異界転生譚 シールド・アンド・マジック   作:長串望

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前回のあらすじ

祭りの準備で賑わう街中。
森の魔女もいるとなれば、それは人も集まる。


第二話 祭りの相談

 二人が適当な昼飯を済ませて《巨人の斧(トポロ・デ・アルツロ)冒険屋事務所》に帰ってくると、広間で書類を前にうなっていた所長のアドゾが、丁度いいと出迎えた。

 

「なんですおかみさん?」

「祭りだよ祭り」

「祭りですねえ」

「気の抜けた返事して、まったく。当事者意識ってもんがない」

「当事者意識って、何かあるんですか?」

「あるもある、大ありだよ」

 

 アドゾに椅子を勧められて、テーブルに広げられた書類を見せられた。

 祭りのチラシのようなものもあれば、冒険屋たちの名前が記されたリストのようなものもある。

 

「なんですこりゃ」

「あんた何にも知らないんだね」

通訳(ムスコロ)呼びます?」

「いいよ、まだるっこしい」

 

 アドゾが説明してくれたところによれば、毎年の秋の祭りには、各組合大いに盛り上がって、催しごとをするのが常であるらしい。

 これは冒険屋組合も同じことで、祭りの二日目に、冒険屋組合主催の運動大会が開かれるという。

 

 市の開かれる広場を丸々使える催しと言うのは一年でもこの一回だけで、収益も結構なものが見込めるから、組合に所属する事務所も大いに奮うという訳であった。

 

 運動大会は三種目あり、順に的あて、馬上槍試合、闘技が催されるという。

 事務所の看板冒険屋である《魔法の盾(マギア・シィルド)》には、宣伝のためにも是非ともどれかに参加してほしいとのことである。

 

「別に三種目全部出てもらったってかまわないんだ」

「そうは言っても……」

「僕ら弓とか使ったことないし、馬上槍試合っていっても、タマはさすがに反則だよねえ」

「じゃあ未来、闘技だね。決まりだ。身一つでいいんだからね」

「ええ、そんな勝手に」

 

 とはいえ別に断る理由もないので、未来はリストの闘技のところに自分の名前を書き込んだ。

 闘技と言うのは要するに、木剣などを使った模擬試合のことだった。

 アドゾが言うところによればそんな奇麗なものではなく、武器が本物でないだけで、あとはルールもあえて緩くしている()()()()()()というのが本当のところのようだ。

 

「危なくないんですか?」

「危ないから盛り上がるんじゃないか」

「ああ、そういう……」

 

 競技は冒険屋だけでなく誰でも参加できるようだが、いくらかの参加料が必要らしい。見物席もいい席には料金がつけられているという。

 さらに競技場を囲むように並ぶ屋台も、組合直営か、組合に金を払って出店している店だから、そちらでも儲けが出る仕組みだ。

 

「沸かせりゃ沸かせただけ儲かるんだから、ごく潰しどもにゃ精々働いてもらうよ」

 

 とはアドゾの談である。

 

 勿論、儲けるだけ儲けて吐き出さないという訳ではなく、優勝者にはそれなりの賞金も出るという。町民からすれば一獲千金の大金であるし、冒険屋にしても、まれにみる大型報酬だ。

 誰でも参加できるものだから、参加者も見物客も毎年大盛況の人入りだという。

 さらに近隣の武芸者も毎年のようにやってくるし、中には複数の町の大会を梯子するつわものもいるらしい。

 

 さて、未来は闘技とやらに参加することが決定したところで、紙月はどうしたものかと悩んだ。未来と同じように闘技に参加するというのは、ちょっと厳しい。

 なんでもありとはいえ、さすがに直接的な攻撃魔法はだめらしく、紙月が参加しても勝ち上がるのは厳しそうだ。《強化(ブースト)》を遣えば身体能力は高められるとはいえ、そこらの町民相手ならばともかく、冒険屋の武芸者相手に通じるかどうかは疑問だ。

 

 かといって馬上槍試合はいろいろと無理があるし、となると的あてならば、まあできなくもないか。これで魔法がダメと言われると困るが。

 などと考えていると、あんたは良いんだよとアドゾに止められた。

 

「ええ?」

「あんたには運営の方に回ってほしいんだよ」

「運営ったって、俺、組合のことも祭りのことも全然知らないですよ?」

「そういう仕事じゃあないんだ」

 

 アドゾが言うには、運営は運営でも、大会を指揮する方ではなく、大会の裏手で働く人出が欲しいのだという。

 

「何しろ荒っぽい大会だから、怪我人もたくさん出るだろう?」

「まあ、無傷で済ますってわけにはいかんでしょうねえ」

「そうなると、大会のせいで大怪我した、組合のせいだ、って無茶苦茶言う輩も出てきてね」

「ははあ」

「だから一応備えてますよってぇ顔するためにも、怪我人の治療をする部門があるんだよ」

「成程、俺に魔法でそれをやれってことですね」

「そういうことさ」

 

 勿論、以前から何度もやっている大会だから、施療所の施療師や、医の神の神官、また在野の冒険屋の中でも医療に長けたものなどに声をかけて、賃金を払って座ってもらっているのだという。

 

「あんまり手に負えないような大怪我なら神殿か施療所に運ぶし、少ないが賃金も出す」

「うーん……なんか退屈そうっすね」

「その代わり、怪我人が運びやすいように、かぶりつきで試合は見れるよ」

「フムン」

「どっちにしろ未来が試合に出てるあいだ退屈するんなら、臨時施療所でどっかり腰据えてても変わらないだろう」

「ふーむむ」

「どうせ怪我人なんてそうそう来ないし、席代も浮くと思って」

「うーん」

「わかったよ、賃金には色付けてやる」

「よしきた」

 

 断る理由も別になかったことだし、紙月は快く依頼を請けるのだった。




用語解説

・快く
 冒険屋は基本的に快く依頼を請けることにしている。

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