「親父と戦った…だと?」
ゼロはそう呟くと、プロテ星人と名乗った目の前の異形の存在を見つめていた。
遥か遠いアナザースペースの地球で意外な名前を耳にし、多少なりとも驚きを感じているようであった。
「ほう…君は彼の息子だったのか」
一方のプロテ星人はゼロのその様子を見て納得したかのように一人頷いていた。
「親父のことを知っているのか?」
「勿論。よく知っているよ」
ゼロが尋ねると、プロテ星人は即座に肯定した。
「だが、君は私のことを知らないみたいだね」
「ああ。てめえみたいな不細工な野郎のことなんか聞いたこともねえな!」
「ハハハ、そうかそうか」
プロテ星人はゼロの挑発に対しても、余裕な態度を崩すことなく笑っていた。
掴みどころが無い、正にそんな感じである。
そんなプロテ星人にゼロは込み上げてくる苛立ちを隠せない。
「てめえ…何がそんなに可笑しいんだ?」
「…失礼、無知というのは愚かしくも滑稽だと思ってね」
「何だと!?」
「ハッハッハ、君は実に面白いねえ。とても分かり易いよ。それに、君のその様子から察するに“あのこと”も知らないのだろうねえ」
「“あのこと”…?一体、何のことだ?」
「君の父親についてのことだよ」
「いちいち勿体振った言い方してんじゃねえ!」
ゼロが声を張り上げると、プロテ星人はまたもハハハと笑う。
この状況を何処か楽しんでいるかのようなそんな様子であった。
「このくらいで心を乱すとは、君は若いね。…ふむ。では、リクエスト通り、答えてあげるとしようか」
「早く答えやがれ!」
「君の父、ウルトラセブンはね、勝てなかったのだよ。この私にね」
「何っ…!?」
ゼロはプロテ星人の言葉に思わず表情を強張らせた。
如何にウルトラセブンと言えども無敵というわけではない。
強敵相手に敗北したことも一度や二度ではなかった。
「…へっ、どうせそれもハッタリなんだろ?どう見てもてめえは強そうには見えないからな」
ゼロはすぐにプロテ星人のその言葉を鼻で笑ってみせる。
師匠のレオやセブン本人から聞かされた強敵の中にプロテ星人という名前は無かったと記憶している。
プロテ星人はセブンのことを知ってはいるようだが、所詮はその程度で、先程の言葉もこちらを動揺させるハッタリか何かだろうとゼロは思ったのだ。
「ハハハ、決めつけは良くないなあ。まあ、若者らしいと言えば若者らしいとも言えなくはないか」
プロテ星人は相変わらずの様子であった。
後ろに手を組み、観察するかのようにその黄色く光る目をゼロに向けている。
「君のその若さは強みかも知れんが、同時に弱さでもある。気をつけ給えよ」
「ジジイくせえ説教しやがって!一々うざいんだよ!」
そう声を張り上げてゼロは構えた。
今度は先程までの人間相手ではなく、歴然とした宇宙人が相手である。
手加減の必要は一切無い。
「ほう…。達人は構えただけで相手を怯ませるという。なるほど、君の腕前は達人級ということか。だがね…」
そう言うとプロテ星人は微動だにせず、ゼロの背後へ自らの分身を出現させた。
分身は背後から音も立てずにゼロへと近付いていく。
「姑息な真似してんじゃねえ!」
しかし、いくら気配を消してもゼロはすぐに敵の殺気を感じ取っていた。
ゼロは左手首のブレスレットからウルトラゼロアイを取り出すと、それを瞬時に折り畳み銃のようにして手に持つ。
そして、振り向き様に二、三発とプロテ星人へ向けて銃爪を引いた。
銃の形となったウルトラゼロアイの銃口からは高エネルギーのビームが次々と撃ち放たれる。
これだけのプロテ星人への攻撃、直撃は免れないだろう。
だが、それらは全てプロテ星人の体をすり抜け、遥か後方へ消え去っていく。
「何っ!?」
これには流石のゼロも驚きを隠せなかった。
そしてハッと気が付いた時には、もう1体のプロテ星人が目の前にまで近付いていた。
「!!」
「ぐっ!?」
至近距離でプロテ星人からの攻撃をその身に受ける。
それはただの手押しに過ぎず、肉体的なダメージは大したことは無かったが、精神的には決して小さなダメージでは無かった。
プロテ星人は戦闘に秀でた種族では無いようなので、単純な肉弾戦ならばプロテ星人が敵う道理は無かったであろう。
だが、現実としてプロテ星人はあっさりとゼロへ攻撃を加えたのである。
これはゼロにとっては少なからずショックな出来事であった。
「ちっ!」
ゼロは転がりながらも自分を攻撃した方のプロテ星人へ向けてウルトラゼロアイの銃爪を引く。
だが、またもビームはプロテ星人の肉体をすり抜けていった。
プロテ星人は余裕綽々の笑みを浮かべる。
「どうしたのかね?まさか、これで終わりというわけではあるまいね?」
「…………」
ゼロは何も答えず、真剣な眼差しでプロテ星人のことを見つめる。
相手にこちらの攻撃が全く通じていない。
