黒猫の気まぐれ冒険譚 作:蒼陽
その大きな特徴は二つ。
冒険者という、神々からの祝福を受け、モンスターを狩る職業が一般的に認められていること。
そして、その冒険者達はこぞって未知の地、すなわちダンジョンに潜るということだそうなのだわ。
少し、私の話に付き合ってくれるかしら。1人でいるのもお暇なの。
よろしくて?ありがとう!なのだわ!
これはとある
極東の国の田舎の、何の変哲も無い酪農家の元に生まれた黒髪に美しい蒼色の瞳の少年、名をタイガ・シグルズ。
体格は人並みなものの、生来のセンスで生まれてこのかた喧嘩では負けなし。
野生の獣が束になってようやく相手になるほどだったのだわ。
……あの時は本当に肝を冷やしたものなのだけれど。
けれど決してその強さを鼻にかけることはなく、誰にでも愛を注ぎ、涙するものには掌を差し伸べ、驕るものには拳で振るい、故にみんなに好かれる人気者。
前世の記憶がなくても、不思議と似てしまうものなのね。
ともかく!幼い頃にはシグ、タイガと呼ばれ…え?もうタイガの話は良い?続きを聞かせろ?
し、仕方ないのだわ…ほんとはタイガのことはいくら話しても話したりないのだけれど…。
あとでタイガのスリーサイズを聞きたいと言っても教えてあげないのだからっ!
コホン、では始めるのだわ。
ありふれた、よくある1人の
僭越ながらこの私が語らせていただきます、のだわ。
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「デッケェなぁ。これがオラリオの玄関か」
タイガ・シグルズ(11歳))は村を出、長い旅路を経てオラリオにたどり着いた。
たしかに修行のために出た旅だが、まだ出来上がっていない体にはえらくこたえるものだった。ある時は血に飢えた野生の獣と戦い、またある時は決して多くない金銭を狙って襲って来た盗賊と戦い、そしてまたある時はおばあちゃんの依頼を受けて崖に生える薬草を採取し。
…今までの旅で充分一つの物語くらいにはなりそうだったが、俺の旅はここからが本番。ここからったらここからなのだ。
ではいざ———
検閲を受け、これから待ち受ける冒険に心躍らせながら、様々な思惑が交錯する
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「んで。何でこうなった?」
「ボサッとしてんじゃないよ小僧!」
ジュウジュウと熱を帯び煙を上げるフライパンをふるって均等にならし、いい色に焼けた卵をひっくり返してご飯に被せる。
今いるのは豊穣の女主人という酒場のキッチンだった。
野営は慣れたものだったため、料理はそこそこ自信がある。あるにはあるが、女性ばかりの店でフライパンを振るうのは慣れないため、客含めて視線がこそばゆい。
なぜこうなったといえば、エイナ——茶髪ギルド受付嬢が頑固で譲らないのが悪い。
悪いったら悪いのだ。
いいじゃないか、別に恩恵なしでダンジョンに潜るくらい。
別に死にに行くのではなく、目標がどんなものか試したいだけなのだから。
だというのにあの頑固女ときたら、私は一年目だからだの、先輩に怒られるだの、あなたを死なせたくないだのあれこれ理由を並べ、挙句には泣き出し始めて周りの視線に突き刺されながら撤退せざるをなくなったというわけだ。
諦めて恩恵を求めいくつかのファミリアに頭を下げるも、いきなり田舎から来た少年を快く受け入れてくれるファミリアなどそうそうなく、食うために狩る獣もいない街中で空腹のあまり倒れ、そこを通りかかった豊穣の女主人の店員、リューさんに拾われ今に至る。
店主のミアさんは目が覚めた俺に、男はダメでも仔猫なら問題ないってことなのかねぇ…と苦笑しながらぼやいていたが、よく意味がわからずに首を傾げていると皿いっぱいの料理を出され思わず猫舌であることも忘れるほど夢中で食らいつき、お礼を言う前に、その様子じゃ金も宿もないんだろ?代金は体で返しな。と眼で脅され今に至るのだった。
「ふぅ…」
「お疲れ様です。あなたの料理、なかなか好評でしたよ。このままシェフでも目指してはいかがです?」
「リューさん…あんまりいじめないでください。俺の今までの旅が一気にコメディになるじゃないっスか」
客足も落ち着き、ミアさんに言われて休憩に入った俺にリューさんが話しかけてくれた。
