【完結】ピッツァ!ピッツァ!ピッツァ!   作:忍者小僧

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大変間があいてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
実生活で色々あり、何も書けない状態でした……。
半年ぶりの更新で、申し訳ない気持ちで一杯です。
どうか、楽しく読んでいただけると幸いです。


11、隠しごと

き、キス?

キスしてほしいだって!?

俺は思わず、チョビのちっちゃな唇を見つめる。

キュッとしてて、形がきれいで、口紅なんて塗ってないくせに妙に艶があって。

可愛いなぁ。

って、だめだろ。

なに考えてるんだよ、俺。

ついさっきチョビの部屋で抱き合ったとき。

行き過ぎた触れ合いはヤバイって思ったところじゃないか。

 

「し、してくれないのか?」

 

躊躇する俺に、チョビが問いかけてきた。

その表情は、すっごい恥ずかしそうだ。

そりゃそうだよな。

自分からキスをおねだりしているんだ。

きっと、すごく勇気を出したんだろう。

その気持ちを、無碍にしたくないかも。

俺は戸惑う。

キスすべきか、せざるべきか。

ハムレットよりも悩んだと思う。

俺は、悩みに悩んだ末……言った。

 

「わ、わかった」

 

言った。

言っちまった。

でもしょうがないんだよ。

なんていうか、その。

まっすぐなチョビの気持ちを否定したくなかった。

 

「い、いくぞ」

 

俺はつぶやいて、チョビと向き合う。

はっきりいって、ファーストキスだ。

まさか人生最初のキスが、中学生の女の子とだとは。

 

「さ、さぁ、来てくれ、お兄さんっ」

 

目を閉じてなんか気風がいい感じに唇を突き出すチョビ。

ところが。

いざこうやってみるとかなり身長差があるな。

最近伸びてきたとはいえ、まだまだ俺の目線からだとチョビのつむじが丸見えだ。

キスしようとしたら、かなり変な中腰になる。

 

「なぁ、チョビ子」

「な、何か問題でもあったのか、お兄さん!?」

 

目を閉じたままチョビが聞いてくる。

 

「いや、そこまで大したことじゃないんだが。ちょっと背の差があるからさ。チョビ子も背伸びしてくれないか?」

「こ、こうか?」

 

言われて即座に反応したチョビが爪先立ちになったから。

ごちんっ。

モスグリーンの頭が思いっきり俺に当たった。

 

「あいたっ」

 

情けない声を出す俺。

 

「お、お兄さん! だ、大丈夫か?」

 

頭ををさすりながら、チョビが涙目で問いかけてくる。

 

「あぁ、い、一応大丈夫」

「わ、私も結構痛かったぞ」

 

そんな失敗をして。

なんとなく、どちらからともなく笑いあった。

 

「ま、まだキスは早すぎるんじゃないか?」

 

俺がそう言うと、顔を真っ赤にしてチョビもうなづく。

 

「そ、そうだな。そ、そうかもしんない。本当は、その、す、すっごく緊張したし」

「お前、蛸みたいにくちびる突き出してたぞ」

「んなっ!?」

 

チョビがぽかぽかと叩いてきた。

 

「そ、そんなわけあるかっ」

「ま、マジだって」

「うぐぐ、ど、どういうふうにすればいいのかわかんなかったんだー!」

 

そんな感じでじゃれあって、落ち着くとチョビが言った。

 

「でも、いつか、もう少し大人になったらしてほしいぞ……キス」

「ま、まぁ、それはな」

「約束してくれるか?」

「わかった」

「そっか」

 

にひひっとチョビが笑った。

 

「そんじゃそれまで我慢するぞ」

 

それから、俺を見上げて問いかけてきた。

 

「どれぐらい大人になったらしてくれる?」

「そうだなぁ……」

 

なんて答えるべきだろう?

高校生になったら?

大学生になったら?

うぅむ……。

ふと、チョビのつむじが目に入った。

ちょい、とそこに手を添えてみる。

俺の背丈からするとちょうどいい位置にあるんだよなー。

 

「お、お兄さん? ど、どうしたんだ?」

 

チョビのやつ、戸惑ってやがる。

なんか可愛いかも。

 

「そうだな。チョビ子の背が伸びて、俺にこうやって簡単につむじを触られないぐらいになったら。そうしたらキスするってことでどうだ?」

 

ちょっとだけ冗談めかしてそう言うと。

ぐぬぬって顔をしたチョビが叫んだ。

 

「こうなったらもっと牛乳飲んでやるかんなー!」

 

 

* * *

 

 

翌日からはまたバイト漬けの日々。

俺は今回初めて与えられた自分のデスクで、シナリオ作業に没頭していく。

これまでのデバック作業とは根本的に違う。

チェックをするということと、何もないところから生み出すということは、必要なエネルギーの桁が異なってる感じだ。

ディレクターが提示してくれたプロットはあるんだけど……。

 

