専業主夫になった比企谷八幡が浮気するお話。   作:ハーミット紫

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二話

結論から言うのならば、意外なことに許可は降りた。

 

「……いいよ。昔の知り合いも来るんだよね?

八幡も偶には会いたいよね」

 

といのりから許可が降りたにはいいものの、この時の苦虫を噛み潰したかのような表情に幾許か後髪を引かれた。

しかし、俺も久しぶりの外出だ。少しは期待が高まっているのは許して欲しい。

葉山達の結婚式を明日に控えた夜。会場で会えるであろう懐かしい面々に少しは期待が高まる。

俺みたいなやつでも知己に会えるとなると機嫌が良くなるようだ。

その自覚もあった。そして、それが恐らくはいのりの心の何かに触れたのだ。

 

その日の夜。彼女は俺を激しく求めた。

よりにもよってこんな日にと思う俺とは裏腹に、いのりは止まらなかった。

ネクタイを緩め、ボタンを一つ外すと見えるであろう位置に痕が残った。きっと狙ってのことだろう。

今となっては収まりを見せていたいのりの独占欲は、俺が旧知と会うと知るや再び燃え出したのだろう。

こんな所に痕があればネクタイを緩めるなんてことまず出来ない。式が終われば直ぐに帰路に付かなくてはならないだろう。

…きっと俺がこう考えるのもいのりの思惑の内なのだろう。

 

「我が妻ながら恐ろしい…」

 

下りのエレベーター内で1に近づく数字を眺めながらボヤく。

それでも久しぶりの外出なのだ。少しは楽しむことにしよう。

一先ずの目的地は奉仕部の面々+αが集まる千葉駅だ。何年かぶりに由比ヶ浜から連絡があり、出席するのなら一緒に行こうと誘われたのだ。

特に問題も無く千葉駅に到着し、既に到着しているという面々を探す。

 

「せんぱーい!こっちですよ。こっち!」

 

俺が見つける前にあちらが気づいてくれたようだ。大きく手を振って存在を教えてくれる。

懐かしい呼ばれ方だ。そういえば俺をこう呼ぶのは結局大学に行ってもこいつ1人だけだったな。

その仕草や声が懐かしく、微笑ましい。

 

「よう一色。お前は相変わらずな感じだな」

 

「なんですかそれ、久しぶりの会う可愛い後輩に向かってヒドくないですか!?

こっちは久しぶりに奉仕部の皆さんに会えるの楽しみにしてたのに、開口一番それですか!?

もうちょっと優しくしてくださいよ〜」

 

そう言って俺の腕を取り左右に揺らす。

やはりあざとい。しかしそんな事は口に出さず、久しぶりの会話を楽しむ。

 

「悪い悪い、つい懐かしくてな。

久しぶりだな一色。元気そうで何よりだ」

 

「はい、お久しぶりです先輩」

 

微笑む一色は年相応の落ち着きを見せている。

きっと皆が当時のように振る舞えるように、こういう役目を買って出てくれているのだろう。

全く、後輩ながら頭が上がらない。

 

「やぁ、比企谷。久しぶりだな。

君も元気そうで何よりだ」

 

「平塚先生!お久ぶりです。

今日はわざわざ車を出して頂いてありがとうございます」

 

「気にすることなない。

どうも私はこういう役に回ることが嫌いではないらしくてな」

 

平塚先生は3年の頃に俺達の担任を努めてくれた。

今回、式に招待されているのもそのためだろう。奉仕部の面々が集まる珍しい機会とあって自ら車を出すことを提案してくれた。

相変わらず尊敬できる先生だ。

 

「ヒッキー!やっはろー!

久しぶりー!!」

 

やたらハイテンションに声を掛けて来たのはきっと由比ヶ浜だ。

振り返らなくてもわかる。ってか君まだその挨拶してるの?

 

「久しぶりだな。由比ヶ浜。

葉山達に住所を教えたのおまえだろ」

 

「そうだけど、どうして久しぶりあってすぐそういうこと聞くかなー?

ヒッキーそういうとこ変わって無い」

 

「いや、そのおかげでこうして集まれたから礼を言っておきたかっただけなんだが…」

 

「あぁ、そうなんだ。

てっきり怒ってるのかと…早とちりしちゃった」

 

「すまん、俺も言い方が悪かった。

ありがとうな由比ヶ浜。こうして皆で会えて嬉しいよ」

 

「うん、どういたしまして!

けど、ヒッキーが素直にお礼言うなんてなんか違和感だね」

 

「ほっとけ」

 

「そうやってソッポ向くのは変わらないね。

懐かしいー!」

 

そう言って由比ヶ浜は俺の頬を突ついた。

何この娘。酔ってるの?それともシラフでこれなの?

まぁ、久しぶりなので分からなくも無い。かく言う俺も少し浮き足立っているだろう。

 

「そういえば雪ノ下は一緒じゃないのか?」

 

ふと1人足らないことに気づいた。

 

「ゆきのんは家族も式に参加するから行きは家族とだって!」

 

「なるほどな。ならこれで全員か。

戸塚が来れないのが残念だな」

 

「彩ちゃんどうしても外せない用事があるんだってね。

久しぶりに会いたかったね」

 

「あぁ、本当に残念だ」

 

「先輩、落ち込み過ぎて若干キモいです。

しょうがないじゃないですか用事があるんですから」

 

だって戸塚だよ?

