とある究極のゼロ   作:メソウサ

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プロローグ

「嘘…でしょ?」

 

佐天涙子は真紅に染まる手の平を見ながら呟いた。

あまりに鮮やかで、あまりに毒々しい赤。

 

「ゴポッ…!?」

 

口の中に鉄の味が溢れてくる。

それら全てが自身の血であることを理解したのは、地面に突っ伏した直後であった。

 

(私、死ぬ…のかな?)

 

流れる血が地面に広がっていくのと同時に意識が遠のき始める。

出血量の割りに痛みを感じないのは、あまりの衝撃に脳が痛覚を遮断した為であろう。

そうでなければ、既にショック死していた。

何となくではあるが、体に穴が開いているのような感覚がある。

この出血は、恐らくそこから流れ出しているのだと彼女は思った。

何故、体に穴など開いてしまったのか。

薄れ行く意識の中、必死に記憶の糸を辿っていく。

 

 

-数分前-

 

 

「さあて、今日は何を作ろうかなっと。ハンバーグもいいし、唐揚げとかもいいな~」

 

佐天涙子は買い物袋をぶら下げながら、鼻歌混じりに自身が現在住んでいる寮へと戻ろうとしていた。

特別急ぐことも無かったのだが、何となく今日は近道になっている裏路地を通っている。

近隣に住宅街がある為か、武装無能力集団(スキルアウト)もあまりいないので、彼女はよくこの道を利用していた。

午後六時を過ぎると、流石に日も落ちて周囲は大分薄暗くなっており、元々人気のあまりないこの路地は余計に寂しさを増す。

気が付くと、佐天涙子は早足で歩いていた。

 

「ん?あれは…?」

 

その時、五歳か六歳くらいの少女がこちらへ向かって走ってきているのが佐天涙子の目に入った。

まるで何者かに追われているかのように必死な様子である。

と、何かに躓いたのか、少女はバタンと前のめりに倒れてしまった。

 

「大丈夫!?」

 

思わず、佐天涙子は少女の元へと駆け寄っていった。

こういうのを放っておけないのが彼女の性格なのである。

佐天涙子は少女の手を取ると、優しく起こしてから膝を払ってあげた。

 

「あ~、ほらほら膝を擦り剥いてる…。そんなに急いで一体どうし…」

 

そう言い掛けて、佐天涙子は固まってしまった。

何故ならば、彼女は見てしまったから。

少女の背後に立つ、彼女のことを追い掛けていた者の正体を。

 

「……………………」

 

何も言わず、その禍々しいくらいに赤い眼でただじっと佐天涙子と幼い少女のことを見つめる影。

それはスキルアウトでも変質者の類でも無かった。

いや、“人間”ですら無かった。

頭が奇妙な形で、肌は凡そ人間の皮膚とは思えぬ質感をしており、両の腕が刃になっている。

コスプレや変装とは思えないリアリティがそいつの全身を覆っていた。

正に“怪物”である。

 

「あ、ああ、ああああ…」

 

こういうあまりに常識の範疇から外れた出来事が目の前で起きた時、意外と人間は叫んだりはしないものだ。

頭の中が混乱し、何をしていいのか分からなくなり、結果的に脳も体も静止し口を噤ませてしまう。

だが、それでも佐天涙子は直感的に理解した。

このままでは、確実に二人とも目の前の怪物に殺されてしまうということを。

佐天涙子は少女の手を取ってその場から逃げようとした。

だが、腰は抜け、足が今までに感じたことのないくらいに震えている。

全く動くことが出来なかった。

この場にいてはいけない。

それが分かっているのに、ただ見ていることしか出来ない。

 

「……………………」

 

じっとこちらを見下ろしていた怪物は、沈黙を保ったまま刃になった両腕を振り上げ始めた。

幼い少女は観念したかのように目を瞑る。

 

(…ダメ!!)