「ううむ……」

 

頭を抱える。

プロットの隙間を生めるエピソードが何も浮かばない。

プロットそのままの箇条書きの様になってしまう。

あぁぁぁ、こんなんじゃだめだ。

 

「ちょっと休憩に行ってきます」

 

誰に言うわけでもないけど、そう呟いて財布だけジーンズの尻ポケットに突っ込むと、外に出た。

社屋のすぐ前に自販機があるのだ。

缶コーヒーを買おうとして、財布を開いたとき、財布のカード入れの奥にしまってある一枚の名刺がひょこんと顔を出しているのが見えた。

 

「こんなときに顔を出すなんてな」

 

それは古い名刺だった。

俺が中学生のときにもらったものだ。

こんな名前が刷られてある。

〝シナリオライター・ディレクター 影野正秋〟

今はもうすっかり業界から引退してしまった、とあるシナリオライターさんの名刺だ。

あれはもう7年近く前のことになるのか。

 

中学に入って最初の夏休みのある日、俺はたまたまプレイしたゲームに夢中になった。

そのゲームは、ゲームセンターでやりなれた格闘ゲームとかシューティングとかではなく。

『物語を読む』ゲームだった。

しがない私立探偵の男がほんの小さな依頼を受けたことがきっかけで、思わぬ巨大な事件に巻き込まれていくという内容だった。

ミステリアスな物語の構造の中に、恋愛要素やコメディもちゃんと入っていた。

世の中に、こんなジャンルのゲームがあったのか、と当時の俺は感嘆した。

ゲーム雑誌を買いあさり、その作品のライター・ディレクターである影野正秋に興味を持った。

彼の載っているインタビューは常にチェックして。

まぁ、今風に言えば『フォロワー』状態だった。

ある時、俺が友達と栄の商店街の喫茶店でだべっていると。

ゲーム雑誌で見かけたことがある男が斜めの席にいることに気づいた。

大き目の体躯に、ティアドロップ型のサングラス、そして黒人のようなちり毛。

なんと、影野正秋だった。

驚いたのと同時に感動し、運命すら感じた俺は。

恐れ多くも彼の席まで行って、頭を下げた。

 

「と、突然すいません。僕、あなたのファンなんです! ど、どうしてこんなところにいるんですか?」

 

彼は笑って、「ゲームの販促イベントがあったから」と答えた。

よく見ると、向かいの席にも何人かの男がいた。

関係者なのだろう。

 

「何歳?」

「じゅ、十三歳です」

 

俺はあわてて答える。

 

「へぇ。若いね。その歳で俺のゲームが好きなんて、いい趣味してるじゃない」

 

彼は笑みを浮かべながらポケットをがさごそと探る。

 

「趣味は? 小説書いたりする?」

「へ、あ、い、いえ」

「書いてみなよ。その歳から書いてたら、何か良いもの書けるかもよ」

 

名刺を一枚、俺に渡してくれた。

 

 

* * *

 

 

あの日からもう、7年も過ぎたのか。

小説は地道に書き続けていたが、影野正秋に連絡は取っていない。

稚拙なものは見せられないと思ったからだ。

そう思っているうちに、彼のゲームは旬でなくなって、売れなくなり。

今はもう、ほぼ引退状態だと聞く。

この名刺の連絡先も無効なアドレスだ。

 

「でも、ようやく俺はシナリオを書いてる」

 

自分に向かって呟く。

今はほんの小さな一歩だが。

チョビが戦車道に向かって進んでいるように、俺もこの道を歩んで行きたいんだ。

 

 

* * *

 

 

休憩を終えてデスクに戻ろうとすると、社屋が騒がしかった。

ん?

どうしたんだ?

怪訝な顔をしているとアシスタントディレクターの末永さんが走ってきた。

 

「あっ、樋口君、大変だ」

「ど、どうしたんですか」

「背景画の指定が間違っていた。一部ぜんぜん違うのが届いちゃっている」

「それじゃ発注のし直しになるんですか?」

「いや。外部の会社に出してるから間に合わない」

「え、どうするんですか?」

「社内のライターで、文章の方を背景に似合わせるって方向になった」

 

社内ライター……って俺じゃねーか!

 

「い、今からですか?」

 

冷や汗が出る。

 

「間違えてるのは数枚で、使用シーンが少ないから。いくつかのキャラの個別ルートだけでしか使用しないから」

 

頼むよ、と頭を下げてくる。

正直、無茶な話だけど。

俺の脳裏に、まっすぐに伸びる道が見えた。

ここで逃げてたら、道が途切れてしまうような気がした。

 

「わかりました。書いてみます」

 

俺はそう宣言した。

急いでデスクに戻り、問題の背景画をチェック。

確かに、後半の特別な場面でしか使わない背景だ。

これなら、いけるかもしれない。

その場面が使用されるキャラの中に、例のチョビに似たキャラがいた。

なおさら、こんなことでへこたれていられないって気分になる。

あいつに似たキャラを書いてるのに、ひどい出来になんてしたくない。

 