店に運んでくれたのは彼女のため、正直頭が上がらない。
表情がほとんど変わらないから冗談なのかわかりづらく内心ヒヤヒヤしていたが、口角がわずかに上がるのを見てホッとする。
ご褒美だよと言われて渡されたミルクをストローで飲んでいると、ふと頭を撫でられた感触がした。
びっくりして頭をあげると、相手も驚いたのか慌てて引いた右手の手首を左手で握り胸元に抱えるリューさんが目に入った。
「す、すみませんつい…」
「あ、い、いえ。悪い気分ではなく…むしろ心地よかったので…」
「で、では…失礼して」
別にもっとしてほしいと言う意味で言ったつもりはなかったのだが、優しく撫でられている感触が心地よく、なにより表情の堅かったリューさんの表情が少し和らいでいるのを見て反論する気も失せ、黙ってミルクに舌鼓を打つことにした。うん、うまい。
「…シグルズさん。どうして冒険者になりたいのですか?」
ひとしきり撫で、満足したのか再びリューさんが口を開いた。
「タイガで良いですよ。命の恩人に敬語使われるのはちょっと」
「…わかりました。ですがせめてシグと。これが妥協点です。」
「ありがとうございます。」
にこりと笑って見せると、リューさんはバツが悪そうに目を背け、コホン、と咳をして見せてから話を続けた。
「それで…」
「なぜ冒険者になりたいか、でしたね」
「えぇ」
「その…リューさんはアルゴノゥトって知ってますか?」
「アルゴノゥト…確か冒険譚一つですよね」
少し頰を赤らめながら話しだす。
まだそこまで良い年というわけでもないが、流石に大真面目に人に話すのは少し恥ずかしい。
「はい。俺、憧れたんです。どこからともなく現れて、格好良く、都合よく誰かを助ける
「……間違っている」
「え…」
聞き間違えかと思った。
けれど、先ほどまでの様子と打って変わったリューさんの、どこか怒ったような表情がそれは間違いだということを示していた。
「あなたは間違っている。どれだけ強くなろうと、どれだけ正しかろうと、見境なく誰かを救うなど現実には不可能だ…それは!あなたの身を滅ぼすだけだ!」
「リュー…さん」
「す、すみません。私は仕事に戻ります。いきなり撫でたりしてすみません。ごゆっくり」
「あっ…」
俺が何かを言い出す前に、足早に戻っていってしまう。
先ほどの怒鳴り声を聞いたミアさんの何かあったのかという問いに、なんでもありませんと答えいつものように無表情で料理を運んでいく。
俺…は…
彼女の
あんな悲しそうな顔を見せられたら、考えないわけにはいかなかった。
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「お疲れ様です、ミアさん」
「あいよ、どうだい?入れてくれるファミリアはみつかりそうかい」
拾われてから約一週間。
豊穣の女主人の店主、ミアさんは宿も金もない俺を住み込み、三食つきで働かせてくれていた。
もちろんその間何もしなかったというわけではない。
ただやはりそう簡単には話は進まず、話にならんと門前払いされるのが関の山だった。
ミアさんは肩を落として首を横に振る俺に苦笑いし、そうだろうねぇとこぼす。
と、ちょうどその時来店を告げるベルが鳴った。
「いらっしゃいませ!」
もう上がるところだというのに、ついいつもの癖で接客しようとしたのは赤髪で細目の女性だった。
「おう!なんやえらい不恰好やけど可愛らしい新人さんやなぁ、ミアかーちゃん紹介してぇな!」
彼女は二ヒヒと笑うとミアさんに話しかけた。
たしかに髪を切り忘れていたのは事実だし、癖っ毛なので見苦しいといえばその通りかもしれない。基本キッチン勤めなので気にしなかった。
「ちょうど良い、ロキ。アンタのところでこの子面倒見てくれないかい?私の見立てじゃなかなかのタマだよ」
「ほ〜?ミアかーちゃんが太鼓判押すとは珍しいやないか!よしウチに来いや!ただし最低限入団テストは受けてもらうで!」
ええな?という問いに、今度は即ブンブンと頭を縦に振る。
話を聞く限り、どうやら彼女は女神様らしい。
しかも門前払いではなくテストを受けさせてくれるようだ。
本当にミアさんにはお世話になりっぱなしだ。いつか恩は返さなきゃな。
「ほんで、名前はなんていうんや、黒猫クン」
黒猫くん…?多分、髪が黒くて目が青色だからかな?