まぁ、祝う側の人間がいつまでも落ち込んでは居られないから切り替えていくしかないか。

 

「では揃ったことだし駐車場に移動するぞ。

せっかくの目出度い席だ。久しぶりの再開で気持ちが弾んでいるのはわかるがあくまで私達は祝う側だ。あまりハメを外さないように」

 

「先生。なんか先生みたいですよ?」

 

「一色、君は失礼だな」

 

隣にいた由比ヶ浜が昔友達の結婚式でハメを外し倒して危うく絶好されそうになったそうだと教えてくれた。

じゃあ、今のひょっとして自分に言い聞かせていたんですかね?車を出すのも自制せざるを得ない状況にするためなのでは…先生ェ

道中は問題なく、少ない移動時間で会場に到着した。

会場は大勢で賑わっていた。

結構な人数だ。俺の時はもっとこうこじんまりしていたと思うが…いやよそう。これ以上考えるにはきっと良くないことが起こる。間違いない。

 

「凄い人数ですねぇー。先輩の時とは大違いですね。

やっぱり友達が居るのと居ないのじゃ差が出ますね。しかも、寄りにもよって葉山先輩ですし」

 

「おい、やめろ」

 

「優美子と隼人くんだしね。

これくらいには当然かも…」

 

そういう由比ヶ浜も人数の多さに驚いているようだ。一色も驚いていたし、葉山達の式が特別多いだけなのかもしない。

なんだ。焦って損したわ。

そういえば親父がクラスメイトってだけの関係だけだったのに、結婚式の招待状送って来るやつがそろそろ出てくるから気をつけろって今年の正月に言ってたな。

 

「ん?平塚先生どこいった?」

 

「先生ならあそこで捕まってますよ。教師も大変ですねー」

 

そう言って一色は指差した方向で平塚先生は結構な人数に囲まれていた。

まぁ、当然か。良い先生だし、きっと色んな生徒に好かれていた筈だ。

困ったように笑う平塚先生だが、きっと嬉しいに違いない。

 

「お前も混ざって来なくて良いのか?

良く知らんが、多分サッカー部の連中じゃないのかあれ」

 

「いやー、折角若い男連中に囲まれているのを邪魔するのも何じゃないですか?

あの中にもしかしたら平塚先生のことを狙ってる人がいるかもしないですし、それを考えたらとてもとても…」

 

そう言った一色に自然と首肯していた。

そう考えると男性陣が少なく感じてきた。

左舷、弾幕薄いよ!何やってんの!!囲め囲め!

そして出来たら貰ってやって下さい。

 

「2人ともなに黄昏てるの?」

 

「由比ヶ浜…平塚先生はもう駄目だ」

 

「へ?…あー、囲まれちゃってるね。仕方無いよ。

私達だけでゆきのんに合流しようか」

 

「そうですね。受付済ませて合流しましょう!

平塚先生にはメールか何か入れておけば大丈夫でしょうし」

 

「それもそうだな」

 

そうして三人で受け付けを済ませる。

途中何人かに声を掛けられる。もちろん俺以外の2人がだ。

そうしていると由比ヶ浜が雪ノ下を見つけた。

 

「あっ!!ゆきのんだー!久しぶり!」

 

「雪ノ下先輩お久しぶりです!」

 

「えぇ、本当に久しぶりね。会えて嬉しいわ」

 

雪ノ下を遠目に見つけた由比ヶ浜が一色を引っ張って一足先に合流した。

相変わらず仲の宜しいことで。

 

「久しぶりね。比企谷くんも…貴方の式以来かしら?」

 

「…そうだな。久しぶりだな」

 

「貴方がまさか専業主婦になれるなんて今でも少し信じられないわ」

 

「安心しろ。俺も実感がない」

 

あの生活は本当にそういう関係性のものなのだろうか?

まるでペットのようだ。何もかも受動的にただ生活をするだけの日々。

 

「…?」

 

「こんなこというと、怒られるな。

まぁ、平穏な生活を送っているよ」

 

「…そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういって笑う比企谷くんの表情は馴染みのないものだった。

けれど、一度だけ見たことがある。彼の結婚式の時だ。

その時も彼は祝いの言葉を受け取りながらこんな表情をしていた。

 

「…そう」

 

返事はしたけども、本当にそう思っているの?

その疑問が胸の内から溢れて尽きない。

彼の奥さんのいのりさんは、大学生になった彼の前に唐突に現れたように感じた。

それぞれ進路は違えども、奉仕部の3人は良く顔を合わせていた、

その回数が目に見えて減り出したのが、彼女が登場してからだ。

 

「面倒な奴に懐かれた」

 

回数が減った集まりのなかで彼はそう言った。

二回生の秋のことだ。面倒見の良い彼のことだ。高校の頃のように振り回されているのだろう。

その時はそう思っていた。

三回生の春に、彼の口から俄かには信じ難い言葉が飛び出した。

 

「就職活動はしない。

…その、なんだ……結婚することになったんだ」

 

あの時を思い出すと、今でも胸が痛む。

相手は時々彼との話題に上がっていた面倒な奴と評された人。どうしてそんな人と…?

どうして?どうして私は……

それからは殆ど会うことも無く、大学を卒業することになる。

結婚すると聞かされてからは一度も彼とは会えなかった。電話もできなかったし、メールだってできなかった。

…それなのに結婚式には呼んでくれたのよね貴方は。

あれから更に数年が経った今日。やっと会うことができた。

ずっと、ずっとこの日を待ち望んでいた。

何をしたいかなんて、答えは持ち合わせてはいないのに。

 

 

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