「よしっ! やるか!」

 

気合を入れるため、頬をたたいた。

 

 

* * *

 

 

そして、11月の終わりがやってきた。

その日は東海地方にしては珍しく、早めの雪がはらはらと降った。

俺は社屋のそばの公園にいた。

 

「ほぅ……」

 

吐く息が白い。

もうすっかり冬だ。

というか、ずっとバイトにかかりっきりでほとんど秋を体感できなかったな。

マスターアップ直前になってトラブルはあったけど、ゲーム制作はなんとか完了した。

いよいよ今日は発売日。

ついさっき、段ボール箱から取り出された完成品パッケージを受け取ったところだ。

あとは評判をドキドキしながら待つのみ。

 

「……くしゅんっ」

 

くしゃみが出た。

軽い雪だからいいかと思って傘も持たずに外に出たけど。

若干寒いな。

 

「そろそろ戻るか」

 

外の空気も吸ってリフレッシュできたしな。

会社に戻って、荷物の整理をしたら家に帰ろうかな。

そんなことを考えながら、淡い雪の降る路地を歩く。

見慣れたボロい建物が見えてきた。

 

「何度見てもほぼバラック小屋だよなぁ」

 

なんでこんな社屋にしたんだろう。

そんなことを考えながら、立て付けの悪いドアを開けようとすると。

 

「ん? んん?」

 

ドアが開かない。

ってか、鍵がかかってる?

まさか。

俺が外に出てる間にみんな帰っちゃったのか?

そういえば、開発が終わってやっと帰れるってことでみんな狂喜乱舞してたからな。

慌てて社内にいたはずのグラフィッカーさんに電話をかけてみる。

すると。

 

「あ。休憩に出ただけだったの? 帰ったと思って鍵かけちゃったよ」

 

そんな返事が。

うぁ。

大失敗だ。

バッグとか財布とか全部中なんですけど。

これじゃ電車に乗ることもできやしねぇ。

 

「今から誰か戻れないですか?」

「経理の隅野さんが夕方に来るはずだけど」

「夕方……」

 

さっさと帰って寝たいのだろう。

そのまま電話は切られてしまった。

 

「まじかー」

 

呆然とつぶやく。

その瞬間。

雪が本降りになってきた。

 

「うわっ」

 

大慌てで走り出す。

どこか、雨除けならぬ雪除けをできるところはないものか。

路地を走りながらあたりを見回す。

ない。

何にもない。

というのも、住宅街の中にぽつんと社屋があるからだ。

見知らぬ人の家の軒先で勝手に雪除けするわけにもいかないし。

結局、駅近くのアーケードまで走ることになってしまった。

肩や頭に降り積もった雪が解けて水になってびしょびしょだ。

 

「うぅぅぅ」

 

さ、寒い。

とんだ災難だよ、これ。

ハンカチで水滴をぬぐう。

そのまま夕刻までアーケードで時間をつぶして、18時ぐらいになって漸くバッグをとることができた。

 

 

* * *

 

 

帰宅してすぐにチョビにメールをした。

 

〝とんだ目にあったよ。雪が降ってるのに閉め出されてびしょ濡れになった〟

 

おっ。

すぐに返事が来た。

 

〝だ、大丈夫なのか?〟

 

心配してくれている顔が目に浮かぶようだ。

 

〝風邪ひいちゃうぞ、お兄さん〟

〝大丈夫だよ、今から風呂に入るから〟

〝お、お風呂っ!?〟

 

反応しすぎだろ。

 

〝ま、そういうわけだから。また後で連絡する〟

〝う、うん。肩までつかってしっかり温まるんだぞ〟

 

冬にいつも着ているジャンパーを脱いで、風呂場へ向かう。

うぅ、なんか寒いなぁ。

貧乏暮らしだから風通りの良すぎる壁の薄いアパートだけど。

こんなに寒かったっけ。

さっさと温まろう。

じゃばっとバスタブにつかる。

温かい。

……温かいなぁ。

っていうか。

なんか、くらくらするような……。

……あ。

これ、ヤバいわ。

か、風邪の兆候かも。

というか、か、風邪、かも。

ここ一ヶ月、ずっと無理してたから……。

 

俺は慌てて風呂を上がる。

その時にはもう、足元もおぼつかなくなっていた。

何とか体をバスタオルで拭いて、パジャマに着替える。

そこまでの動作が限界だった。

ばたんっと派手な音を立てて。

俺は廊下にぶっ倒れた。

 

 

* * *

 

 

……。

…………。

どれぐらいそのまま眠っていたんだろうか。

やわらかいものが、頬に触れる感触でぼんやりと意識が戻ってきた。

 

「あっ」

 

聞きなれた可愛らしい声が聞こえた。

チョビの声か?

