MONSTER HUNTER -迅雷のクオリア-   作:紅丸

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渓流の少年

 渓流のキャンプ場に到着したリリィは荷車を引っ張るガーグァを見送ると、片手に持った携帯食料を喉に運んだ。

 携帯食料とはスタミナを増強する食べ物である。ハンターが駈ける地はどこも足場が悪く、環境が厳しい。並みのスタミナではすぐに尽きてしまうのだ。ギルドから必ず支給されるこの携帯食料は、クエストに行く際には欠かせない代物なのだが……如何(いかん)せん、その味は誰もが口を揃えて言うほどの不味さ。スナック菓子のような何とも言えないパサパサ感が不快でしかない。キャンプ場にある水を一口含んで、リリィは辺りを見渡した。

 高地に設置されたキャンプ場からは、美しい渓流が流れる谷を挟んで向かい側の山地までが見渡せた。眼下に広がる川や林の辺りには、かつての集落があり現在は誰も住んでいない住居跡や(やしろ)がある。透き通るような空気が肺を満たし、ほのかに香る緑がとても心地良い。

 

「さてと、探しに行きますか」

 

 リリィは改めて今回のクエストの内容を思い出していた。

 この渓流でハンターがモンスターを討伐していると時々現れ、乱暴に拳を振るった後キャンプ場に帰すという少年の捕獲。人間を捕獲するのには何も問題は無いのだが、如何(いかん)せん探すあてが無かった。

 一番手っ取り早い方法はモンスターを狩り続けること。そうすればいずれ現れるのだろうが、それだけのために罪の無いモンスターを傷つけることは出来ない。リリィはかぶりを振ってその考えを頭から消した。

 しかしこのままだと手当たり次第に歩き回って探すしか方法は無い。だがそれでは日が暮れてしまうことだろう。

 リリィは大きなため息を吐くと、途方に暮れたままE-(エリア)4に向かい歩を進め始めた。

 

 *

 

 E-4は小さな草原と中央にある今は誰もいない、古い民家が特徴的なエリアである。

 ここは多くのモンスター達が集まる場所ではあるが、他のエリアと比べると出現するモンスターは比較的、攻撃しなければ何も害は無い平和な場所である。それに加えて見晴らしもよく、特定の物を探すにはある意味持って来いのエリアなのかも知れない。

 だが、そう楽々と少年が見つかる筈も無くリリィは民家の階段に座って途方に暮れていた。

 

「待てど待てど時間が経つばっか……いくつかエリアも回ったけど全然居やしないわ……」

 

 その時、ふと近くでモンスターの鳴き声が聞こえた気がした。

 リリィは立ち上がって辺りを見渡すと、このエリア唯一の探鉱場所である岩肌の前にいるガーグァが目に入った。それを囲むようにハンターが二人並んでいる。全身に纏うその装備から見て新人のハンターであろう。素材を取るがために二人も寄って集って、とリリィは何気ない目で見ていたが、やがてそれは怒りへと変わっていく。

 

「いま何発目だっけ」

 

「軽くても二十回はいったんじゃないか?」

 

 その会話を聞いて、リリィは改めてガーグァの姿を着目した。

 砕けたクチバシにひしゃげた右翼、よく見ればガーグァは瀕死の状態で血みどろではないか。そこでリリィは気づいた。あいつらがやっていることは素材のためではない、ただの虐待行為だということを。胸を焦がすような怒りが込みあがってくる。ハンターになる際に上官から「罪の無いモンスターには出来るだけ危害は加えない」という話があった筈だ。それは全ハンターに共通するマナーであり、また彼らも人間と同じ自然の一部、いわば担い手なのだ。奴らがやっていることは村人たちが憧れる職業を、大勢のハンターたちを愚弄(ぐろう)する行為だ。

 

「あんたたち、いい加減に……!」

 

 その時。リリィの視線は宙に向けられた。正確にはガーグァが二人のハンターに追い詰められた岩肌、その側面にだ。一人の小柄な男の子が颯爽と、まるで貼りついたように岩肌を駆け降りていく。

 腰まで伸びた黒い長髪に、小柄な体系には不釣合いな逞しい身体つき。その容姿はクエストの詳細に書かれていたものと一寸違わずすべてが一致している。リリィは確信した。考えるまでもない、この少年が今回のクエストのクリア条件(ターゲット)だ。

 

「罪のないモンスターを、ガーグァを……虐めんなァ!!」

 

 急降下の勢いを使用して岩肌から飛び降りる少年の一撃が、ハンターたちの頭防具(ヘルム)を破壊した。




本作に第一話、第二話などの話分けはありません。
すべての話が一つに纏まったのが、迅雷のクオリアです。
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