「タイガ。タイガ・シグルブでひゅ!」
あぁ。
俺、緊張にめちゃくちゃ弱いんだよな…
格好がつかない俺の旅話を酒の肴に自由気ままな女神様は、本当に愉快そうに、時折いたずらっぽく笑いながら晩酌を楽しむのだった。
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テストは三日後、黄昏の館っちゅうとこでやるで!
内容は——
「団員との手合わせ、ですか」
翌朝、時間に少し余裕を持って来たリューさんとの雑談に入団テストの話が話題に上がる。
なにぶんテストというのは筆記実技問わず初めての経験なので、何かヒントがあれば、と。
「まあ、ロキファミリアは幸い心強い団員も充実してますし危険にさらされることも少ないでしょう。私としては入団テストで落ちることを願うばかりですが」
「リューさぁん…」
俺の情けない声に彼女はいたずらっぽくフフ、と笑い、冗談ですよと付け加えた。
あの日の悲しそうな顔は影を潜め、社交辞令かもしれないが、俺の夢を応援していますと言ってくれた。
それがたまらなく嬉しく、その日は興奮で眠れなかったほどだ。
「普通に考えれば、戦闘力を見るためでしょう。生き残り、ギルドに利益をもたらすには少なからず必要ですから。」
「戦闘力…」
リューさんはもっとも、と人差し指を立てて続ける。
「主神ロキはとても気まぐれなので、何が狙いかはわかりません。最悪気絶させてセクハラし放題、なんてこともあり得るのでそのつもりで」
「ひぇ…?!」
怯える俺をリューさんを微笑みながら撫でてくる。
怖がらせて慰める振りをして撫でる。
もうこの一週間で彼女が数回使ってきた手なので、魂胆は分かっているのだが、彼女の優しそうな顔は本当に綺麗で、それを見れるならもうどうでも良いかと思考放棄してしまう。
「頑張ってください。そしていつかまた私が…」
瞬間、彼女の表情に影がさすのを許せなくて、言葉を最後まで聞かずに、立ち上がって言い放った。
「絶対俺が助けます!リューさんはずっと笑っていてください!」
それを聞いたリューさんはポカンとした表情になるが、すぐにまたいつもの表情にもどって楽しみにしています、ともう一撫でだけして店に出た。
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試験当日。
指定された時間に黄昏の館に来ると、話は通っているようで、すんなり入ることができた。入ってすぐで出迎えてくれたのは、小人の男性と、エルフの女性だった。
幸い優しく接してくれたおかげで、入団テスト前に問題を抱える必要はなさそうだとホッとしたのもつかの間、もう1人建物から歩いて来る。
「あぁ?そいつが新しい雑魚か。殺しても謝らねえから逃げンなら今のうちだぞ」
出会い頭の暴言とは。
これが冒険者の洗礼ってやつなのだろうか。
「シグルズ君。彼が今回試験をしてくれるベートだ。ベート、言わなくても分かってると思うけど」
「チッ、分かってる。今のもテストの一つってことにしとけ」
優しい小人さんの言葉にもぶっきら棒に答え、首で奥の広場を指して言った。
「早くしようぜ。どうせすぐに逃げ帰ることになるンだからよ」
彼が荒々しい言葉で、見知らぬ少年に発破をかけようとしているとタイガが知ることになるのは、まだ当分先の話である。
武器を勧められたが断り、ベートと呼ばれる人狼と向かい合って立った。
この街に来て、拳を振るうことになるのは初めてだ。
ボサボサに乱れた黒髪に隠れる一瞬。
