もしマーリンが6章でやる気をそれなりに出したら 作:カキツバタ
ハイテンポで進んでおります。
「………のど、乾いた…」
そんな呟きも砂に呑まれて消えてゆく。
───砂漠で遭難した場合、動くより立ち止まって助けを待つ方が良いとされている。水が十分にない状態で歩き続けるのは、脱水症状を引き起こしやすく、命取りであるからだ。
しかし、何事にも例外は付きものだ。例えば『世界』で遭難した場合。そこが砂漠であろうと、いや、砂漠だからこそ動かねばならない。
周囲に人影すらない、そもそもこの世界に人間がいるのかさえも判別出来ないこの状況で助けを待ち続けるのは愚策というものだろう。
───ただひたすら、あてもなくこの動く影すらない広涼とした砂の海を歩き続けてどれほど経ったのだろう。
時間の感覚を失い、一度立ち止まって振り返ってみれば、歩いてきた足跡は吹き荒れる風に拐われ、己がどこへ向かって歩いていたのかすら判らなくなる。
その在り方は何処か迷宮に迷い込んでしまったかのような錯覚を生じさせる。
吹き付ける風は、砂嵐と形容するには些か穏やかに過ぎるが、それでも視界を遮るには充分なものであった。
渇きや飢えを無理矢理押さえつけ、燃料を欲する身体をどうにか動かしていく。
歩いて
歩いて
歩いて
歩いて
歩いて
歩いて
────ついに「何か」を見つけた。
砂煙でよく見えないがそれなりに大型なものだ。
もしかしたら、住宅かもしれない。
逸る気持ちを抑え、慎重に足を進める。
それは一歩ずつ歩みを進めるごとに徐々に貌があらわになっていく。どうやら建物にしては妙に奇抜な形態をしているようだ。
なにか飛び出た前足のような部分
そして、上を方を砂煙の中目を凝らしてみるとうっすらと人の大きな貌のようにも見える
───そう、それはまるでエジプトのスフィンクスのような…………
「………………」
正に言葉を失うとはこのことである。
そう、そこには居たのだ。在ったのではなく、居たのだ。
獣の足、
獣の躯。
されどその貌は獣にあらず。
それを形容するとすれば、やはり真っ先に思い浮かぶのは人の面。
───スフィンクスという名の
「…………!?」
確かに、英霊という存在がいる以上幻獣の類いもいるだろう。実際俺自身も一度だけ見たことはある。
思い起こすのはかつての聖杯戦争。
慎二のサーヴァント、ライダーとの決戦。
───月を射抜けとばかりに上昇したそれは、そのまま弧を描いて地上へと翼を返す。
夜の闇の中、光り輝くのは背から生やした翼を大きく広げ、尾と鬣とを風に靡かせながら、長く鼻筋の通った顔を此方へ向ける一体の幻獣。
ポセイドンの子であり、ペルセウスによってメドゥーサが退治された際、その断ち切られた首から滴り落ちる血からクリューサーオールと共に誕生したとされる存在。
────ペガサスである。
しかし、スフィンクスのそれはペガサスのそれとはまたベクトルが異なるのだ。
何せ人間の顔をしたライオンである。
姿はエジプトのスフィンクスで想像出来るとしても、それが実際に生きている様子は理解し難い。
───現実味を帯びないその様を眺め、俺は焦燥に駆られる。
さて、一体どうすべきか。戦って敵うような相手ではないのは目に見えている。あの時のペガサスと同程度と仮定して、並の英霊で互角かどうかレベルの怪物だ。俺が一人で突っ込んだところで一蹴されて終わりだろう。
宝具を投影すればあるいは…………いや、流石にそこまで危ない橋は渡れない。俺だって多少分は弁えているつもりだ。こんなところで死んではならない。此処で死んだら何もかも報われない。
────俺には、果たすべき理想があるのだから。
幸い、あちらは砂煙でまだ此方の存在に気づいていない。今の内に…………
ふと、砂煙が止んだ。
……………………。
完全に、目が、合った
落ち着け、俺。基本的に動物は飢えてでもいない限りは、此方から危害を加えたり、驚かせたりしない限りは襲ってこない筈だ。確か臨界距離、だったか?スフィンクスがどれくらいまでなのかは知らないが、それなりに距離はある。これ以上近づかなければ……
その時、スフィンクスが動いた。
まるで面白いものを見つけたかの様ににじり寄ってくる。
───まずい。
一歩下がる。そして……
「…………なんでさぁぁぁぁ!!!?」
走る。とにかく走る。全力で走る。
恐らくこれが体育祭であったのならば、ぶっちぎりで1位を取れただろう。皆、驚愕の眼差しを向けて拍手喝采を送ることだろう。
だが残念なことに、これは体育祭でもなければ観衆もゼロ人の追いかけっこである。しかも相手は神話で怪物と恐れられた存在。もし、追い付かれて前足で蹴られでもしたら俺の人生は終わりを告げることだろう。
