もしマーリンが6章でやる気をそれなりに出したら 作:カキツバタ
書けるところまでは書いてみようかと。
────青年がいた。
彼は平凡な青年だった。守るべき民のため、日々努力を続ける真面目な青年。特別、何かを語ることなどない。
───しかし、たった一つ。その出会いが彼の運命を動かした。
――眩しかったのだ。その王の、その理想は。
そして、その美しさに
────私はきっと、どうしようもなく魅せられたのだ。
我が剣は彼の王に、そして我が身は剣となり、 その王道を斬り拓いてみせよう。
そして青年は邁進し、若輩の身でありながら王の近衛にまで登り詰めた。
王は騎士達を従え、瞬く間に領土を拡大していった。
青年はいつの日か立派な騎士となり、彼の王に仕えることを誇りに思いながらも、一つ。疑問があった。
───その日、王は物見の塔で黄昏ていた私の元に現れた。共の従者も連れず、ひとりで、ふらりと。
この王がいる限り、この国は平和であり続けるのだろう。
するとそうではない、と王は言った。国土は変わらず荒廃している。キャメロットに人々を収容したとしても、それはひとの生活とは言えない。土地を耕し、日々を重ね、子を育ててこそ後の繁栄に繋がるのだと。
夕暮れのせいだろうか。そんな王に、私は問うた。
────何故、私のような取り柄のない騎士を傍に置かれているのか、と。
青年は確かに努力をし、邁進し続けた。しかし、他の騎士達に比べてどうしようもなく彼は劣っていたのだった。
そんな疑問を柄にもなく口にした私に王は、ばかもの。と、そう告げた。
単純な強さや弱さで人の立場を決めてはならない。味方と敵、善と悪。それらは違うものであり、円卓もまた、一人一人の役目は異なるのだと。
───王は、侵略者は敵であっても決して悪ではないとそう言ったのだ。彼らの願いは善なるものであり、ならばいつかこの島で重要な役割を果たす時がくるのだろうと。
王は続ける
────人間である以上、争いは生じる。それが敵と味方に別れるのは利益と不利益によるもの。
私達は今、それが両極端の時代にいる。どちらかが滅びねば立ち行かない、冬の時代だ。
そんな中に強さだけで結ばれた円卓を作るなど、私は考えたくもない。
それでは悪に堕ちる。
我々は敵を倒すために結束したのではない。我々は同胞たちの明日の為に剣を取った。
…この地は多くの人々の夢で出来たものだ。いつかこのような理想の都を人間だけの手で作りたい。そういった願いでかろうじて成立しているものだ。
だからこそ、卿のような騎士が要るのだ、ベディヴィエール。私達では見落としてしまう人々の暮らしを、つぶさに感じとれる心細やかな騎士が。
───私には難しい話です。ですが、キャメロットの暮らしは私も好きです。
先日も、トーマスの家で子供が生まれました。双子の、とても愛らしい姉妹で――
青年の応えは余りに平凡で、だからこそ王は青年にその話をしたのかもしれない。
夕暮れに金砂のような髪が揺れる。
──────ああ、この王は己のことで笑うのではなく、他人が幸福な姿を見て、穏やかに微笑むのだ。
その時青年は心に誓った。
─────何があろうと、私は彼の王を信じ続けよう。そして、いつの日にか王が、一人の人間として己の為に笑う姿を。
しかしその後……いや、もっと前から王の
宮廷では孤立し、
騎士たちからは疎まれ、
民からは恐れられてもなお、
私情を見せずに常に理想であり続けた王の事を青年は誇りにさえ思っていた。
彼は己の誓いを守り続けた。王を信じ続け、傍に在り続けた。それは常に公平無私であろうとして誰にも本当の顔を見せない王の人間としての笑顔が見たかったためでもあった。
──だが結局、他のどの騎士より身近に控え王の顔を見続けても、彼の王が『笑う』事などただの一度も無かった。
#
────深い、深い微睡みのなかにいる。
ふと目を開けると、そこは荒野であった。
頭上には炎の空。
足元には無数の剣。
世界は限りなく無機質で、生きているモノは誰もいない。
灰を含んだ風が、鋼の森を駆け抜ける。
剣は樹木のように乱立し、その数は異様だった。
実数など関係無く、人に数えきれぬのならば、それは無限であろう。
まるで墓標の様に広がるその異様な光景を、見たことのない筈のその光景を
────何故、自分自身と重ねてしまうのだろうか?
