異界転生譚 シールド・アンド・マジック   作:長串望

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前回のあらすじ

これ本当に酒精はいってないんだよね……?
素面でこれ……?


第十一話 溺れると死ぬこともある

 なぜかなぜだか笹穂耳の先まで真っ赤になってのぼせた紙月を腰のあたりで支える未来。

 身長170センチそこそこの紙月を、鎧も着込んでいない身長140センチそこそこの未来が支えようとすれば必然的にそうなるのだった。

 女の人のようで、けれど女の人と違い骨ばった肋骨の感触が、ちょうど頭のあたりに来る。お姉さんのようなお兄さんなのだった。

 普段であれば照れたりもするのだが、風呂から上がった時点でふらふらとのぼせていた紙月を大いに心配した未来は、いたって平然と介護に徹していた。

 

「うう、悪いな、未来」

「いいよ、紙月。でもアルコールが入ってないのにのぼせちゃうなんてね」

「あ、ああ、そうだな、雰囲気で酔ったかな」

「もう、しっかりしてよね」

 

 口ではそう言いながらも、未来は紙月を支えることを苦にはしていなかった。酔っぱらった紙月を支えるのは慣れていたのもあるが、保護者ぶろうとするこの人を支えてあげられることが未来にはなんだかうれしいのだった。

 

 なおウラノはもちろん自分が支えようかと提案もしたのだが、未来が「身内のことだし、迷惑かけられないから」という顔で断固として自分で頑張って支えようとしたので、ほっこりとしたウラノはそれでよしとした。男の子してるな、と。

 そしてまた紙月も紙月で悪いなとか言いながら慣れたように身を任せるのでこいつこの野郎こいつという目で見てしまったのも致し方ない話である。

 

 さて、寒風の中を歩くうちにほてりも冷めていったのか、いい加減照れ臭くなったのか、心配する未来を振りほどいて、紙月は自分で歩きだした。

 

 そんなころにたどり着いたのが、大型の公衆浴場…………ではなく、その看板には《帝都遊泳場(ナヂェーヨ)》と記されていた。

 入り口も広く、また大型の乗合馬車も侵入できる駅が隣接しており、馬車留めも見られる。かなり大きな施設だ。

 

遊泳場(ナヂェーヨ)?」

「要は、室内で泳げる施設だね」

「じゃあプールだ! 帝都にもあるんだね」

「むしろ帝都だからこそじゃないかな。なにしろ帝都は泳げるようなとこがないしね」

「フムン」

 

 言われてみれば、帝都には遊びで泳げるような場所はない。

 川はあるがあくまで護岸工事の施された運河や用水路としてのものであり、人が泳ぐことは前提としていない。

 湖や池のようなものもない。そういった自然の水場を求めるならば、帝都を出て近隣の村などを訪ねるしかないが、それだって大した環境はない。

 

 大型の公衆浴場などでは、浴槽で泳ぐ者もいるが、あまり勧められない。古代ローマのそれとは違い、帝国の浴場は運動とは切り分けて考えられるものだからだ。

 

「さて、風呂ってわけではないのは確かなんだけど、ここの売りは温水だってことでね」

「なるほど、あったかいってわけじゃないが、冬でも泳げる程度の水温ってわけだ」

「そうそう。若い男三人で風呂巡りってのもいいもんだけど、でも若者なんだし、そろそろ運動の一つもしておきたいだろ」

「うーん、俺はそうでもないが……」

「紙月、僕泳いでみたいんだけど」

「まあ、そうなるな」

 

 プールと聞いて目を輝かせて尻尾も振った未来である。

 運動が嫌いなわけではないが貧弱ボディではすぐ疲れるしなと思う紙月も、この期待の目を裏切れはしなかった。

 

「さて、一応水着の貸し出しもあるけど」

「あ、僕たちは自分のあるからいいよ」

「そうだな。俺も()()()()借りたらいいかわからねえし」

「キミたちの《自在蔵(ポスタープロ)》は何でも入ってるな……」

 

 ウラノは呆れたように言うが、彼がコートに仕込んだ《自在蔵(ポスタープロ)》からもしれっと水着が出てきたので、人のことは言えないだろう。彼の場合はちょくちょく来るからなのだろうが。

 

 紙月と未来は、以前南部に行ったときに着たものと同じ、つまりゲーム時代の装備品としての水着を選んだ。

 

