「では、これで、よろしく頼みましたよ」
昨日醜態を見せた私だが、今日は違う。何事もなく計画を詰めることが出来た。
ただ、去り際の彼の言葉が意味深すぎて怖かった。
「先生もあなたには期待しているようです。その期待を裏切らないようにしてくださいよ」
何事もく終わり、ホッとしている私はその言葉に硬直せざるを得なかった。
先生?オール・フォー・ワンのことそれ?期待されている?
今まで気楽だったのは、私が単なる使える駒の一つであると考えていたのだが、黒霧さんの言葉の節々から何か自分を特別扱いしている様にも聞こえる。
先生に注目されている。それはもし私が変な行動に出たら即座に何かしらの対応がとられる可能性があるということではないか。
今は以前の私と今の私の差異など気づかれていないし、中身が変わったなど思われていないだろう。だが、やはり私は葉隠透ではない。これが何時まで隠せるかなど分からないのに、この状況は最悪じゃないか。
この体に入ってからやることなすこと全て裏目に出ている私は、思考がマイナス方面に偏り、つい余計なことを口走る。
「先生が私なんかに期待をしていた?死柄木さんでは無く?」
この時迂闊だったとしか言えなかった。
私は漫画でしか彼らのことを知らない。そしてそれはこの私が知っていることではないし、逆にこの私が知っていたことは全て漫画に描かれていたわけではない。
「何故あなたが死柄木の名を知っているのですか?」
がっつりと彼に怪しまれた。
彼の言葉とそのトーンから考えても以前の私は死柄木には一度もあったことが無いようだ。
ということは襲撃事件で初めて顔合わせとなるわけだ。なるほどあの漫画の裏舞台はこうなっていたのか!
現実逃避気味にヒロアカのファンなら少しだけこの世界のことを知れるのは嬉しいことだろうと、喜んでみたが、明らかに現状は悲しむべきだろう。
明らかに私がヴィラン連合について調べていたということになるよねこれ。だって知らない情報を知っているってなるとそれしか考えられないだろうしね。
ああ、去ろうとして立っていた彼がまた座ってしまった。
怪しいよね。もうメッサ怪しいよね。何で彼らについて調べていたのかということになるよね。
案の定?
「どうやって知ったのですか」
まずい。上手くやっていくと言った矢先にこれとはまずいを通り越して絶体絶命だよこん畜生。
余りだんまりを決め込んでいても怪しまれる。とにかく即座に返答しないと。
こうなりゃあ、イチかバチかだ。
「以前彼が路地裏で暴れているのを見たことがある」
言葉はゆっくりと、余裕を持って答えるんだ。何もやましいことが無いというアピールと私に考える時間をくれる。
「彼を見たとして何故それが私たちヴィラン連合のモノだと、それに名前は何処で?」
落ち着け、私は透明人間なのだから表情は見られない。相手は声で判断するしかないんだ。
ここで焦るな。あの死柄木の最初期のプロフィールは「子ども大人」だ。
そして襲撃事件の雑魚ヴィランは確か死柄木に賛同して仲間に加わっているはず。
かなりの数だから全て死柄木が接触して集めたわけではなかろうが、あの先生は死柄木の成長を願っているから、全て便利ワープゲートで冷静な黒霧さん任せとはしないだろう。
そして、彼を単独行動させるはずもないから、その場には黒霧さんもいたはず。
「黒霧さんと一緒にいるのを見たからね」
これで、ヴィラン連合とのつながりは大丈夫だろう。
「ふむ。ですが名前はどうして」
「聞いた」
しまった。焦って即答してしまった。
彼の雰囲気が鋭くなった。
ヴィラン連合はまだ恐らく黒霧さんありきで動いている組織、というよりも雑魚ヴィランを入れなければ実質スパイ数名と先生、博士、死柄木そして目の前の彼以外の主要人物はいないはずだ。
資金提供者とかもいるかもしれないが、それに私を合わせる意味は無いので仮に私が会えるのは上記の物くらいだが、死柄木自身はまずないし、以前私が彼らと殆ど接触していなかったことは推測に難くないから、下手に他の人の名を言うのも嘘だとバレてしまう。
「誰にです?」
やっぱ、そうなるよね。下手に確認を取られるとまずい。ここで何とか彼を丸め込ませないと。報告があがるとまずい。だけど下手な嘘は過ぎにバレる。
クッソー連合とかたいそうな名前があるくせに、良くある漫画の悪の組織じみた基地も無いから、たまたま聞いたということは無理があるし………………。
いや、それしかない!