 

「お兄さん、じっとしてて」

 

優しくて甘い声が、俺の耳をくすぐる。

その声がすごく心地よくて、俺はまた目を閉じた。

朦朧とした意識の中で、俺はつぶやいた。

 

「よっぽど会いたかったのかなぁ」

 

最近ずっと会えなかったし。

チョビの幻想が見えるなんて。

 

「ふぇっ?」

 

幻想のチョビが、いつもの照れた声を上げる。

 

「あ、会いたかったのは……じ、事実だけど……」

 

なんかもごもごと呟いてやがる。

いやいや違うって。

お前がじゃなくて、俺がだよ。

そういう勘違いも、本物のチョビにそっくりだなぁ。

そんなことを考えていると、また意識がぼんやり遠のいた。

 

 

* * *

 

 

「ん……」

 

今度は、はっきりと目が覚めた。

体がかなり軽くなっていた。

眠る前に感じていたひどい頭痛も、ほとんど消え去っていた。

 

「……ひと眠りして、回復したのか」

 

俺はつぶやいた。

体に触れると、寝汗はそれほどかいていないようだった。

急な発熱でびっくりしたけど。

一時的なものだったのか。

 

「それにしても、この匂いって何だ?」

 

俺は鼻をすんすんとさせる。

さっきから気になっていたのだ。

なんか、トマトを煮込んだような匂いがする。

いかにもイタリアンな匂いというか、でもどこか和風なような。

隣の部屋の住民が何か作ってるのか?

そう思ったら、腹が鳴った。

帰ってすぐにぶっ倒れてしまったからな。

夕飯も何も食べていない。

今が何時なのかわからないけど、とりあえず何か食べようか。

そう思って、起き上がろうとして。

 

「あれ?」

 

布団の上に寝ていたことに気がついた。

なんで?

俺、廊下にぶっ倒れたような……。

狐につままれたような気分で周囲を見回すと。

見慣れたツインテールがキッチンのそばで揺れていた。

あの後姿って。

 

「チョビ子!?」

 

俺は思わず驚きの声を上げた。

どうして俺の部屋にいるんだ?

 

「あっ」

 

チョビが振り向いた。

幻かと思ったが、どう見ても本物だ。

 

「元気になったのか!?」

 

心配と喜びが混じったような声で俺に駆け寄ってくる。

 

「んっ」

 

ちょっと背伸びして、俺のおでこに触れた。

小さな手が柔らかくて暖かい。

 

「熱、下がってるぞ。よかった」

 

心から安心したというように微笑んだ。

 

「あ、いや、というか、なんでここに?」

「だってお兄さん、電話に出ないから」

「電話?」

「後で連絡するって言ってそのままだっただろ? びしょ濡れになったって言ってたし、倒れちゃったんじゃないかと心配になったんだ」

「それで見に来てくれたのか」

「そういうことだぞ!」

 

えっへんと胸を張る。

 

「お兄さん、廊下に倒れてたんだからな。私が来なかったらきっと死んじゃってたぞ」

 

いや、死にはしないと思うけど。

 

「というかチョビ子、なんで俺の部屋を知ってるんだ」

「あうっ」

 

チョビが気まずそうに顔をそらした。

 

「か、角谷が知ってたんだ」

「いや、それはそれでおかしいからね」

 

教えてないし。

……杏ちゃんなら勝手に調べてそうだけど。

しょうがないなぁと苦笑いする。

 

「ところでさぁ、チョビ子」

 

俺はチョビの背後に目をやった。

さっきから気になってたのだ。

 

「キッチンから漂ってくる良い匂いは?」

「こ、これはっ」

 

チョビが隠そうとする。

 

「なんか作ってくれたんだろ? 腹が減ったから食べたいな」

「だ、だめっ」

「え? なんで?」

「そ、そのぉ……」

 

気まずそうに俺をチラ見して言う。

 

「し、失敗しちゃったから」

「失敗?」

「う、うん。おじやを作ろうとしたんだけど。せっかくだからイタリア風にしようと思って手を加えたら……変な味になっちゃった」

「なんだ、そんなことか」

 

俺は笑った。

 

「でもそれってさ。おじやってことは」

「な、なんだよ」

「風邪気味の俺が食べやすいようにわざわざ作ってくれたってことだろ?」

「そ、そうかもしんない」

 

照れ隠しなのかそっぽを向きながら言う。

そんな仕草がかえって微笑ましい。

 

「じゃ、いただくよ」

「だ、だだだめっ! 本当においしくないから!」

「いや、俺はもらうね」

「あっ、あっ、ダメだってば」

 

わたわたするチョビの肩越しにキッチンを見ると、赤い色のおじやが入ったステンレス鍋が。

なんだ、普通に美味しそうじゃないか。

おじやというかトマトソースのリゾットだな。

 

「ぜんぜん変な見た目じゃないけど?」

「見た目はな……」

 

チョビが残念そうにつぶやく。

 

