お気に入り登録していた方。すみませんでした
「朝の会議は以上とします。では皆さん、今日も頑張っていきましょう」
学園長の締めとともに、各自が各々の職務へと進む。私も周りもかわらずに整備室に向う。
いつも通りの日常が始まると思っていたが、とある人物の近くを通ったときに問題が起きた
「お誕生日おめでとうございます。織斑先生」
「ありがとうございます」
「今晩いいとこを押さえましたから」
「それは楽しみですね」
「パッといきましょ。パッと」
今日は千冬さんの誕生日だったのか
記憶が摩耗していたせいで、そんなことも忘れていた。日頃の感謝と過去の謝罪と………
いや、考えるのはやめよう
謝罪したところで、千冬さんは知らない事だし、所詮は自己満足にしかならない
そんな事よりも今は仕事に集中しよう
千冬さんにプレゼントを渡すなら、どんなものが良いのだろうか?
私自身、あんまりプレゼントを渡すのも、貰うのも経験が乏しいからな。何を渡せば良いのかがわからない。
取り敢えず紙に書き出してみるか
こう言うのは一度書き出すとまとめ易くなるからな
『 千冬さんに渡すプレゼント候補
1 腕時計、パソコン、電化製品系
2 服、靴、ネックレス
3 酒、食べ物
4 本
5 現金 』
ざっとこんなものか………。うーん……
やっぱりセンスが無いな
まぁ良いや。1つづつ考えていこう
まずは1。電化製品系
今の電化製品は安いと言っても、まだ1年も職場を共にしてない男に渡されても困るだろうな。
腕時計は確か着けて無かった筈だけど、他の人達と被りそうだから却下。
1にバツをつける
次に2の衣服系
2にバツをつける
ついでに4と5の本と現金にもバツ
自分のセンスを千冬さんに押し付けるのは気が引けるし、そもそもファッションセンスに自信が無い。
本なんて論文しか読まないから何を渡せば良いかわからないし、現金とか最悪だよね
だから全部却下
最後に残った3の飲食物
味気無いけど、やっぱりこれがベターだと思う。千冬さんはお酒とか好きだし
というかよくあんな不味いものが飲めるよね
ちょっとした好奇心で中学生の頃、ビールを拝借したけど一口で吐き出した記憶がある気がする
あぁ駄目だ。口調が幼くなってる
もとに戻さないと………
よし。これで大丈夫だろう
取り敢えずネットで良さげな酒でも探すか
整備室に備え付けてあるパソコンを起動して、ヨド○シカメラのウェブサイトを開く
商品検索で『酒』と打ち込み、人気順から目を通す
人気順とか何処の誰の人気だよと思うが、知識が無いので頼るほか無い
ひたすらマウスをカチカチ鳴らす
んっ?これなんてどうだろうか
酒じゃないが、これなら日常的に使えるし、値段もリーズナブルでプレゼントとしては最適だろう
なかなかやるじゃないか人気順
お前の事を見くびっていたよ
そしてありがとう。ヨドバ○カメラ
時間を確認する
最寄りのヨ○バシまで車で往復1時間として、昼休憩終了まで後20分
商品の受け取りとかがあるから、多く見積もって2時間かかるとして、1時間半以上もオーバーする
業務が終わってからとしても2時間もかかれば、そのうちに千冬さんは同僚と飲みに行ってしまうだろう
いや、ちょっと待て
在庫が無いから取り寄せする必要がある、つまりどっちみち今日中に渡せ無い
どうする。別のものを贈るしか無いのか
だが千冬さん相手に妥協はしたく無い
しょうがない。多少は妥協する………
待てよ。この構造は…………
そして素材は錫の……いや、ステンレスの方が………
うん。ここの設備なら造れる
よしいける。私ならいける
なら今日の業務を早く終わらせなければ
時刻は11時を過ぎてしまった
本当なら千冬さんが飲み行く前に渡したかったのだが、メンテナンスの不備が見付かって駆り出されてしまった
だが、ヨ○バシのサイトにあったやつよりも、素晴らしいものが完成したと思う
流石に明日も業務があるから千冬さんも、もうそろそろ帰って来る筈だ
夜遅くに同僚(女性)を独り待つ男。犯罪臭がするな
「おい。そこにいるのは………石見…か…………?」
やっと千冬さんが帰って来てくれた
「夜分遅くにすみません。と、その前に。お帰りなさい織斑先生」
「……あぁただいま」
怪訝そうな顔と言うか、これは警戒か
そうだろう。私だって不審者だと間違える
「そう警戒しないでくださいよ。織斑先生に渡したいものがあるだけです」
絵柄の無い茶色の紙袋を突き出す
「お誕生日おめでとうございます。ささやかですが、私からの気持ちです」
千冬さんはありがとうと言いながら、恐る恐ると言った雰囲気で受け取ってくれた
見てもいいかと言われたので、勿論と返す
「………これはグラスか」
「はい。なんでも酒をより美味しく飲む為のグラスとか」
酒は飲んだら終わりだが、これなら半永久に使え、万が一壊れても、私がすぐに直せる
「それは凄い。いいものをもらった」
「喜んでもらって、こちらも嬉しいです。造ったかいがありますよ」
製作に7時間も費やして良かった
「これだけですから。では、おやすみなさい」
そう切り上げて、自分の寮部屋に帰ろうとした時。後ろからおいと千冬さんから声がかかる
「造ったってお前が造ったのか?これを?」
「そうですよ」
千冬さんはグラスを手に取り、遊ぶ様に確かめている
時折なるほど、ふむ、しかしと悩む様な仕草をして、そしてちらちらこちらの方を確認する
何か不具合があったのかと少し不安になったその時、いつものキリッとした目で千冬さんは私を見据えた
「さっきまで飲んでたんだが正直飲みたりなくてな、部屋でもう2、3杯飲もうと思ってたんだ。なに、独りで飲んでもつまらんから、お前も付き合え」
「私飲めませんよ」
「ふざけるな。無理やりでも飲んでもらうぞ」
……………の…………す……せ…ん……………
あ…………い………ん…………………………………
「あのっ!石見先生!聞いてますか!」
私の顔の前で手をぶんぶん振る山田先生
少し思考に更けてしまっていた。悪い事をしてしまった
「すみません。ちょっと前の事を思い出していました」
「そうだったんですか。返事をしないかったので、ちょっと心配しちゃいました」
無視をしていた相手に心配するとは
同じ人間として心が痛くなる
「それで織斑先生の誕生日ですけど、なにを贈ります?」
「逆に山田先生は何を贈るんですか?」
質問に質問で返してしまった
「私のですか?そーですねー……お酒………えー、でもー……………」
思考の海に旅立ってしまった
今年は山田先生のプレゼントから派生させようと思っていたのに
「どうしますか?」
「どうしましょうか?」
今年のプレゼントはドツボに嵌りそうだ…………
ついでに食洗機はどうだろうかと言ったらセンス無さ過ぎと言われてしまった……………