とある究極のゼロ   作:メソウサ

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第3話 とある研究所の秘密 ②

「…まだ目覚めない、か」

 

佐天涙子が眠りについてから、一日以上は経っただろうか。

未だに彼女が目覚める気配はない。

 

「…ったく、あんだけ騒がしい奴が急に静かになると調子狂っちまうぜ」

 

ゼロは寂しそうに独りごちる。

だが、この事態はゼロも想定外であった。

ゼロがこうして他人と一体化したのは過去に二回程ある。

タイガ・ノゾムとランという男である。

彼らは自らを犠牲にしてか弱き者を守ろうとして、その命が危険に晒した。

その姿に感動したゼロが手を差し伸べたのである。

奇しくも、今ゼロが一体化している佐天涙子と状況は似ている。

しかし、その後の症状は大きく違っていた。

タイガ・ノゾムはゼロと一体化した後はピンピンとしており、自身の意思でその肉体を動かしていたのに対して、佐天涙子の場合は自身の意思こそあるものの、肉体を動かすことは出来ず、そしてこうして眠りについてしまっている。

この状態は、タイガ・ノゾムの前にゼロが一体化したランという男の時のものに近い。

ランは実の弟であるナオを守る為に自らの身を犠牲にし、瀕死の重傷を負った。

ゼロは、ランと一体化することで失われようとしていた命を繋ぎ止め、更には自身の自然治癒力によって彼の傷を癒やしたのだが、この時ランは深い眠りにつき、その後治療が完了するまでは、彼の肉体を動かしていたのはゼロであった。

これまた、今の佐天涙子と一緒である。

同じ命の危険に晒された者たちでありながら、一体化した後の症状がこうも違うものかとゼロは思った。

 

「…まあ、別に死んだわけじゃねえ。それだけは確かだ」

 

生きてさえいれば。

それが最後にして唯一の希望でもある。

 

「あれこれ悩んでも何も解決しない、か。ならば、ここは一つ、気分転換に外にでも出てみるか!」

 

ゼロはそう決めるとすぐに佐天涙子の部屋を出る。

ゼロがこの星に降り立って数日は経つが、彼はまだ学園都市という街をよくは知らない。

いや、そもそも地球人の文化についてさえ、殆どが話を聞いたことでしか無いのだ。

こうして実際に目で見て、耳で聞き、鼻で嗅ぎ、手で触れ、舌で味わう経験はまだまだ少ない。

前述のタイガ・ノゾムの時に少しは経験したものの、その時の地球はまた特殊な事態に陥っており、また肉体の主導権もゼロではなくタイガ・ノゾムがほぼ持っていた。

ランの時には、そもそもそれどころでは無かったので、こうして自分の意思で地球人の街を自由に見て回ることは初めてと言っていい。

無論、自身に課せられた任務もあるので、遊んでばかりはいられないのだが、手掛かりが何も無い以上は仕方がない。

佐天涙子の家から出て少し歩くと、すぐに開けた場所に出る。

 

「…しかし、この街は何処へ行ってもルイコと同じくらいの年齢の連中しかいないんだな」

 

ゼロは周囲を見回しながら呟いた。

実際に学園都市はその名の通り、住人の殆どが学生たちで構成されている。

無論、大人たちもいるにはいるのだが、学生たちに比べてその数は少ない。

あまり地球の文化に触れたことのないゼロでも、この光景は違和感というか普通ではないということが分かった。

そんなこともあって、目に入るものの一つ一つがゼロにとっては新鮮そのものであった。

こんな状況でありながらも、僅かながらに楽しさを感じてしまっているくらいである。

ゼロはウルトラ族の中でも特に若い方なのだから仕方ないだろう。

だからか、つい前方不注意に陥ってしまっていた。

 

「うわっ!」

 

気がついた時には目の前を歩く人にぶつかってしまっていた。

ぶつかったのはツンツンした髪の少年のようだ。

彼の顔がゼロ…佐天涙子の胸部へと埋まる。

 

