さしてよくもないララバイを─世界の滅亡を阻止する私の探偵録─ 作:大和亀蔵
□001
──
やあ、死ぬ準備はいいかい?
どうも、おはよう、こんにちは、そして、こんばんは。
この手紙がお前の元に届いているということは、少なくともアンネ、お前が19歳まで無事に歳を重ねられた、つまりは生きていたという前提条件を述べておく。
元気だったか?
辛いことはあったか?
死にたいと思ったことはあったか?
今でも、パンにはたっぷりのバターといちごのジャムを塗りたくっているか?
あの吐き気がするような甘さには、未だに私は慣れない。
もしかすると、ものすごく太っているのか?
あれだけ糖分をもりもり取っていたんだ、何も不思議じゃない。
ぜひとも、ジャムとあう紅茶も同封して、同じ卓に座って優雅に語り合いたかったものだ。
椅子はひとつで大丈夫だよな?
冗談はこの辺で。
魔法通信が主流となった今、便箋、紙などと言う古臭い方法を取っているところで、最早差出人は大体想像ついているだろう。
時の流れとは本当に残酷だ、少し前までは紙など当たり前だったのに。
人間の進化を喜ぶべきなのか。
ただ、君のこの10年、君の進化をこの目で見られなかったことを残念に思う。
一体どのような人生を送ったのだろう?
好き嫌いも変わったか、とか言うと、さっきと話を再三してしまいそうなので、年は取りたくないものだと思ってしまう。
さて、これから私は、君にとってはあまりいい気分ではないことをつらつらと、さも当たり前のように突きつけなければならない。
いじわるなババアだと思ってくれ。
じゃあ、挨拶は短くこの辺にして、本題に入ろう。
アンネ、君は父親についてどのくらい知っている?
そう、父だ。
君と血の繋がった、親権者で、親だ。
悪いが、恐らく君を引き取ったオカマ死神の事は1度忘れてくれ。
思い出せるか?
赤子の君を抱いた時の、笑顔。
誕生日には、一緒にケーキを食べ、共に喜びあった彼を。
きっと、君には無いと思う。
あるのは、無情な、のっぺらぼうな父の面影...なのかな。
なんせ、君は私と出会った時点で過去の記憶がないのだから。
人間78人。
天使悪魔、計22体。
それが、記録に残っている限りの君の父親が殺したモノの数だ。
もう、19歳になっているんだ、この程度ならすでに知り得ているかもしれないが、つまるところ、君の父は殺人鬼と言うやつなのだ。
で。
非常に、申し訳なく、希望を打ち砕くような言葉にはなるが、君の父親はすでに死亡している。
殺したのは神だ。
人でも、天使でも悪魔でも。
その全てに手が負えなくなって、神が殺した。
神が人を殺したのは、実に200年振りだ。
ある意味、栄誉的とも言えるかもしれない。
普通の人間なら、愛がある人間なら、ここで復讐心とかが湧いて、涙を流すのだろうけど、アンネ、君があの頃と変わらず、そこまで面倒くさくない人間だと信じて、話を続ける。
君の父親は立派に、人間らしく欲に走って、人や天使悪魔を殺したわけだが、記録上、一つ手を出せていない奴がいる。
そう、神だ。
私を含め、世界の絶対上位者とされているもの。
常に上に君臨するもの、でもあるのだが。
実を言うところ、記録上では消されているが、君の父親は1柱(1人だとおかしいからな)の神を殺していることに成功している。
言い換えるならば、神を殺めてしまったから、神に殺された。
しっぺ返しと言うやつだ。
神というのは無駄にプライド高い連中多いからな。
私が無さすぎるだけかもしれないけれど。
まあ、別にそこんじょこらの私みたいなのだったら問題なかったのだろうけど、少し相手が悪かった。
具体的に言及すれば、君の父が手をかけたのは、星神と呼ばれるものだ。
この星の意志とも言える。
死神が死を司るように、星神は星を司る。
死神が死ねば死の概念が消え去るように、星神が死ねばこの星は死ぬ。
こんな事、人様にバレたら神の面子がないしパニックになるのは目に見えてるから、隠されてたわけなんだよ。
さて、ここまでくると、君も少し推理がつくんじゃないか?
幼少期の頃の君の記憶を消して、わざわざ私の元に2年間置いた理由が。
それも、使い所のわからない封印魔法を習得させられた理由が、だ。
言わば、執行猶予なのだよ。
死んだ君の父親の罪はあまりにも重すぎたからね。
だから、娘である君に、その償いきれない罪のなすくりつけ、白羽の矢が立ってしまった。
条件は3つ。
ひとつは記憶の消去。
もうひとつは死神の監視の下、2年間を死界で安住すること。
ここまではクリアできた。
ただ、最後だ。
まだもうひとつ残っている。
君の父親が作りたもうた神殺しの魔導道具。
ミスティコシリーズの調査もとい、星神の救出。
これを完遂し、殺されている星神を救え。
君にはミスティコシリーズを止める術は授けたし、幸いにも星はまだ生きてる。
つまりは、君の父親が殺している神はまだ生きていることになる。
今、現在進行形で殺されている所なのだよ。
死は一瞬でも、殺しは死なない限り続く。
少し前まではあまり問題性はなかったのだけれど、状況がかなり大きく動いてしまった。
これは神からの命令だ、告訴状とも言える。
それに、今の君はあのオカマ君の探偵事務所にいるのだろう?