しかし、このままではジリ貧だ。慌てる脳内に無理矢理酸素を回し、考えを巡らせる。
幸い、スフィンクスとの距離はそれなりにあったのでどうにか逃げられているが、刻一刻とその距離は縮まっている。
それにしても……あのスフィンクス。完全に俺のことを遊び道具としか思っていないようだ。推測ではあるが、その動きは速さを俺に合わせているように見える。
あの巨体のどこにそんな速さが、と衝撃を隠せないが今はそんなことはどうでもいい。
問題は、この状況をどうやって打破するのかだ。
まず、言葉での説得は意味をなさない。人の言葉を理解する程度の知能はもっているとしても、やめてくれと言って簡単にはいそうですかと立ち止まってくれるような心優しきスフィンクスであるとは思えない。
何かを囮にするのも難しい。俺は今何一つ持っていない。というかそもそも、スフィンクスに対して囮になりうるものが何かも分からないのだ。
……やはり、戦うしかないか。倒せはしなくとも、多少の足止め程度なら出来る筈だ。
「────
イメージするのは、最強の自分。
その手に握るは陰陽の夫婦剣――嘗て彼の弓兵が、俺に最後に見せた双剣である。色々と投影した中で妙にしっくりときたものだ。
振り返り、スフィンクスと相対する…………しかし、そこにスフィンクスの姿は無く。
「っ…………!?」
スフィンクスは『飛んでいた』。文字通り、飛翔していたのだ。これでは剣で応戦することが出来ない。思わず唇を噛む。そしてスフィンクスはこの時を待っていたとばかりに襲いかかってくる。
万事休すか、と思ったその時────『ソレ』は現れた。
ぺしぺし
俺の足を叩いてくる『ソレ』は小柄な小動物のようでいて、その中身は底のしれないナニカであった。というか結構痛いぞ。
俺がこの混沌とした状況に混乱しているなか、さらに妙なことが起こる。
スフィンクスが空中で静止し、『ソレ』の姿を目に留めると、踵を返して何処かへ去ってしまったのだ。
「助かった……のか?」
俺は茫然としてスフィンクスの去っていった方角を見つめる。そこにはただ砂漠が広がるのみで、本当に何処かへ消えたようだ。
そして、足元に視線を移す。そこにはやはり謎の生物Xが此方を見つめていた。目は無いのに何故だかそうだと感じたのだ。
「お前が助けてくれたのか?…………ありがとな」
やや躊躇いがちにその頭を撫でる。すると謎の生物Xは喜んだ───気がする。
どうやら敵意は無いようだ。此処でこいつの正体を考えていても仕方ない、と俺は改めて歩みを進める。
後ろを振り向くと
てとてと
と謎の生物Xもこちらへ歩いてくる。どうやら付いてくる様子だ。まぁ一人での旅よりは賑やかになって良いかもしれない。
#
再び歩き始めてそれほど経たない内に、その光景は現れた。
「あれは……人か!」
つい、安堵の息を洩らす。これでようやくこの世界について何かわかる。それに先程のスフィンクスからの逃走に加え、投影までしたのだ。流石に俺の身体も疲弊しきっている。そろそろ一旦どこかで腰を落ち着けたいとおもっていたのだ。
早速彼らのもとへ歩みを進める。しかし、
「何だ……?」
ようやく姿をはっきりと視認できるようになり、その光景の異様さに気づく。
武装した人々が相対しているのは、たった一人の少女。
人々は口々に
「我らが聖杯を取り戻すのだ」やら「魔術王にすべてを捧げるのだ」やらと声を上げながら少女に襲いかかっている。
「なっ……!?」
大人数でたった一人、しかも少女を襲うなんて。俺は次の瞬間、走り出していた。
少女は魔術師なのだろうか、何やら魔術らしきものを使っているようにみえるが、この大人数だ。全員には対応しきれていない様子だった。そして俺はふと、彼女の背後、砂煙に隠れて矢を放とうとしている一人の兵を見つける。
「危ないっ…!!!」
「なっ……えっ…えぇぇぇ!?」
俺は咄嗟にその少女を庇うように覆い被さる。
「ちょっと、貴方!私を何だと思っているのですか!どこのどなたかは存じませんが、不敬…………その怪我……まさか、私を庇って……?」
「……女の子が危ない目に合っていたら、助けるのは当たり前だろ?…俺は大丈夫だから、さっさと逃げよう」
そう言って立ち上がろうとするも、途端に視界がぐらつき倒れ込む。
「えぇっ!?ちょっと貴方────」
───そうして、俺の意識は深い闇へと落ちていった。
ということで、ヒロインのニトちゃん登場です。
ちなみに今回の投影は、Fateルートの例のシーンにて
…その手には、いつの間にか短剣が…
⬇
…その手には、いつの間にか
にすることで、士郎がFateルートでちゃんと夫婦剣を見れたので、干将・莫耶を投影出来るように。という流れが裏にはあるのです。
たった一文字のイフでも結構変わってくるんですね。