「ギギッ…貴様、何者ダ?」
ツルク星人は不意に入れられた一撃に歯軋りしながら尋ねた。
多少は油断もあったろうが、そもそもが人間離れした圧倒的な身体能力の保持者である。
ただの地球人の少女の攻撃なぞ貰う筈が無いのだ。
「…マサカ、貴様ッ!?」
目の前の少女の正体に思い当たったツルク星人はニヤリと笑って見せる。
「…ソウカ。貴様、我ガ同朋ヲ殺シタ、ウルトラマンゼロダナ?」
「へっ!だったらどうする?」
「敵ヲ、討ツ!」
ツルク星人はそう言うと、強烈な殺意を剥き出しにして目の前の少女…ゼロを睨み付けた。
本気の殺意。
直前まで何とか戦うことが出来ていた御坂美琴ですら、全身に悪寒を走らせる程のものである。
白井黒子や初春飾利はあまりの寒気に身を震わせていた。
しかし、そんな殺意の暴風域の中、佐天涙子の姿をしたゼロはたじろぐ素振りも見せない。
ただ悠然と構え、目の前の敵から目を離さないでいる。
その様子を見て、流石に御坂美琴たちも目の前の少女が自分たちの知る佐天涙子では無いことを確信した。
「佐天さん…いや、あなたは誰なの?」
御坂美琴は尋ねる。
佐天涙子の姿をしたゼロは彼女たちに背を向けたまま答えた。
「…俺は、ウルトラマンゼロ」
「ウルトラマン…ゼロ?」
その名前は、ツルク星人も口にしていた。
ウルトラマンゼロという存在が何者なのかは彼女たちには分かりようもない。
しかし、それよりもまず先に彼女たちが気にしたのは、大事な友人のことであった。
「あなたがそのウルトラマンゼロとか言うなら、佐天さんは一体どうなったの?」
「悪ぃな…。ルイコの体はワケあって借りてんだ」
「借りてるって、一体…」
「詳しいワケは後で話す。今は下がってな、ミコト。ここからは、マジの殺し合いだ」
「……………………」
言いたいことは山ほどありそうであったが、御坂美琴は素直に下がっていった。
彼女には意地とプライドを貫いてツルク星人と戦うという選択肢もあったが、疲弊した今の状態では善戦どころか戦う前にやられてしまいかねない。
それに佐天涙子の姿をしたウルトラマンゼロという人物が果たして本当に自分たちの味方なのか、それさえも今の段階では判別が難しかった。
もしも馬鹿正直にウルトラマンゼロの言うことを信じて、実は敵と結託してましたというオチならば、自身は勿論のこと危険は白井黒子や初春飾利にも確実に及ぶ。
御坂美琴が一旦退いたのは、それらを危惧してのことと、ウルトラマンゼロという人物の見極めをしたかったからであった。
同時に、目の前の敵と敵かも知れない存在に対して消極的な行動しか取れない自身の無力さを嘆いてもいた。
(…悔しい。悔しいけど、認めるしかない。今の私じゃ、全力を振り絞ってもあの化け物を倒すのは不可能。下手に攻撃をして、それで相手を刺激してしまったら逃げ切ることだって難しいかも知れない。黒子も万全じゃない以上、迂闊な行動は取れない!)