「あ、わ、悪い。大丈夫か!?」

「あ、いや、こちらこそ申し訳ございませんっていうか…」

 

そう謝る少年の左手はゼロ…佐天涙子の胸部を掴んでいた。

あくまで偶然ぶつかっただけなのに、まるで狙い澄ましたかのようである。

 

「うわわわ!ご、ごめんなさい!!」

 

少年は慌ててゼロから離れる。

故意では無かったにせよ、自身がしでかしてしまったことに対して何かしらの制裁を想像したのか、少年は顔を青ざめさせていた。

 

「あ…れ?」

 

だが、その予想が外れたことに少年は戸惑いを見せた。

それもその筈。

外見こそ麗しき少女ではあるものの、中身はゼロなのである。

だからゼロは自身の胸部を掴まれたことに対しての羞恥もあまり感じてはいなかった。

それどころかポカンとした顔でこちらを見る少年を気遣う。

 

「どうした?本当に大丈夫か、お前?」

「え?いつものパターンならこういう時…いや、何も無いならいいデス」

 

少年はそう言うとホッと胸を撫で下ろしたようであった。

 

「と~う~ま~~~~!」

 

その時、少年の背後から幼い感じの女の子の声が聞こえてきた。

見ると、シスターの格好をした少女が少年を睨み付けながら立っている。

それに気付いた少年は再び慌て始めた。

 

「あ!い、インデックスさん!?こ、これにはワケが…」

「言い訳なんて、聞きたくないんだよ!」

 

そう言って、少女は少年に向かって飛び掛った。

直後、少年は悲痛な叫び声を上げる。

 

「うぎゃあー!不幸だー!」

「…何やってんだ、こいつら?」

 

ゼロは二人のその光景を不思議そうに見つめる。

少年は悲鳴を上げ、少女は怒っているが、そこに憎しみや敵意といったものはない。

寧ろ、二人の間には何か親愛のようなものがあるのを仄かに感じていた。

 

「…じゃ、じゃあな」

 

これも地球人の愛情表現の一種なのだろう。

現に、少年は悲鳴を上げながらもそれ程嫌そうな顔はしていない。

ゼロはそう解釈し、その邪魔をするのも憚られるので一先ずその場を去ることにした。

 

別の場所に移動したゼロは公園を見つけると、そこにあったベンチに腰掛ける。

そしてゆっくりと目を閉じた。

公園内にも人はいるので静かと言うわけでは無いが、街中の喧騒とは違って落ち着いた感じである。

人の多い学園都市は、それだけ人々の会話も多い。

ゼロは通常の人間よりも優れた聴力を持っている為、佐天涙子の体を使っていても集中さえすればかなり離れた場所の会話も聞くことが出来る。

無論、常に意識してそうしているわけでは無いが、今日に限っては何となく周囲の会話に耳を傾けていた。

 

「…ん?」

 

その時、気になる会話が耳に入る。

会話の主は、大人の男性数名のものであった。

前述通り、学生ばかりのこの街においては珍しい取り合わせと言えなくもない。

ゼロは彼らの会話を注意して聞くことにした。

 

 

「…例の件の進捗は問題ないか?」

「ああ。主任の言う通りになっているよ」

「…しかし、異次元への介入なんてとんでもないことを思いつくものだ」

「思いつくだけなら誰にでも出来る。主任の恐ろしいところは僅か数日でそれを実現レベルまで仕上げたところだ」

「主任の理論は恐ろしい程に的確だった…。まるで、既に完成したものを見てきたかのようだ」

「ああ。だが、そのくらいでなきゃ、ぽっと出の科学者に過ぎない主任がああして研究所一つを任されるなんてことは無かっただろう」

「一体、あの人は何処から来た何者なんだろうか?」

「さあな。まあ、天才というのはそういうところも謎めいてるものだ」

「確かにな」

 

 

科学者、研究所…といった単語から、そういった分野の関係者たちの会話なのだろう。

科学の発展したこの学園都市ならではの光景ではある。

しかし、ゼロが興味を引いたのは、彼らが口にしたその主任とかいう人物が仕上げたという研究内容のことであった。

 

(…異次元への介入?そんなこと、いくらこの世界の科学が発展しているからって、そんな簡単に出来るものなのか?)

