言うかそもそも倒れるまで全力疾走したほうが体力を付けるなら本来はいいのだ。何故こうして余力を残しているのか、と言うとほんとうに、狩りに行くからと言う理由がある。竜車で移動している際にモンスターに対応できなかったりしたら困るのだ。故に余力は残す。

 

 このくらいでいいだろう、と判断して今日のダッシュを停止した。

 

 

 

 

 人間と言うもので例えずとも生物であれば不意を突かれることには弱い。人間と言う豊富に感情を持ち合わせたものであれば、攻撃に限らず言葉などで不意を討たれるものが多くなっている、と言うのは確実なことで、そういうとき人間と言うのは一瞬とはいえ思考が止まる。そんなことを思考したのかどうかはわからないが、しかしこんなことを考えていると言うことはそれに至る理由があると言うことだ。そのことについてを軽く説明すると、

 

 君の能力評価したからちょっと難しいクエスト行ってね。拒否権はないからね。と言うことだった。

 

 種族特大サイズのホロロホルル。今回の狩りの対象はそいつだった。睡眠と混乱を操る存在である。そいつについての対処は正直簡単だ。体格が小さく、攻撃の範囲も狭いためへばりつくことが難しくないのだ。しかしこれが特大サイズとなると話は変わる。サイズとは強さに直結する。

 

 サイズが大きいほどこういう手合は戦いづらくなるのだ。

 

 尻尾の回転の範囲が広がった。睡眠の範囲も、混乱の範囲も──鱗粉を遠くまで飛ばせるがために広がることになり、何よりサイズが大きいと言うことは太い、と言うことだ。

 

 この剣だと切り飛ばせるのかどうかがわからない。

 

 何度も言うが大きいと言うのは一つの驚異だ。殺意の高さとも言える。戦い易い手合では少なくとも、ない。太いぶん筋肉が身についているのだ。それはわかりやすく驚異になった。

 

「なんとも……それは辛いね。弱点特効型だもんね、君。弱点へと速度の高い、そして重い剣を打ち込むスタイル。僕も同じだからその辛さはよーくわかるよ。それはそれとして僕は付き合わないからね。情報は友達料で割り引いてあげるけど」

 

「ホロロの情報は持ってるよ!!」

 

 なんとも悲しい話だった。正直同行者を求めてもいい仕事だったと言うかナナシのほうが闘技の記録がよかったんだからそっちに回すべきだよな? と今更ながらに思う。

 

「ん? ああ、僕は辞退したからね。僕の戦闘力は初見の相手には向かないって」

 

「卑怯だよお前……」

 

 こいつ酷え。

 

 とりあえず、うだうだ言っていても仕方がないのだ──仕方がない。

 

「アイテム……流石に必要かぁ……」

 

「ああ、そうだ。忘れるところだった。正式に鍛冶屋の専属登録が完了したよ。それとアイテムのほうだけど、栽培完了したやつだけは持ってきたって言ってた」

 

「お? マジか。なら……あー、工房は明日にしとくか。アイテムも近々取りにいく……今は必要ないしな。」

 

「はーい、了解。その方向で報告しとくね?」

 

「いやしなくていいんだよ別に。……とりあえず……ホロロかぁ……」

 

 そう言いつつ、受付に歩いて行って許可をもらう。そのまま売店のほうに向かって回復薬を購入する──ギルドの品揃えは豊富だが、しかしある一定のランク以上は交易のほうでやってもらったほうが特だ。その事実で差別化されているの、流石だなぁ、と思う。ハンターズギルドは伊達じゃない。ほんとに。

 

 そうして、準備が完了して、から食事を取りに向かい、手早くそれを胃に詰めて、

 

 出撃する。

 

 

 

 

 そして古代林についた。

 

 ギルドからは──と言うよりはベルナ村からはそんなに離れてはいない。かなり近い。故にすぐにたどり着いた。

 

 当然気分は憂鬱だ。空の赤い星が余計にそれを加速させている。あれはいつになったら消えるのだろうか? そんなことを思いつつ、ベースキャンプの支給品ボックスを開く。それの中から、既に用意されている応急薬を取り出してコートのポケットに入れる。蓋で固く閉じられているので、割れない限りは問題ないだろうと思う──投げるなどしない限りは壊れないのだ。

 

「うし……行くか」

 

 息と共に言葉を吐き出して、そのままなんとなく、と言う感覚──生き物のいそうな場所、と言うなんとなくの感覚を頼りに歩く。エリア1 はまずありえないだろう。木々で視界が制限されるのは嫌だが、おそらく木の近くにいるだろう。

