とある究極のゼロ   作:メソウサ

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第2話 黒子の恐怖 ①

「よっと」

 

ゼロはそう言って、太い枝の上にひょいっと飛び乗ってみせた。

何故、そんな行動を取ったのかと言うと、大きな木の上に震えている子猫を発見したからである。

それは、佐天涙子が友人たちと待ち合わせをしている店へ向かう途中の公園でのことであった。

ゼロはひょいと子猫を抱きかかえると、そのまま躊躇なく地面へ飛び降りる。

スタッと綺麗に着地すると、未だに腕の中で震える子猫の体を優しく撫でた。

 

「もう大丈夫だ。二度とあんな高い所に行こうとすんじゃねえぞ」

「ニィニィ」

「ほら、行け」

「ミャァ」

 

ゼロが手を離すと、子猫はトタトタと行ってしまった。

その後ろ姿をゼロは「うむ」と頷きながら見つめる。

 

『ゼゼゼゼ、ゼロさん!!』

 

と、その時、佐天涙子の声がゼロの頭の中に大きく響いた。

 

「うおぅ!?な、何だよルイコ?いきなり大声出しやがって…」

『今何してくれたんですか!?』

「何って、子猫をだなあ…」

『違います!その前です!』

「その前って、木に飛び乗って…」

『それですよ、それ!』

 

興奮しているのか、佐天涙子は更に声を荒げる。

 

『どこの世界に何メートルもある木の上にひょいって飛び乗る女子中学生がいるんですか!!』

「あー、そのことか」

『しかも、すぐ後にあの高さから何の躊躇いもなく飛び降りましたよね!?普通なら骨折しちゃいますよ!!』

「それは大丈夫だ。俺が一体化してる間は、ちょっとやそっとじゃ怪我なんか…」

『そういう問題じゃありませんっ!!!!』

 

佐天涙子はここぞとばかりに語気を強めた。

 

『ゼロさん!私は昨日まで普通の女の子だったんですよ!?それがいきなりその場で何メートルもジャンプしたり、高い所から飛び降りて怪我一つもしなかったりしたら、周りから明らかにおかしいと思われるじゃないですか!』

「ああ、安心しろ。どうやら周りには誰もいないみたいだぜ」

『そういうことじゃなくてですね!』

 

佐天涙子は思わずハァとため息を吐きたくなる。

 

『あのですね。今、ゼロさんが私なんですよ。つまり、ゼロさんのやることなすことは全て私のやったことになるんです!』

「そんなことは言われなくても分かってる」

『分かってません!!』

「ったく、本当に面倒くせえなあ!」

 

ゼロは煩わしそうに頭をボリボリと掻いた。

 

『あー!だからそういうのを止めて下さいって言ってるんですよ!せっかく髪を梳かしたのに乱れちゃうじゃないですか!』

「…大体、お前も今朝から五月蝿いぞ。ダチに会いに行くのにいちいち髪を梳かしてけ。だの、あの服着ていけ。だの」

『だってゼロさん、私が言わなかったら、寝癖つけたままTシャツ一枚で出掛けようとしてたじゃないですか!』

「お前が昨日言ったんだろうが。勝手に服とか触るなって」

『うっ…!そ、それはそれとしてですね。とにかくゼロさんは女の子っていうのがどういうものか分かってないと思うんですよ!』

「そりゃ、女じゃないからな」

『だったら少しは私の言うことを聞いて下さい!』

「分かった!分かったから、あまり大声出すな!昨日も言ったけれど、やかましくて仕方ない!」

『…とにかく!怪しまれないように振る舞って下さいね!それと、女の子らしくお願いしますよ!』

「ハイハイ、努力するよ」

 

そんな会話をしている内に、例の待ち合わせの店が視界に入ってくる。

店の前には、既に一人の少女が立っていた。

少女はゼロ…佐天涙子の姿を見つけると、大きく手を降り始める。

 

「あ、佐天さーん!」

 

少女は笑顔でこちらに向けてそう声を掛けてきた。

どうやら彼女が待ち合わせの相手、佐天涙子の友人である初春飾利らしい。

お洒落なのか、頭にとても目立つ花飾りをしているのが遠目からでも分かる。

 

『…いいですか、ゼロさん。自然に振る舞って下さいね。あくまで自然に!』

「分かってる分かってる」

 

