「うなれぇぇぇぇぇ!私のぉぉこのぉぉぉぉぉぉぉ拳ぃぃぃぃぃぃ!いやっふぅおぉぉぉおおぉぉぉぉ!」
「えっ!ちょ、いきなり何ですか。ぶっふうおあ」
私の不可視の拳が目の前の黒い霧、奴を物理攻撃に対して最強、いや、どんな攻撃手段に対しても無敵を誇るであろう最強の盾を突き破り、その細いボディに突き刺さる。
如何に最強の盾あろうとも、攻撃に対して構えていない盾など盾足りえない。すなわち!奇襲攻撃が決まればどんな堅牢な城塞とて一瞬にして崩壊する。
そして奇襲とは本来戦闘を有利に進めるための搦め手であり、、奇襲の為の下調べ、軍勢の移動方法、相手の詳しい情報、そして選別された攻撃手段が必要である(と私は思っている!)。なので!戦力が下の相手ならば、こんなことをするよりも王道にして分かりやすい真っ向勝負の方がいいのだ!
では何故私がこんなことをしているのか。つまり、私は弱いのだ!ならば、弱者に許されしその知恵をもって油断し、己が無敵だと傲慢にも思い込んでいる馬鹿に鉄槌を下さん!と言う訳である。
話を戻すが、私は弱い!この事実を相手に思いだされた時点でこの奇襲により生み出された有利なこの現状は一瞬にして吹き飛ばされる。
なら、どうすればいいのか。
答えは簡単だ!やられる前にやればいい。
至極簡単な話であり、攻撃は最大の防御なりという言葉に言い換えてもいいが、もう、相手が本気になる前に叩き潰すしかない!背水の陣でもある。
すなわちやる覚悟があるか、ということである。
覚悟の無い奴に、殺意無き拳になせることなし!
「シネェェェェェェェェ!」
「がっ!ぐ、おふ、ぶべら」
息をさせるな!この不可視の拳を見極めさせるな!この連打、奴を仕留めるまで止まることなし!
我が拳は奴の胴体を捕らえ、打ち抜き、そしてその衝撃は確実に奴の体を貫通させているのか、胴体に入ると同時に反応するように奴の背にある黒い霧が震え、そして吹き飛ぶ。
一発一発殺意を込めて!
まさに我が拳、全てをすり抜ける!
奴の周囲に漏れる霧を全てすり抜け、その攻撃を確実にその体に叩き込み、そして遂に奴がその膝をフローリングにつけた。
「くぉこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
必殺の拳がその顎を捕らえるかに見えた。
「!」
しかし、私の不可視の拳は殺意に彩られ、その必殺の一撃を奴に感知させ、その鉄壁の盾が、最強の盾が、無敵の盾が、私の中二設定に彩られ、そして偽りの必殺という看板を掛けただけの悲しき拳を防いでしまう。
「くっ」
私の顔が歪み、そして俯いている彼の顔には余裕が戻っていることであろう。
此処までか………………。
………………………………………………。
…否!
まだ、奴の態勢は戻っていない。そして奴の盾は私の殺意に反応して、ピンポイントに配置されただけだ。まだどこかに活路が!逆転に次ぐ逆転を起こせるはず!
「ふ、ふう、いきなりどういうことですか!説明をして…」
「……………………」
考えろ私!奴の声に耳を傾けるな、集中するんだ。
奴が完全に立ち上がる前に、その盾が奴を覆う前に。
何か、何か、何かないのか!
ゆっくりと立ち上がる奴を視界に収めつつ、その体が徐々に起き上がるのをつぶさに観察しつつ、私は絶望の中、一筋の光があることを信じてもがき続ける。
そして、最大の急所が、私の視界の中にちょうどいい高さに段々と来ていることを見てしまった私は、最後の一撃に全てを賭け、再度必殺を繰り出す。
「はっ!」
一拍の呼吸の後、私は殺意をしっかりと乗せた拳を最短距離を走らせその顎に向ける。
「む」
しかし、その拳はあっさりと捕らえられた。初手を防いだ彼にはあまりにも単純で、そして稚拙な、自暴自棄になった一撃と感じられたであろう。
だが、私の攻撃は終わらない!
殺意に乗せた拳に紛れ込ませ、不可視の手を彼の肩に置き、体重を掛け、本当の一撃を繰り出す。
「何を、ひゅ!」
その一撃は軽かった。殺意を乗せればバレるため、不可視を重視し、拳を捨てた蹴りによる一撃は、それでも、それでもなお、彼を仕留めるに能わず。
彼は二本の足で未だ立ち上がり、苦しみながらもその霧を広げて私を捕らえる。
やはり、こだわりを捨てた一撃は軽かった。
この時、私は今いる世界の必ず来るであろう将来のある一シーンを思い浮かべ、笑みが思わず浮かんでしまう。
この世界で、ヒーローとして生まれたなら、この漢に憧れない奴はいない!このセリフにしびれない奴などいないだろう。
もう、朧気となってきた過去の記憶に思いを馳せながら、私はそのセリフを思い出し、その時の高揚感を最大に感じつつ、口を開かずにはいられなかった。
「浅い?…そりゃア・・・腰が、入ってなかったからな!!!」
彼は私の動く足を霧の中で動かす。
それに反応してか彼は慌てて能力を発動しつつ、軽く引かせていた腰、いや、股間のあたりに霧を集中させる。
しかし、私はインビシブルガール。その不可視の攻撃を見ることも予測することも不可能!私の攻撃は、攻撃を喰らった時にしか知覚できない!
「さらばだ!黒霧ィィィィィィィ!!!」
今度こそ本当の殺意を乗せた拳を、その顎に向けて解き放つ。
如何に殺意に気が付こうがもう遅い。布石は打ち終わり、そしてこの柔軟な体から無駄なく打ち出されるこの攻撃をもはや防ぐことは出来ない!
拳に鈍い衝撃が走り、遂に黒霧は床に崩れ落ちる。
「はあ、はあ」
室内には私の荒い息遣いが残るだけである。
遂に、遂に私はやり遂げたんだ!
達成感に包まれ私は拳を天高くつき上げ吠えようと大きく口を開けて………………。
「うるせーぞ!」
私の隣の部屋の住人から壁ドンされる音に挙げようとした拳を中途半端にさせたまま、大きく開いた口から謝罪を発するのであった。
………………。
………………。
………、何で私はこんな達成感に包まれているのであろうか?
今日のマスコミ乱入のどさくさに紛れて盗んだ情報を整理しているパソコンの画面が放つ青い光をじっと見つつ、視界の端に倒れる先生からの使いである黒霧さんを極力見ないようにして、冷静になった私の頭脳は、全裸の体に汗が体温を奪う寒さに震えを感じ、沈黙しつつ服を着るのであった。
………どうしよっかな~♪
引きつった笑みから自然な笑みへと変えることがどうしてもできない私はバケツとコンクリを何処から入手すればいいのかひたすら考えつつ、自然とその足が崩れ落ちる。
「え?まだ原作が始まったばかりだけど、もう私退場?」
部屋の床にある黒い影が、私の未来に覆いかぶさり、輝かしい私の未来を黒く染め上げている気がしてならなかった。
「どうしよう」
私は数時間前のことを思い浮かべながら、絶望に打ちひしがれるのであった。