もしマーリンが6章でやる気をそれなりに出したら   作:カキツバタ

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料理は良い文明

「さて……あれから一月。無事だとよいのですが……」

 

ニトクリスはエジプト領の街の中を歩んでいた。

行き先は勿論、この街唯一の食堂。

一月前に出会った士郎が働いているはずの場所だ。

ニトクリスはエジプト領の守護という任務もあり、ファラオ・オジマンディアスの許可なく訪れることは躊躇われなかなか顔を出せずにいたが、今回様子見をファラオ・オジマンディアスに命令されたのだ。

ちなみに街中に突如ファラオが現れては人々が混乱するだろうとニトクリスは白いローブを纏っている。

 

食堂の亭主であるダリルは厳しい人物だ。必要ないと判断されれば追い出されても可笑しくはない。とはいえダリルもあまり表には見せないが心優しい一面もあるという。士郎を見捨てるようなことはないだろうが、それでも心配なものは心配なのだ。

 

それに、今回の様子次第でダリルは見捨てていなくともファラオ・オジマンディアスが不要と切り捨てる可能性もあるのだ。

 

そんな不安感を抱きながらも、ついにニトクリスは食堂に辿り着く。

 

「───へ?」

 

食堂の前───そこには老若男女関わらず大勢の人々がたむろし、列を成していた。

 

想像以上の盛況っぷりに開いた口が塞がらない。古代エジプトでこれほどまでに人々が集うことなど滅多になかったのだ。

 

「なっ、前と比べてなんという盛況っぷり!?これは…」

 

「ん?ニトクリス?」

 

食堂から顔を出したのは見覚えのある赤みがかった髪と琥珀色の瞳の青年。

 

「士郎!」

 

良かった。どうやら彼は無事だったようだ。先程までの不安は払拭され、思わず安堵する。

 

「よく考えてみると久しぶりだな。もう1ヶ月位経つのか」

 

そうですね、とそう応えようとした矢先、食堂から人影が飛び出してきた。

 

「シロウーー!!!」

 

人影はそのまま士郎に勢いよく飛び付いた。

 

「うぉっ!……ってニーナか。仕事はどうしたんだ?ダリルさんに怒られるぞ」

 

「ううん。マスターに休憩もらったから大丈夫!」

 

士郎にニーナと呼ばれたのは黒髪で藍い瞳をした褐色肌の少女。

 

「全く……ダリルさんも子供には甘いなあ…」

 

「シロウが言えたことじゃないでしょ。シロウはみんなに甘すぎるんだから……この前のことだって…」

 

「あー、あの時は悪かったって。それより、レリスさんがニーナのこと褒めてたぞ。また接客の腕が上がってるんじゃないか?」

 

「えへへ」

 

士郎が少女の頭をくしゃっと撫でる。すると少女は嬉しそうに笑っていた。

 

「な…」

 

「?」

 

「何を少女とイチャついているんですかーーー!!?」

 

「別にイチャついてなんかいないぞ?…そうだよな?」

 

「…?うん!」

 

間の抜けた顔で否定する士郎と、よくわかっていない様子の少女。

 

「だからそれがイチャついていると……はぁ」

 

此方はずっと心配していたというのにこれである。士郎が相変わらずなのは安心したが、此方の心配も余所に少女と戯れられていれば込み上げる思いもあるというものだ。

 

「ねえシロウ。あのおねーさんって……」

 

「あぁ、そっか。そういえば初対面だったな。…………うーむ」

 

士郎はふと何かに気づき、考え込む素振りをした後、ニトクリスに近づき

 

「……なぁ」

 

「?」

 

「今更だけど、真名でいいのか?いや、俺の知ってる聖杯戦争ではみんなクラス名で呼んでたから」

 

思わぬ質問にニトクリスはわずかに首をひねる。

 

「良いと思いますが?私はファラオ。少なくともエジプト領においては私の名は知れ渡っているも当然ですから。………当然、ですよね…?」

 

街中へはあまり足を踏み入れず、今も身を隠していたためにニトクリスは思わず不安に駆られる

 

一方、その答えを聞いた士郎は安心したようにうなずいた後、少女の方を振り向き

 

「そうか。ニーナ、彼女はニトクリス。俺を助けてくれた人で、ファラオだ」

 

