とある究極のゼロ   作:メソウサ

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第2話 黒子の恐怖 ②

「ごめん、待たせちゃった?」

 

茶髪の少女は初春飾利とゼロ…佐天涙子へそう言うと、右手でゴメンのポーズを取る。

 

「あ、御坂さん。お早うございます。私も佐天さんも今来たところですよ」

 

初春飾利は茶髪の少女へそう返した。

彼女は御坂という名前らしい。

昨日、佐天涙子が話していた御坂美琴とは、どうやらこの少女のことのようだ。

 

学園都市に七人しかいないレベル5。

通称、常盤台の超電磁砲(レールガン)。

 

それが目の前の少女、御坂美琴なのだと言う。

一見すると、ゼロが今肉体を借りている佐天涙子と同年代の何の変哲の無い一人の少女である。

とても、そんな特別な人間には見えない。

 

「お、お早う!……ございますです」

 

取り敢えずゼロは御坂美琴に対して、そう挨拶をした。

先程、初春飾利に挨拶をした時のようにいつもの調子で言うと、また佐天涙子に文句を言われかねないので、取り敢えず初春飾利の挨拶を真似てみる。

だが、普段から敬語を使い慣れていないゼロが故に、少し不自然な言い方になってしまっていた。

 

「お早う、佐天さん」

 

御坂美琴はそんなゼロの言葉に特に引っ掛かりを感じた風でもなく、笑顔でそう挨拶を返した。

 

「あ、そうそう。黒子は後から来るって」

 

思い出したかのように、御坂美琴は黒子という人物が遅れて来ることを二人へ伝える。

昨晩、佐天涙子が言っていた本日会う予定の友人は、確か三人。

一人が初春飾利で、もう一人が御坂美琴。

残った一人は白井黒子という名前であった。

御坂美琴の言う“黒子”とは、恐らくその白井黒子のことなのだろう。

 

「白井さん、どうかしたんですか?」

 

初春飾利が御坂美琴へ尋ねる。

佐天涙子の情報だと初春飾利と白井黒子は風紀委員(ジャッジメント)という組織で一緒に活動しているとのことであった。

 

「ちょっと忘れ物をしたから、それを取って来て、それからこっちに来るって言ってたわ」

「忘れ物…ですか」

「お待たせいたしましたの」

 

突如、目の前にツインテールの少女が現れた。

そんな状況にも関わらず、初春飾利も御坂美琴も特に驚いた様子は無い。

寧ろ見慣れている、といった様子である。

 

「あ、白井さん。忘れ物はありましたか?」

 

初春飾利がツインテールの少女にそう尋ねる。

白井、と口にしたということは、どうやらこの少女が白井黒子のようだ。

少し口調が変なのが気になるものの、小柄で可愛らしい少女である。

いきなりこの場に出現したのは彼女の能力、空間移動(テレポート)によるものなのだろう。

それも昨晩、佐天涙子から聞いた情報であった。

 

「ええ、それは問題無いのですが…」

 

白井黒子は溜め息を一つ吐いた。

 

「私としたことが不覚でしたわ。ついうっかり忘れ物をしてしまったせいで、お姉様と一緒に寮を出ることが出来なくなってしまって!」

 

そう言って白井黒子は御坂美琴へ視線を向ける。

どうやら、彼女の言う“お姉様”とは、御坂美琴のことのようだ。

 

「とぉっても残念ですの!」

「別にそんな落ち込むことでも無いでしょ」

「いいえ!お姉様と一緒にいる時間が一分一秒でも短くなるなんて、黒子はとても耐えられませんの!!」

「……………………」

 

思わず御坂美琴も閉口する。

白井黒子は御坂美琴に対して、特別に強い感情を抱いているようである。

地球人の知識が乏しいゼロにとっては、とても珍しい光景であった。

 

「なあ、ルイコ。あの二人って、どういう関係なんだ?友達…にしては、何か俺の知っている感じと違うように思うんだが…」

『う~ん。一先ずノーコメントとさせて頂きます』

「…しかし、地球人がテレポーテーションを使うなんて、こうして目の当たりにするまで信じられなかったぜ。この学園都市ってのは、随分と変わったところなんだな」

『宇宙人のゼロさんでも驚きますか?』

「ああ。テレポーテーションってのはウルトラ族の中でも高度な技でな。寿命を縮めることさえあるんだ」

『え?そうなんですか?』

「それをこうも容易く使うなんて、あのクロコっての結構やるじゃねえか!ミコトってのよりもクロコの方が凄いんじゃないのか?」

『チッチッチ、御坂さんを甘く見ちゃいけませんよ、ゼロさん。白井さんも凄いですけど、御坂さんはもっと凄いんです!』

「へー、そうなのか」

「…?佐天さん、さっきから一人で何をブツブツ言ってるんですか?」

 

初春飾利が不思議そうに尋ねてきた。

意識の中の佐天涙子との会話も、傍から見ると独り言を呟いているようにしか見えないようである。

 

