もしマーリンが6章でやる気をそれなりに出したら 作:カキツバタ
ぐだイベがとても楽しみ。以蔵がかなり好き。
調べてみると、想像より劣悪ではないらしき古代エジプト人の暮らし。
今回は割と説明回
───照りつける太陽の下、街は喧騒に包まれる。
日干しレンガで作られた建物が連なり、その間を多くの人々がせわしなく行き来している。
周囲を見渡せば、酒を飲みながら談笑する人々、無邪気に駆け回る子ども達。洗濯をしている人や香辛料を売っている人。
街は活気があり、中には高齢な人の姿も見受けられる。
その光景に、俺は衝撃を受けていた。
────古代エジプトってこんなだっけ!?
古代エジプトの人々の生活はなかなか焦点があたることも少ないが、やはり有名なのはピラミッド労働だろう。
年中奴隷のように石材を運び続け、建設に携わる。
それを何年も続けるのだ。その過酷さは筆舌に尽くし難い。
そこで負傷してしまう人々も多く、古代エジプトの人骨の多くは骨折の跡があったとか。
それゆえ、エジプト人は短命であるとまで言われていたのだ。
それを知っているがゆえに、眼前の光景が余りに想像と乖離し、衝撃を隠せない。
──いや、確かにパピルスには二日酔いなどを理由にピラミッド労働を休んだ人もいたと書かれていたというが。それとこれとはまた違うような……
そこまで思い至ってはたと気づく。
───そうか、今この地には「建てるべきもの」がないのか。
古代エジプトの民衆の仕事といえばやはり建築が浮かぶが、その建築の必要性がない今、人々の暮らしは思っていたものよりも普通のものなのかもしれない。
………むしろ、古代エジプトにおいて建築がこれ程人々の生活を左右していたのだと考えると恐ろしくもあるが。
「ふふっ、驚きましたか?これが栄華を極めた古代エジプトの姿です」
いつのまにか隣にいて自慢気に語るのはニトクリス。
「あぁ。俺はてっきり神殿か何かの建設でも手伝わされるのかと思ってたよ」
「確かに古代エジプトでは建設に関わる重労働が日常化していたのは否定出来ません。ですがこのエジプト領は建設王ともよばれるファラオが作られた土地。ファラオの御力によって既に完成しているため、人々はその恩恵を享受して暮らしているのです」
「ん?ちょっと待ってくれ。『作った』ってどういうことだ?」
「言葉通りの意味ですが?ファラオは十字軍から聖杯を奪い、このイェルサレムの地にエジプト領を作られたのです」
「イェルサレム!?」
突然の衝撃事実に驚きを隠せない。てっきりテーベやカイロだと思っていたのだが。
そういえば、すっかり失念していた。俺はオジマンディアスに此処が何時の何処で、今何が起こっているのかを教えてもらおうとしていたのだった。
しかし怒らせてしまった矢先、今オジマンディアスにそれを訊ねるのは憚られるというものだ。
「………なぁ、ニトクリス」
「?」
「その、わかる範囲で良いからこの世界について教えてくれないか?」
「良いですが………妙なことを訊ねるのですね」
そうだった。俺はまだニトクリスにも俺が並行世界の住人であると告げてはいなかった。
伝えようかと口を開きかけるが、思い留まる。
俺が古代エジプトの光景を見て混乱しているだけで、実は同じ時代の違う場所────並行世界への移動ではなく、ただ転移してしまったという可能性もある。
話を訊いてからでも遅くはないだろう。
「あぁ。すまないが、よろしく頼む」
「えっと、この世界についてですね。まず、ここは西暦1273年のイェルサレムです」
この地がイェルサレム──エジプトではないのには驚いたが、時代を知った衝撃はそれを上回るものであった。
1273年。俺のいた時代から730年近く前の時代だ。
これでほぼ俺は並行世界、しかも過去の時代にやって来てしまったことが確定してしまった訳だ。
───自分のいた世界の過去にタイムスリップしたとも考えられるが、
遠坂によれば過去で何かが変われば───俺がこの時代にやって来た時点で、その世界は既に自分のいた世界から分岐した並行世界と言えるらしい。
「次にエジプト領についてですが、事はイェルサレムに聖地奪還のためやって来た十字軍が、ファラオ・オジマンディアスを召喚したことから始まりました」
この年の十字軍となると、恐らく八回目か九回目辺り
────十字軍が終わりを迎えるころだ。
第八回は確か、フランスのルイ9世が出兵したものの途上で死亡してしまったのだったか。
第九回は、マムルーク朝がアンティオキアを陥落し滅亡させたことがきっかけでイングランドのエドワード1世とルイ9世の弟シャルル・ダンジューがアッコンに向かったが、結局成果を収めず撤退。
その後十字軍国家は急速に衰退の途を辿り全滅
────まさしくこれが、最後の十字軍といえる遠征だろう。
「十字軍は土地を焼きながら聖地へと向かっており、それを見兼ねたファラオが聖杯を十字軍から奪い、その力をもってしてエジプト領を作ったのです」
土地を焼いた?