それを聞いた瞬間、少女の藍い瞳が驚愕で見開かれる。

 

「え!あのニトクリスさまなんですか!?」

 

期待の眼差しを向ける少女。ニトクリスはその視線を受けて自信を取り戻したかのように応える

 

「……えぇ!あのニトクリスですとも!」

 

「わぁ~はじめて見れた!お会いできてうれしいです!」

 

少女から向けられる尊敬の目差しにニトクリスはまんざらでもない様子で

 

「えぇ!えぇ!そうでしょうとも!ふふっ」

 

先程の不安げな様子は何処へやら。ニトクリスは少女の頭をなでなでし始めた。

 

するとその少女が自己紹介をしていないことに気づき、

 

「私、ニーナって言います。シロウに拾われて今は此処でうぇいとれす?をやってます!」

 

そうだよね?と、慣れない言葉を不安そうに士郎に確かめるニーナ。

そうそう、ウェイトレス。と、士郎はうなずく。

 

「拾った?」

 

「あぁいや、別に拾ったつもりはないぞ?ただ働いてみないかって誘っただけで」

 

「死にかけていた私を助けてくれたのがシロウとマスターなんですよ」

 

「全く……ニーナのことといい、この店の繁盛具合といい、一体一月の間に何があったのだか…」

 

「おい、シロー!ニーナ!」

 

と、店の中から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「おっと、ダリルさんが呼んでる。行くぞニーナ」

 

「はーい!」

 

二人は急いで食堂へと向かう。すると、士郎が振り返り

 

「あぁ、ニトクリス!良かったら何か食っていってくれ!」

 

と言って中へと消えていった。

 

他にも色々と聞きたいことがあったのだが、仕方がないだろう。

 

「…そうですね。折角やって来たのですから、士郎の腕を確かめなくては!」

 

 

#

 

 

 

 

「いらっしゃい!……ってニトクリス様!シローとニーナが外にいたのはそういう訳か」

 

「お久しぶりです。ダリルも相変わらずですね」

 

食堂に入ったニトクリスのもとへやって来たのはこの食堂の亭主であるダリル。

 

「いえいえ……にしてもシローは凄いですよ。一体何者なんですかあいつは。俺達が考えもしなかった料理を作って、しかもとんでもなく美味いときた。お陰で店は大繁盛、一月前にオジマンディアス様には人手が足りないと訴えたんですがね。まさかやって来た人手によってさらに人手が欲しくなるとは……いやはや、うれしい悲鳴ですよ」

 

「…ダリルも変わりましたね」

 

以前話した時と比べてどこか丸くなったというか、優しくなったというか。

 

「そうですか?いや、以前はファラオに直々に食堂の主を命じられたプレッシャーで他の奴等にも厳しく当たってしまってたんですが、シローの奴に『ダリルはいつも険しい顔をしてるから、もっと普通にしてた方が繁盛するんじゃないか?』なんて言われましてね。少し気は楽になりましたけど」

 

その話に思わず微笑みがこぼれる。

 

「えぇ。今のダリルはとても良い顔をしていますよ。しかし……それほどまでに美味しいのですか?士郎の料理は」

 

「そりゃあもう。それを確かめるために来店されたんでしょう?」

 

そういってメニューを差し出すダリル。

 

「そうですね…………では────」

 

 

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

 

 

「────という訳で、士郎の料理はとても美味なもので……」

 

「────む。」

 

「街の人々も皆大変しあわせそうに……」

 

「────むむ。」

 

「それでですね。このことから判断するに、士郎の働きは十分に評価に値するものかと……」

 

「────ニトクリス」

 

「は!何でしょうか、ファラオ!」

 

あれから神殿に戻り、ニトクリスは街の現状、食堂が繁盛していることや士郎の料理の美味しさをファラオ・オジマンディアスに語っていた。

 

これでファラオが士郎を認めてくれると良いのだが、などと考えていた矢先、ファラオがその口を開いた

 

「────連れて参れ」

 

「は?」

 

「うむ。その料理とやらをこの神たるファラオに献上する栄誉を与えると申しているのだ」

 

……つまり、士郎の料理が食べたくなったということだろうか?