『さあ、私たちの冒険を始めましょう、だわ!』
幻聴、だったのだろうか。脳裏に響いた声が不思議と妙に心地よくて、普段ならきっとガチガチに緊張しているはずが、今は体の隅々まで自分の意のままに動かせる気すらした。
…良い感じだ。体から無駄な力が抜けていくのがわかる。
さて。
半身になり、身構える。
左足と左拳を敵に向けて。
右足は半歩引いて、右の拳は胸の前に。
「へぇ、格好だけは様になってンじゃねえか。格闘技でも齧ってたか?あァ?」
目の前で退屈そうに佇む人狼の少年は、まるで曲芸をする犬を眺めるような目でそう呟いた。
「そりゃどうも、先輩」
不敵に笑って見せる。しかし。
‘これ’は、誰に教えられたものでもない。
自らが考案し、試行錯誤の末たどり着いたモノでもない。
いつの間にか、いや、生まれた時から魂に深く焼きついていた生きる術。
「フン、先行はくれてやる。せいぜい死ぬ気で来いや」
「…ウィッス!」
ロキファミリアの恩恵だがなんだか知らねえが、村一番と呼ばれたからには村の悪ガキども全員のプライド背負ってんだ。そう簡単に負けてやれるかよ!
右足に渾身の力を込めて踏み込みねじ込むようにして最速の左手を繰り出す。
拳を使った打撃が認められている格闘技において、力をあまり入れずに放つパンチ、すなわちジャブ。威力はないが、コンビネーションや牽制など技術としての重要度は高く、ボクシングでは特に使用頻度が高い攻撃であり、敵の視界を狭めたり、次の攻撃への繋ぎとして非常に重宝される基本テクニックの一つである
もちろんタイガ自身そんな難しいことなどわかっていない。
ただ彼の持つ技の中で最速、つまり確実に当てられるものを選び、自分のペースに持ち込もうとしたに過ぎないのだ。
まずは一発!点数稼ぎに付き合ってもらいますよっと!
さてどう出…!
優れた格闘家は、未来を見ると言われることがある。
それは決して未来予知などという不確かなものではなく、敵のわずかな予備動作や、自らの涙ぐましいほどの経験値から裏打ちされた確かなものだ。
経験こそ浅いものの、生まれた時から格闘家であるタイガは間違いなく優秀な格闘家である。が、タイガにはあまりに経験がなさすぎた。
「その程度で、当たると思ったか?アァ?」
「ッ…?!なに…?!」
気がつけば宙を舞っていた。
下腹部に異様な痛みを感じつつ一回転して背中を強打し、乱れた息を必死に整えながら視界に移したのは、片足で立ち、ゆっくりと上げていた左足を下ろして地面を踏みしめる人狼の姿だった。
かわされた…?ガードではなくかわして…その上で反撃したっていうのか…?
おごっていたわけじゃない。自分がまだまだ弱いことはわかっていた。だからこそオラリオに来たのだ。けれどまさか、そこまで年の離れていないこんな少年とここまでの差が…?
正直、信じられなかった。
けれど。だけど。
「…オイ、テメエ今の状況わかってんのか?」
人狼の少年の声が1トーン低くなる。どうやらイラついて仕方がない、らしい。
「わかってるよ、まさかここまでとは思わなかった。恐れ入ったっす、先輩」
「チッ…ならテメエ…!」
そう言いつつ、右足をふみ鳴らし、怒声を飛ばした。
その声にすら本能が危険だと大音量で警鐘をかき鳴らす。
今の、たった一撃で右の肋骨が折れたのか、とてつもない痛みもしっかりと噛み締めていた。ったく、馬鹿げたパワーにスピードだよ。
けれど。だけど。
「ッラァ!」
懲りずにまた右足で踏み切った。
もっと、もっと速く!
