「──えーと、今回討伐したホロロホルルについて報告が」
「報告……ですか?」
「ああ……まぁ、死体を見たらわかると思うんですけど獰猛化してる個体でした。ただ、戦闘力については戦い慣れていると言っても上位クラスほど修羅場を潜った雰囲気がなかったです。そのため、なんらかの可能性で獰猛化の状態に耐え忍び、生き残ったと言う可能性が高いと思います。少なくとも、思考力自体は賢いとは言え下位クラス程度しか確認できなかったので
頭の中で言葉を組み立てながらそう、なんとか最後まで言い終えれば、受付嬢がギルドマスターを呼んできます、と言い、奥へと向かって行った。それについてはまぁ当然だよなぁ、と思う。
今の今まで観測されなかった事態だ……そもそも獰猛化個体自体、最近は観測されていなかったはずなのだ。
しかし今こうして存在を現してきているとなると……古龍、と言う言葉が頭に浮かんでくる。獰猛化も恐らく、あの病気と同じように古龍の産物なのだと思っている。それが正しいのかは──それは今度、ミラルーツにでも聞いてみようかと思う。
「はいはい、待たせたね。さて──概要は聞いたよ。獰猛化状態な下位モンスターがいたって? それについては、そんなに不思議でもないね」
やってきたギルドマスターのその言葉に不意をつかれ、一瞬思考が止まる。
「……そうなんですか?」
「君が相手にしたホロロホルル、そいつはかなり大きかっただろう? 私はね、あいつを【二つ名個体】に至る可能性のあるモンスターだと思っていたんだ。放っておけば間違いなくG級クラスまで成長してただろうね。だから今回、下位ハンターの中で安定して強く、速く相手を倒せる君に依頼を任せたんだが……これは私の判断が間違っていたよ。アレス君なら安定して狩れただろうからね」
「あぁ、あいつならたぶんできますね……方向性が違うので……ちょ、ギルドマスター?」
軽く服の上から腹に触れてきたギルドマスターに疑問を込めてその名を呼ぶ。彼はその言葉にすぐに反応して手を離した。
「……ああ、お腹に傷があるね。攻撃、当たっちゃっただろ? ランスを持ったアレス君なら問題なく凌げただろうからね」
「あ、ああ。大丈夫ですよ。これくらいならすぐ治ります。最初より傷は塞がってますしね」
元気をアピールしつつ、そのままギルドマスターに問う。
「今回わりと本気で死を覚悟したんですけど……報酬って」
「当然追加で出すよ。良い情報だった。獰猛化については最近観測されなくなってたからね」
その言葉で思い出す。獰猛化、その原因とは一体何なのか。自分の頭ではわからないそれを、この龍歴院ギルドの最高権力者へと聞く──前に、彼は自分からそれについてを答えた。
「……獰猛化について気になってるんだろう? 一つ推測はできるよ。詳しい原因について断言はできないが、憶測で良ければ答えられる。──古龍……古代林の奥に潜む龍だ。そいつは今、かつて大量に放出したエネルギーを取り戻そうとしているだろう。
その言葉で、獰猛化の原因をなんとなく察した。そのまま口に出す。
「オストガロア」
「そう、オストガロア。かつてとある
そうかぁ、と言葉を吐いて、その事実を頭に叩き込む。なんとなく、なんとなく──この期間に蘇った、と言うことはそういうことだろう、と思いつつ。
「なるほど。じゃあ俺が受けとけば良かったな。大丈夫か? 腹痛くない? 服脱いで……ほら……」
「ナチュラルに女性の服を脱がそうとするんじゃありません」
そんなやりとりをしながらアレスと歩いている。向かっているのは契約を結んだ工房だ。今回の一件で思い知ったことがあったのだ。
「あのな、ふと思ったんだ──武器の性能がそろそろ厳しい」
「ああ、そうだな。確かに。獰猛化個体を相手にするなら初心者用武器じゃあ足りねぇだろ。ああ、だからか?」
「ああ、だからだ。ただ、一つ素材で目をつけてるやつがあるんだよ。それにはハンターランクが足りてなくて依頼受けれないんだけどな」