死神から、君への依頼とでも受け取ってくれ。
安心しろ、報酬ははずむ。
そういった書類も同封しておいた、目を通しておいてくれ。
一応の拒否権はあるにはあるが、断った場合星神が死んで、君も死ぬだろうし、父親の罪は残っているから死んでもろくな事にならないと言っておこう。
久々の手紙の内容がこんな事になってしまって非常に悔いが残るが、伝えるべきことは伝えた。
また会えるなら君と同じ卓に座って、紅茶を楽しみたいばかりだ。
この話はもうしたな。
年は本当に取りたくない。
私が知り得た君の2年間、そして、知りえない10年間。
君が、優しく、真っ直ぐ、こんな老いぼれの願いを聞いてくれる子である事を直に願う。
幸運を祈るよ、私の可愛い可愛いアンネ。
──
002
「あっつ」
汽車に揺られてアーウェルの駅に降り立つなり、最初に漏れた第一声はそれだった。
サンサンと煌めく太陽、何処までも澄み渡る青空。
海からは海鳥の声と潮の薫った風が流れ、心地よさを感じさせるものの、歴史を感じる黄色いレンガの駅舎からは溜め込んだ熱が肌を燃やす。
アーウェルについて書かれたガイド本に、それはそれは魅力的に綴られていた通りの光景なのだけれど、パンパンに膨らんだリュックサックを背負った私にとって、この暑さは鬱陶しいものでしかない。
それでもげんなりとしているのはどうやら私だけみたいで、汽車からおりたった周囲の観光客は、しばらく停留する汽車を眺めたり、人気の多い場所へ足を運んだり、どうやら楽しんでいる様子だった。
「鎌太郎さんに連絡しなきゃ」
逃げるように日陰の出来たベンチへと腰を下ろし、通信魔法を開く。
「座標位置、接続番号......よし。」
接続者に問題はなし。
そもそも間違いようがないのだけど、確認は大事だ。
ピピピピと、魔法通信接続を試す無機質な音が3回ほど頭に流れる。
そして、接続ができた証拠に陽気で、可愛くて、野太い声が頭に響いた。
『はぁい、こちら須手探偵事務所でーっす!』
「あー、もしもし鎌太郎さん?アンネです」
『あらぁ!アンネちゃん。どうしたの、迷ったの?乗る汽車を間違えたとか?』
「いや、ちゃんと目的地に着いたんで。その連絡」
『うっそぉ!』
「本当」
『じゃあ、1人でお弁当を買って、1人で電車に乗ってちゃんと降りて、そして今、1人で私に通信魔法を試みたのっ!?』
「試みてみました。」
『 ホントに凄い。凄いわよっ!大きくなったのねっ!』
「...ええ、まあ。」
私はこの人に、どこまで子ども扱いされているのだろう。
さすがに私でも、汽車ぐらいは乗れる。
駅員さんに尋ねはしたけど。
『すごい、すごいわアンネちゃん!』と何処で感極まったのか、涙声で幼児を褒めるかのような扱いに、私は短くため息を吐いた。
須手 鎌太郎。
私の引取り人であり、死神。
つまりは、お婆ちゃんの同類である。
そして、そのための名前というか、オカマだから鎌太郎なのか定かではないが、オカマだ。
けれども、大多数の人間が想像するであろう筋肉の丘があちこちにあるような、分かりやすいオカマではない。
見た目は20代くらいのお兄さんで、サラサラのブロンドの髪をなびかせながらも、顔は女性受けのいいイケメン。
人間ではまず成しえないであろう、パーフェクトオカマなのだ。
普通に過ごしているだけでも十分パーフェクトなのに、どうしてそっちの道に走ってしまったのか、そしてそれがいつからで何がきっかけなのか、その闇に包まれた過去は、鎌太郎七不思議の1つに認定されている。
認定者はもちろん私だ。
そんな彼(彼女)、鎌太郎さんとは早いものでもう10年の仲になる。
病室で目を覚ましたら、いきなり目の前にハイスペックオカマ死神がいる衝撃を、私はどう説明すれば良いのか言葉に困るが、彼の素性を聞いた後、そのまま、とんとんのとん拍子で退院すると、私は彼の事務所に引き取られた。
須手探偵事務所に。
彼はなんと奇特にも探偵さんだったのだ。
決して盛り上がっているとは思えない商店街の中に、ポツンとあるその事務所には、意外にも毎日山のように依頼の書類が来る。
それほど彼の腕が確かな証拠でもあるのだけれど、その書類全てを整理するのは私の仕事であり、そしてこの方私は書類整理の仕事以外したことがない。