「そんなにひどい味なのか?」

「ひどいというか……変だ」

「ちょっと失礼」

「あっ」

 

勝手知ったる我が家のキッチンだ。

俺は素早くスプーンを取って、赤いおじやをすくった。

 

「いただきまーす」

 

口に運ぶ……と。

 

「なんだこれ?」

 

確かに変な味だった。

 

「だ、だから言っただろ」

 

あきれたような申し訳ないような声でチョビ。

 

「なんだろう、これ。赤い色はトマトだよな。ちゃんと甘酸っぱい味がするし。でも、なんか違う味が混じってるな」

「はうっ。お、お兄さん、鋭い」

「ふむ……これは」

 

鋭いと言われて嬉しかったので、探偵気取りの思案顔をしてみる。

 

「かつお出汁と醤油の味だな。チョビ子、さては普通におじや作ってから途中でイタリア風に変更したんだろ?」

 

ちょっとカッコつけて言ってみた。

かつお出汁のパッケージが置きっぱなしだからわかっただけなんだけどね。

 

「はぅぅぅぅ」

 

チョビが縮こまった。

 

「だ、だって。やっぱりお兄さんに食べてもらうなら、イタリア風がいいかなって途中で思っちゃったんだ」

「そんで、トマトケチャップとかイタリアンソースとか加えちゃったってわけか」

さながら和風イタリアンおじやだな、これ。

「ご、ごめんなさい」

「いや。全然謝る必要ないって」

 

俺はそう言って、もう一口スプーンですくう。

ぱくっ。

躊躇なく口へ運んだ。

 

「ちょっと珍しい味だけど、俺は好きだぜ」

「ほ、本当か?」

「本当だって。嫌なら食べないよ」

 

それは事実だ。

美味しいかどうかといえば、美味しくはなかったけれど。

嫌かどうかといえば、嫌いじゃない。

チョビが作ってくれたって事が単純に嬉しい。

ということは、それは俺にとって〝好きな味〟ってことだ。

 

「病み上がりだから全部は食べられないけどさ。お茶碗によそってくれないか? 

もっと食べたい」

 

微笑んでそう言うと、チョビがしょうがないなーって顔で頷いた。

その表情は嬉しそう。

 

「それじゃ、一杯分だけだよ?」

 

チョビがそう言って、おずおずと差し出してくる。

暖かい和風イタリアンおじやは、確かに変な味だったけれど。

食べれば食べるほど幸せな気分になった。

 

「ところでさ。イタリアンソースなんて冷蔵庫になかっただろ? わざわざソースとか買いに行ってくれたのか?」

「まぁね。お兄さんが寝てる間に。あんまりうなされてなかったから大丈夫かなって思って」

 

そう言ってから、ちらっと俺の部屋の台所を見る。

 

「っていうか、何にもなさ過ぎてびっくりしたぞ」

 

あきれたように言った。

 

「ま、男の一人暮らしだからな」

「これからはちょこちょこ作りに来てあげるぞ」

「あ、それは普通にうれしいな」

「……今日みたいに、ピザ以外のも、いっぱい一緒に食べようね」

 

あ。

そういうと、こいつといるといつもピザだったから。

今日はすごく珍しいんだな。

 

「その。これからもずっと、お兄さんには、健康でいてほしいし……」

 

ちょっと頬を赤らめてそんなことを言ってくれるチョビ。

そっか。

ピザから始まった俺たちの関係は。

いつの間にか、ピザじゃなくても成り立つものになっていたんだな。

 

 

* * *

 

 

と、その時。

壁際の小さな柱時計が鳴った。

一人暮らしの無味乾燥なこの部屋のほぼ唯一の装飾品。

去年の暮れにフリーマーケットで買ったお気に入りの品だった。

っていうか、柱時計が鳴ってるってことは……。

 

「い、今何時だ?」

 

風邪でぶっ倒れて、目が覚めたらチョビがいて。

なんかそのまま受け入れてしまっていたけど。

今って何時なんだ?

 

「ん? 12時ぐらいだぞ」

「昼? 夜?」

「もちろん夜」

 

あっさりとチョビが答える。

 

「え? お前どうするの? ここから家まで遠いだろ? もう電車ないぞ」

「だって、お兄さんが目を覚ますまでは帰りたくなかったから」

 

その言葉はありがたいけど。

 

「家族にはなんて言ってきたんだ?」

「だ、大丈夫! その……は、はっきりと伝えてきたぞ」

「は、はっきりと?」

「その、だ、大事な人が、倒れちゃったから、助けにいくって」

 

そ、それってちゃんと伝わってるのか?

俺の懸念を見越したように、チョビが、かなり照れた表情で言った。

 

「だ、大丈夫。お、お母さんは〝頑張って!いっそお泊りしてきなさい!〟って言ってくれたから」

 

おいっ!

チョビのお母さん!?

ノリと勢いで一途に突っ走る性格は遺伝か!