念を押す佐天涙子に大してゼロは面倒臭そうにそう返した。

直後、初春飾利の元へ駆け寄ると、手を上げながら先程の彼女の呼び掛けに対して応える。

 

「よお!」

 

とても男らしい振る舞い、そして男らしい声の出し方。

思わず佐天涙子はずっこけそうになった。

 

『ぜ、ゼロさーん!』

「…?何かおかしかったか?」

『全体的に男らし過ぎます!』

「そうか?」

 

佐天涙子の抗議にゼロはそう言って首を傾げた。

 

「おはようございます、佐天さん」

 

一方、初春飾利の方は特に気にした様子もなくゼロ…佐天涙子の元へ近付いて来ると、ニコニコと笑顔で見つめていた。

近くで見ると、全体的におっとりとした雰囲気でとても大人しそうな印象を持つ子である。

 

「なあ、今の何かおかしかったか?」

 

そんな彼女へゼロはさっきの自分について尋ねてみる。

 

「えっ?大体いつもの佐天さんじゃないですか?」

 

初春飾利はそう即答した。

その返答に佐天涙子はまたもずっこけそうになる。

 

『うっ、初春にとって普段の私はそう見えるのか…』

 

幸か不幸か、佐天涙子が普段から色々と彼女に対して悪ふざけをしていたことが、ここに来て役に立ったようである。

しかし、今の佐天涙子は根本的に中身が違う以上、このままでは何時かはボロが出て中身が別人であることに気付かれかねない。

初春飾利はああ見えて意外と鋭いところもあるので、余計に不安である。

最悪、頭がおかしくなったと思われてしまうかも知れない。

そうなれば、今後の人付き合いにも多大な影響が出てしまう。

 

(う~、ゼロさん上手くやって下さいよー。本当に!)

 

「あれ?そのブレスレットどうしたんですか?」

 

そんな中、初春飾利が早速ゼロ…佐天涙子の左腕を指差して言った。

 

『うっ…、やっぱり初春はこういうことにすぐ気が付く…』

 

佐天涙子は意識だけの存在であっても自身が嫌な汗をかいているのが分かった。

昨晩のことが思い出される。

 

 

 

『…そう言えばゼロさん』

「ん?何だルイコ?」

『この左腕に付いているブレスレットは何ですか?もしかして、ゼロさんの星で流行ってたりします?』

「ああ、これのことか。これは、ウルティメイトブレスレットって言うんだ」

『ウルティメイトブレスレット…?』

「俺とお前がこうして会話出来るのも、このブレスレットのお陰なんだぞ?あと、この中にはウルトラゼロアイが入ってる。それを装着することで俺は元の姿に一時的に戻って戦うことが出来るんだ」

『へ~。…ん?ゼロさんが元の姿に戻ったら、私の体はどうなるんですか?』

「悪いが、そこは一蓮托生って奴だ」

『えええ!?』

「まあ、一体化したことで肉体が強化されてるから、ちょっとやそっとで死ぬようなことは無いと思うぜ」

『いやいやいやいや、そういう問題じゃないと思うんですケド!それに戦うって、まさかあの宇宙人みたいなのとですか!?』

「肉体こそ借りてはいるけど、戦うのは俺だ。ルイコが痛い目を見るってことは無いぜ?」

『いやいやいやいや、無理です無理です!いくら何でもそれは無理ですって!』

「あのなあ、ルイコ。これはこの星に関わる問題なんだ。俺が戦わなければ、奴はこの星をきっと支配するだろう。そんなこと、させるわけにはいかねえ」

『そ、それはそうですケド…』

「こんなことになった上で虫のいいことを言っているのは百も承知だが、言わせて欲しい。ルイコ、俺に少しでいいからお前の力を貸してくれないか?悪を滅ぼす為じゃなく、ルイコがあの時助けた子のように、この星の弱き者たちを守る為に…!」

『そ、そういう風に言われたら断りづらいじゃないですか!卑怯ですよ!』

「…すまない」

『あー、もう分かりました!その悪い宇宙人ってのをちゃっちゃとやっつけて、ちゃっちゃと体返して下さいね!』

「悪いな、ルイコ」

『…まあ、そのウル何とかブレスレットってのが大事なものだってのは何となく分かりました』

「ああ、これはとても大事なものだ。これが無いと俺は元の姿に戻ることも、アナザースペース…つまり、この星で長い時間戦うことも出来ないからな」

『そうなんですか』

 