「…黒子」
御坂美琴は後ろを振り返らずに、小声で白井黒子の名前を呼んだ。
「…何ですか、お姉様?」
「隙を見て逃げるわよ。能力はどう?使えそう?」
「…まだ、頭の中が混乱していてすぐには難しいですが、少しだけお時間を頂けましたら短い距離ですけれど何とか二人を連れてこの場から離脱することは可能ですの」
「…頼んだわよ」
「…お姉様」
白井黒子はふと寂しげな表情をした。
しかし、現状を乗り切ることに必死に頭を働かせている御坂美琴はそれに気付くことは出来なかった。
「…キキキ、ウルトラマンゼロ。貴様ノ肉ハドンナ感触ダロウナア?」
佐天涙子の姿をしたゼロと対峙していたツルク星人は突如そんなことを言い出してニヤニヤし始めた。
ゼロはそれをうざったそうな目で見つめる。
「…前のツルク星人も頭悪そうな奴だったが、お前はそれに加えて何言ってんだか、さっぱりだな。ちゃんと喋れねえのか?」
「何…?我々ヲ馬鹿ニシテイルノカ?」
「どうやら、馬鹿にされて怒るくらいの知恵はあるようだな」
「貴様…虚仮ニスルノモイイ加減ニシロ!」
ツルク星人は度重なるゼロの挑発に対して怒りを露わにする。
しかし、ゼロもまた握る拳に更に力を込めていた。
「…怒ってんのはてめえだけじゃねえぞ。てめえらがこの星でやってきたこと、忘れたとは言わせねえ!」
「…キキ、弱者ガ強者ニ屈スルノハ自然ノ摂理ダ。弱者ヲ殺シテ何ガ悪インダ?」
「…じゃあ、俺がここでてめえを倒すのも必然ってことだな?」
「出来ルモノナラナ!」
ツルク星人は吐き捨てるようにそう言うと、両の手の刃を構える。
それを見たゼロは左腕を突き出した。
「…ルイコ、すまん!少しだけ無理させて貰うぞ!」
そう言うと、左腕に付けられたブレスレットから派手な眼鏡のようなものが光と共に飛び出してくる。
ゼロはそれを右手でしっかりと掴んだ。
「デュワッ!」
その掛け声と同時にゼロが眼鏡を顔へ装着すると、全身が強烈な光に包まれていく。
次の瞬間、佐天涙子だった少女の姿はその場から消え、代わりに全身が赤と青、そして銀色に彩られた姿へと変化した。
「やっぱり、この姿の方がしっくり来るな!」
ゼロは拳を鳴らしながら言った。
「な、何?何なの!?」
思わず御坂美琴の口からその言葉が飛び出した。
佐天涙子が実は佐天涙子では無い何者かであった。
これだけでもかなり驚くべきことであったが、しかもそれが変身して別の何かになった。
とても理解し難いことが目の前で起き、御坂美琴たちはとても困惑する。
ツルク星人から受けていた恐怖や威圧感さえ、すっかり消え去る程の驚きであった。
「キキッ!ヨウヤク正体ヲ表シタカ、ウルトラマンゼロ!」
「さあ、かかってきやがれ!」
「キキッ!」
直後、コンクリートの地面が抉れ、ツルク星人の姿が消える。
勿論、実際に消えたわけではなく、消えてしまうくらい高速で動いているからだ。
ツルク星人が大地を踏みしめる度に、地面が砕ける音がする。
このスピードを生み出す為に、かなりの力を込めているのだろう。
明らかに御坂美琴と戦った時よりも速い動きである。
このツルク星人は、昨日ゼロが倒したツルク星人と比べるとかなり小柄ではあるが、その分とてもすばしっこいのが特徴のようだ。
「確かに速いな。…だが!」
ゼロは一瞬で向きを変えると、その方向へ握り締めた拳を思い切り打ち込んでみせた。
確信を持った、そんな一撃であった。
「ギェッ!?」
すると次の瞬間、虫を潰したかのような悲鳴と共に見えなくなっていた筈のツルク星人が吹っ飛ばされていった。
そして、そのまま大きな音を立てると壁の中にめり込む。
「その程度じゃ、俺には通用しねえんだよ!」
「ギギッ…、オノレ、ウルトラマンゼロ…」
自身の動きをゼロに見切られたことにツルク星人は怒り、自身の歯がへし折れる程に歯軋りをする。
金属が擦れるような嫌な音が当たりに聞こえた。
ゼロはすっと身動きの取れないツルク星人に近付いていくと、睨みをきかせつつ声を掛ける。
「…本当ならてめえみたいな悪党は直ぐにでもぶっ倒してやりたいところだが、生憎と聞きたいことがあってな」
「……………………」
「てめえらがこの星に来たのは偶然とは思えねえ。ここはアナザースペースだからな。…もしかして、“奴”と関わりがあるんじゃないのか?」