 未来の《勇魚(イサナ)皮衣(かわごろも)》はシンプルなトランクスタイプの水着で、クジラを思わせる黒と白のカラーリング。勇魚とはクジラのことなのだ。獣人である未来に装備が合わせて変化したものか、お尻には尻尾を通す穴が開いている。ゴムなのか伸縮性があり、しっぽは通すが無駄に広がらず、変にずれたりしない。

 面積が大きめで泳ぎに向いていないデザインにも見えるが、これでも未来が全力で泳いでもポロリしない驚異の防御力である。

 

 紙月はビキニタイプの白い水着に長めのパレオを巻いた《魅惑のマーメイド》という装備だ。その上から、薄手のジャケットを肩に羽織っている。紙月は骨格はきちんと男なのだが、自分の容姿を理解していてたおやかにふるまうので、奇妙なアンバランスさが魅力として引き出されていた。

 《魅惑のマーメイド》自体にも異性の敵を魅了する効果があるのだが、そもそも女性キャラクターの設定をかぶった男という邪神(プルプラ)謹製のとっちらかったボディを持つ紙月なのだ。男女問わずに「なにかがこわれるおとがした」ので原作より凶悪かもしれない。

 

 そして女装男子であるウラノは水着もやはり(?)女装であった。

 原色赤の派手なタンキニはフリル多めで、見え隠れするへそとうっすら割れた腹筋が健康的な魅力を放っている。やはり着込んでいないと体の薄さや骨格がはっきりと出て、より少年らしさが強調されるのだが、むしろそれこそが活発ではつらつとしたウラノの可憐さとフェチシズムじみた魅力を醸し出していた。

 それにしてもどうやって《検閲済(ᤊཏꦞཏꦞ)》を隠しているのか相変わらず謎である。実際にはきちんとした技術と理屈があるのだが。

 

 こうして三人並ぶことで未来の健全さが引き立ってしまうのだが、いろいろ壊された人々にとってはむしろ未来の普通の少年の健全さみたいなものがかえってフェチシズムになってしまうようで、一番普通にしている未来が一番ねっとりとした視線を向けられることもあって帝国の未来が不安である。

 

「この時期の男の子ってちくびだけ女の子なんですよ」

「僕等は……優しく見守る」

「おまわりさんこっちです」

 

 もちろん、大多数の利用客は読者の皆さんと同じく人を破廉恥な目で見たりなどはしないのだが。

 

 さて、《帝都遊泳場(ナヂェーヨ)》は公営施設にありがちな画一的なデザインではあったが、例えばのんびりと遊泳するための広めのスペースもあれば、コースロープで仕切られた鍛錬用のスペース、またボールなど道具を使ってもよいスペースなどに分かれており、利用客が自分に合った利用法を選べるようにできていた。

 

 プールサイドも広く作られており、ベンチが設置されているほか、敷き布が貸し出されたり、軽食や飲み物の売店もあった。

 

 そしてプールの片隅には水着を着た風呂の神官がゆったりと泳いでいた。泳いでいたというか漂っていた。プールの神官ではないらしい。理屈としてはこれも沐浴(もくよく)ということらしい。

 あるいはプール文化が熟成していけば、プールの神も生まれるのかもしれないが。

 

「おお、かなり充実してるなあ」

「帝都のいいところは、遅い時間までこういう施設がやってるとこだよね」

「確かに、スプロも夜になったらお店なんか全部しまっちゃうもんね」

 

 帝都ほどの大都市であり、燃料にも比較的困らないとなると、夜間の営業も十分視野に入る。

 多種族混交都市であり、その中には夜行性よりの種族もいるし、そうでなくても夜しかできない仕事や、朝昼関係ない人々もいる。眠らない町とは、そういった夜を歩く人々のためでもあるのかもしれない。

 

 だからか、この時間でも客の入りは悪くない。もちろん夏場ほどではないだろうが。

 ただ、どちらかというと遊びに来た人間より、トレーニングの一環としてひたすら泳ぎ続けるようなものが多いようにも見えた。

 

「帝都って泳げる場所がないだろ。だから泳ぎの練習ができる場所もないわけ」

「そもそも泳げる場所がないんだから、泳ぐ必要もないんじゃないか?」

「川に落ちて溺れることもないわけじゃないし、冒険屋とかなら地下水道に行くこともあるだろ?」

「ああ、そういえば……」

 

 地下水道。帝都や一部の都市は古代聖王国時代に基盤からして計画されて作られた都市であり、広大な地下空間となる地下水道が広がっている。これは下水処理だけでなく、災害時に水害を減らすための巨大地下貯水槽や、上水道に用いる水の処理槽など、現代では全容がわからないほどの大迷宮となっている。