けれども、昨朝来た、否、来てしまった例の依頼。
神の署名込みの特別送達とも言える、あの手紙の一件に名指されてしまった私は、人生で初めての探偵事務、そして初めての出張任務を担っていた。
『あ、そうだ。出来たらでいいし、お仕事ひと段落してからで全然いいんだけどぉ。お土産にアーウェルのお塩がほしいわぁ。』
「塩?」
『ええ。ほら、アーウェルって港町じゃない?漁業も有名だけど、塩も美味しいらしいのよぉ』
「へぇー、あ、ホントだ。雑誌にも書いてます。」
土産物としてのページの隅のほうに、小さくそのことが書かれていた。
なんでも、パスタと相性がいいらしい。
......。
お昼はパスタにしようかな。
『繰り返すけど、落ち着いてからでいいわよ。まずは、仕事優先。』
「わかってますけど......送れる日が来ますかね。」
『あら、私はアンネちゃんのこと信じてるけど。』
「でも、失敗したらこの星が死ぬんですよ?人類滅亡ですよ?鎌太郎さんは神様だからいいけど、全人類の命なんて私なんかには重すぎます。」
『でも、それがアンネちゃんに刻まれた運命だしねえ。仕方ないわ。』
仕方ない。
そんな言葉で片付けられるのだから、神様は本当に羨ましい。
死んだら私は色々と罪をなすくりつけられるというのに。
暗い気持ちをリセットするためにも、私は話題を切り替える。
「にしても、人がいっぱいみたいですよ。こんな所に本当にいるんですかね?」
『 んー、むしろ、私は星神がいるからこそ、アーウェルの特殊性に納得がいっちゃったわぁ』
「天使と悪魔とかがいないってこと?」
『それそれ』
アーウェルが観光地として盛んであることを説明づける、鎌太郎さんの口から零れた特殊性という言葉。
言及するなら、天使と悪魔の不在、人間の楽園。
装いは、黄色いレンガ街の古都であるが、天使も悪魔もそして神の存在も、すべてが当たり前であるこの世界において唯一、人でないモノが干渉できない聖域、それがこのアーウェルという街だ。
公共と呼べる施設の殆どを、天使悪魔が担っている今、珍しく人間が政治や警備をしている場所でもある。
そんな自由さと、歴史ある街並みに海があるという3点セット揃っていて、観光地にならないわけがない。
私は特に何ともないが、鎌太郎さん曰く、アーウェルに近づくとひどい頭痛に襲われるらしい。
他のモノも同様の症状を訴えると言う。
何故なのかは、解明されてないが、どうやら鎌太郎さんは答えを見つけていた。
星神の存在。
ドーナツの穴のように、いや、それよりもっと小さいか。
針で刺した穴の街は星神が大きく影響しているらしい。
『ま、わざわざ星神に近づきたい奴なんて、相当な変わり者よねぇ。はあ、でも私も行きたかったわあ!』
鎌太郎さんは吐き捨てるように声を強める。
この、行きたかった、は私の事を心配してのものだと思う。
「私1人じゃ不安ですか?」
『当たり前よぉ!しかも相手は星神よぉ!わざわざ危険を侵すことなんてさせたくないわよ。あと、普通に観光したいわよぉ!』
「あ、やっぱり。」
こっそり本音が出てた。
『あら、失礼。でも、神界の署名がもしなかったら、間違いなく引き止めてるわ。』
「そんなに?」
『私も会ったことはないから、というか会いたくもないから人格までは分からないけれど。星の文字を冠しているだけの実力はあるって噂よ。私なんか一瞬で消し炭でしょうねぇ...。昔の戦争なんかでは隠し玉って感じだったみたい。』
『使われることはなかったみたいだけどね。』と鎌太郎さんは最後につけたす。
うん、聞いているだけでお腹が痛くなってきた。
観光だけして帰りたくて、仕方ない。
でも。
私の父は。
殺人鬼であったという、その男は。
「父は、それを殺したってことですよね?」
『どうにかしたんでしょうねぇ。貴方のお父様は。』
「どうしたんでしょう?」
『人間だからなし得れる何かなんじゃない?ヒトって凄いじゃない。』
「なるほど変態ですね」
『実の父を変態呼ばわりはどうなのよ...』
「遅めの反抗期って事で」
そう、私の父であった人はソレを殺したのだ。
殺人鬼らしく殺神した。
手紙には、ミスティコシリーズと述べられていたモノによって。
名前も顔も知らない、血のつながっているらしい人間の手で。
(父さんか...)