「へぇ、そいつは?」
「セルレギオス」
「そいつはいいや」
そう話していたら、
案外すぐに工房へとたどり着いた。熱気が強い──まだ中に入ってすらいないのにここまでか、と思いつつ中へと入っていく。
中心に炎を設置している。その周りで鍛冶師だろうか、それらが集まっている。その群れに声をかけようとして、
「まぁ待て」
「……アレス?」
呼び止めたのはアレスだった。何をするのか、と思っていると、工房の受付だろう場所に人がいないのでそこを飛び越えてアレスは人の群れへと近づいていく。そして気配を消して彼らの後ろに立つと、
「やぁ」
「うぉおおおおお──!?」
肩に手を置かれた人がそんな声を上げてすっ転び、手から離れたハンマーが空を舞いその男の顔面を殴る。
「ぐぅぉ……」
「兄貴ぃ──!」
「しかしやつは四天王の中でも最弱」
「おう、そうかあとで言いつけるな」
「お、おう。思ってたより動じてねぇ……」
そんなことをアレスが言って、そしてまた受付を飛び越えてこちらの背中を押しながら、男たちへと近づいていく。
「こいつ専属契約結んだやつ」
「おう、来てくれたか」
「復活早ぇ」
兄貴と言われていた男が起き上がってこちらに顔を近づけて、そして持っている剣を見てから声を発する。
「おう。ぶっちゃけるとな、使い手に剣の格が合ってねぇ。と言うよりお前の持ってるそれは到底剣とは言えないな。そんなんを今まで使ってナルガを切断だったか? 技量に関してお前、下位ハンターとしては突出してるぜ」
故に、と言う。
「俺はお前と専属契約を結ぶ。詳細は当然知ってるよな」
「固定登録ですよね。それについては当然わかってますよ。まず始めに、優先的にそちらが武器を作ってくれるかわりにこちらはこの鍛冶屋の武器を使う、と言うものです」
「そう、その通りだ。そしてそっちの要望もわりと何とか工面する。だが見返りに素材を貰う、依頼を受けてもらう。まぁつまりはだいたい普通の鍛冶屋よりオプションについては受け付けてくれるってことだな。かわりに素材を多く渡す必要がある。……これで固定枠にお前は設定されたわけだが、しかしこの固定枠をお前が申請した理由は? それが一番気になってんだ。なんでこの無名な馬鹿溜まり鍛冶屋に固定申請を出したのか」
「あぁ、それなんですけどね」
と言って、まぁ解ってるだろうけど、と思いつつ抜剣する。
「俺の武器は直剣です。この時点で受け付けてもらえる鍛冶屋は大きく限定されます。だから、ここは直剣専門も同然なので申請しました。──
「オーケー、理解した。お前が
「いや、俺は武器固定してるわけじゃないからなぁー……てか俺はキチガイじゃねぇしな」
アレスがそんなことを言って、それを即座に否定する。お前がキチガイじゃないわけがないだろう。そう言う思いを込めてアレスを見る。
「おい、待て……待てよ。お前なんだよその目」
「あー、仲がいいのはわかったからやめてくれ。俺たちが痛い。やめてくれ。──さぁ、気を取り直してお嬢さん。早速だが一つ頼めるかい?」
と言うことで密林に来た。
イャンガルルガの素材を使って音の対処用の耳栓を作成するらしい。買えばいいじゃん、と思うが実際下位クラスには手を出すことのできないほどの値段らしく、しかも使い捨てなのでそれならしばらく使えて安く仕上げたほうがいい、とのことらしい。そのへんに関して知識があるわけではないので、完全にそこは向こうの言うことを信用することにする。
たぶん巣穴にいるな、と想像して、ベースキャンプの近くに生えてある蔦に手をかけ、体重を支えられるかどうか確認する。問題なかったので、そのまま飛ぶようにして蔦を登っていく。
だいたい数分で登り終え、そのままエリアを移動していく──こう言う、単純に体力を使うことが中々厳しくなってるなぁ、と思いつつ、歩きながら巣穴へと向かう。
