とある究極のゼロ   作:メソウサ

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第2話 黒子の恐怖 ③

『ちょ、ちょっとどうしたんですか!?ゼロさん!!』

 

佐天涙子は半ば泣きそうな声でそう尋ねた。

先程のゼロはどう贔屓目に見ても行動が不自然であった。

確実に他の友人たちには不審がられたことだろう。

 

『一体、何があったんです?』

「……………………」

 

しかし、ゼロは何も答えなかった。

何か、考えているようである。

 

『ゼロさん!何か答えて下さいよ!』

「……………………」

『ゼロさん!!』

 

佐天涙子は何度もゼロを呼んだ。

 

『…お願いですから、理由も言わずに突っ走らないで下さいよ』

「…なあ、ルイコ」

『あ、ゼロさん!やっと返事した!』

「さっきのクロコの話覚えてるか?」

『え?さっきの白井さんの話って、殺人事件の話ですか?確か切り口が溶けてて変だとか何とか…』

「そう、それだ」

『それがどうかしたんですか?ゼロさんが急に走り始めたことと何か関係があるんですか?』

「ああ、大アリだぜ。クロコの言っていた切り口の話、それはツルク星人が相手を切りつけた時の特徴だ」

『ええ!?』

 

ツルク星人。

それは、佐天涙子がこうしてゼロと奇妙な同棲生活をするようになってしまった切っ掛けの宇宙人であった。

彼女にとっては、言わば忌まわしき因縁の相手である。

 

『で、でもツルク星人って、確かゼロさんが倒した筈じゃ…?』

「ああ、お前を襲った奴は倒した。それは間違いねえ」

『じゃ、じゃあ、白井さんが話していたのは一体…?』

「簡単な話だ。別の個体がいたんだ。それも、この街の中にな!」

『そ、そんな!』

「…昔、俺の師匠から聞いたことがある。ツルク星人ってのは凶悪で残酷な宇宙人で、ただひたすら殺戮を繰り返す純粋な悪であるってな。だから、早く見つけて倒さないと、また犠牲者が増えるかも知れない!!」

 

高速で流れる周囲の景色の中、息一つ乱さずにゼロは言った。

明らかに走るスピードがゼロと同一化する以前よりも速い。

まるで、オリンピックへ出場するアスリートかそれ以上である。

先程、高い木の上へ軽く飛び乗ったことと言い、ゼロと同一化したことで佐天涙子という人間の身体能力は以前と比べ物にならない程に上がっているようだ。

自身が自分のものじゃない動きをしているのを佐天涙子はとても不思議な感覚で見つめていた。

 

『…それで、そのツルク星人が何処にいるか、ゼロさんは分かってるんですか?』

「いや、流石にそれは分かんねえ」

『ええ!?じゃあ、今何処へ向かって走っているんですか!?』

「さあな!でも、あのままあそこにいてもツルク星人が見つかるわけじゃないからな。まずは行動あるのみって奴だ!」

『そ、そんなあ。あまりに考えがなさ過ぎですよゼロさん!!』

 

そうは言いつつも、佐天涙子はゼロの気持ちが全く分からないわけでも無かった。

対抗出来る力を持っているからこそ、じっとはしていられない。

そんな人物をとても身近に知っているからである。

 

『…もう分かりましたよ!それじゃあゼロさんの気の済むように探してください!私はもう何も言いません!!』

「元よりそのつもりだぜ」

『全く…この体、私のものだって忘れないで下さいよ!』

「分かってる分かってる!」

『本当に分かってます?』

「…ったく、ルイコはいちいち五月蝿いんだよ!」

『だって私の体なんですからね!!そりゃ、五月蝿くもなりますって!!』

「心配すんな!とっとと片付けてやるから!」

『私の体、もっと労わって下さいよ~!』

 

佐天涙子の願いも空しく、ゼロは走る速度を緩めるどころかますます加速していくのであった。

 

 

 

一方、残された三人は…。

 

「佐天さん…何か変じゃなかった?」

「ええ、いつもと違う感じがしましたの」

 

御坂美琴と白井黒子が共に抱いた疑念を口にした。

 

「やっぱりお二人もそう思いましたか?」

 

初春飾利も同意する。

 

「口調も何か変でしたし、仕草も何処か男の人っぽいんですよね」

「それに、あっという間に行ってしまわれましたが、佐天さんってあんなに足速かったでしたっけ?」

「私も…何がどうとは言えないけれど今日の佐天さんは何処か違和感があるのよね」

 

三人は口々にそう言って、友人の変化について指摘した。

彼女たちの知る佐天涙子と先程まで一緒にいた佐天涙子がどうしても結び付かないようだ。

 

「まさか…偽者ですの!?」

「…というのも、何か違うのよね」

 

白井黒子が口にした可能性を御坂美琴は一蹴した。

 

「能力を使って変身したようにも、よく似たそっくりさんっていう感じもしなかった」

「そうなんですよね。見た目は間違いなく佐天さんなんですけど、中身が別人って言うか…」

「…何が何だか分かりませんの」

 