私が実の父の事を知ったのは14の時だ。
鎌太郎さんが親でないことなんて、わかりきっていたから、思春期さながらの興味本位で尋ねた事がある。
どうも、鎌太郎さんは私が大人になってから言おうと考えていたらしいのだけれど、別段これといってショックを受けることもなく、逆に自分の親が殺人鬼なんてカッケーと中二病的に前向きに捉えていた。
おかげさまで、あの手紙にそんなに一驚することなく仕事に迎えているのだから結果オーライ。
という事にしておく。
面倒ではあるけど。
『反抗期なアンネちゃんに言うのもあれだけど、ホントに心配』
「そんなに?」
『ほらー、アンネちゃんって小動物というか、猫みたいじゃない?知らない人間とか1人で対応できるのかなって。』
「むう」
心配されといてアレだが、図星だった。
思えばいつでも鎌太郎さんの陰に隠れて、人とやり過ごしていた気がする。
それに実のところ、汽車に乗っていた時から、相手がどのような人物だとしても対応できるように、頭の中で何度もシュミレーションを重ねて暇を潰していた。
『神なんて9割は変人だし、そんな荒くれ者にアンネちゃんが上手くやれるかどうか...』
「鎌太郎さんと上手くやれた時点で大丈夫な気もしますけど。」
『あっはっはっ!それもそうねえ!じゃ、お節介なオカマからのアドバイスとしては、相手に話させる会話を心がけることよ。』
「......らじゃ」
有難い限りだった。
『ふふっ、じゃあ頑張って、いくら貴方のお父様が悪人でも、アンネちゃんはとってもいい子なんだから。私は知ってるわ。とにかく命は大事に。』
優しい声でそう告げられる。
たとえオカマでも死神でも、こんな私を10年も見守ってくれた人だ。
でも、そろそろ自分一人でもやれる所を見せないと。
運命のイタズラとは言え、この依頼は私が変われるいい機会かもしれない。
「わかってます。」
『じゃ、なにかあったら連絡してちょうだい。』
「......わかりました。じゃあ切りますね。」
『ええ、頑張って。』
「うん」
声援に小さく頷き、私は魔法通信の接続を切る。
周りを見渡すと、海鳥が羽休めに来る程度に人の姿はすっかりまばらになっていた。
というか、ホームには私と停車中の汽車しかいないように思える。
「よっこいしょ。」
腰を上げ、依頼にあった住所を再確認。
アーウェル通り5-6。
おばあちゃん曰くここに、星神がいるらしい。
まずはこの通りを探さないと。
駅に地図はあるに違いないし、確認をしてから行くとしよう。
そう思い立ち、1歩を踏み鳴らした時だった。
「立ち止まりなさい、アンネ・ペイルラ。素直な承諾を期待します。」
やや強い言葉で、メイドに声をかけられた。
フワフワでヒラヒラな装束に身を包み、ブルーマリンとも言える青に近い髪をなびかせ、彼女は横から私の名を呼んだ。
彼女の言う通りに、その場で立ち止まり、少し背の高い彼女と目線を合わせる。
人形かと思ってしまうくらいに整った顔立ちと気品の溢れる雰囲気は、私に小さく「うわあ」と感嘆の声を絞り出させる。
メイドさんは微笑を浮かべてみせた。
「いきなり不躾な態度で失礼致しました。長旅はどうでしたかアンネ・ペイルラ。率直な感想を願います。」
「え、つ、疲れました」
先ほどとは違う柔和な姿勢に言葉が詰まる。
どうして私を知っているのか、あなたは誰なのか。
聞きたい事が山ほどあるのに、彼女の夕日のようなオレンジの色の瞳に飲み込まれて口もまわらない。
思えば、最初より距離も縮まっているような。
「えいっ」
「うひゃっ!?」
途端、腕を背中に回され、つまりは抱きしめられ、情けない声が出てしまう。
言葉で表せない芳醇な香りが鼻をくすぐった。
暑苦しいはずなのに、ずっとそうされていたいような、不思議な感覚に襲われる。
「......アーウェルではハグでの挨拶が基本なのですよ。驚かれました?」
「は、はひ」
驚きすぎて母音さえまともに出てこない。
人に抱かれることなんてしばらくなかった気がする。
「ふむ、なるほど。」
そして、何かに納得すると、メイドさんは私を解放した。
「あの、何がなるほど?」
「83...」
メイドさんは呟く。
5秒ほどの間を置いて、私も気づいた。
「なっ、なななななっ!なんで、私のバストサイズっ?」
83という数字で私に関する情報で心当たりがあるのは、胸しかない。
ちなみに、最近あまり成長の見込みがなくて悲しみを抱いている。
いや、そんな事はどうでもよくて。
狼狽する私に、メイドさんは薄く微笑んでみせると。
「ふふっ。アーウェルでの挨拶はハグですが、ワタクシはその時にあたる胸の感触で、相手のバストサイズを計測出来るのが囁かな自慢です。ちなみにワタクシのサイズは78です。」
「変態だ...」
心からそう思った。
初対面の人間相手にハグを装ってバストサイズを計測するなど、変態の所業としか言いようがない。
そして、さらっと自分のサイズを宣告するあたりも。