そのことは認めざるを得なかった。
どんな手段を用いたかは分からないが、そのカラクリを見破らない限りは変身しても状況は変わらないだろう。
故にゼロは手にしたウルトラゼロアイを装着しようとはしなかった。
「ほほう…。先程からの君の口振りを見るに感情先行型の性格かと思ったが、いやはや冷静な判断も出来ると見える」
闇雲に攻撃を仕掛けないゼロをそう分析してプロテ星人は称えてみせた。
どうもこの場のペースはプロテ星人に握られているようだ。
「これでは、彼女たちが敵う道理は最初から無かった…ということになるね」
プロテ星人はそう言ってチラリと背後の少女二人に目線を送った。
その様子を見てゼロは薄々は感じていたことを口にする。
「…まさか、そいつらを俺に差し向けたのもてめえか?」
「ご明察。まあ、少し考えれば分かることだがね」
「何の為だ?まさか、俺を倒す為か?」
「あわよくば…だが、最初からそんな大きな期待はしていないよ?君の力を少しでも測れればと思ってね」
「へっ、何から何まで気に食わない野郎だぜ」
ゼロは不愉快そうに言った。
性格上、ゼロはこういった策士タイプの敵はあまり好きではないのだ。
以前戦ったダークネスファイブという連中の中にもそんな奴がいたが、いちいちまどろっこしく、それがゼロを何度も苛立たせていた。
目の前のプロテ星人もどうやら同じタイプのようだ。
つくづくそういう敵に縁があるものだとゼロは辟易する。
「おい。俺の力を測るのが目的ならば、そいつらはもう関係ねえだろ。とっととここから帰してやれ」
ゼロは少女たちの方を見ながら言った。
当の本人はプライドがあるのか、二人ともあまりいい顔はしていないようであった。
プロテ星人は笑みを浮かべたまま首を横に振る。
「ハハハ、そういうわけにもいかないな。彼女たちには頑張って私の加勢をしてもらわねばならない。何故なら、そうしなければ仲間を殺すと言っているからね」
「んだと!?」
ゼロは再度、彼女たちの方へ視線を向けた。
言われてみれば、確かに彼女たちの表情には焦燥感のようなものが感じられる。
本来、必要以上に争う意味の無い両者が尚も相対さなければならない理由がようやく理解出来た。
「…てめえは何処まで見下げ果てた野郎なんだ」
「ハハハ、こう見えて私も手段を選ぶ余裕はあまり無かったのだよ。その事情というのも察して貰いたい」
「んなもん、察したくもねえな!」
ゼロはそう言うと徐に両腕をクロスさせた。
「これ以上、あいつらが戦う必要はねえ」
「ほう…。何をするつもりかね?」
「こうするんだよ!」
そう言ってゼロは集中力を高め、強く念じ始めた。
すると少女二人は頭を抱える。
「がっ…?また、か…!?」
「くぅ!?頭が超痛い…です」
悶絶する麦野と絹旗。
ウルトラ念力、再びである。
ゼロは二人を助けるという意味でも、素早く戦闘不能にしようと考えたのだ。
麦野はともかく、絹旗には鉄壁の防御壁があり、中途半端な攻撃は無効化されてしまう。
かといって変身して攻撃するのは威力があまりに大き過ぎる。
ならば、人間の状態でも使用出来て尚且つ絹旗の能力をも貫いたこのウルトラ念力こそ、今の状況に一番適した技であると言えた。
「が……がが……ッ!」
「うぅ……ッ!」
「……………………」
「……………………」
二人は暫く苦しんだ後にバタリと倒れて失神する。
同時にゼロも膝を付き、ハァハァと息を切らした。
ウルトラ念力は使用した本人にもかなりの負担が掛かる。
体力の消耗も激しく、ゼロはまるで戦いが終わった後のような疲労感に襲われていた。
「ハァ、ハァ…あいつらはもう戦えなくなったぜ?」
「ほほう。君は随分と優しいのだな。敵である彼女たちのことさえ慮るとはね」
「これで俺とてめえの一対一だ」
「いいだろう。君のその反吐が出そうな善意に免じて、私だけで戦うことにしてあげよう」
プロテ星人はそう言って、両手を甲の部分を見せるよう前に構えた。
まるで、手術前の医師のようである。
一方、ゼロはゆっくり立ち上がると、手に持っていたウルトラゼロアイをすかさず顔に装着した。
「デュワ!!」
ゼロは光に包まれると、少女の姿から本来の姿へと変身していた。
それを見てプロテ星人は懐かしそうに体を揺らす。
「…そっくりだ。流石はウルトラセブンの息子、と言ったところか」
「へっ、余裕こいてられんのも今の内だぜ?」
「言うねえ。だが…」
「この状況で、どうするというのかね?」
と、ゼロの背後に再びもう一体のプロテ星人が現れた。
ゼロはすかさず横に飛んで、正面に二体のプロテ星人を見据える態勢になった。
右のプロテ星人、左のプロテ星人。
果たしてどちらが本物なのか。
そして、どうすればプロテ星人を倒すことが出来るのか。
ゼロは視線を右へ左へと移しながら、じりじりと後退していた。