「チィ!バカが!」
今度は軽くいなされて、勢い余ってよろけたところに背中に重い蹴りが入った。
オーディエンスたちはたまらず息をのむ。
しかし。今度は倒れない。両足で踏みとどまり、すぐに奴を視界の中にとらえ、今度は左足で即踏み切った。
躱すのことすらやめた大振りの蹴りを察知し、右足で全力で踏みとどまろうとするも、それですら間に合わない。
とっさに張った右腕でのガードにマグレ当たり…いや、わざと当てたのだろう。
ガードしたにもかかわらず、一瞬両足が浮き、足が着いてすぐ必死にブレーキをかけるも数メートルの溝二つを残す結果になった。
ここまで、違うのか。
「諦めろっつってンだよ!雑魚は無様にあがいたところで雑魚なンだ!」
再度人狼が吠える。
雑魚に親でも殺されたのかよ、お前は。
喉までせり上がって来た血を吐き捨て、答えてみせる。
「全くっすな」
「アァ?!」
「なんで、諦めきれないんだろうなッ!」
もっと、もっと。もっともっと!速く…!
「ならンで…なンでテメエは!」
もっと…!もっともっともっと…!
「笑ってんだァ!アァ?!」
左手が届くより先に、雄叫びと共に文字通り目にも留まらぬ蹴りが風を切り迫るのがわかった。
瞬間、わかってしまう。
このジャブは、届かない。
『当たらないなら、当てられるようにすれば良いのだわ』
気が、あうじゃねえか
「…ッ?!」
人狼の少年、ベートは一瞬戦慄した。それは、上がったばかりのレベル3の恩恵によって研ぎ澄まされた感覚との齟齬が生み出した幻覚だったのだろうか。
いや、たしかにベートは見た。
黒髪が風に揺れ、目にかかるその一瞬、タイガの蒼色の瞳は
金色に光りやがっただと…?!
とっさに身の危険を感じて攻撃を中止し、バックステップで距離を取る。
その様子を見て、タイガはあえて不敵に笑ってみせた。
「どうしたんすか先輩。尻尾巻いて逃げるなんて」
「チッ、誰が逃げるかよォ!」
小人の男性——フィンは、先ほどまで以上に息巻いて、今度は自分から攻め込んで行くベートを見て笑い、いつでも危険な状態になれば割り込める用意をしながら隣で眼を見張るエルフの女性、リヴェリアに話しかける。
「どうだいリヴェリア。彼が君に教えをこうことになるなる子だよ」
「…驚いたな。手加減されているとはいえ…恩恵も受けずにレベル3のベートとやりあうなど…」
ロキファミリアの
だからこそ信じられなかった。
自分の力の上がり方の驚きも覚えているし、またかつてレベル差が開いていた亡き先輩たちの背中を見て来たからレベルの絶対性も身にしみている。
フィンは驚きのあまり目を見開く彼女の横顔を一瞥し、そして微笑む。
これは…僕たちもうかうかしていられないかもしれないな。
「…オイ。」
「ハァハァ…ッ、何ですか」
「なにがテメエはそこまでさせる。強くなって、テメエはなにがしたい」
人狼はボロボロになった俺を見て、暗に理解できないと吐き捨てる。
「雑魚が口癖の人に言われたくないっスけどね」
「茶化すな。早く答えろ」
「……なりたいんス」
「あぁ?」
「カッコ良い、
「そォか」
瞬間ベートの目が大きく開かれ、そして細めた。
認め、られたか。
ロキファミリアの一員として?味方として?
否。取るに足らない雑魚ではなく、倒すに値する敵として認められたのだと直感した。
が、すでにタイガの体は満身創痍。決して顔色には出さないが自ら踏み込む体力はないことは事実であり、それはベートにもバレているだろう。
故に、うちあえるのは多くて3回。
勝機があるとすれば—
次の、一回。
「…加減はしねエ。死んでも恨むな
「上等」
刹那。
二つの影は再び重なり、見物人達は見逃すまいと目を見開いた。
耳の生えた