どうしておばあちゃん、そして鎌太郎さんに、この人といい、関わってきた大人は皆、変な人が多いのだろう。
いや、もしかするとこの人。
私の脳裏に1つの推測の旗が立った。
「あの、もしかしてアナタが星神さま?」
そう、神は大抵変なやつしかいない。
オカマの死神がいるのなら、メイド服を着た星神がいても不思議なことではないし、さっき、鎌太郎さんとそんな会話をしたばっかりでもあったし。
しかし、私の問いかけに彼女は首を横に振った。
「ふむ、ワタクシの判断基準が変態性である事は癪にさわりますが、答えるならば、それはNOです。」
「えー...」
「なんですか、その落胆というか疑念に満ちた瞳は。」
「こんな変態な人間がいていいのかなって...神ならまだ納得いったから。」
自分で言っといてなんだが、中々失礼な事を告げている気がする。
かと言って、彼女は怒る素振りを見せることは一切なく、淡々と言葉を受け止めて返してみせた。
「なるほど。つまり私は神に近しい人間だというわけですね。それを聞いて安心しました。」
何に安心してもらったのか点で分からないが、メイドさんは「おほん」と咳払いをすると、メイドらしくカーテシー(スカートの端をもってする挨拶)を私にみせた。
それはそれはとても様になっていて、さっきまでの会話での印象が全て吹っ飛んでしまうほど、美麗で、可憐で、言及するなら、様になっている、というやつだ。
「ワタクシ、星神でありますイムお嬢様のメイドを務めております。トレセと申します。お互いバストサイズを知った仲ですし、トレセとお気軽に口をお開きください。」
いや、どういった仲だよ。
カーテシーを解いた彼女に、思わずその言葉が表に出そうになるがグッと堪え、こちらも自己紹介で応対する。
「えっと、アンネ・ペイルラです。須手探偵事務所より、死神からの依頼にて参りました。」
「ええ、存じてます。加えて、バストサイズは83なのも。」
「......。」
とりあえず目で訴える。
「失礼しました。ですが、お待ちはしておりましたよ。お嬢様を助けられるのはアナタしかおりませんので......。この星のためにもご尽力くださいませ。」
「それは。」
それは、私にしか助けられないから許されているのか。
疑念が脳裏をかする。
けれども、おいそれと口には出来ない。
まごつく私に、トレセさんは1度咳を払った。
「おっほん。追加しますと、ワタクシはアナタの事を大して恨んだり、妬んだりなどはしておりません。恨みを前者に1:9くらいだと思っておいてください。」
「ちょっとは恨まれているんですね。」
「ええ。アナタにぶつけるべき感情ではないですが、それでも少しは考えてしまうのですよ。」
彼女の立場がメイドであれば私は、忠誠を誓った主を殺した人間の娘。
それが目の前にいて、少しは考えない方が難しいかもしれない。
いや、考えることが普通だ。
「それでも、アナタに対してこのような負の感情を抱くのは誤りです。アナタはアナタであり、あの男とは全く別の存在なのですから。むしろ救世主なのですから。別段気にしないでほしいのです。回答は承諾を願います。」
「......わかりました。」
願われてしまったのならば、頷く他ない。
彼女がそれでいいと言うなら、こちらは納得するしかないんだ。
薄い氷のような、和解だとしても。
「あと、それと。」
契約書の内容を確認するが如く、続けざまにトレセさんは告げる。
今度は何だろうと尻込みするが、内容は想像とは真逆のものだった。
「仲直りの印に敬語を撤廃してもらいたいのです。何だか、アナタは諸々気にする性格だと判断しましたので。」
「いいけど...いいの?」
意外な事を述べた彼女に、確認の第1歩を踏み出す。
「ええ。ワタクシとしても、アナタと仲良くしたいのですよ。言ったじゃないですか、バストサイズを知りあった仲だから気軽に口を開けと。それでは言ってみましょう。トレセはカワイイー」
「と、トレセハカワイイー」
「トレセは美しいー 」
「トレセハウツクシイー」
「よく出来ました。」
なんだこの儀式。
会ったばかりの人に馴れ馴れしく(棒)話すのは変な感じがするが、トレセの方は嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「では、そういう事で、我々の中でしがらみはなくなりました。アナタは存分に命令を全うして下さいませ。ワタクシは、なるべくの助力として務めますので。それでは、お嬢様のもとまで案内致します。」
「あ。うん、よろしく。」
和平合意を済ませると、トレセはパチンと指を鳴らす。
途端、足元に魔法陣が展開され、光が私を包み込みはじめた。
「(転移魔法...)」
術式からそれが転移魔法だと判断がつく。
どうやら早速、私は連行されてしまうようなのであった。
□003
今から12年前。
つまりは私が7歳の時、ハイスペックオカマ死神より前に、私はとある死神に出会っている。