 

 鳥だから。

 

 たぶん鳥だから……。

 

 そう思いつつ、歩く。女の体の動かし方には慣れてきた──しかし、やはり完璧ではない。今度アステオにでも学ぼうかなぁ、と思いつつ、

 

 木々の生え茂る中心辺りへとたどり着く。

 

「……、え、でっかいなぁ──!」

 

 そこに確かにホロロホルルはいた。いたはいいのだが、──様子がおかしい。通常より遥かに大きいと言うのは知っていた。しかし、これほどとは思わなかった──そいつは確実に、人間の三倍ほどの大きさはあった。

 

 そしてそいつは()()()を迸らせていた。不味い、と直感した。確実にここで殺しておくべきだと思った──こいつは最悪だ。

 

 ()()()

 

 それは──()()()()()()()()()()()()()()()()()ものだ。

 

「ぁ、ぁぁ──!!」

 

 故に切り込んだ。確実に死ぬだろう、とわかっていたが、若い個体であることはわかっている──こいつが怪物的な個体に進化する前に、

 

 ここで殺す。

 

 こちらが先に踏み込んだと言うのに、後から動いた相手は視認できない速度でこちらの先手を取った。それを空気の揺れから推測し、抜剣し、下から叩きつけるようにしてやり過ごす。

 

 ()()──いなすのに失敗したか、いなしの上からぶち抜いてきたか……どちらかと言えば後者だろう、と思った。自分の技量の未熟さはたしかにあるだろうが、しかし下位クラスとは思えないほどの威力。ぶち抜かれたと考えたほうがいい。前者であれば希望が残るからだ。

 

 一撃をやり過ごしたかと思えば、弾かれた勢いを利用してそのままよこに回転してこちらの顔面を尻尾で狙いにくる。それを前方に進みそうになる体を無理矢理停止させて、尻尾の上を行く程度に跳躍して回避する……風圧に煽られ空中で体制を崩した、

 

 そこに容赦のない羽根叩きつけるが飛んでくる。

 

「お前ひょっとしてくっそ強いだろ」

 

 その言葉を言い切る寸前で横に胸を叩かれ、吹き飛んだ。まるで石を蹴り飛ばすように吹き飛んだ──明らかに戦闘に慣れた動きだった。この時点でこの強さ……これは放っておけば、将来的に死の化身と呼べる存在になるだろう。ホロロホルルと言う種の頂点へと成るかもしれない。

 

 故にここで殺したいのだが……なのだが、しかしこの時点でこちらは鎧袖一触とも言える状態だ。これは戦いの中で成長しないといけないのだろうか、と思う……取り敢えず、服のおかげでかなりの威力が殺された一撃だが感覚的には骨が折れただろう。痛みを和らげる意味でも、応急薬を瓶ごと飲んだ。回復薬は取り出してる暇がない……ポーチにあるからだ。今の一撃で応急薬が死ななくてよかった、と思う。

 

 少なくとも、それが残っていれば死なないのだから。

 

「よし……よし、行くぞ」

 

 一撃も攻撃を通す間もなく完璧なコンボを決められた。魔境ではもっとえげつないコンボがぽんぽんと飛んでくる辺りやっぱあそこ魔境。しかしそう思えば、こんなのはなんてことないのかもしれない……そう考えれば、やる気は出てくる。

 

 攻略不可能ではないのだから。

 

 剣を、手に取れ。それが生き残る道だ、ハグモ。

 

ここじゃ死ねない

 

 先程と同じ様に正面から踏み込んだ。そうすれば、また視認できない速度で飛んでくる大質量の攻撃──だが対処は不可能とは言わない。それは先程見たからだ。故に突破できる。

 

 剣を振り上げれば刃が羽根へと食い込んだ。そのまま腕をたわませつつ、弧を描くように手首を上へと曲げる。そうすれば、なんとか一撃を対処しつつ、ダメージを与えられる。

 

「──くいっとなぁ(戦闘高揚)!」

 

 そして、

 

死ね(我流剣術)

 

 顔面へと突きを叩き込む──それは避けられ、尻尾回転が来るが、しかしそれも一度見たものだ。故に対処は理解している。

 

 飛ぶ。

 

 そして、最後の叩きつけが来る──ことはない。何故なら前方へと飛んだからだ。前方へと飛んで、ホロロホルルの毛を握りしめ風圧を耐える。

 

 そのまま眼球へと斬撃を打ち込んだ。

 

「よーし、漸く攻撃が通った……全く、こんな化物相手にさせるんじゃねぇよ」

 

 そう呟き、

 

「さて、漸く怒りか」

 

 ──咆哮を、土を地面から剥がし上げることで回避する。前方に踏み込めば土がばらばらと髪に落ちてくるが、それは仕方ないと今は割り切ろう。かなり成功確率の低い方法だが、人間やろうと思えばなんとかできるものだ。

 

 実際なんとかなった。

 

 そして踏み込んだ状態から、剣をまず叩き込む。削ぐように、殺ぐように。まず一撃を叩き込んで、

 

 視界が反転した。

 

あれ?