 冒険屋や水道管理局といった面々は、この地下水道に日々挑んでいるのである。

 

 紙月と未来も以前に地下水道の冒険に臨み、古代のセキュリティの一環であるガード・ロボットこと穴守(あなもり)と戦闘を繰り広げたことがあった。

 ふたりには魔法もあり、《エンズビル・オンライン》由来の不思議で便利なアイテムがあるが、そういった手段のないものにとって、誤って水路に落ちてしまった場合に泳げるかどうかというのは生命にかかわる問題なのだろう。

 

「まあ単純にいい鍛錬になるっていうのもあるけどね。全身を使うから」

「水ン中で歩くだけで負荷になるっていうしなあ」

「ちなみに二人は泳げるのかな?」

「俺はまあ、人並み……でもないのか帝都だと。まあ溺れずに泳げる程度かね」

「僕は結構泳ぐの好きだよ。無心になれるし」

「こんど十二歳になる子供の楽しみ方かそれ……?」

 

 ずっと泳いでいると、水の音と自分の音しか聞こえない。自分という機械が回転している、それだけがある。その単調さが心地よいのだと未来はいう。

 前世の未来はそこまで運動をする方ではなかったが、一人で黙々と泳ぐことは嫌いではなかった。ある種の完成された世界がそこにあった。

 一般的な十二歳男子の考えることかそれはという疑念はあるが。

 

「そう言うウラノはどうなんだ?」

「オレは南部生まれだぜ? 子供のころからもうさんざん泳いだし、この年でも泳いでるんだから達者も達者だよ」

「ほほー、海で鍛えたわけだ」

「そうそう。何しろ泳げないと死ぬからさ、実家の方」

「急にシビアな世界観になるねえ……」

 

 南部は内陸地もあるのだが、それでも南部といえばやはり海のイメージが強い。その海辺で育つ南部民は泳げないと死ぬパターンが多い。多くは漁で海に出るし、商船などでもそれは変わらない。遊び場も海辺が多い。最低限泳げなければ、幼少期を脱する前に死んでしまう。つまり無事に大人になった海辺の民は、泳げる率が非常に高い。

 そしてこの世界の海はしれっとヤバ目の生き物もいるので、紙月たちが想像している以上に「最低限」のハードルは高いのである。

 

 さて、最初から泳ぐ気のない格好をしていた紙月は、軽く水をちゃぷちゃぷしただけで満足したようだった。ベンチで飲み物片手に待機を宣言し、元気に泳ぐ未来を眺めてはたまに手を振るといった引率のお姉さんみたいなお兄さんムーブをするだけになってしまった。

 たまにナンパなのか声をかけてくるものもいたが、「悪いけど子供を見てないと」と低めのボイスで丁寧にお断りされて、いろんなものが壊れるのだった。

 

 そんなブービートラップみたいな存在をさておき、未来は競泳コースをひた泳いだ。帝都でもジョギングは毎日していたが、正直なところ運動強度が足りていない思いはあったのだ。異常に高い生命力(バイタリティ)を誇る未来にとって、フルマラソン程度ではビタイチ経験値にならないのだ。全くならないことはないのだが、負荷がまるで足りていない。

 そんな中で、普段使わない筋肉を使い、かつ水の負荷のある水泳は未来に久々に心地よい負荷を与えていた。VIT特化のステータスなだけに、泳ぎの速度などは見た目通りではあるのだが、25メートルあるコースを延々と往復し続ける姿には、温かいまなざしで応援していたトレーニング中の冒険屋も思わず真顔になるというものである。

 

 途中までは競争しようぜとはしゃいでいたウラノも、速さはともかくスタミナで敗北し、序盤で稼いだ分も巻き返され周回遅れになった時点でおとなしくプールサイドに上がっていた。

 悔しさはあったが、疲れを感じながら泳ぐといつ溺れるかわからないのだ。命優先であった。

 

 ようやく未来が競泳コースから出たのは満足したからではなくウラノを待たせてしまったからという大人な判断であり、それがまたウラノのささやかなプライドを傷つけたのだが、それは笑顔の裏でそっと処理されたのだった。

 

 傷ついたプライドを癒すため、というわけではないが、ウラノはクロールくらいしかできない未来に、様々な泳ぎ方を教えて見せた。平泳ぎやバタフライといった未来も見たことのあるものだけでなく、鎧を着込んだ時の泳ぎ方や、水中でいかに武器を持つかといった、現代社会ではまず教わることのできないような()()()な泳法だ。