 

「そ、そんなわけだから、その……もう、電車もなくなっちゃったし」

「ま、まさか……」

「お、お泊りしちゃうぞ!」

 

パンツァー・フォー!と言わんばかりに、チョビがそう宣言した。

真っ赤な顔で照れながらも、絶対に帰る気はなさそうだ。

正確に時間を見ると、24時08分。

多分ちょうど終電が行ってしまったぐらいの時間だろう。

おじやを食べたり、まったりしたりしてなかったら帰れてたかも。

 

俺は天を仰いだ。

なんかこう、お泊りのための条件づくりが緻密に成し遂げられたような気がする。

これってまさか、戦車道で培った〝戦略センス〟ってことはないよな?

 

 

* * *

 

 

念のため、チョビのお母さんに電話をすると。

姐御肌な雰囲気の元気のよい声が「うちの娘をよろしくねっ!」と太鼓判を押してくれた。

なんか、「旦那と出会った頃を思い出すわ♪」とか騒いでたけど、とりあえず無視しておいた。

電話を終えて振り返ると、チョビがVサイン。

 

「お母さん、全然オッケーだっただろ?」

「ま、まぁね」

 

むしろ楽しそうだったよ。

 

「そ、それじゃ、お兄さん、ちょっと後ろ向いててね」

「ん? なんで?」

「な、なんでって、その……ぱ、パジャマに着替えるから」

 

持ってきてるのかよ。

よく見ると、大き目のボストンバックが部屋の隅に置かれている。

何が入ってるんだ?と覗いてやろうとしたら、「み、見ちゃダメ」と隠された。

まぁ、ちらっと見えたけど。

風邪薬とか、体温計とか、氷枕とかがごちゃっと入ってた。

俺の部屋に何にもないかもしれないと思って、大急ぎであれこれ用意してきてくれたのか。

……か、可愛いやつめ。

 

「もう、は、早く後ろを向けー!」

 

怒られたので、慌てて方向転回。

すると、しゅるしゅると、服を脱ぐ音が聞こえ始めた。

俺の一人暮らしのアパートは狭い。

超狭い。

だから、衝立も何もない。

真後ろで、チョビが着替えている。

や、やばい。

ドキドキする。

 

しばらくすると、ちょいちょいと背中をつつかれた。

 

「も、もういいぞ」

「お、おぅ」

 

なんかお互い妙に照れながら、向き合う。

あっ……。

チョビのパジャマは、髪の色によく似合った淡いグリーン色のチェック模様。

セクシーとかじゃなく、年相応のごく普通のダボっとしたパジャマだけど、それが逆によく似合っている。

 

「ど、どうだ?」

 

なんか照れくさくなって、俺は鼻の頭を掻きながら言った。

 

「いかにも中学生って感じでいいと思うぞ……って、いてっ」

 

足を踏みやがった。

 

「ふんっ。来年には高校生になるんだぞ」

 

見てろよ!と言ってあかんべーされた。

高校生……か。

高校生になったら、こいつ、学園艦に乗っちゃうんだろうか。

以前ふと感じた不安が胸をよぎった。

訊くべきだろうか?

その辺のこと。

あやふやなままで、いいんだろうか……。

良いわけ、ないよな。

 

「な、なぁ……」

 

問いかけようとした瞬間。

チョビの元気な声が響いた。

 

「あー! こ、こ、これって!」

 

キラキラと輝く目で指さす先には。

 

「ね、寝袋だっ!!」

 

俺が会社で使ってる寝袋があった。

泊まり込みの時期が終わったから持って帰ってきたものだ。

 

「え? 寝袋に興味あるの?」

 

なんで?

 

「大ありだぞ! 寝袋といえば野営の必需品! 憧れのアイテムだー!」

 

チョビがぴょんぴょん飛び跳ねる。

 

「ね、ね、お兄さん、これ使って寝ていい?」

「い、いいけど。それ、俺が使い込んだまま洗ってないぜ? 客人用の使ってない布団が一応あるんだけど」

「こっちがいい!」

 

即答だった。

 

「お兄さんの使った寝袋がいいぞ♪」

 

嬉しそうに俺の寝袋を抱きしめて顔をうずめてやがる。

俺はため息をついた。

思春期の女の子なんだから、嫌がりそうなもんだが。

そんなに寝袋が好きなのかねー。

 

「ま、それでいいなら使いなよ。遅いからもう寝るぞ」

「うん!」

 

俺が布団に寝転ぶと、チョビがてててっとついてきて、そのすぐ真横に寝袋を置く。

いや、もうちょっとスペース開けろよ。

 

「へへへー」

 

真横に寝転んで、俺に微笑みかける。

 

「おしゃべりする気はないからな」

「え-?」

「電気消すぞ」

 

ぱちっ。

電気を消した。

 

「ねぇねぇ、お兄さん」

 

おい。

寝るって言っただろ。

 

「あのね、期末試験。終わったぞ」

「点数的に終わったってことか?」

「ち、違うわいっ!」

 