 

佐天涙子は心の中でそう叫ぶ。

そして、何とか動かすことの出来る上半身だけを使って怪物の体をがっしりと抱き締めると、その動きを封じようとした。

 

「に、逃げて!!早く逃げて!!」

 

佐天涙子は少女に向かって叫んだ。

その声に少女はハッと目を開けると、しどろもどろになりながらも何とかその場から逃げ出そうとした。

怪物は佐天涙子を引き離そうと、体を揺すり始める。

しかし、少女はまだこの場から逃げ出してはいない。

だから、佐天涙子は怪物の体を離そうとはしなかった。

渾身の力を込めて怪物に抱きつく。

普段は非力な彼女であったが、この時は火事場の馬鹿力とでも言うのか、怪物の強い力の前でも何とか引き離されずに済んでいた。

 

だが、次の瞬間であった。

 

「…………ッ!!」

 

ぐさり。

 

そういう音が実際に聞こえるかのように、怪物の刃が佐天涙子の体を貫いていた。

 

「あっ……」

 

その時、佐天涙子の脳裏には生まれてから今に至るまでの記憶が浮かんでは消え、浮かんでは消えていた。

所謂、走馬灯というものである。

現実と過去の記憶が混ざり合う中、彼女の意識は肉体を離れていく。

 

改めて意識を取り戻した時には、両の手が自身の血で染まっていたのであった。

 

(そっか。私、ここで死ぬんだ…)

 

自身でも意外に思うほど、佐天涙子は来るべき死を受け入れている自分に気が付いた。

徐々に失われていく意識の中、幼い少女がこの場にいないことを確認する。

死体なども無く、どうやら何とか逃げ出したようである。

 

(よかった…。あの子、無事に逃げられたんだ…)

 

そのことに佐天涙子は安堵する。

今はそれだけが気掛かりだったからだ。

 

(初春…、白井さん…、御坂さん…、ごめんなさい。私、ここで終わりみたいです)

 

最後に浮かんだのは、この学園都市で出会った仲間たちの顔。

それを瞼に焼き付けたまま、佐天涙子は完全に意識を失い、そのままピクリとも動かなくなった。

 

 

 

「たかだか地球人の小娘が余計なことを…」

 

怪物は不気味な声でそう呟いた。

 

「ククク、だが、やはり地球人を殺すのは気持ちがいい!」

 

そう笑うと、両腕の刃についた血をペロリと舐める。

 

「…さて、引き続きあの子供を殺すとしよう。地球人の子供は殺し甲斐があるからなあ。あの足ではまだそう遠くへは行ってまい」

 

怪物は少女の後を追おうと歩き始めた。

と、その時であった。

 

ヒュン!

 

風を切るような音。

直後、怪物の両腕が宙を舞い、そのまま地面へと突き刺さる。

 

「…!?な、何ィ!?」

 

怪物は先程まで自身の肉体の一部であったそれを見ながら悲痛な声を上げた。

 

「お、俺様の腕が…。な、何だ!?一体、何が…!?」

 

ヒュッ!

 

またも風を切るような音。

流石に今度は怪物もそれを交わした。

 

「クッ、一体何だって言うのだ!?」

 

怪物は自身の両腕を切り落としたものの正体を目視する。

それは、まるでブーメランのような物体であった。

宙を自在に舞った後、やがて何者かの頭の上に収まる。

怪物はわなわなと震えながらその者へ声を掛けた。

 

「だ、誰だ!?」

「…てめえみたいな外道に名乗る名前なんてねえな」

 

その者はただ一言、そう答えるとファイティングポーズを取る。

直後、空高く飛び上がり右足を前へ突き出した。

 

「ハアアアアアアアアアアア!!」

 

掛け声と共に突き出された右足が炎に包まれていく。

 

「食らえええええええええ!!」

「ぐわあああああああああ!!」

 

次の瞬間、その者の右足が怪物の肉体を貫いた。

怪物は物凄い勢いで吹き飛ばされると、そのまま爆発する。

 

「やったか…」

 

そう呟くと、彼は地面に倒れる佐天涙子の姿を見つめる。

 

「…ひでえことしやがる」

「………………」

「…まだ、かすかに息はある。けれども、このままじゃ危険だな」

 

彼は佐天涙子の側へと立った。

 

「俺は見た。お前が必死に子供を助けるところを。その勇気、気に入ったぜ!」

 

そう言って彼が手を翳すと、優しい光が佐天涙子を包み込む。

 

「俺はウルトラマンゼロ。お前の命は俺が救ってやる!!」

 

次の瞬間、彼の姿は消えた。

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