 

ゼロの故郷、光の国の科学力もかなり発展を遂げているが、異次元への介入はまだ実用段階に入ってはいない。

ゼロがこうしてアナザースペースで活動しているのだって、ウルトラマンノアの超常的な力を利用しているから可能なのだ。

この宇宙の地球、学園都市という街は確かに科学が発展しているようだが、だからといってそこまで超常的なことが実現出来るレベルなのか?と言われたら流石にそこまででは無いだろう。

現に先程の会話でも男たちはそのことに驚きを隠せない様子であった。

 

(焦臭えな…)

 

こういったオーバーテクノロジーが突然もたらされた時、大概は異星人が関係していることが多い。

他の星には地球や光の国よりも遥かに優れた科学力を持ったところが多く存在するからである。

ゼロは直感的にこの件に異星人の影を感じた為、先程の会話の男たちを探すことにした。

その男たちは意外と簡単に見つかった。

先程までゼロがいた場所からそんなに離れていない場所に停めてあった搬送用と思わしきバンに乗り込み、今まさに出発したというところであった。

 

「チッ、少し遅かったか」

 

ゼロは舌打ちする。

しかし、相手は車に乗っているとは言え、割とゆっくり目に走っているようであった。

ゼロの身体能力であれば追いつくことも難しく無いだろう。

 

「…追いかけるか!」

 

根拠はあくまで自身の直感でしかない。

だが、そこに異星人の影を感じるのであれば追う必要はあるだろう。

何せ手掛かりは何も無いのだ。

ならば、可能性は全て試すべきなのだ。

ゼロが追っている者が関わっているかも知れないのであれば尚更である。

 

なるべく気付かれないようにゼロはバンの後を追う。

ゼロは聴力だけでなく、視力も人間離れしている。

一度ターゲッティングしておけば、どんなに離れていても見失うことは無い。

そうしてゼロは相手に気付かれぬように怪しい車両の後を追い続けた。

やがて、古いビルの前に辿り着く。

壁に所々ヒビが入っており、蔦なんかも生えていた。

周囲のビルも同様に老朽化しており、古いというよりはもう使われていないと言った方が適切である。

男たちはバンから降りると、何やら白い布で包まれている“何か”をそのビルの中へ運び込もうとしていた。

 

「一体、何をしていやがるんだ…」

 

ゼロは思わず呟く。

目の間には恐らく持ち主から捨てられたであろうビル群。

そんな所に荷物を運ぶなど、どう考えても普通ではない。

ましてや、例の会話を聞いた後となると、怪しい臭いがプンプンと周囲に撒き散らされているかのようであった。

ゼロは彼らを追い掛けてビルの中に入ろうとする。

 

と、その時であった。

 

「はあ~い、ストーップ!」

 

可愛らしい声がゼロの背後から聞こえた。

この場所に似つかわしくない声。

ゼロは思わず振り返る。

すると、そこに金髪碧眼の少女が立っていた。

外見からすると年齢はゼロの今の姿である佐天涙子と同じか少し下くらいだろう。

ますますもって普通の少女でな無さそうだ。

 

「お嬢さ~ん。ここはあなたが入る場所じゃ無いって訳なんだけど、何の用なのかな~?」

 

金髪碧眼の少女はそうにこやかにゼロへ話しかける。

しかし、その言葉の奥には欠片も友好な様子は感じられなかった。

寧ろ、敵意のようなものをゼロは強く感じている。

 

(コイツ…、一体?)

 

謎のビル、そしてそこにいた謎の少女。

ゼロはただならぬ空気を感じずにはいられなかった。

 

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