ID.in Personality 作:内臓脂肪が多いガリノッポ
眠りというものには二種類ある、というのは有名な話で今さら説明も不要だろう。この二種の眠りを人は約3時間周期で繰り返す。つまりは原因なく起きる場合は、この周期の区切りに準じている訳だ。後は窓から見える外の明るさから時間は予想できる。
この考え方でいけば、今は9時くらいだろうか。そんな特別意味のない思考を、寝起きの曖昧な脳内でしている中、窓から差す陽の光が少しずつ僕の意識を明快にしていく。
「……なんか、昨日からこんなのばっかりだなぁ」
そして、待っていたのは目を背けたくなるような、その現実。あまりにも背けたいものが多過ぎるが、ここは二つの意味でしっかりと目を覚ます為に、状況を説明していこう。
一つ、上には知らない天井。もう古典的と言えるほどお約束な台詞ではあるが、この時点で此処は我が家ではないのが分かる。
一つ、右には白色の壁。そしてそのキャンバスを染めるように並ぶ可愛らしい家具の数々。本棚には知らない題名の本ばかりだ。心なしか少女漫画が多い気がする。さらに本棚の上にはぬいぐるみ。嗚呼、もうこれ以上目に物を入れたくなくなる。
一つ、前には片側だけ開かれたカーテンと、陽の光を通す窓。カーテンの柄が特徴的で目を引く。それ____ハリネズミだろうか____がとても可愛らしい。しかし、そんなもの僕が部屋にはあるはずもない。
一つ、左、というか僕の傍らにはとんでもないものがあった。
「君、また寝てるのか……」
例の少女が、またもや眠った姿を僕に見せていた。間違いなく側から見れば、いやもう何も言うまい。そう、僕は目を背けようにも四方八方から来る現実の数々により、現実逃避すら許さらない状態にあった。
「何故、何故……」
僕は思わず頭を抱えた。ビジュアルだけなら、ひと夜の間違いを次の日の朝に後悔する男そのものである。これもまた古典的ではあるが、張本人である僕は堪ったものではない。
そんな最中、この状況を更に悪化させるべく新たな問題が起きる!
ジャラランラン。ポロロンロン。僕のポケットから音楽が流れる。少し古臭い曲に自分でも趣味が変だとも思うが、好きなんだから仕方がない。
ポケットをまさぐり、スマホを取り出す。画面には『榊原阿仁松』とあった。
「……あー、ごめん。今僕、家にいないんだよね」
画面をスワイプして電話に出る。相手は画面を見る前からわかってはいたが、『阿仁松』と表示されていた。
『は? お前が家に呼んだんだろうが。貸した本いい加減返せよ」
その苛つきも分からなくもないが、今回は不可抗力だ。僕も今現在の状況を把握し切れていないのだから、どうにもできない。
「いや、僕も早く帰りたかったんだけど、これには山より深くて谷より高い訳があってだね」
「とりあえず、お前がテンパってるのは深い山と高い谷で分かったが、俺はどうすりゃいい?」
「多分、僕が家に帰るのにあと数時間掛かると思う。いや、僕も早く帰りたいんだよ? けど、ちょっと早く帰るのは難しそう」
実際は状況をほとんど理解できてないから時間がどの程度掛かるかなんて分からない。けど、玄関前で阿仁松を待たせるのも忍びないし、一度帰ってもらった方がいいだろう。
「……おい、お前また面倒起こしてる訳じゃないよな? それなら俺がそっちに向かうのも吝かじゃないが」
僕の様子から心配をしてくれたらしい。こういうところは男らしいと思う、見た目は別として。
「いや、大丈夫だよ。別に危険な所にいるわけじゃないから「ふぁぁあ……」ってうわっ!」
不意に傍で寝ていた彼女が起きた。横目で見るに、これまた大きな欠伸である。
「____あー、了解。状況は察したわ。いや、根掘り葉掘り聞こうとしてすまんかった。ソリャお前も男だよな。そういうことの一つや二つあってもおかしくはないか。いやー、我が友にも春が来てたとはな」
「いやいやいやいやいや!! ちょっと待って、違うから! 阿仁松が考えてることは絶対に違ってるから!! 僕、別にホテルにいるわけじゃないからね!?」
まずい、非常にまずい。このままでは僕は友からプレイボーイ認定をされてしまう。僕にはそんな経験はないし、する予定もない。そして、こんなひと回りも年が下の娘に欲望を抱くほど、特殊な好みも持ってない。
「はいはい、そう謙遜するなって。本はまだ今度で良いから、是非ともその青春を謳歌するがいいさ! それじゃあな!」
ちょっと待って!! 僕がそう叫ぶ暇も与えず、阿仁松は話を捲し立てて電話を切った。もちろん勘違いはしたままである。
「散々だぁ……ほんとに」
うなだれる中、不意に部屋の扉が開いた。どうやら落ち込む暇すらも与えてくれないらしい。
「おや、二人とも起きてたようだね。良いタイミングだ、早速で悪いが朝食の準備が出来ている。特に府露糸くんは現状に困惑してるだろうけれど、その話も朝食の席でしよう。ほら、二人とも立ち上がるといい」
首を扉の方へ向けると見覚えのある男_____確か井戸内園の園長の井戸内さんだっただろうか_____が朝食の誘いをもちかけてきた。
「あっはい」
混乱と困惑の極みにあった僕には空返事をすることしかできなかった。