くわっと突っ込まれた。

 

「試験が終わったってこと。かなり手ごたえはあるんだ」

「頑張ったんだな」

「お兄さんが教えてくれたおかげだよ」

 

そんなことはないだろ。

俺が教えに行ったのは、たった1日だけだ。

 

「あのね」

 

ぽつりぽつりと、チョビは言葉を紡ぐ。

その言葉の音色が、夜のしじまに妙に心地よい。

 

「本当にお兄さんのおかげなんだよ」

「なんで?」

「私の勉強嫌い、お兄さんが直してくれたから」

 

そういうものなのかな。

 

「お兄さんに勉強教えてもらえたから、やる気が出たんだ」

 

そっか。

 

「あとね、お兄さん、お仕事頑張ってたでしょ」

 

あぁ、そうだな。

 

「だから、私も頑張ろうって思った。お兄さんに恥ずかしくないように、ふさわしいように、夢を追うんだって」

 

夢……。

 

「二人で、お互いの夢を追っていたら。道がずれても、きっと迷わないから」

ん?

 

〝ずれても〟?

 

「あのね、お兄さん」

 

チョビの可愛い声が、耳元をくすぐった。

 

「私、アンツィオに行くよ」

 

その言葉が、不意に、ぽつんと夜の空間に置かれたような気がした。

とても重要な、大事なものを。

俺はそれを、一瞬飲み込めなかった。

チョビが何を言ったのかを。

あれ?と思っているうちに、チョビの言葉が続いていく。

 

「……実はね、アンツィオから、スカウトされたんだ……。学力さえ追いつけば、推薦入学できるって」

 

ようやく、意味が追いついてきた。

俺は思わず目を開いた。

吸い込まれそうなほどに美しい、チョビの瞳が、俺を見つめていた。

 

「い、いつ?」

 

やっとその言葉だけを俺は搾り出す。

すると、チョビが言った。

 

「本当は、もうずっと前。夏休みぐらいの時期」

 

夏?

もう、半年も前?

 

「その時、言おうとしたけど、上手く言えなくて止めちゃった……迷ってたし」

 

迷ってた?

アンツィオに行くのが夢だって、言っていたじゃないか。

 

「迷う必要なんて、ないだろ?」

 

俺の問いかけに。

チョビが答える。

 

「以前ならね」

「どういうことだよ」

「だって、お兄さんに出会っちゃったから」

 

気持ちを、吐き出すように呟いた。

 

「大好きなお兄さんと出会って、一緒にいるのが楽しくて。これから会えなくなるのが、怖くなっちゃった」

 

その言葉が俺を刺した。

あの夏の日。

俺とチョビは、同じことを考えていたのか。

 

「でもね」

 

チョビが言葉を続けた。

 

「10月になってからお兄さんが、お仕事を頑張ってる姿を見てたら。そんな弱気じゃだめだって考え直したんだ。お兄さんが夢に向かって頑張っているように、私も夢に向かって頑張らなきゃって。そうでなきゃ、お兄さんと対等になれないぞって」

 

チョビが何か、もぞもぞとやっていると思うと、寝袋のジッパーが開く音が聞こえて。

俺の布団に、柔らかい、小さな手が潜り込んできた。

チョビの手。

それが、俺の手のひらを、ぎゅっと握った。

 

「あんまり会えなくなっちゃうけど、ずっと待っててくれる?」

 

俺は泣きそうになっていた。

迷ってたのは、俺の方だ。

決断できず、問いかけることもできず。

こんな小さな女の子に、先に大切な言葉を、言われちまった。

俺は……強く、小さな手のひらを握り返した。

 

「もちろんだ。ずっとずっと。いつでもチョビ子のこと、待ってる。……たとえ、なかなか会えなくても。お前のことが好きだから」

 

言った。

言っちまった。

すっげー恥ずかしいけど。

そのまんまの気持ちだ。

 

「お兄さん!」

 

寝袋を抜け出したチョビが、がばっと俺の布団に飛びついてきた。

そのまま、布団の中に潜り込んでくる。

 

「ちょ、ちょっと、チョビ子?」

「い、一緒に寝よ?」

 

すりすりと体を擦りつけてくる。

 

「お、おい! 寝袋に戻れ!」

「ダメ! 朝までずっと一緒だぞっ!」

 

にこにこして愛おしそうに抱き着いてくるチョビを引っぺがすことはできず。

結局、そのまま一緒に寝ることになった。

 

……体温が高いから、すっげー暖かかった。

 

※※※※※※※おまけ・アンチョビのターン※※※※※※※

 

 

ある日の放課後。

唐突に杏が言ってきた。

 

「ちょっと帰り道で宝探しの探検でもしてみない?」

「宝探し?」

「そー。宝の地図を見つけちゃったんだよね」

 

