もしマーリンが6章でやる気をそれなりに出したら 作:カキツバタ
───ある少女の話をしよう。
少女は、平穏な日々を過ごしていた。
騎士として働き詰めだが、家に帰ってきて少女の姿を見つけると、きっと強い子になれる、といつも優しく頭を撫でてくれる父。
そんな父を献身的に支え、彼等を育て上げた優しく芯の強い母。
誰よりも口が達者で明るく、しかし誰よりも妹想いの兄。
そんな家族に囲まれながら、街の人々を眺め、しかし賢明な少女はそこに混ざろうとはせず。それでも確かに幸せな日々を送っていた。
……めでたしめでたし。え?流石に短すぎる?
でも、本当にこれくらいなのさ、一人の少女としての彼女は。
正確には彼女はアルトリウスとして育てられた訳だが、それでもまだ彼女は一人の少女でいられた。
彼女はこの後…いや、初めから大きな運命を背負わされている。彼女は一人の少女としては生きることが出来なくなったのさ。これは人々が決めたことでもあり、彼女自身が決めたことでもある。
───少女は王になった。これは必然であり偶然だ。
そしてその王は今、彷徨い続けた末に最果てまで辿り着こうとしている。
これもまた一つのイフ……とはいえ、僕はこれを見過ごせるほど非情ではないのだ。
彼女が王としてでなく、一人の少女としてようやく一人の青年を愛した。その救われなかった運命を救った光景を視て、久々にハイテンションになっていたところだったのだから。
別の彼女の為に、手も貸したくなるというものさ。
……っと。そろそろ時間かな?
『彼』の手も借りるためには少々早いが、すぐに動かないといけない。
…うん。そうだな、あちらにも助けを出しておこう。
彼を喚ぶ準備もしとかないと。あぁ、全く以て忙しい!
……でも、やっぱりハッピーエンドの方が美しくて良いじゃないか!
────これは、人間の物語である。
────夢を見た。
一人の王がいた。
その王は黄金の剣を携え、数々の戦場を駆け抜けた。
王は最強の騎士たちを背後に従え、常に取りうる最適の策を用いた。
結果、王は多くの敵を打ち破り、多くの領土を納め、多くの民を守った。
王は常に正しかった。
人々は王に完璧であることを求め、
王もまた完璧であることを望んだ。
だからこそ、
────王には人の心がわからない。
その言葉が、重くのし掛かったのだろう。
王は、罪を犯した家臣に何の罰も与えなかった。
それが、家臣を苦しめているとも知らずに。
そして、叛逆は起こった。
本来、己が守るべき民であった筈の人々を斬る
。共に戦ってくれた仲間も死んでゆき、嘗ての同胞を葬っていく。
滅びへ向かうブリテンの様。
それが理想のために前へと突き進んでいた王に突きつけられた現実。
彼女には耐え難いものであった。
────己の存在を悔やんだ。あの時の選定は間違っていたのだ、と。
そして、王は願う。
民のため、国のため、アーサー王は王にふさわしくなかったのだ、と。
────問おう、貴方が私のマスターか。
その光景は、今でも目に焼き付いている。
月明かりに照らされ、血にまみれたその夜。運命に出逢った。
────ではシロウ、と。ええ、この発音の方が私には好ましい。
理想を掲げ、完璧であろうとした王は、一人の心優しい少女であった。
────《
しかし、彼女は確かに理想の王であり、その光輝は、とても美しかった。
――やり直しを。滅びてしまった国を救う為に、 私の代わりになる人物を 選定しなおしてもらう。
それが王として剣を執った、 私の最期の責務です。
それは違う、と。そう告げた。過去を変えるってことは、その時を生きてきた全ての人々を否定することで、それはあってはいけないことだから。そして、その理想は、たとえ後悔したとしても、間違いなんかでは決してないから。
───やっと気づいた。シロウは、私の鞘だったのですね
────これでいい。聖杯を自らの手で斬り壊した以上、私は英霊ではなくなりましたが
