初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりです。
前にとあるサイト(あれ?もしかして…消し忘れてる?)で書かせていただいていたオリジナル小説でございます。
そのサイトは様々事情で更新を停止しましたが、スマホのメモ帳に埋めておくのもなんかイヤなので投稿します。
どーせなら前に書いていたFateの二次もあげよーかなぁ
その日、黒木刀士は町の片隅にある公園へとバイクを走らせていた。
夜で視界がすこぶる悪いのを雨が更に視界を狭める。
路面は雨に濡れ、注意していないとスリップして怪我するのは間違いないだろう。
そんな悪条件の中、彼のバイクは決して遅くはないスピードを出していた。
彼がそこまでして公園に行くのは彼に仕事の依頼が入ったからだった。
刀士は駅から徒歩で十五分ほど離れた場所に店を構えている。
『アナタの町の頼れる味方』がキャッチコピーの店、「黒木屋」だ。
幅広い仕事を何でも(勿論、犯罪はNGだが)引き受けるのが売りの店。いわゆる、「何でも屋」である。
とある理由から知り合いになり、ほぼタダ同然で居候させて戴いている刀士の恩人とさえ言える人が刀士の為に作ったスペースで刀士が開いている店だ。
ご近所さんからの印象は…まあまあだと自負がある。
時には迷子のペットを追いかけたり、屋根の修理の手伝いをしたり、ホスト紛いの手伝いなども経験している。
自分に出来る限りの仕事は出来るだけ引き受けるスタイルが幸を奏したのか様々な人の助けを借りながらも僅か二年という月日で街ではそこそこの知名度の店となっていた。
そんな黒木屋に一件の依頼が入り、彼はこの場所に来ていた。
依頼の内容は『町はずれにある公園に幽霊がでるらしいのでその有無を確認して欲しい』と言うものだった。
正直、依頼内容も然ることながら、依頼者も何処か胡散臭いと感じていた。
依頼者は一見、眼鏡を掛けた四十代前半の初老の男性だ。
しかし、それはあくまで表向きの印象。
実際、目付きが鋭く、立ち振る舞いから何らかの格闘技を心得ているのは明らかだった。
(…幽霊?バカバカしい。いるなら見てみたいね。つか、どんな依頼だよ)
刀士は幽霊の存在など信じてはいない。
見たことがないからだ。
確かに信じている人間からしたら怖いのかもしれない。
だが、どうしても刀士には目の前にいる男が本気で幽霊を信じているとは思えない。
…寧ろ、この男相手なら幽霊のほうが逃げそうだなんて感想さえ抱いていた。
絶対に裏がある…
そう確信し、依頼を断ろうとした。
どう断るかを考え、断り方が纏まり刀士が依頼を断ることを切り出そうとした時だった。
初老の男は持っていたセカンドバックからとある物を取り出し、テーブルの上にドンッと置いた。
…札束だ。
それも一つではない。
初老の男は札束をテーブルの上に4つ、5つと積むと刀士に言った。
「全部で五百万円あります。 足りないのならばまだ用意できます。 どうかお願いします」
そう言って深々と頭を下げてきたのだ。
刀士が慌てて頭を上げるように言うと初老の男は素直にそれに従う。
その時に刀士の瞳に映った男の顔。正確には男の眼鏡の奥の瞳は真摯な願いを訴えていたと思う。
ふぅ、っと溜め息を一つ吐くと両手を上げた。
「…分かりました。俺の負けです。アナタの依頼、条件付きで良いなら引き受けますよ」
あんな真剣な瞳の人間の依頼を断れない。
そんな想いから出た言葉だった。
刀士は言い終わると同時に、テーブルの上に常備されているメモ帳に懐から取り出した万年筆をサラサラと滑らしていく。
数秒後、万年筆のキャップをカチッと鳴らし、先ほどまで文字を書いていたメモ帳を初老の男性の前に差し出す。
男は差し出されたメモ帳を見て、驚いた表情を作る。
そのメモ帳には男にしては綺麗な文字でこう書かれていた。
報酬は『百円』
「こんな依頼、ジュース一本奢ってもらえりゃあ十分ですからね」
刀士は笑みを浮かべながら言った。
それから依頼の報酬額で一悶着あり(何故か依頼人が報酬額が低すぎると拘っていた)、必要経費分だと十万円ほど無理やり押し付けられたことを除けば滞ることなく依頼を受理した。
