シュミットをギルドホームに送った俺達はそのまま、近くにあった噴水公園のベンチに座った。
そして、俺達は57層のマーテン街のレストラン内でお茶を飲んでいた。
「まんまと、ヨルコさんの目論見通り動いちゃったけど、でも、俺は嫌な気分じゃないよ」
「そうだね。ねぇ、もし君達だったら超級レアアイテムがドロップした時、なんて言ってた?」
「そうだな、元々俺はそう言うトラブルが嫌でソロやってる所もあるし」
「俺もキリトと同じかな」
「うちはドロップした人の物」
「あ」
「そういうルールにしているの、SAOには誰にどんなアイテムがドロップしたのかは、全部自己申告じゃない。ならもう隠蔽とかの工作を避けようと思ったら、そうするしかないわ。それにそう言うシステムだからこそ、この世界の結婚に重みが出るのよ。結婚すれば、2人のアイテムストレージは共通化されるでしょ、それまでなら隠そうとしていた物が結婚してから何も隠せなくなる。ストレージ共通化って凄くプラグマチックなシステムだけど、同時に凄くロマンチックだと私は思うわ」
そして、ウエイトレスから料理が運ばれてきた。俺はアスナの物言いを聞いていて、確かに、と納得したが、同時に何か違和感を感じた。だから小さく言葉に出してみる事にした。言葉に出したら、何か変わるかもしれないと思ったからだ。
「アイテムストレージの共通化、結婚相手の死亡、隠そうと思っていた事が何も隠せなくなる。あれ?」
あれ、結婚ってアイテムストレージの共通化って、結婚相手が死んだらどうなるの? 持ってたアイテムはどこ行くの? 順当に考えて生きてる方だよな。グリムロックとグリセルダだったら、グリセルダがPKで亡くなって、亡くなったプレイヤーのアイテムストレージの中にある例の指輪はグリムロックのアイテムストレージの中だよな、アイテムストレージの容量が足りなくなって、ストレージに入らなかったアイテムはプレイヤーの周りに散らばる。あれ、これってグリムロックがグリセリダを殺した犯人なんじゃないのか? 指輪が欲しくて、そして、今回の圏内事件の事を多分、ヨルコさんとカインズが話していると思うから、殺人犯を擦り付けるのにちょうど良くない? やばい、考え出したら、止まんないぞ。だから、2人に意見が貰いたくて、聞いてみた。
「………なぁ、2人とも」
「何だ、サクラ?」
「サクラ君、どうしたの?」
「もし、もしだよ。グリムロックがグリセルダを殺した犯人なら、そして、今回の圏内殺人の武器を作った本人で、この圏内事件の事を詳細に知っていて、今回の事を利用して、グリセルダの事を探ろうとしているプレイヤーを抹殺しようとしていたら、どうなる?」
「さ、サクラ君、何を言っているの?」
「お、俺だって。馬鹿げた、事だとは思ってるけど、考え出したら、何だか止まんなくて」
「いや、可能性はあるか、サクラ、サクラがどうしてそんな考えに達したか、教えてくれ」
「あ、あぁ、えぇと、あぁと」
「落ち着け、深呼吸しろ」
「はぁ~ふぅ~、どうしてこんな考えに至ったのかは、アスナが、結婚するとアイテムストレージの共通化だって言った事が始まりだ」
そして、さっき考えていたことを、しどろもどろになりながらも、話していく。そして、話していくとなんだか、結論がまとまっていく。
「だから、グリセルダが死亡した後、指輪はどうなると思う?」
「順当に考えて、グリムロックのアイテムストレージに残ると思う」
「指輪は奪われていなかった?」
「いや、そうじゃない。奪われたと言うべきだ。グリムロックは自分のストレージにある指輪を奪ったんだ」