三人は考え込む。

 

「…とにかく、ここで考えても仕方ないし、取り敢えず佐天さんを追いかけましょう!」

「そうですわね」

「い、行きましょう!」

 

今ここで考えていても答えは出ないと、三人は一先ず佐天涙子を追い掛けることで一致した。

とは言っても、あっという間に行ってしまった彼女の行く先など、三人は知る由も無い。

なので、一旦バラバラに分かれて捜すことにする。

三人が固まって探すよりも、こうして手分けした方が明らかに効率的であるからだ。

 

「佐天さんが見つからなかったとしても、三十分後にここへまた集まりましょう」

 

御坂美琴がそう決めると、二人は異論を挟むことなく頷いてみせた。

こうして、彼女たちの佐天涙子捜索が始まった。

 

 

 

…それから十分後。

 

 

「…いませんわね」

 

学園都市にいくつもある路地裏。

白井黒子はそこで佐天涙子を探している。

以前、路地裏で意図的にキャッシュカードが置かれていた事件があった。

その時、佐天涙子は積極的にそのカードの拾得を行っていて、何枚も手に入れたと話していたのを聞いたことがあったからだ。

そうでなくとも、都市伝説や根も葉も無い噂を信じては路地裏へ行くことの多い彼女なので、もしかしたらここにいるかも…という期待を持って捜していた。

しかし、空間移動(テレポート)を駆使してある程度を見回っても彼女の姿は確認出来ない。

主要な所は粗方捜し終えたので、そろそろ別の所を捜す頃合だと白井黒子は思い始めた。

 

「次は学校の辺りを捜すとしますの」

 

そう言って引き返そうとした時、白井黒子は何者かの気配を背中に感じた。

振り返ってみると、そこには小さな少年のような人物がいた。

その場に蹲っており、何処か苦しそうにも見えた。

 

「…どうかされましたの?」

 

白井黒子はその人物のことが少し心配になり、声を掛ける。

しかし、相手は何も答えない。

 

「もし…?」

「……………………」

 

もう一度、白井黒子はその人物へ声を掛ける。

やはり相手は無言のままだ。

声を上げられない程苦しいのだろうか?

 

「…何処かお体の具合でも悪いんですの?」

「……………………」

「すぐに救急車をお呼びしますの。少しお待ちになっ…」

「キキッ!」

 

病院へ電話を掛けようと白井黒子が携帯電話を取り出したのと同時に、小さい少年のような人物は突然甲高い奇声を上げた。

金属が唸り上げるような声。

とても人や獣が出すような声では無い。

 

「何…ですの?」

 

白井黒子はその不気味さに一瞬、戦慄する。

しかし、そこは百戦錬磨の風紀委員(ジャッジメント)。

簡単に引くわけにはいかない。

 

「あなた…一体何者ですの?」

「キッ!」

 

小さい少年のような人物はゆっくりと顔を上げる。

その顔を見た瞬間、白井黒子は今までに無い恐怖を感じた。

 

「な、な、なっ……!?」

 

思わず声が上ずってしまう。

 

まるで金属のような顔の皮膚。

ぴっちりとしたスーツのような全身。

そして、両の手の鋭利な刃。

 

彼女の見た、目の前の人物は完全に人間では無かった。

コスプレや変装などでもない。

明らかな異質の存在。

それが、目の前に立っている者の印象であった。

そいつは小柄な白井黒子よりも更に背丈が小さく、まるで子供のような体格であったが、与えてくる威圧感は半端なものではなかった。

風紀委員(ジャッジメント)として、時には大の男や大人、様々な能力者たちと対峙してきた彼女でさえも震え上がらせる程の殺気を放っている。

 

(こ、こいつは明らかに不味いですの!!に、逃げなくては…)

 

白井黒子は、一旦その場から空間移動(テレポート)で逃げようとする。

しかし、彼女の能力である空間移動(テレポート)には、とても細かな演算が必須であった。

今の軽いパニック状態の彼女では、まともにそれを行うことは難しい。

実際に、空間移動(テレポート)どころか、後ずさることさえ出来ず、蛇に睨まれた蛙が如く微動だに出来ないでいた。

 

「キキェ!」

 

目の前のそいつはニヤリと笑った。

獲物を見つけた。

明らかにそういったニュアンスの笑いである。

彼女を見逃す気は全く無いようだ。

 

(に、逃げ…逃げ!)

 

しかし、白井黒子はピクリとも動けない。

メデューサに睨まれると石になってしまうと言う。

今、正に彼女はそんな状態であった。

自身の意思で自身の肉体を動かすことが出来ない。

思考は乱れ、ただ恐怖と絶望だけが全身を支配している。

 

「……………………」

 

目の前のそいつは無言で彼女へ迫って来る。

一歩、また一歩。

ゆっくりと、まるで恐怖に歪む彼女の表情を楽しむかのように。

 

(お姉様…!!)

 

そいつの足が止まった。

一瞬の静寂。

 

そして…。

 

 

「キィェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」

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