すべての作業が終わり、依頼人の男が店のドアを開き帰ろうとしたところで何かを思い出したのか訪ねてきた。
「…黒木さん。自分で言うのも何ですが…何故こんな依頼を引き受けたのですか?」
男は鋭い視線を送っている。
それはまるで品定めをしているかのようだ。
しかし、そんな視線に刀士は怯えるはずもなく、素っ気なく返した。
「俺には貴方の目が真剣に見えてね。なら、騙されてやろうかなとか思ってしまいました。それに困っているなら手を貸すのが俺の仕事です」
そう、黒木刀士は金が欲しくてこの仕事をしているのではない。
自分にしか出来ない方法で人の笑顔をみたいからしている。
彼にとって依頼人の笑顔こそが何にも代え難い報酬なのだ。
その言葉を聞いて、最初はポカンとしていた男は徐々に笑いを堪えた表情になり、最終的には大声を出して笑っていた。
(…んなに笑わなくてもいいだろう)
正直、そんな風にも思ったが口には出さなかった。
確かに自分でも馬鹿らしく、稚拙で幼稚な考えかもしれないと思う。
子供ならまだしも刀士は既に二十歳を迎えている。
子供でいるには過ぎた年齢だ。
だが、その思いは嘘偽りなく彼自身が思う事で間違ってはいない筈だと胸を張って言える。
そんな自身の誇りとも言える思いを笑われたのだから刀士が腹を立てるのも無理はないだろう。
しかし、顔には出ていたらしく、男は「いやいや、すみません」と付き物が取れたかのようにさっきまでとは別の、心からの笑顔になっていた。
「黒木さん。今、貴方は困っているなら何でも仕事を引き受けると言ったような物なんですよ?…しかも最初に提示した金額が百円。商売する気があるんですか?」
「…この仕事は半ば趣味ですから。金なんて二の次ですよ」
「失礼ながらあなたの趣味とやらをお聞きしてもよろしいですか?」
「人助け」
「…アナタはヒーローにでもなるつもりですか?」
「そんな大層なもんじゃありませんよ。笑った顔がみたいから助けたいだけです」
他愛もないそんなやりとりを交わした後、男は「依頼、よろしくお願いします」と頭を下げて帰って行ったのだった。
刀士はそんなつい二時間ほど前の回想を終えると跨っていたバイクを公園の路上に停める。
愛車一号のYAMAHAのマジェスティである。
仕事柄、車よりもバイク。バイクも大型より小型の使い勝手が良いものという考えの刀士にとっては大切な愛車の一台だ。
マジェスティはカスタムスクーターの中でもスピードを追求して開発された一台で、 優れた加速性を誇っている。
流石に高速道路の様な場所には不向きだが プライベートならともかく、仕事の最中に高速道路を利用することは少ない。
よって、仕事の時の足としてはベストであると考えている。
「んじゃあ、さっさと終わらして一杯やりますかね… コーラでだけど」
右手にライト、左手に傘を持ち、公園の中を左手回りに巡回していく 。
象の滑り台に、シーソー、ジャングルジム…
公園と言っても本当に小さく、雇用促進の為の貸し住宅が集まる団地などにある公園と大差ない。
これなら丁寧に見て回っても十分かからないだろうなどと考えているときにその音は聞こえた。
グルル…
低い唸り声の様な音。
まるで飢えた獣の鳴き声。
こんな住宅地の端に獣なんてはいないと思ったものの、捨てられたら犬ぐらいなら大いにあり得ると考え直し、警戒しながら音がした方へと移動する。
そこは公園入口から見て右奥。 ちょうど、桜の木の方から聞こえた。
刀士の住む町の名前は夜桜町。
夜に美しく咲く桜、「宵桜」を観光の目玉としている町。
宵桜の開花時期は遅く、四月の中旬。
今年は暖冬だったためか、四月始めの今週でもう既に満開となっていた。
(満開の桜は確かに綺麗だと思うが、地球温暖化を考えると素直に喜べないな…)
そんな事を考えながら歩いていると桜の木の元へと着いていた。
「…やっぱ、綺麗だな」
思わず呟きが零れる。
雨粒が桜に滴ると枝がしなやかに曲がり、 まるで生きて踊っているかのように見える。