 

 そして並走するように泳ぎながら、ふたりは様々なことを話した。

 

「ねえミライ、キミ、悩んでることがあるんじゃないか?」

「ん…………そういうのわかるものなの?」

「もちろん、って言いたいけど、まあ年頃なら悩みの一つや二つあるからね」

「まあ、うん、あるはあるけど」

「おせっかいとは思うけどね、大人(おじさん)になると若者にあれこれ言ってやりたくなるものなのさ」

 

 そういうウラノは水も滴るというか、肌の張りもあり、まだまだ若者の域なのではないかと思うが、じゃあいくつなのかというとちょっと判断に困った。ウラノの顔立ちは現地人によくあるもので、つまり欧米人めいていて、未来にはいささか年齢が分かりづらい。まさか少年ではないだろう。青年か。おじさん、というほどの年には見えないが、二十歳は超えているのだろう。多分。

 

 その自称おじさんは、ちらっとプールサイドを見やった。未来もそっちに視線を向ける。

 そこでは待ち構えていたように紙月が微笑みながら手を振ってきて、未来はゆるく泳ぎながら軽く手を振り返した。少し照れ臭いが、ちょっと楽しい。

 

「キミの悩みってシヅキのことだろ」

「……それも年頃ならってこと?」

「ふふふ、年頃の男の悩みなんて大体そういうのさ」

「それはそれで偏見だと思うけど……」

 

 しかし間違いではなかった。

 未来の悩みと言えば紙月のことばかりであった。

 日々の暮らしにも悩みがないわけではないが、それらはどうとでもなることだった。

 紙月のことだけは、どうにかしなければどうにもならないものだった。

 

 そこそこ親しくなった、しかし行きずりの他人であるというウラノのポジションは、未来がちょっと悩みをこぼすにはちょうど良すぎた。

 

「うん……紙月のこと、ではあるかな」

「好きなのかい?」

「う……ん。多分そう。部分的にそう」

「どういう気持ちだいそれ??」

 

 ストレートに言われて、未来は少し詰まった。

 好き、ではあると思う。でも好きという言葉には、いろんな意味があって、いろんな好きの中で、自分の好きがどれなのか、未来にはわからなかった。好きの形が、未来にはまだわからなかった。

 星の数ほどもある好きの形を、比べられるほどに未来は好きを重ねてこなかったから。

 

「紙月が好きっていう気持ちは、確かにあるんだけど、でも、好きって色々あって、僕が紙月をどんな風に好きなのか、よくわからないときもあるんだ。頼りになるし、頼られたくもあるし、仲はいいと思うし、そう思っていて欲しい。だらしないところを見せてくれるのも、少し面倒だけど、結構うれしい」

「親愛で、友愛で……それに恋愛?」

「うぅん…………恋愛っていうのも、本当はよくわかんないんだ」

 

 ドキドキする。というのはある。それは小説や漫画でもよく見かける。それは恋愛として描写されることが多い。でも未来には本当のことを言うとよくわからない。ドキドキはする。心惹かれる。でもそれってどういう気持ちなんだろうというのは、未来には未知だった。経験が足りなかった。

 

「ドキドキするだけなら、その、女の人を見るときにもあるんだ、実は。照れくさいけど」

「わかるよ。男っていうのはいつもドキドキしてるんだ。割と見境なく」

「それはそれでどうなの……? まあ、その、なんだろう。そういうときって、変に申し訳なくなるんだ。言い訳みたいな。でも紙月の方がドキドキするよっていうのも、なんか変じゃない?」

「変じゃないよ。でもミライは、そのドキドキが好きっていう気持ちと同じものじゃないんじゃないかって思うわけだ。誰にでもドキドキするなら、違うんじゃないかって」

「あー…………そう、なのかも。なんていうか、好きって、特別なものなんじゃないかって」

 

 ウラノは深くうなずいた。性愛と恋愛は、しばしば混同される。そして若者はそのことに苦悩する。しかし、それらは部分的には通じ合うものなのだ。世界でただ一人にだけ気持ちが向いて、そのほかの誰にも反応しないというのは、たいへんロマンチックで理想的かもしれないが、それはそれで不健全で不健康だとウラノは思う。

 

 肉体的な反応は下世話で精神的な愛情は高尚だなどというのは、ウラノに言わせれば愛というものをわかっていないように思われた。精神は肉体に宿り、肉体は精神に左右される。それらは不可分なのだ。