意味ありげに含み笑いをする杏。

宝探しという言葉には、妙にロマンがある。

中学生にもなって、それも女の子が宝探し遊びだなんて少し抵抗はある。

しかし。

抗いきれない魅力があるのも事実だ。

 

「も、もうしょうがないなぁ。ついて行ってやるぞ」

 

アンチョビはわざと興味がなさそうな声音で答える。

 

 

* * *

 

 

「それで、探検ってのはどこへ行くんだ?」

「まーまー、黙ってついてきなよ」

 

冒険家気分なのか、どこからかサバンナ帽を取り出した杏は鼻歌交じりにてくてくと歩いていく。

行く先は……ただの路地だ。

ひたすらに20分ほど歩く。

悪路ではないからさほど疲れはしないけど、普通なら電車に乗る距離だ。

 

「け、結構遠いな」

「歩かなきゃ探検って言わないでしょ?」

「それはそうだけど」

 

いったいこの先に何があるというんだ。

だが、いくら問いかけても、杏は「それは後のお楽しみだねー」とほくそ笑むばかり。

こ、こういう時は大体いつも何かを企んでいるからな。

ふ、不安になってきたぞ……。 

やがて、さらに歩いていると。

杏が唐突に立ち止まった。

 

「ふぎゃっ」

 

背中に鼻先をぶつける。

 

「もー、急に止まるなよー」

 

そう抗議をすると、杏が振り向いた。

 

「着いたよ。目的地」

「へ?」

 

そう言われて、あたりを見渡すのだが。

別段何もない。

どこにでもありそうなただの住宅街だ。

一軒家が立ち並び、その間に一つ、築年数の古そうなアパートがあるだけ。

 

「角谷、私をからかってるのか?」

「そんなことないって。〝チョビ子〟にとっては宝物級だから」

「そんなこと言って、いったいどこにそんな……」

「しーっ! 隠れて」

「ふぇっ!?」

 

急に頭を押さえつけられた。

 

「な、なんなんだ、角谷」

「静かに。ほら。あそこ、よく見てみて」

 

そう言って杏が指さした先は、ボロアパート。

いったい何があるというんだ?

目を凝らしてアンチョビが見てみると、階段に……。

 

「お、お兄さんっ!?」

「だから、しーってば!!」

「あ、ご、ごめん」

 

慌てて口を押える。

良かった。

気づかれてないみたいだ。

で、でもなぜお兄さんが?

 

「ここ、お兄さんのおうちね」

 

杏があっけらかんとささやく。

 

「え!? お兄さんのおうち?」

「そっ。あのアパートで暮らしてるみたい。あ、ほら、ちょうど帰るところ」

 

もう一度見ると、スーパーの袋を手にした純一が、アパートの二階の一室のドアを開ける。

 

「……201号室だよ」

 

杏が悪戯っぽくささやいた。

 

「201号室。そ、それがお兄さんのお部屋……って、ちょっと待て、角谷! なんでそんなこと知ってるんだ!?」

 

そう。

それが問題なのだ。

わ、私だってまだ、お家を教えてもらってなかったのに。

どうしてお前が先に知ってるんだ。

ま、まさか、お兄さんに教えてもらったのか!?

 

「心配しなくっていいよ」

 

心を読まれた?

 

「ちょっとこの前、駅で見かけて尾行しただけだから」

「だ、ダメだろっ!?」

 

思わずツッコミを入れる。

 

「いやー。なんかお兄さんを見かけると後つけたくなるんだよねー」

 

あっけらかんと言う。

ま、まさかこれまでもたびたび尾行してるのか?

 

「い、イケナイことだぞ。そういうのっ」

「でもさー。安斎にとってもいい収穫になったでしょ?」

「うっ」

「お兄さんの家。いつでも眺めたい放題だね」

「そ、そんなこと、しないかんなっ!」

「本当かなぁ?」

 

ニヤニヤと見つめるな!

 

「ぜ、絶対だっ!」

 

 

* * *

 

 

後日。

 

「お、思わず、来ちゃったぞ……」

 

アンチョビは、純一のアパートのそばにいた。

いけないことだとは思っているのに。

ついつい、あそこに純一が住んでいると思うと、見つめたくなる。

 

「お兄さんのお部屋。……ど、どんな感じだろう」

 

いろんな想像が、頭の中で膨らんでくる。

その中には。

新妻になった自分が、アパートの部屋で同居しているというものも。

 

「うぁぁぁぁぁ!」

 

恥ずかしさが頂点に達し、叫び声をあげる。

 

「こ、こんなこそこそしたの、私らしくないぞっ! しっかりしろ、しっかりしろ、私!」

 

ぽかぽかと自分の頭を叩く。

こ、これ以上ここにいると、お、おかしくなっちゃうぞっ!

大慌てで退散するアンチョビなのだった。

 




如何でしたでしょうか。
今回は、展開の都合上、ピザが出せませんでした。
次回はちゃんとピザが出てきます。
もう少しで完結ですので、どうかお付き合いください。

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