それはまあ見た目通りに死神と言える死神で、右手に鎌をもたせようなら十中八九死神と言える、黒いローブに身を包んだお婆さんだ。
実の所、名前は知らない。
死界と呼ばれる常に薄暗い世界に住居を構えていて、自分の名前以外思い出せない私のお世話をしてくれた。
加えてどうでもいい情報を付け足すならば、紅茶をこよなく愛飲していて、常にティーカップが手に添えられていた気がする。
ローズティーをよく飲んでいたっけ。
そんなお婆さんは2年間、失った私の記憶を埋めるように、世界の常識を私に入れ込んだ。
天使と悪魔のこと、魔法のこと、お料理のこと。
他にも色々と教え込まれ、お陰様で一人で生きていける程度の人間にはなれたと思う。
けれども、急な別れとともに鎌太郎さんに引き取られ、そして過保護にも過保護に延々と書類整理をしていた私は外の世界をあまり知らないまま、勝手に手紙だけをあの人は寄越した。
ここに来るまでにも、興味を引くものも色々あったし、汽車なんて走る原理は知っていても本当に走っているのを見るのは初めてだった。
そんなわけで、私にとってアーウェルの街は未知でしかないわけだ。
ましてや、ガイドブックによれば観光地らしく人気に溢れ、ドミノの如く露店が立ち並ぶアーウェル通りなんて気分の高揚を抑えられない。
行列の出来るパン屋さん。
最新のファッションが集う服屋さん。
それに野菜に魚にお肉とその他諸々の店も、人と馬車と箒の魔法便が常に行き来しているような光景も。
アーウェル通り5-6。
番地的にも、星神が住居を構えているのはアーウェル通りであるのだと私は考えていた。
つまりは、必然的に市場ともいえるそこに、足を運べるものと、そう捉えてしまうことになる。
だけど、現実は大きく違った。
「ここどこ?」
「特にこれと言って名前はない場所です。」
「いや、そういう事じゃなくて。」
「ああ、所在地を尋ねているのですか?先ほどいた駅から4000mほど離れた上空ですが。」
「本気で言ってる?」
「平然と言っていますが。」
「......。」
そういう事じゃないのだけれど。
しかし、トレセの言葉通りでないと諸々の納得に首を縦に触れない。
だって、雲が横目を通っていることも。
太陽が、より真近に見える気がすることも。
さっき乗ってきた汽車の汽笛の音がかすかに聞こえることも。
ここがアーウェル上空でないと、説明がつかない。
お婆ちゃんの文面を訂正するなら、アーウェル通り5-6上空となるわけだ。
原理は色々と不明だし、ここが外からどのように見えているのかとか気にはなる。
おおよそ、空をドーム状に覆うガラスのようなものが何とかしているのだろう。
「行きますよ。」
「あ、うん。」
不思議と地上よりも暑くもない、神様がいかにもいそうな独特の雰囲気と静寂を感じ取りながら、輝くばかりに美しい広大な薔薇の庭園を歩く。
うちの事務所は紙の山、山、山と白の山脈が点々とある中、赤、青、黄色、白、桃と5色の薔薇のコントラストが目に彩りを与えてくれていた。
「先ほど、これと言って名前はないと言いましたが、名前は絶賛大募集中です。」
「トレセが名付けたらいいんじゃないの?」
「ワタクシごときが、お嬢様が君臨なさる場に名前をつけようなど、浅はかすぎますので。」
「そんなことないと思うけど。じゃあ、一緒に考えようよ。トレセが付けた名前なら星神様喜んでくれるって。」
特にこれと言って理由はないけど。
ただ、自分にもしメイドさんがいて同じ状況なら嬉しいと思う。
「そう仰るのであれば...そうですね。彩ラレシ安寧ノ在リ処とか。」
「まさかのそっち系!?」
「償イセシ豊乳ノ乙女とか。」
「それ多分だけど私じゃん!?」
しかも、83を豊乳といっていいものなの?
さらさら、トレセは考える気力がないのか、それとも星神様がそういう名前が好きなのか。
私は案外好きだったりする。
「じゃあ...私も立候補していい?」
「ええ、どうぞ。」
「最果ての花園とかどう?」
「在り来りですね。もう少し捻りが欲しいです。」
「うーん、神世の創世園」
「絶妙に古臭さを感じるので却下です。」
「星神の花園」
「まあ、シンプル故に悪くないかと。」
「やった。」
という訳で、ここは仮だが星神の花園(仮)と呼ぶことになった。
ほぼ出来レースのそれに近いけど。
「そう言えば星神様ってどんな人なの?」
正しくはどんな神なの、だが。
「まだ死んでいないので故人のような扱いに不服を覚えますが、控えめに言って容姿端麗、迦陵頻伽、青雲秋月、飾り立てるならこの辺りでしょうか。アナタも、一目見れば胸キュンでしょうね。」
「胸きゅん...」
これでもかと褒めちぎった最後に、可愛らしい言葉が添えられる。
なんか聞いたことはある、胸がきゅんとなって死に至るとかなんとか。
「他にはないの?性格の方とか。」
「性格......性格ですか。凛として、1人でいることがお好きな方でした。それでもワタクシを気にかける優しさを持った......優美な方でした。」
「......?」
でした?