「え?あ、な、何でもないわよ。ホホホ」

「……………………」

 

初春飾利はまたも訝しげな目でゼロ…佐天涙子のことを見つめる。

彼女たちの前では佐天涙子との会話も自重した方がいいとゼロは思い始めていた。

ゼロ自身は別に彼女たちに正体が知られたところで何も問題は無いと考えているのだが、どうも佐天涙子はそう考えてはいないようである。

治療という名目はあるものの、肉体を借りている身としてはその主の考えは尊重するべきだろう。

 

「み、皆も揃ったことだし、そ、そろそろ行こうぜ!…じゃなくて、行きましょうか?」

 

ゼロは誤魔化しも兼ねて、そう切り出す。

今日の目的は、四人で佐天涙子が見つけたという穴場の洋服屋へ買い物に行くこと。

ここで立ち話をすることではない。

 

「そうね。じゃ、行きましょうか?」

「…あ、はい。そうですね」

「どんなお店なのか、今から楽しみですの」

 

三人は口々にそう言ってゼロの提案を受け入れた。

ゼロはその洋服屋の場所は知らないが、佐天涙子がナビゲートしてくれるらしい。

一先ず、四人は移動を開始することにした。

洋服屋へ向かう途中も、御坂美琴たちは色々と他愛の無い会話を交わしていた。

ゼロはボロが出ないよう適当に相槌を打つに止め、話を振られた時には佐天涙子へ助言を仰ぐという形で道中を凌ぐ。

その際に若干の間が空くのだが、流石にこれが何度も続くと、初春飾利だけでなく御坂美琴や白井黒子も多少の違和感を覚え始めていた。

お陰で、ゼロの中の佐天涙子はひやひやしっ放しであった。

 

「…そう言えば、忘れ物を取りに177支部へ行った時、少し気になることを聞きましたの」

 

白井黒子がふと思い出しかのようにそんなことを口にする。

 

「気になること、ですか?」

 

初春飾利がそう尋ねると、白井黒子はすぐに答えた。

 

「今朝、スキルアウト数名が遺体となって発見されたそうですの」

「遺体?」

 

御坂美琴が聞き返す。

 

「物騒な話ね」

「ええ。まだ犯人は捕まっていないそうなので、夜道を歩く時などは気をつけて欲しい。とのことでしたわ」

「犯人はまだ捕まっていないんですか…少し怖いですね」

 

少し不安げな顔で初春飾利が言った。

一方、御坂美琴は白井黒子の話にどんどん食いついていく。

 

「犯人に目星はついているの?」

「いいえ。現場に手掛かりのようなものは残っていたそうですが…って、えらく興味津々ですのね、お姉様」

 

白井黒子は少し呆れたような表情で御坂美琴のことを見つめた。

 

「もしかして、自分の手で犯人捜し出そう…などとは思っていませんわよね?」

「えっ!?そ、そんなことは無い…わよ」

「そうですのね?」

「だ、だって、そんな危険な奴が野放しになってるなんて、とても見過ごせないじゃない!」

「…お姉様。これは、れっきとした殺人事件なんですの。お遊びではありませんことよ?」

「わ、分かってるわよ、そのくらい!」

 

御坂美琴は目を少し泳がせながら言った。

 

「…ハァ、お姉様。正義感が強いのは結構ですけれども、流石に相手は選んで下さいな。いくらお姉様とは言え、平気で人を殺めるような輩を相手になさるのは、あまりよろしいとは言えませんの」

「いくら何でも、そんな無茶はしないって」

「どうだか…」

「どっちみち、犯人も分からないのに追い掛けようも無いわよ」

「まあ、確かにそうですわね」

「それで、手掛かりって何?」

「…お姉様」

「き、聞くだけだって!」

「…手掛かりと言いますか、切り口がとても変だったとか」

「変?」

「何でも、切り口がドロドロに溶けていたらしいですの」

「ドロドロ…バーナーのようなものを使ったのかしら?」

「いいえ、そういう感じでは無く、まるで見たこと無いような切り口だったとか。それ以上詳しいことは分かりませんが…」

「何っ…!?」

 

それを聞いて、思わずゼロは声を上げる。

何事かと三人はゼロ…佐天涙子の方へ顔を向けた。

 

『ちょっ!ゼ、ゼロさん。御坂さんたちが見てますよ!?』

「ドロドロに溶けた切り口。まさか…」

『ゼロさん?』

「……………………」

 

考え込むゼロ。

 

「ど、どうしたの佐天さん?」

 

三人を代表して御坂美琴が尋ねた。

と、ゼロは顔を上げる。

 

「…おい」

「え?」

「悪いが、ちょっと失礼するぜ!!」

 

そう言うと、ゼロは振り返り、そのまま走り出した。

ゼロ…佐天涙子の突然の行動に、三人は驚きを隠せない。

 

「ちょ、ちょっと佐天さん!!」

 

制止しようとする声も振り切って、あっという間にゼロは走り去って行く。

残された三人はそれをただポカンと見つめることしか出来ないでいた。

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