密林と言う環境で一番怖いのは吹き飛ばされることだ。崖が多く、吹き飛ばされることがあれば落ちて死ぬだろう、と言うのが明確なのだ。それにまず気をつけつつ、しかし現状落ちるようなことはないので、足元に気をつかいながら、
巣穴へと到達する。
ここは落下の心配がない。平坦で、そのため戦い易い場所だ。そんなところにイャンガルルガは存在した。これ、戦い易くていいなぁ、と思いつつ、まず耳を塞ぎ咆哮を耐え凌ぐ。
イャンガルルガと言うモンスターについて、持ち得ている情報は素早く、強い、と言うことだ。
アクションの間の隙間の時間がほぼないに等しい。故にその隙に攻撃をしようとすればすぐに反撃を喰らうのだとか。かなり賢いモンスターだと思う。
隙を殺すことを学んだモンスターと言うのは意外に多いが、しかしハンター業を始めた初心者が戦う場合、こいつには為す術なくやられるだろうなぁ、と思う。疲労が早いと言う弱点があるが相手が疲労するまで逃げ続けることは体力的に厳しい。故に、隙が少ないとしか言えない。
実際、相手が初手で行ってきたのはワンステップからの啄みだった。
下手に避けようとすると足に蹴られて体制を崩すので、横──左に回避した。イャンガルルガは右側の対処がしっかりとしているらしいので、そこに気をつけつつ左に避けて、抜剣する。
抜剣からアクションを起こす間もなくイャンガルルガは尻尾を回転させて範囲を薙ぎ払ってくる。それを後ろに飛ぶことで回避する。こいつの尻尾には毒があるので、先端に当たれば毒で辛いと言うことがわかっている。故に大きく回避を取ったのだが……そのため、かなり隙間が空いてしまった。これは間合い測れなかった自分のミスだなぁ、と自分のミスを認めつつ、そろそろ反撃に出てもいいのかもしれない──
──故に尻尾回転終わりに、まず軽く一撃だけを足を入れる。
切断については何も考えてない、軽く出血をさせる程度の傷だ。しかしこれを取っ掛かりにして、しっかりと隙を狙えるようにしていくのだ。だからこれだけでも特に問題はない。
そもそもハンターはモンスターの即死を狙わないのだ。だいたいが大人数で一撃を叩き込んで失血死を狙う戦い方だ。自分らのようなやつらは中々少ない。
「飛んだ──サマソか?」
後方に羽ばたきで風を起こしながら羽ばたいたイャンガルルガの次の行動を予測しながら、一番可能性の高いものを選択する。サマーソルトは威力も高いため、ならばここは回避を優先しよう、と判断する。
そしてサマーソルトには着地までに隙が生まれる。ならば、その際に確実に殺し切ることができるだろうと思う。そうまで考えて、
相手が動く。
地面を抉り、風を斬りながらしなやかな尻尾が迫る。それを横に飛ぶことで回避しつつ、二回目を軽く警戒する。しかしそんなことはなく、イャンガルルガは普通に着地しようとする。
そのタイミングに合わせた。
嘴の隙間に斬撃を線として滑り込ませ、そのまま口の裂け目を大きく広げるように、腕を半円を描くかのように振り、そうして回し、斬撃として相手の頭を切り飛ばす。血が舞った。斬撃の勢いで前方へと進む自分の体を、その流れを地面との摩擦に停止を任せつつ、後ろを見た。
──確実に殺した、と思う。あくまで思うだけだ。実際に殺せているのかどうかはわかっていない……ただ、頭を切り飛ばせたので間違いなく死んだだろう、と思う。
「──ふぅ。殺せてるな」
実際に近寄ってみて、それを見てから確実に殺したことを理解する。頭を指で掻いて、血がコートについてのを見て、その洗濯どうしよっかなぁ、と困った。それについて、ミラルーツにでも聞いてみようか、と思いつつ、でもそんなことで聞くのもなぁ、と言う気持ちもある。まぁいいか。他人を頼るのは悪くないことだろうし。
ともあれ、
──クエストを終了する。
色付いたのでクオリティ犠牲に連日投稿です。明日は無理そうですね……