 

これはどうなっているのだろうか?

 

 自分は何を見ているのだろう? 何をしているのだ。右手を動かそうとしたら左足が動いて体制を崩して転んだ。それが何故そうなったのかわからないから、さらに()()する。

 

「? ? ? ……ど、いう」

 

 舌の動きも怪しい。何とかもとに戻ろうと正常でない頭で考えようとして、

 

 だんだんと眠くなってきた。

 

 瞼が勝手に落ちてきて、これは不味いなぁ、と思いつつ……意識が落ちる。

 

 それを避けるため、腕の肉を噛み千切った。

 

「んんんんんぅうううぅううう……!」

 

 痛い、しかしなんとか瞼は開けられるくらいになった。痛みで混乱も解けたようだ。そのことに安堵し、空中から飛びかかってくるホロロホルルを焦って回避した。

 

「……即死させたいけど、厳しいなぁ……」

 

 しかしうだうだは言っていられない。死地へ踏み込んで、戦いを続ける。走って、そこから怒りにその鱗粉を舞わせるそいつの元へとたどり着く。通り過ぎざまに足を斬りつける。そうして、真っ直ぐそのまま走って通り抜けた。

 

 直後に後ろで鱗粉のドームが現れたことにそれが正解だった、と判断できた。

 

「ぅん……」

 

 眠気が強い。これはさっさと片付けないと不味いなぁ、と思う。しかし……なら、これはもう、やるしかないのだろう。

 

 走って、鱗粉のドームが消えた瞬間にホロロホルルの首を斬撃する。異常な固さに半ばまでも剣は届かない。剣を引きつつ、傷を残して飛ぶ──鱗粉が厄介過ぎる。しかし焦ってはいられない──叩きつけさえ来れば、と思うがこないだろう。手は割れた。それを利用はできない。

 

 ホロロホルルが空を飛ぶ。滑空し、体を叩きつけるようにこちらへと突撃してくる。やるしかない、と思った。

 

「ここで殺すか」

 

 不思議な話だが、ここを逃すとチャンスは二度とないと思った。だからこうする。突撃してきたそいつに、動きを停止させるほど深く斬撃を加える。

 

 それを必ず、ここで行う必要がある。

 

 まず、ホロロホルルが黒く靄を溢れさせながらも、その躍動する通常以上の筋力を以てこちらへと墜落のように突進してくる。それを、眠さが残る冴えた視界で捉えた。

 

 一歩踏み込んだ。

 

 斬撃するべき箇所を目が捉えた。そこに、斬撃をいつも通り、何も考えずに、いつもの修練通りにやっていること通りの斬撃を流し込む。当然鋭く駆け抜けないだろう。必ずどこかで停止する。

 

 そこで生きるのがさっきつけた斬撃の傷だ。横合いから切りつけた先程のそれは、上部から振り下ろした斬撃と合流し、切り傷を広げて血を撒き散らす──位置取りを失敗したためホロロホルルの羽根に巻き込まれ、そいつと一緒に吹き飛びつつも、傷はこちらのほうが浅い。そのためこちらが早く起き上がる。そして、首から血を撒き散らしながら、体の全面を地面とくっつけて動かないそいつへと近寄る。

 

 ここで殺しただろう、とは安心しない。

 

 最後まで殺し切らなければ安心できない。

 

 確殺を、必殺を、滅殺を、絶滅を、

 

 つまり──わかりやすい死亡を。

 

「──じゃあな」

 

 首を切り飛ばす。動かない今なら簡単だった。

 

「はぁ……これ、追加報酬出るよな? 元の報酬じゃ割に合わねぇぜ……」

 

 というか、だ。獰猛化と言う状態になったと言う情報は一切なかった。ならば、だ。

 

 ──獰猛化とは、一体何が原因なのか。

 

 それが、この戦いを終えて胸に残る疑問だった。




 戦闘シーンの描写……もっと勉強しなきゃ……
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