確かに十字軍は本来の目的を見失っていた節もあるが、侵略はまだしも土地を焼くなんてことをするのだろうか。
やはりこの世界の十字軍は俺の知る十字軍とは何かが違うのかもしれない。
「ん?もしかして、俺がニトクリスと出会ったときに戦ってたのって…」
「ええ。恐らくは十字軍でしょう。ファラオから聖杯を取り返そうとやって来たようでしたが……
えぇ。あのような不敬な者どもは、ファラオの御力添えなくして私が倒してみせましたとも!」
と、得意気に語るニトクリス。
あの大人数を相手にして勝ったのだ。やはり彼女もサーヴァントなのだなと実感する。
すると、ニトクリスはふと何か思い至ったのか視線を逸らしながら呟く。
「いえ……その…とはいえ私が潜兵に気がつかなかったのも事実……私は未熟とはいえファラオ。
あの程度の攻撃ならば、たとえ受けたとしても平気ですが……それでも、貴方には感謝していますとも」
「そんなに気にしなくても良いって。大したことなかったんだし。だから、
────傷ついても良い、なんて言わないでくれ」
「……!!」
ニトクリスは顔を赤らめて固まった。
暫しの沈黙に耐えかね、俺は口を開く
「……おーい、ニトクリス?大丈夫か?話の続きをだな…」
「……はっ!そうでした。えっと、話の続きですね!」
「あぁ。十字軍は確かあの時魔術王がなんたらとか言ってたよな?あれって……」
「私もよくはこの世界のことを知りませんが、それでも見当はつきます。
魔術王───そう呼ばれるであろう者といえば、魔術の祖とも謳われる彼の王
────ソロモン」
旧約聖書に登場する、魔術の祖と謳われイスラエルを最も発展させた古代イスラエルの第三代王。
「ソロモンの大いなる鍵」「ソロモンの小さな鍵」なども有名で、「ソロモンの小さな鍵」は72柱の悪魔の召喚及び使役について書かれているという。
ある時、ソロモンは神に「汝の望みを叶えよう」と言われた。
そこでソロモンは黄金や権力ではなく知恵を求め、この返答こそが「真の叡智」に至る資格の証左であるとして満足した神から十の指輪を与えられた。
それが有名なソロモンの指輪。
しかし、彼の王は魔術を使わないまま魔術の王として近隣諸国に名を広め、賢王のままこの世を去った。
────神代を終わらせ、これからは人間の時代だとそう告げるかのように。
……しかし、魔術王にすべてを捧げるだったか。
確かにイエス・キリストはソロモンの子孫にあたる存在だと言われている。故にキリスト教徒である彼らがそう言うのもわからなくはないのだが、彼は異国の妻が原因で異国の神々に従うようになり、主の怒りを買ったとされ、キリスト教徒の中にも彼に対して厳しい意見を持つ人もいたとか。
やはり讃えるとすればソロモンよりも、イエス・キリストの方がしっくりくる。
「うーん。やっぱり聖杯が関係してるのか?」
「考えごとも結構ですが、着きましたよ」
俺たちが到着したのは、比較的大きな建物。中からは喧騒の音とともに酒と食べ物の香りが漂ってくる。
「此処ってもしかして…」
「ええ。食堂です。皆で酒を飲み、語らう場。当時のエジプトにはこのような場は少なかったのですが、この完成された街だからこそ必要になったという訳なのです。しかし、なにぶん人手が足りておらず……士郎、料理の経験は?」
「一応、それなりには」
環境が環境だったので、俺はほとんどの家事を小さい頃からこなしていた。
それくらいしかやることもなかったので、特技と言える程度には出来ているつもりだ。
「ふふっ。私の見立ては間違っていなかったということですね!
貴方にはこれから基本的に此処で働いて貰います。よろしいですね」
「あぁ。わかったよ。ここまで世話になってるんだ。精一杯働くさ。
──じゃあまたな、ニトクリス。此処まで連れてきてくれて、あと色々教えてくれてありがとう」
俺は彼女と別れ、仕事場へと足を踏み出す。
────こうしてエジプトでの日々は始まった。
型月って割とブーメラン発言多い気がする
設定は取り敢えず展開に合わせます。余りに矛盾してなければ気にしないで貰えると幸いです。
追記
次は少し遅れます。7月上・中旬を目処に投稿予定です。