異界転生譚 シールド・アンド・マジック   作:長串望

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前回のあらすじ

Q.太った?
A.太ってないよ。全然太ってない。でも運動大事だよね。


第二話 賑わう広場

 じゃ、頼んだぞ、と命ぜられたのは買い出しだった。

 その伝説たるや凄まじく、地竜を素揚げして甘酸っぱいたれで美味しくいただくとか盛大に尾ひれをつけられた噂を流されている《魔法の盾(マギア・シィルド)》の二人である。それに安っぽい財布を預けておつかいに行かせるなどという一幕は大胆かついい加減な脚色で知られる吟遊詩人たちも歌いはしまい。

 

 もっとも、この二人が仕事もないのでぶらついたり、事務所の雑用を言いつけられてぶらついたり、特に理由もなくぶらついたりする姿はスプロの町ではすっかりおなじみの光景となってしまっていた。

 噂が流れ始めた当初などは、気軽に店に顔を出そうものなら大いに畏れられうちのような店にどんな御用でと腰も低く対応されたものだが、今ではおう、おつかいかい、ちょいと待ってな、いいのが入ったんでおまけするよ、などと言う雑ながらも親しみのある対応をされているほどだ。

 特に、その燃費の悪さから飲食店を多用する未来などは、鎧を脱いで子供の姿で店の間を通れば、通り抜けた時には買い物もしてないのに持ってけ持ってけと両手が荷物でふさがるほどである。すぐ食べるので困りはしないが。

 

 今日も炎のように鮮やかな羽飾りで肩口が暖かい《不死鳥のルダンゴト》で厚着をした紙月と、炎の鳥を模した羽飾りやマントまで真っ赤で派手な《朱雀聖衣》をまとった未来が歩いていると、ちょくちょく声を掛けられる。ご町内では挨拶して会話もして何なら一緒に酒も飲める伝説として親しまれているのだ。安い。

 

 ここしばらくは寒いのであまり足を伸ばしていなかった広場に出向けば、人々があちらにこちらにと忙しなく歩き回り、通りを抜けた馬車が何台も行きかっていた。その荷台に乗せた品も一通りではなく、何かを詰めたタルや箱、野菜やら肉の干したのやらに、檻に入った家畜など様々だ。

 

 例えば紙月たちの見ている前で広場に荷を下ろし、屋台に並べ始められたのは玉切りされた丸太である。

 腰を下ろすのにちょうどよさそうなごろんとしたサイズに切られた丸太が、並べられて行くというよりはほとんど乱雑に積み重ねられて行く。それ自体は特に加工もされていないし、切り口も荒っぽく、しっかり乾燥こそしているが、そこらで切り倒したのを切り分けて持ってきましたというような風情である。

 

「なんだこりゃ」

「やあ魔女さん。こりゃ薪でさ。冬至祭(ユーロ)の薪でさ」

「薪? 割った方が使いやすいんじゃないか」

「割ってないのがいいんでさ」

 

 この寒いのに額の汗をぬぐう店の若いのが言うことには、この丸太をそのまま、またはくさびや斧で()()()と切り込みを入れて、暖炉で丸のまま燃やすのだという。また屋外では、切り分けていない素のままの丸太が、同じように火をつけられて燃やされ、それを囲むのだという。

 冬至祭(ユーロ)の間、大体は二十四日の日没から二十五日の日没までの間、炎が絶えずに燃え続ければ次の年も良いことがあるのだそうだ。

 またこの薪の火や、燃えさし、灰などには魔除けの効果があるのだとか。

 

 うちの薪はいい薪でさ、詰まってるし、よく乾いてるし、香りもいい、と色々言うのだが、そもそも薪の良し悪しなどわからない二人であるから、売り文句もいまいち響かない。

 紙月は燃えればいいと思ってるので、気にしたこともない。

 未来からすれば薪は訓練がてらぱっかんぱっかん割るものであって、それ以上ではない。最近コツをつかんで、ちょうど売り物の薪と同じような状態から、素手で引き裂いて見せたら、紙月にはちょっと引かれた。事務所の面子は盛り上がったが。

 

 薪などはまあ普段から売っているものなので、こんなに大量に積み上げられていること以外は普通と言えば普通だ。

 もう少し変わったものでは、植木鉢に植わった幼木が売られていた。紙月の背丈くらいあるものから、鎧を脱いだ未来くらいの小さなものもある。

 他の店では、盆栽のように小さなものや、ほとんどそこらの庭木のように大きなものまである。

 何なら生の木ではなく、作り物もあるようだった。

 

「これってさ」

「まあ、クリスマスっぽいイベントだしなあ」

 

 店番のおばちゃんに聞いてみれば、これらは冬至の木(ユーラルボ)または単に(アルボ)と呼ばれる縁起物で、様々なオーナメントで飾り付けて家の内外や店先などに置くのだという。