────はじめから、その必要もなかったのです
王は国を守った。ただ、国は王を守らなかった
……まったく。そんな当たり前の事を、どうして気づか なかったのでしょうね、シロウ
……体が透ける、聖杯の恩英もなくなった。 これでようやく、私はあの丘に戻れる
最後に、貴方に心からの感謝と、ありったけの親愛を
私が築こうとしたものは理想郷とはほど 遠く、 万人を救う事はできませんでしたが
────それでも 胸を張れるものだったと、 貴方は伝えてくれました
ありがとう。
その言葉を胸に、私は、あの丘から先に進みます
さようならマスター。
貴方の行く先に、 光と希望があらんことを────
───…最後に、一つだけ伝えないと
シロウ───────貴方を、愛している
そして聖杯戦争は終わりを告げた。
決して忘れることのないその憧憬を胸に、俺は歩んでゆく……
──筈なのだが……
#
青年の視界には何も映らない。否、一つだけ分かることがある。
見渡す限りの砂、砂、砂。
……つまり、砂漠のど真ん中にいるということだ。
「……なんでさ…」
────とりあえず、状況を整理しよう。
俺──衛宮士郎はいつも通り早朝に起き、桜と一緒に朝食を作って、いつものように俺と桜と藤ねえの三人で朝食を食べた……藤ねえもいつも通り騒がしかった。
そして藤ねえ、桜、俺の順に家を出た。これもいつも通りだ。
普通に授業を受けて、一成と生徒会室で昼ごはんを食べて……
…そういえば、放課後は遠坂の家で魔術の講習をしたっけか。遠坂が少し前に行ったロンドンで出会った女の人について講習中も愚痴っていた。
…何度目だろうか?流石に相手の女の人に申し訳なさがこみ上げてくる。
そういえば、講習の後に確か……
「……なぁ遠坂。この設計図みたいなやつ。これ、何なんだ?」
「そうそう!それについて丁度話そうと思ってたの!さっすが衛宮くん。魔術はからっきしだけど、こういうのには敏感なのね」
「む……悪かったな、どうせ俺はへっぽこだよ」
「もーそこ!拗ねないの。…全く、そういうところはいつまでも変わらないんだから…」
「?」
「それより!これは宝石剣の設計図。まぁ衛宮くんにも解るように説明すると、遠坂の悲願でもある第2魔法――魔法については教えたわよね?つまり並行世界の運営が出来ちゃうっていう剣なの」
「なっ!?それって凄いことじゃないか!……でもわざわざ俺にそれを話すってことは…」
「そうなのよ。設計図を見ても理論とかややこしすぎてさっぱり。で、剣といえば衛宮くんかな…って。ほら、解析とか得意でしょ?」
「…………はぁ。あのなぁ、遠坂。いくら俺が剣に特化しているとはいえ、そんな簡単にどうにかなるものじゃないだろ…」
俺の指摘にどうやら図星だったらしい遠坂は、顔を赤らめ
「なっ…そんなのわかってたわよ!……けどほら、念のために…」
「……わかった。けど、期待はするなよ」
そう言って俺はその設計図を手にし、目を閉じていつものように唱える
「────
すると、特殊な形をした剣のイメージが脳裏に浮かびあがってくる。これが宝石剣だろうか。俺はさらに意識を潜らせていく。
────ふと、夢の中のような浮遊感を感じる。
《どうか、彼女を…》
「!?」
その瞬間、膨大な魔力の光に包まれ…
─────そこから先の記憶はなく、気がついたら此処にいた、と。
うん?つまりこれは、俺の脳みそでは及ばぬところで何かが作用して、結果的に並行世界への移動───第2魔法が成功してしまったということだろうか?
よくわからないが、不味いということだけは理解した。遠坂は無事だろうか?そもそも巻き込まれたのか巻き込まれてないのかもわからない。
取り敢えず、見渡す限り遠坂も、誰もいない。
「まずは、誰かを見つけないとな……」
こうして俺は行き先もわからぬまま熱砂の上を歩き始めた。
────それが、長い旅路になるとは知らずに。
本当はサーヴァントの設定だけ作る予定が、小説を書き始めてしまった。