「あなたに」
「私があなたに話したことは無いはずですけどそれはそういうことですか?」
落ち着け、彼は良く死柄木の冷静にさせるのに名前を呼んでいた。
そして、死柄木の初期の性格と雑魚ヴィランとの接触で戦闘でもあれば、確実に彼は自分のもつ強い個性を見せびらかすであろうし、殺しもいとわないだろう。
そんな今、潜伏中の彼らが目立つ行動は避けるはずだから、暴走した彼の耳元で冷静になるように囁くはず。
ここからは予想が外れたら一発アウトだが、これ以上の手はないはず。
「彼がやり過ぎて目立ち過ぎないように止めるあなたの声を聞いた」
「囁く程度だったはずですが、どうやって?」
近くにいたら透明であろうと気が付く。そう言っている彼に対して私は勝利を確信していた。
何せ、マジで死柄木は私の予想通りのことをやらかしていたのだから。この前提をクリアできるかはまさに賭け。
ギャンブルに勝つと気持ちいいというが少しだけわかる。同時に全てベットするギャンブルは絶対にしない方がいいということも当たり前だが痛いほど分かった。
「なっ何をしているのですか」
彼がどもった。
まあ、それも仕方ないんだけどね。だって目の前でいきなり裸になられたら誰だって驚く。
私は完全な裸になり、気配を消して黒霧さんの耳元まで近づく。
これは女湯を覗くにあたって私の戦闘力を測るためにあれこれした時に分かったのだが、葉隠ちゃんはことスパイにおいては物凄く優秀だということだ。
体に染みついたワザとでも言うべきであろう。簡単に気配を隠すことが出来たのだ。
だから、黒霧さんに気づかれることなく近づくことが出来た。まあ、彼が焦っていたということもあるでしょうが。
「こういう風に気づかれずに近寄るのは簡単ですよ。それにあなた達は目の前の雑魚にかかりきりだったならなおさら」
やりたくないけど、彼に胸を押し付ける様にして囁く。
とにかく彼の冷静な判断力を少しでも奪うんだ。
「そっそうですか。確かに触れられるまで移動していることにも気づきませんでした」
「情報を奪取する作戦も必ず成功させてみせるよ」
強引に話を打ち切る。一応彼の疑問には全て答えた。新たな疑問が出る前にお帰り願う。
人間納得した事柄には深く突っ込まない。時間が経って新たな疑問が出来る場合もあるが、時間と共に埋もれる場合もある。だが、ここでずっと追及される場合は疑問も生まれやすく、いずれぼろが確実に出る。それに対してお帰りいただければ、有耶無耶になる可能性もあるんだ。
帰らせる一択だ。
彼から離れゆっくりと下着から見せつける様にしてつけ、途中で彼がいたことに気が付いたように、場所を移動して体を、というか下着を隠す。
「えっと、あまり見ないで欲しいです。それとまだ何かありますか」
こちらをがん見していた彼は気まずそうに咳ばらいをして立ち上がると、ワープゲートを作る。
「すっ、すみません。ではよろしくお願いしますよ」
彼が消え、部屋には私一人になった。
私は勝利の余韻に浸る間もなく、昨日と同様に、布団にダイブすると、恥ずかしさのあまりジタバタし、顔を枕にうずめる。
「恥ずかしいぃぃぃぃぃ。何しているの私。あれじゃあ完璧に痴女じゃん!」
全裸で、そして見せつける様に、そして接触。
以前の彼女は裸に、裸での接触にも透明人間として生まれて慣れているかもしれないけど、普通の人間だった私には不可能だぁぁっぁぁぁ。
コレ作戦の日も全裸徘徊するんだよね。
………………出来るかな?まあ、しないと此方が殺されるか脳無の材料にされちゃうだろうけど………………。
究極的だなぁ~。全裸か死かなんて。
「でもちょっと気持ちいいかも」
私はノーマル、そう自分に言い聞かせるもあの開放感が何故か忘れられず、その日、私は中々眠りにつけなかったのである。