淡く光輝いて見えるその色も合わさって…
この一角だけが幻想的に思えていた。
少しの間、見惚れていたが仕事の事を思い出し、早速辺りを調査する。
パッと見は異常は見られないように見える。
しかし、先ほど聞こえた獣の唸り声のような音は間違いなくこの木の近くで聞こえた。
念には念を入れて桜の木を中心に見て回ろうと思った時だった。
「こんばんは、お兄さん」
刀士から見て桜の木の後ろから一人の少女がひょこっと顔を出した。
おそらく高校生ぐらいであろう少女。
夜中に少女と出会う事も年齢に合わない美しさを持つ人間に出会う事もこの仕事柄、多少はある。
しかし、そんな刀士にも目の前の少女は異常だった。
星を散りばめたかのような大きな瞳に淡いピンク色で染まった小さな唇。
高いとは言えないが決して低くもない鼻。
高校生にしては完成されているプロポーション。
服装は真っ白のブラウスに赤いチェック柄のプリッツスカートと簡素だが、余計な装飾などない方が少女の魅力を引き立てていた。
そして極めつけが髪だ。
銀髪とまでは言えなくない腰まである白く長い髪に闇夜でもはっきり分かる白い肌。
髪の色もだが、白く透き通るような肌は人目を惹く。
一瞬だが、確かに目を奪われてしまう。
「もしもーし。お兄さん、無視ですか?」
「わ 、わりぃ。 無視はしてねぇーよ。なんつーか… 正直、見惚れてた」
思わず、ポロリと素直な感想が口から零れてしまう。
その事に気がついた刀士は訂正するでも言い訳するでもなく顔を少しだけ赤くし、頬を掻いた。
その言葉に、その言動に驚いたのか少女は頬を本の少し朱色に染める。
「…そういうのは普通、本人を前にして言わないというか言えませんよ。 大物ですね、お兄さん」
少女はくすくすと笑みを浮かべた。
その容姿もあり、少女の笑みは物語に出てくるお姫様のようだと思えた。
「そうだな…大物になれたらいいな。ところで、君は誰? 何で俺に声をかけた? そして、何で此処にいる?」
「質問は一つずつですよ、お兄さ…」
そこまで言いかけて少女はふぇくっちゅとクシャミをする。
今の季節は春。それも雨が降る夜中だ。
流石に薄着では寒かろう。
「おっと… 寒そうな格好してるんだったな、君」
刀士は自分が着ている黒いロングコートを脱ぐと彼女に差し出す。
そして今更ながら気がつく。
彼女の白いブラウスが雨で少しながら透けていて水色の下着が見えている事に。
その蠱惑的な姿を凝視する訳にもいかず、顔を背ける。
「…良いんですか? お兄さん、下、ワイシャツ一枚じゃないですか」
「別に構わねぇーよ。俺は身体が丈夫な方だし、何よりもびしょ濡れの女の子を見て何も感じない程鬼畜な男のつもりはねぇーんだ。…立ち話もなんだ、どっか喫茶店とかにいかないか? って、これじゃあナンパみてぇーになるか…」
出会って僅か十分足らずの男が少女を喫茶店に誘っている。
余所から見たら間違いないナンパか犯罪者である。
しかも片方は間違いない美が付く少女でもう片方は長身褐色肌の男。
通報沙汰になる可能性があるな。
そんな危惧をし始めた刀士に驚くべき言葉が聞こえた。
「良いですよ、お兄さんはいい人そうだし。私、これでも人を見る目はあるつもりですから。ただし、奢ってくださいね」
名も知らぬ少女はウィンクをした。
「…今さら気づいた。 ここら辺…店ねぇーし。俺、バイクだし」
「本当に今さらですね… どうするんですか?」
二人は公園の路上に停めてあったバイクの元へたどり着くとそんな会話していた。
「どうっすかなぁ… お前さんもこのままだと風邪引くだろうし」
「…どっちかというとお兄さんの方が引きますね」
目の前の少女の突っ込みは無視し、自己の中で考えをまとめていく。
ふと頭の中にとある場所が思い浮かぶ。
(…あそこなら飯も出せるか。ゆっくり話が出来なくもねぇーし。ただなぁ…)
刀士の考えついた場所は自分の職場にして自宅。
しかし、問題点が2つ程浮かぶ。
1つ。そこには自分を含め3人の人が生活をしている事。
居候の身である刀士が流石に少女を(しかも出会って30分足らず)連れていくには少々抵抗がある。