 魅力的だと思うものに肉体が反応するのは当然であり、精神がそちらになびくのも仕方のないことなのだ。ただ理性がそこにかかわり、舵取りをするのが人間というものなのだ。波があるのも、流されかけるのも仕方がない。そこをどう舵取りするのかが人間の生き方なのだ。

 

「いいかいミライ。キミはいろんなものに迷い、時には流され、時に大切なものを見失いそうになるかもしれない。自分の気持ちがわからず戸惑うかもしれない。でも、そんな時も自分の真ん中にあるものは揺らいだりしないんだ。重心を感じるんだ、ミライ」

「真ん中にあるもの……」

 

 未来は自分の胸元に触れた。心臓の鼓動は、未来がこねくり回す言葉より、よほど正直かもしれない。

 そういうことなのかな、と考える未来に、ウラノは微笑んだ。

 

「自分の真ん中にあるもの……つまり《検閲済(ㄘƕ ㄘƕ)》だね」

「なんて??????」

 

 ウラノは力強くうなずいて、自分の真ん中を、つまり股間を指さした。

 

「《検閲済(ƫƕƫƕ)》は間違えたり、混乱することはあるけど、でも嘘はつかないんだ。《検閲済(ㄘんㄘん)》は正直なんだ」

「うん………うん? なんかまっとうなこと言ってる空気出してない?」

「君はシヅキと……あれだ、()()()したいって思うかい?」

「ゔぇっ……!?」

「いいかい? えっちしたいっていう気持ちは悪いものじゃないんだ。えっちな気持ちからはじまる恋や友情もある。逆にえっちしたくなくても幸せな結婚生活はできる。結婚が全てでもない。大事なのは安心と信頼だ。心を通わせることだよ」

「あ、真面目な話……?」

「つまり《検閲済(㋟㋮㋟㋮)》だ。《検閲済(GoldenBall)》を指針にするんだ」

「どういう気持ちで聞けばいいのこれ???」

「《検閲済((〇〇))》は緊張すればこわばって縮こまる。でも緩み過ぎても右に左にふらついてしまう。程よく締まっていれば、どんなに揺さぶられても《検閲済(ω)》は均衡を保って真ん中に収まる。いいかい、《検閲済(ቻンቻン)》と《検閲済(夕マ夕マ)》を信じるんだ」

「まず僕はウラノが信じられなくなってきたんだけど」

「好きっていう気持ちは特別でもなんでもないんだ。自然で、あたりまえで、そして素敵な気持ちなんだよ、ミライ」

「最後だけきれいにまとめればいいと思ってない???」

 

 未来はアドバイスのきれいな部分だけを掬い取ろうとしたが、どうしてもノイズが混ざってしまって困惑した。

 ただ、どうしようもなく、未来の()()は紙月にまっすぐ向かっていて、なんだか我知らず未来は赤面するのだった。




用語解説

・《帝都遊泳場(ナヂェーヨ)》(La Naĝejo de La imperia ĉefurbo)
 帝都内に複数同名の施設がある。都営プール。
 貴族はプライベートビーチとか遊泳場を持っているので、基本的に平民用。
 夏場は大勢の客が訪れるほか、季節問わずトレーニング用にも人気がある。

・《勇魚(イサナ)皮衣(かわごろも)
 ゲーム内アイテム。夏限定イベントで登場する特殊なMobから確率でドロップする。水中活動が可能になる。
『勇魚の皮を羽織れ、海に挑め。その先に挑むべきものがあるのだから』

・《魅惑のマーメイド》
 ゲーム内アイテム。夏限定イベントで登場する特殊なボスから低確率でドロップする。女性専用装備。水中活動が可能になる。名前のわりにパレオでナマ足が見づらいのではという意見もあった。
『夏、海、そして水着。なぜだろう。たったこれだけでぼくらは限界を超えられるのだった』

・きちんとした技術
 腹筋を駆使して睾丸を下腹部に収納し、陰茎は股の間に通し、余った陰嚢で包み込むようにしてテープなどで固定している。
 睾丸収納術は弱点である金的を体内に収納することでガードする手法としてしばしば武術家に用いられることがある。
 ただし、睾丸は熱に弱いため、長時間体内に収納している場合性機能が低下する恐れがある。また収納した睾丸が取り出せなくなる恐れもあるため、決して安全な手法ではないことに気を付けていただきたい。

・「悪いけど子供を見てないと」
 後に「経産婦子持ちお姉さんみたいなお兄さん」概念が現地で猛威を振るったとか振るってないとか。
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