「……………………」
「黙ってないで答えやがれ!」
「ギッ!!」
と、その時ツルク星人が口から何か気味の悪い色の液体を噴き出した。
突然のことにゼロも避けきることが出来ず、その液体を顔面にまともに受けてしまう。
「なっ!?」
「キキィッ!油断シタナ、ウルトラマンゼロ!」
しめしめ、といった感じでツルク星人は言った。
そして、すぐに体を壁から抜くと、顔を御坂美琴たちの方へ向ける。
「ウルトラマンゼロ!貴様ノ目ノ前デ、ソイツラヲ殺シテヤル!自分ノ無力サヲ思イ知ルガイイ!」
そう叫ぶと、ツルク星人は御坂美琴たちのいる所へ向けて走り始めた。
ゼロから受けたダメージの為か先程みたいな超高速では無いものの、それでもやはり一般人よりも速い。
「くぅっ!?」
ツルク星人から受けた謎の液体…臭いや粘度からして恐らく血液なのだろう。
それにより一時的に視力を奪われたゼロは一瞬、対応に遅れてしまう。
そんなゼロを尻目にツルク星人はニヤッと嫌な笑みを浮かべた。
「死ネ!」
ツルク星人の刃が御坂美琴に迫る。
と、その時、御坂美琴は何かを振るった。
金属同士がぶつかり合うような音が辺りに響いた。
「何ィッ!?」
「…なめんじゃ、ないわよ!」
御坂美琴の手には何か黒いものが握られており、それがツルク星人の刃を受け止めていた。
彼女が手に持っていたのは自身の能力を使用して地中の砂鉄を集め、作られた剣。
チェンソーのように細かく振動しており、切れ味は見た目以上で一般的な少女の体格である彼女でもゼロの攻撃で弱ったツルク星人のパワーを受け止めるのに十分であった。
「…アンタが馬鹿みたいにそこらを壊してくれたお陰で、コンクリートの下の地面が丸見えになったのが幸いだったわ。街中でもこうして砂鉄を集めることが出来たからね!」
「キ、貴様…!」
「黒子!」
自身の刃を受け止められ、思わず戸惑うツルク星人を見て、御坂美琴は叫んだ。
如何に砂鉄の剣で虚を突けたとはいえ、やたりツルク星人相手に真っ当に戦うのは危険極まりない行為である。
全員の無事を考えるなら、ここは逃げの一手しかない。
白井黒子の体力の回復にはまだ少し早いように思えたが、彼女の空間移動(テレポート)を使わなければ、目の前の脅威から逃れることは出来ない。
「…申し訳ございませんですの」
やや間を空けてからそう呟くように言うと、白井黒子は御坂美琴と初春飾利に触れる。
振り返る二人を白井黒子はニコッと笑って見つめた。
「白井さん!?」
「黒…!」
次の瞬間、その場から御坂美琴と初春飾利の姿は消えた。
「二人とも、どうか無事で…」
白井黒子はそのまま力無く前のめりになる。
(…今の黒子にはこれが精一杯。とても三人一緒に飛ぶ力は無かったですの。ならば、こうするのが当然。犠牲になるのは私一人で充分!…お姉様は、きっと黒子のことをお許しにはならないでしょうね。でも、黒子は後悔はしておりませんですの。何せ、二人をこの場から逃がすことが出来たのですから)
力を使い果たした白井黒子は薄れゆく意識の中、何処か満足げな表情であった。
「クッ…、下ラナイ真似ヲ!!ナラ、セメテ貴様ダケデモ、死ネ!」
忌々しげな表情のツルク星人の刃が白井黒子へ襲い掛かる。
「お姉…様…。うい…は…」
白井黒子は来たるべき死を覚悟し、目を閉じた。
しかし、白井黒子の肉体には何も変化は起きなかった。
刃に貫かれた感触も焼けるような痛みも、溢れ出る血さえも何もない。
恐る恐る目を開いていくと、白井黒子の目の前には彼女を庇うようにウルトラマンゼロが立っていた。
「ぐぅぅっ…!?」
「…………え?」
自身を貫こうとしたツルク星人の刃は、ウルトラマンゼロの体に突き刺さっていた。
そのお陰で白井黒子には刃は届いていない。
「…大丈夫か、クロコ?」
ゼロは白井黒子へそう声を掛ける。
声色は先程までの荒々しい感じとは違い、何処か優しげであった。
「あなた…私を…?」
「へっ、約束…したからな」
「約束…?」
「ああ…」
───数分前
『ゼロさーん!急を要するからって、いくら何でも行動が場当たり過ぎじゃないですか!?』
「でも、他に方法も無いだろ?」
『せめて、御坂さんたちと一緒に…』
ズドォォン!