何だろう、その言い方は。
それは、さっきトレセが注意してみせた故人の扱い。
死んだような扱いじゃないか。
「言葉が癪に障るようですね。」
見抜かれていた。
「一概に、この様な言い回しになってしまうのにも、理由があるのです。主に、面白みのないウロボロスが禍根ではありますが。」
「面白みのないウロボロス?」
ウロボロスってあのウロボロス?
自分の尻尾を噛んでいる神世界にいるというあの?
「大方、アナタが思い浮かべているものとは違いますよ。コードネームというやつです。」
「ミスティコシリーズってやつ?」
「正しくそれです。」
トレセは歩みを止めることなく淡々と答えた。
ミスティコシリーズ。
私の父が作りあげたという神殺しの魔導道具。
そう、手紙には書いていた。
シリーズと名目されているのだから、1つ1つに名前は割り振られているのだろうけど、父のネーミングセンスはあまり趣味のいいものではないようだ。
「その、面白みのないウロボロスのせいで、星神様はどうなってるの?」
「言葉にするなら、魂の拘束ですね。死と再生を象徴するウロボロスの円環の如く、魂がある一日から離れないのです。」
「えーと...?」
「魂の拘束により、明日を知ることが出来ないと考えてください。毎日、同じ行動しか取れず同じ感情を抱き続けながらも、それがおかしいと気づくことが出来ないのです。」
「......。」
「魂が停滞すれば、それは死と言える。これが、アナタの父が考えた死の概念の一つです。」
平たく言えば、生きているけど死んでいる。
魂が明日を知らなければ、肉体は老いても生は止まる。
当人は気づくことなく同じ日をループしているというわけか。
足りない頭を働かせ、星神様はかなりまずい状況にあるようだった。
「ご存知ないかと思うので言っておきますが、ミスティコシリーズは全部で21つあることが判明しています。それぞれが何かしらの道具、もしくは生き物であることも。」
「その、ウロボロスは蛇なの?」
「分かりません。正体が掴めない以上、蛇だと仮定しますが、この庭園内で蛇を見たことはありません。」
「そっか。」
ごめん、鎌太郎さん。
お土産を送れるのは、かなり先になりそう。
まずは、ウロボロスの正体を探り当てることからがスタートしてそれを封印もしないといけない。
抵抗とかされるやつなら、なおさら面倒になる。
「さ、お嬢様がいらっしゃるのはもう少しです。せめて挨拶でもしていってから仕事にあたってください。」
「らじゃ。」
「あと、今更ですがはぐれないで下さいね。非常に手間がかかるので。」
「ああ...うん。」
目の前には、唸るほど素晴らしい光景が広がっているけど、間違いなく迷子になる自信は薄々感じていた。
横に並ぶ緑と薔薇の壁がどこまでも続いていて、自分が今のところ何処を歩いているのか皆目検討もつかない。
「これさ、普通に迷うとして、出られるのにどのくらいかかるの?」
「迷う前提なら1週間は路頭...花園に迷うかと。ワタクシも迷ったら出られない気がします。」
「嘘お!?」
「冗談です。まあ、迷ったらワタクシを呼んでください。こう、青いタヌキのような生き物に助けを求める眼鏡をかけた少年みたいな感じで。」
「やけに具体的」
「最近は冒頭で助けを呼んでからのオープニング...の流れじゃないらしいですよ。」
「それは、どうなんだろ...」
ショートケーキ頼んだらモンブラン出てきたみたいな...。
いやいや、なんの話をしてるんだ。
ここは天使と悪魔と神が普通にいる魔法もありのファンタジー世界。
今のところ魔法要素そんなにないけどね!