 

佐天涙子は昨晩、左腕のブレスレットについて、ゼロとそんな話をしていた。

 

(う~ん。でも、このブレスレット、ちょっと私の趣味じゃないんだよなあ。まあ、仕方ないけど)

 

ゼロのものというだけあって、材質からデザインまでこの星のものとは異なっている。

パッと見はただの変わったブレスレットであるが、あまりじっくりと見つめられてしまうと、そのことに気付かれる可能性も出て来る。

 

「佐天さんのことですから、珍しくて買っちゃって、テンション上がってつい付けて来ちゃったって感じですか?まあ、あまりいい趣味じゃないと思いますけど」

 

初春飾利は笑顔でそう言った。

飴玉のように甘ったるい声の割には意外と辛辣なことをポロリと洩らす。

 

(…ま、まあ、一目見たくらいでこのブレスレットが異星人のものだって気が付くわけないよね)

 

佐天涙子は初春飾利の解釈に一先ずホッと胸を撫で下ろした。

しかし…。

 

「おい!趣味悪いって、どういうことだ!?」

 

ゼロはどうも納得がいかなかったようで、初春飾利へと突っかかっていった。

彼女の肩を掴み、がくんがくんと揺らす。

友人の突然の行動に初春飾利は目を丸くして驚いた。

 

「ど、どど、どうしたんですか、佐天さん!?」

「いいかあ!?このブレスレットはだなあ…」

『ちょ、ちょ、ちょっと待った待ったー!!』

「いや、待たねえ!」

「す、すみません!!」

 

ゼロの剣幕に初春飾利は思わず押されるがままに謝った。

謝罪の意思を示されると、流石のゼロもそれ以上は何も言わなかった。

彼女の肩から手を離し、少し不満げな表情のまま腕を組む。

一方、初春飾利は急に激昂した友人を戸惑いの眼差しで見つめていた。

まるで怯えた小動物のような初春飾利を見て、ゼロは先程の自身の行いを少し反省する。

 

「…悪い悪い。つい頭に血が上っちまった。もう怒ってねえから、そんな顔すんな」

「は、はい。こちらこそすみません…」

 

初春飾利は、か細く消え入るような声でそう答えた。

少しの沈黙。

その間、気まずい空気が流れる。

 

「……………………」

「……………………」

 

二人の内、先に口火を切ったのは初春飾利であった。

 

「…で、でも、驚きましたよ。佐天さんがあんな怒るなんて。よっぽどそのブレスレットがお気に入りだったんですね」

 

一呼吸置いたら少しは落ち着いたのか、先程のことをそう振り返る。

ゼロもばつの悪そうな顔をしながらも、彼女へ向き直った。

 

「あ、ああ。これはとても大事なものだからな」

 

そう言いながら左腕のブレスレットを擦る。

先程のピリっとした空気が大分和らいできたのを感じた。

 

「…ところで、佐天さん。さっきからずっと男の人みたいな喋り方してますけど、それは何かの物真似か何かなんですか?」

 

そんな折、初春飾利が放ったその言葉にゼロはハッとなる。

 

「え、え~と…い、いやあ~ねえ~。そ、そんなことないわよ。オホホホホホホホ!」

「何で少し棒読み気味なんですか?」

「あら~ん、いや~ん!」

「……………………」

 

ゼロの不自然過ぎる振る舞い。

これには佐天涙子も流石に絶句し、何も言えずにいた。

そして、初春飾利もまた目の前の友人に対して、明確な違和感を覚え始めている…というのが、彼女の表情から見て取れた。

 

「…何か、今日の佐天さん変ですよ。それも物凄く変です」

「ギクリ!」

「最初はいつもみたいにふざけているのかな?と思ってましたが、今は何というか別人と会話しているみたいです」

「え、え~っと…」

 

初春飾利の言葉に対して、ゼロはただしどろもどろするだけであった。

再び不穏な空気が流れ始める。

そんな時であった。

 

「あ、いたいた。おーい!」

 

遠くから、二人へ向けて誰かが声を掛けてきた。

見ると、そこには初春飾利より少し年が上であろう茶髪の少女がこちらへ向けて手を振っていた。

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