『え!?今の音って…』
「行くぞ、ルイコ!」
『あっ、ちょっ…、ん…?』
「…………?どうした、ルイコ?」
『…何だか、凄く、眠く…なってきました』
「眠く?…恐らく、魂の修復が再び始まったのかも知れないな」
『魂の…修復?』
「昨晩もルイコはいつの間にか眠ってたろ?肉体から離れ掛けた魂が、ルイコの体へ定着しようとしてるんだ。その時、ルイコの意識は一旦眠りに入るらしい」
『らしい…って』
「俺がそうなったことはねえからな。ただ、前に一体化したランはその為に意識をずっと眠らせていた。それがルイコの場合は定期的に何度も起きるってだけだ。何せ、俺がルイコと一体化した時には死ぬ直前のギリギリだったからな。まあ、安心しろ。修復が一旦完了したら、また今朝みたいにルイコの意識は目覚める筈だ。それが今日なのか明日なのかは俺にも分からねえけどな」
『そう…ですか。なら、眠っちゃう前に、一つ頼んじゃっても、いいですか?』
「何だ?」
『御坂さんたちを…絶対に…守って…くだ……』
「……………………」
『……………………』
「…眠っちまったか」
(…安心しな。ルイコの友達は俺が守る)
「それが、今は寝ちまったお前との約束だからな!!」
ゼロは力強くそう言うと、自身に突き刺さったツルク星人の刃をガシッと掴んだ。
「ナッ!?ウ、動カ…」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
雄叫びを上げるゼロ。
と、体の色から青が消え、全身が赤に染まり、一部が金色に縁取られていく。
ゼロがストロングコロナ形態へモードチェンジしたのである。
そのまま自身の体から一気に刃を引き抜くと、もう片方の手で刃を叩き折ってみせた。
師匠のウルトラマンレオから伝授された技、ハンドスライサーである。
「ギギィィ…、ゼ、ゼロォォ!!」
「もうてめえは許さねえ!!」
ゼロは怒りに身を任せ、ツルク星人へ次々と拳を打ち込んでいく。
「オラオラオラオラオラ!!」
「グェッ!グォッ!グフォッ!!」
「オラオラオラオラオラオラ!!」
「ブォッ!ブホッ!ブフォッ!!」
「オラオラオラオラオラアアアアアアアアアア!!」
ゼロの連撃で完全にグロッキー状態になったツルク星人に向けてゼロはアッパーを放ち、空高く打ち上げた。
そして、その拳をツルク星人へと向ける。
「ガルネイト…バスターーーーーー!!!!」
その叫びと共に、ゼロの拳から炎状の光線が放たれた。
「ギ、ギィエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
ツルク星人は目の前に迫る光線に恐怖し、絶叫する。
やがて、それに飲み込まれたツルク星人の肉体は一瞬の内に灰になり、そのまま光と共に消滅した。