それに応えるように、何処からか幻のような声が聞こえる。
────ほら、だってそこには確かに在るのだから。
無限の剣の中に、佇立する一本の剣。
彼の聖剣が『人々の願いの結晶』であるとするならば、それはきっと、『少女の決意と理想』なのかもしれない。
歩みを進める。
その剣の輝きは彼の剣がそうであったように、決して、損なわれることなどない。
俺は、その輝きに触れようとして────
#
「…ん………」
────太陽の光が差し込んでくる。
もう少しだけ眠りの余韻に漂っていたいという欲を押し退け、両眼を開く。
どこかの部屋だろうか。眼前には天井が広がっている。
それをボーッと眺めながら、未だ働かない脳を必死に動かす。
そう、確か俺は気がついたら砂漠にいて………歩いていたら、とんでもない怪物に襲われて……なんとか凌いだと思ったら人を見つけて……
そこまで思い出してはたと気づく。そうだ、あの時襲われていた少女を助けてそのまま倒れ込んだのだった。
あの聖杯戦争の時とはまた違った非現実感故に、まさかここは冥界なのでは、なんて思考が頭をよぎるがすぐに否定する。
流石にそんなことはあり得ないだろう。というか、俺にとっての冥界は遠坂のいる場所な気がする。あいつのうっかりで何度か本気で死にそうになってるからな……
それに死んでいたら、すぐ傍に感じるこの温かな熱を感じ取れる筈…が……
すやぁ~
と、まさにそんな寝息がすぐ傍から聞こえてくる。慌てて上体を起こしてみると、
一人の少女がとても気持ち良さそうに寝ていた。
よく見てみると、先程助けた少女のような気がする。きっと彼女が助けてくれたのだろう。
俺が怪我をした場所には、包帯が巻かれている。その歪な巻き方から、慣れないながらも懸命に手当を施してくれたことが見てとれる。
────それにしても、本当に気持ち良さそうに寝るんだな。
このまま微笑ましい光景を眺めていようかなどと考えもしたが、そうは言ってもいられない。
起こすのは非常に忍びないが、この状況を把握しなくてはいけない。俺は出来る限り優しく彼女を起こす。
「おーい、すまないが起きてくれないか?」
「んっ………いけませんファラオ、そのように、私の髪を引っ張られては……
それは耳のように見えるかも知れませんが、ホルスを表した魔術触媒……決して寝癖では…………はぅ…」
………思ったより厳しい闘いになりそうだ。というか、一体どんな夢を見ているのだろうか。
#
「なぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
――俺の数分間における激闘(?)の末にようやく起きた彼女が発した第一声がこれである。
流石にこれはこちらも困惑するというものだ。とりあえずパニクっている彼女を落ち着かせなくては
「お、落ち着いてくれ!」
「はぅぅ………まさか、こんな姿を見られるとは……やはり私は未熟…この様ではファラオに顔向け出来ませぬ………」
何だろうこの感じ、パニクった桜と少し似ている気がする。
「な、なあ」
「そこの貴方!」
「な、なんだ?」
突然の返しにやや気圧される。彼女は何故か顔を赤くして言う。
「さ、先程の不敬は特別に不問とします!だから、誰にも話すことはないように!良いですね!?」
「わ、わかったからその、色々と教えてくれないか?こっちは正直何がなんだか」
どこかぎこちないムードながらも、どうにか本題に辿り着くことができた。
「む、そうですか。確かに二日も寝ていて、いきなりこんな素晴らしい神殿にいては困惑もするというものですね。では、特別に説明して差し上げましょう。ここはファラオ・オジマンディアスの偉大なる神殿です」
「ちょっと待ってくれ、俺が倒れてから二日も経っているのか?」
「えぇ。その…貴方が私を庇って倒れてから敵を退けた後、このまま放っておくのもあれだったので私の部屋へ。怪我自体は私の治療でどうにかなったようですがなかなか目覚めず……」
「そうか………ありがとう、助けてくれて」
「えっ…!……えぇ。当然ですとも、感謝なさい。」
少し驚き顔を赤らめた後、ふふん、と得意げに彼女は言う。
こういうところは、少し遠坂にも似ている気がする
「えっと話を戻すと、ここはファラオ・オジマンディアスの神殿って言ってたよな?ということは、この場所では今、聖杯戦争が行われているのか?」
オジマンディアス───確か、ラムセス2世とも呼ばれているファラオだ。俺が知っていることは、妻がネフェルタリだとか、あのモーセの出エジプトの時のファラオだったらしいとかその程度だが。
そんなファラオがいるってことは、必然的にここは紀元前13世紀頃のエジプトか、聖杯戦争が行われている地かのどちらかだろう。
遠坂に聞いた話では、冬木の聖杯戦争というのはマイナーではあるが、聖杯そのものはそれに類似したものが多く見つかっているらしい。冬木の聖杯が汚染されていたのは特殊な例であって、通常は願望器としての役割をちゃんと果たせるとか。
「聖杯ですか。確か聖杯ならば、ファラオがお持ちの筈ですが」
「へ?」
……何か、さらっとトンデモナイことを聞いた気がする。聖杯を持ってるだって…?ということは、オジマンディアスとそのマスターが既に勝者だってことか?
聖杯戦争はもう終わったのだろうか?………少し混乱してきた。見た感じでは、少女もそこまで事情は知らない様子だ。
「あ」
「どうしたのです?」
「───名前。君の名前をまだ聞いてなかった」
「む、成る程。先程からの不敬な態度は、私の名を知らなかったからなのですね。
───我が名はニトクリス。キャスターとして現界したファラオなのです!」
「なっ、君もサーヴァントだったのか!?」
「今更ですか!?というか、サーヴァントについて知っているなら貴方は魔術師なのでしょう?魔力を見ればすぐに分かるのでは?」
ぐっ、痛いところを突いてくる。何せ俺は、遠坂が魔術師だってことにすら気づかなかったへっぽこ魔術使いだ。
まぁ、サーヴァントかどうかの区別すらつかなかったのは、この地の魔力の密度が高くて感覚がやや麻痺しているのと、彼女の言動が俺の知っている英霊の姿とややかけ離れていたのもあるのだが。
それにしてもニトクリスか、正直余り聞いたことのない名だ。
────でもきっと、良いファラオだったのだろう。
俺はニトクリスに向けて手を差し出す。それを見たニトクリスは不思議そうな顔をしていた
「ああ、これは握手って言ってな。挨拶をするときにするんだ。」
「成る程…では」
そう言ってニトクリスはぎゅっと俺の手を握る。
「改めて、助けてくれてありがとう、ニトクリス。俺の名前は士郎。衛宮士郎だ」
「えぇ。こちらこそ、あの時助けてもらい感謝しています。…士郎」