 予想通り、クリスマス・ツリーであるらしい。

 ただ、二人の知るツリーと違うのは、モミの木だけではなく、杉や樫など、常緑種であれば何でもいいようで、見慣れない風情のツリーになりそうだった。

 

 ちょっと視線を巡らせてみれば、広場の中心には大きなツリーがでんと鎮座しており、脚立などで足場を作って様々な飾りつけをしているところだった。

 おばちゃんによれば、当日にはあのツリーの根元に恋人たちが集まって見物したり、デートの待ち合わせに使ったりするらしい。そう言うところまでクリスマスっぽくて、なんだかこう、新鮮味がないような気もしないわけでもない。

 

「未来んちはツリーとか飾ったりしたのか?」

「一応ね。ちっちゃい奴だけど。綿とか、電飾とか飾ったりしてた。父さんが昔買ったやつで、LEDじゃなくて電球の奴でさ。触ると熱かったなあ」

「うちはちょっと大きい奴だったな。誰がてっぺんの星飾るかで姉ちゃんたちが毎年喧嘩するんだよな」

「何それ楽しそう」

「姉ちゃんが三人いるんだけど、それがみんなして、あたしよね! って俺に同意求めてくるんだよな」

「何それ怖い」

「政治的に正しい返答は、母さん助けて、だ」

 

 それで助かったためしはないが、と語る紙月の目は死んでいた。

 うちはひとりでツリー飾り付けて、ひとりで片づけて寂しかったけど、紙月んちよりましかもしれないと子供心に思う未来であった。

 

 そういう品々の他にも、食べ物や飲み物の屋台も出ていた。商店街の店が出張してきている店舗もあって、普段とは違うイベント色溢れる品々は目を奪われる。

 店番はたいていが赤い服を着ていて、赤い帽子をかぶっていた。それはどう見てもサンタクロースを模した衣装だった。帝国では、アヴォ・フロストというのだったか。異世界情緒あふれる景色が、なんだか途端に安っぽくなった気がする。

 

 店先に並ぶのは、様々な形に成形されて焼かれたパンや、カラフルに彩られたマジパン、たくさんの香辛料を練り込まれたクッキーに、そのクッキー生地で作られた人型のクッキーやお菓子の家。大小さまざまなパイ。

 ブッシュ・ド・ノエルそのものといったような、丸太を模したケーキさえあった。

 

「ねえ、これさ、このお菓子の人形」

「マジパンだな」

「これ、僕らじゃない?」

「ええ?」

「ほら、こっちのが僕で、これ紙月」

 

 未来が指さす先を見下ろせば、成程確かに、他ではなかなか見かけないオーソドックスな黒尽くめにとんがり帽子の魔女スタイルに、大盾を構える騎士甲冑のマジパンが並んでいる。

 店先で額を突き合わせてまじまじと見てみれば、

 

「森の魔女と盾の騎士は、今()()()ですぜ!」

 

 と悪びれることもなく言われてしまう。

 肖像権などと言うものは、帝国には存在しないようだった。

 凝ったことに、二人が着たことのあるドレスや鎧を模したものが何種類かあり、そのポーズも様々だ。二人別々のものもあるし、騎士が魔女を肩に乗せるデザインもある。

 よくよくほかの店も見てみれば、マジパンだけでなく、パンや、パイ、クッキーなどにも二人の意匠は使われているようだった。

 この調子では、飾り物にもなっていそうだ。

 

「……広告費なしで宣伝になったって前向きに考えるか」

「僕知ってるよ。これ、さらしものって言」

「ポジティブに行こうぜ」

 

 口ではそうは言うものの、なんだか周囲からの視線も気になってくるものである。

 誤魔化すように、温葡萄酒(ヴァルマ・ヴィーノ)でもないもんかねと屋台を見渡す紙月に、むにりと脇腹をさす指先。

 

「……いやなに。暖を取ろうとな」

「太るよ」

「うぐ」




用語解説

冬至祭(ユーロ)の薪
 丸のままの丸太、またはそれを玉切りしたもの。
 冬至祭(ユーロ)の間、火が消えないまま燃え続けると翌年は良い年であるという。
 この木自体は普通の木材であるが、その火、燃えさし、灰は魔除けになるとされ、お守りにしたりもする。


冬至の木(ユーラルボ)(Jularbo)
 現地におけるクリスマス・ツリー。
 常緑種であれば何でもいいようで、特にこだわりなく様々な木が用いられる。
 サボテンやリュウゼツランの生える西部では、これをツリーにすることもあるようだ。
 広場などには大きなものが飾られ、恋人たちの待ち合わせによく使われる。

・太るよ
 太ってない。別段太ってないし太ることもないけど、それはそれとしてまあ健康に気を遣ってるだけだし。
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