 

「かしこまりました!直ちに!」

 

 

 

#

 

 

 

 

「────ということなのです」

 

「オジマンディアスが、俺にか?」

 

再び急いで食堂へ戻り、ダリルに話を付けて士郎を呼んでその経緯を話した。当の士郎は未だ状況を把握していない様子である。

 

「えぇ!光栄に思いなさい!さぁ行きますよ!」

 

そういって士郎の腕を掴んで引っ張る。

 

「えっちょっと、いきなりか!?」

 

「仕方がないでしょう!私が『直ちに』と応えてしまった以上、すぐに準備をしなくてはファラオに顔向け出来ません!食材は一級品を大至急用意させましたから!」

 

全く有能なんだか、うっかりなんだか……

 

士郎は溜息をこぼしながらもニトクリスに連れられ、神殿へと足を進めた。

 

 

 

 

#

 

 

 

 

「ほぅ。これがそなたの料理か」

 

オジマンディアスの前に並べられたのは彩色鮮やかな料理の数々。

 

「ファラオの口に合うかは分からないけどな。ま、取り敢えず食べてみてくれ」

 

オジマンディアスはうむ。と、その料理を口にする。すると、オジマンディアスは暫く無言で食べ進める。

 

ニトクリスがファラオを怒らせないかとドキドキしながらその光景を見つめる中、オジマンディアスが口を開く。

 

「────美味い」

 

「……そっか。良かった」

 

その言葉に士郎とニトクリスは不意をつかれたように少し驚き、そして安堵の表情をみせる。

 

「何だ、その顔は。ファラオたる余からの褒め言葉だ。光栄に思うがよい。よもや余がこのような言葉を口にするとは思っていなかったか?」

 

「まあ、確かにここまでストレートな感想がくるとは思っていなかったけども」

 

「余はファラオの中のファラオ。寛大なる王である。褒めるに値する成果をあげれば褒めるのは当然であろう?その程度のことも出来ぬ器の小さい者が王、ましてやファラオの中のファラオなどと名乗れる筈もあるまい」

 

「流石はファラオ・オジマンディアス。王のなんたるかを心得ていらっしゃる…!」

 

オジマンディアスは少しの逡巡の後、口を開く

 

「ふむ、そうだな。そなたにはこの神殿にて料理を作り、余に振る舞う権利を授けよう」

 

いわゆる宮廷料理人、というやつだろうか。これはファラオ・オジマンディアスが士郎を認めたということに等しい。しかし…

 

「………………」

 

「どうされたのです?ファラオに認められたのですよ。断る理由などないでしょう?」

 

「────いや。悪いがその話は断る」

 

士郎の口から発せられたのは拒否の言葉。

ニトクリスは驚き、オジマンディアスは士郎を見定めるかのように見つめる。

 

「なっ!?」

 

「────ほぅ。ではその故を申すが良い」

 

「ああ。……エジプト領は完成された土地だって、そう言ってたよな。

────けど、この土地にも苦しんでいる人々がいた。飢えで死にそうな人、生きるために略奪を繰り返す人。そんな奴等を俺は知っている。

……別にエジプト領を否定している訳じゃない。苦しむ人々がいない世界なんて作るのは困難だ。古代エジプトにはそんな人々はもっとたくさんいただろう。それに比べればこの土地は遥かに良い場所だろう。けれど、それでも

 

────俺は目の前で苦しんでいる人々を、仕方がないと諦めることは出来ない。

 

あの食堂はやって来る者は拒まない。そしてやって来た客には必ず料理を食べてもらう。いや勿論、対価は必要なんだけどな。

俺はあそこでたくさんの人々を見てきた。苦しんでいた人々が『ありがとう』と口にしてあの食堂を去っていく光景を。

───俺はまだ、あそこでやるべきことがあるって、そんな気がするんだ」

 

暫しの沈黙の後、オジマンディアスが口を開く

 

「────名を。」

 

「え?」

 

「そなたから名を聞いたことが無かったと、そう思ったのだ」

 

「────士郎。衛宮士郎」

 

「そうか────では士郎、そなたを認めよう。好きにするが良い

 

────そして、己が正義を示せ」

 

 




士郎が何の料理を作ったかはご想像にお任せします。

一ヶ月の間に起こったことは後々明らかになります。

次回辺りからあの人が動きそうです
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