「というか、星神様がいる場所まで私を転移したらよかったんじゃ?」
「はあ...それはないですよ。アンネ・ペイルラ。」
大きくため息をつかれる。
え、そんなにおかしな事言ったつもりはないのだけど。
「まず、この庭園内で転移ポイントを置ける場所が1つしかないのです。」
「ほう。」
「それに、空中庭園でありながらも星神様という言及するなら裏ボスのような存在である方がいる場所を、そんな簡易な作りにしては失礼でしょう?」
「そうかなあ...」
「そうなのです。現に、この庭園は素晴らしいじゃありませんか。」
それは確かに頷ける。
頷けるけれども。
「だからと言って迷路なのは...。利便性的に。」
確か、住みやすい家の条件として、採光性、治安、デザイン、強度、断熱冷房、設備、交通と色々あるけど、交通面が不便なのは致命的な気もする。
「ま、苦しい言い訳をしましたが、実の所はお嬢様のご希望なのです。張り切ってワタクシが空間魔法でちょいちょいっと作成しました。」
「これ作ったのあんたなんかい!」
しかもさらっと空間魔法と言った気もするし、星神様は私みたいな客人の事をもっと考えて。
「これでも難易度は緩くしたんですけどね。もう少し難しくした、真の薔薇園もありますよ。」
「永遠にこのままでお願い。」
見たくもない第2形態の話を断るものの、私は彼女が空間魔法の使い手であることに内心驚いていた。
詳しい説明は省くが、空間魔法とはその名の通り空間をいじくって部屋を広くしたりとか出来るものなのだが、その分扱いが滅茶苦茶難しい。
私も一度やってみて、挫折した苦い思い出がある。
「唐突だけど、空間魔法って何かコツとかあるの?」
「これと言って特にはないかと。使い手の才能でしょう。ああ、でも。」
「でも?」
意味ありな否定に何か秘密があるのかと期待を抱く。
「バストサイズ80以下の女性だと扱いやすいとか。」
「絶対嘘じゃん!」
「ちなみに、ワタクシのバストサイズは78です。」
「言わなくても知ってるよ!知っちゃったよ!」
「以上、自慢でした。」
「やっぱりね!」
私のバストサイズは83なので、彼女の言うことが本当ならば、私は空間魔法と相性が悪いのだろう。
そう思うことにした。
「ちなみに、薔薇はワタクシの趣味です。」
「薔薇好きなんだ。」
「ええ、綺麗ですし。お嬢様もお好きでしたから。」
「......そう。」
言葉を交わすうちに迷路もようやく終わったようで、視野が開け、真っ白な、いかにも庭園にあるというか、そういうところくらいでしか見ることの無い建物が目に入る。
ガゼボというやつだ、言葉にしても分かりにくいだろうけど壁のない屋根だけの休憩所と言えばいいのだろうか。
八角形の独特なフォルムな建物の屋根の下には建物と合わせた色合いの見るからに高価そうな、テーブルと椅子がいくつか置かれている。
「......。」
そこに彼女は、確かイムという名前の神がいた。
見た目だけなら10歳ほどの女の子が。
イスに腰を下ろし、熱心に本に目を走らせ、こちらの存在など気にもしていない。
いや、気にできないのか。
本は真っ赤なハードカバーでタイトルは読み取れない。
それに、何度も何度も読み返しているせいか、本の表紙が少しはげていた。
「胸キュンしてます?」
「ああ、うん、まあ。」
確かに、彼女が言っていた通り、幼さを感じさせる整った顔立ちに肩まで伸びたブロンドの髪は艶やかで、胸きゅん要素なのだろうし、真っ赤な瞳も相まって、人形かと勘違いしてしまうほどではある。
ただ、ゴシック調のドレスに白衣という異質な格好には何か理由があるのだろうか。
白衣の方はサイズが明らかに大きいし。
「えっと、こんにちは。」
「.........。」
返答はない。
私の声に、本から目線を上げることもない。
ただ、静かにページをめくる音が私の鼓膜を揺らした。
「えっと......。」
沈黙。
それを割って入るように、トレセは懐中時計を取り出し口を開いた。
「この時間、お嬢様はここで本を読んでおります。で、あと5、4、3、2、1。」
「お腹空いた。」
カウントダウンがゼロを告げると、おもむろに、星神様は可愛らしい声で、自分の空腹を訴えた。
「かーえろ。」
かの戦争時代から生きているとは思えないくらいの、幼稚な帰還宣言。
「よいしょ」の掛け声とともに立ち上がる。
私の事など、ましてや長年寄り添ったトレセの存在さえ気にも止めず、星神様はどこかにへと歩いていった。
そのまま遠く離れていく彼女を見守ると、トレセは懐中時計の蓋を閉じた。
「と、こんな感じでご自宅へと戻られます。」
「よく出来たマギアドールみたい。」
マギアドール。
永遠の美を約束した、魔法人形。
わずかな邂逅で感じたのは、稚拙にもそんな感想だった。
「大方、その言い回しも間違いではないです。初めの3ヶ月ほどは表情にも変化があったのですが、いつしか目からは光が消え、表情も乏しくなり...そして今があれです。言葉はまだ発せられるようですが。」
「えっと、これから星神様は?」
「お屋敷へと戻り、ワタクシとご昼食ですね。この日のワタクシは屋敷で掃除をしていたので。まあ、その夜にウロボロスが作動するわけですが。」
「なるほど。」
「一先ず、お嬢様が戻られた事ですし、屋敷へご案内しようかと。そこからは。」
「そこからは?」
「蛇狩りの始まりです。」
トレセは冷たくそう言った。