2つ。目の前の少女になんと説明するか。
普通の人間なら出会って30分の人間の家に招待されたら間違いなく不審に思うだろう。
(…まあ、この子はホイホイついていきそうだけど)
ちらっと隣を見る。
そこには可愛らしく頬を膨らませている名も知らぬ少女がいた。
「なぁ、嬢ちゃん」
「なんですか、知らないお兄さん」
彼女の言葉に少し棘があった。
…どうやら、無視されたのが気に入らなかったらしい。
「悪かったよ。ちっとばかし考え事してたんだよ」
此処は素直に謝る場面だと思い、頭を下げる。
「…まぁ、あんまり気にしてませんよ」
少し拗ねたようにぷいと顔を横を向く辺り、まだ若干お怒りのようだ。
悪いとは思いつつも彼女のそんな仕草が可愛らしく思え、少し微笑んでしまう。
「実はだな、暖かいご飯が食べられて人目も少なく予備の服まである場所があるにはあるんだが…」
「あるんですか、そんな所!?なら行きましょうよ!!お兄さんが風邪をひいてしまう前に!!」
他人よりも自分の心配をしろ、少しは不信感を見せた方がいいぞ、そしてなんか食い付きが良いななどと思う事は色々あるが口には出さずに話を続ける。
「いやぁ…少し問題があってだな」
「問題?どんな問題なんです?」
「俺の家なんだわ、そこ」
流石にここまで言えば躊躇っている理由が分かるだろうと刀士は考えていたが…
「なら、問題ないじゃないですか。お兄さんは着替える為にお家に帰る。私はお客さんとしてお邪魔させてもらう。…あっ、出来れば1日泊めてください」
「問題だらけだろ…君、多分だけど未成年だろ?いいか、日本各地で青少年に対する条例があってだなぁ、大体が深夜から翌日の四時までの時間に保護者…」
「はい、それ平気です」
「はぁ?」
背伸びをしながら右手を真っ直ぐ挙げ、刀士の会話に少女が割り込む。
説得途中にも関わらず、訳の分からない気が抜けた返事をしてしまう。
「まず、私はこう見えても今年で19歳です。未成年ではありますが、青少年の条例でしたっけ?それには引っかからないですよね?多分、18歳未満が対象の条例だと思いますし…」
「…高校生ぐらいにしか見えないのだが?」
「むぅ、ならちょっと待っていて下さい。免許証見せますから…」
少女はスカートのポケットの中に手を入れ、ゴソゴソと探し物を始める。
会話内容からして免許証を探しているのだろう。
数秒した後に「はい、どうぞ」と二つ折りの茶色の皮ケースが渡された。
結論から言うと彼女は立派な18歳の女性だった。
名前を御手洗沙夜。
誕生日は去年の12月頃で確かに留年さえしていなければ高校を卒業している筈だ。
住所はこの街から車で3時間以上かかる場所に住んでいた事が免許証から分かった。
勿論、免許証自体も偽装ではないかどうかを確認している。
「…変わった名字だな、嬢ちゃん。御手洗って確か九州の方の名字だろ?」
「嬢ちゃんじゃないです!!流石にそれは失礼じゃないですか?ちゃんと名前で呼んでください」
「御手洗さん?」
「嬢ちゃんよりはマシですけど何か嫌です。ちゃんと沙夜って呼んでください」
何度も言うように刀士は彼女と出会って数十分しか経っていない。少なくとも刀士はそんな人間を、ましては少女を気軽に名前で呼べる人間ではない。
しかし、目の前の沙夜と言う少女は拒否する事を許さないと雰囲気で語っている。
これは諦めた方が得策と考え、覚悟を決める。
「さ、さ…」
たった二文字の名前を呼ぶだけの事なのに口が乾き、自分の聞き慣れた声が上擦っている。
体からはじっとりとした汗が吹き出し、先程まで寒いとさえ感じていた気温が暑く感じる。
「沙夜、さん」
「はい、おっけーです」
名前を呼んだ事と沙夜の笑顔で更に身体が熱くなる。
今の自分はきっと真っ赤だろうと何処となく他人ごとのように考えながらその名前をまた呼んだ。
「これからよろしく、沙夜」
如何でしたか?
うーむ…
この小説は色々とおかしい点がありますが、それでも気に入って貰えたら幸いです。
続き?ハイスクールの書き溜めが出来たらですかね…
それでは、まったねー
來々來李