「だったら、3人が危なくないか? もし、グリムロックが今回の事を知られたくなかったら、さっきも言ったけど、今回の事を利用して、3人を抹殺しようとしていたら」
「まずい」
俺達3人は、またもやレストランを走って出ていき、ヨルコさんがいる19層に転移した。俺とキリトは近くに馬を借りれる馬小屋が会ったので、高いお金を払って、馬に乗って、ヨルコさんたちがいる離れた丘の上を目指して、馬を急いで走らせる。
丘の上は見えた時には、3人のローブを被った殺人ギルドのメンバーとポンチョを着たリーダー格のプレイヤーが居て、その他にヨルコさん、カインズ、シュミットの3人がおり、シュミットは地面に倒れていた。多分、麻痺毒の効果だろうと予想する。
「うわ!」
そして、丘の上に到着すると、キリトは止まるのに失敗して、落ちてしまった。俺はきちんと馬を止めて、降りた。そして、俺達は馬の尻を叩いて、元来た道を戻らせた。
「さて、どうする? もうじき援軍も駆け付けるが、攻略組30人を相手にしてみるか?」
「ちぃっ」
ポンチョのリーダー格のプレイヤーは舌打ちをして、俺達とにらみ合った。俺もキリトも武器を出して、4人に向けて構えたままだ。そして、数秒位した後に指を鳴らした。そうしたら、ヨルコさんに武器を向けていたプレイヤーは武器を鞘に戻した。
「行くぞ」
「サクラ、必ずお前を、殺してやる」
「………」
リーダーはそう言うと、後ろの3人を連れて、俺達の横を通り過ぎていく。そして一番最後のローブ姿の男プレイヤーがボソッと呟いた。多分、俺以外聞えていなかったんだろう。そして、そいつは俺の事を知っているし、俺もそいつの事を知っていた。それから4人が姿が見えなくなったところで、武器を下した。
「また会えて嬉しいよ。ヨルコさん」
「全部終わったら、きちんとお詫びに伺うつもりだったんです。と言っても信じてもらえないでしょうけど」
「キリト、俺は周囲の確認をしてくる。もしかしたら、さっきの仲間がいるかも知れないから」
「分かった。気を付けろ」
「あぁ」
俺はそう言って、周囲の安全確保のために武器と盾を構えながら歩き出した。そして、霧でも丘の上の木が見える様に狭く丘の周りを見て回り、戻ってきた。
「敵はいなかった。さっきの奴ら、3人だけだったようだ」
「そっか、ご苦労さん」
「アスナは?」
「まだだ」
「了解、一応周囲の警戒は続けておく」
そう言って、俺は索敵スキルで周囲の警戒を続けていく、そして、キリトは話す事は話したのか、アスナを待っていた。
「居たわよ」
「詳しい事は本人から直接訊こう」
「そうだな」
「やあ、久しぶりだね。皆」
「グリムロックさん、貴方は、貴方は本当に?」
アスナがグリムロックを連れてきた事により、これで指輪事件の本当の真相が明らかになるだろうと俺は思った。
「何でなの、グリムロック。何でグリセルダさんを、奥さんを殺してまで指輪をお金に換える必要が有ったの!?」
「ふっ、金? 金だって? んふふふ。金の為ではない、私は、私はどうしても彼女を殺さねばならなかった。彼女がまだ、私の妻である内に。彼女は現実世界でも私の妻だった」
「「「「ッ!」」」」
グリムロックのその言葉に俺達は全員、驚いていた。俺は、何故、現実でもゲームでも妻であるぐりグリセルダを殺さなければならなかったのか、それが不思議でならなかった。まあ、今から教えてくれるか。
「一切の不満もない、理想の妻だった。可愛らしく、従順でただの一度も夫婦喧嘩もしたことが無かった。だが、共にこの世界に捕らわれたのち、彼女は変わってしまった。強要されたデスゲームに脅え、恐れ、竦んだのは私だけだった。彼女は現実世界に居た頃より、はるかに生き生きとして充実とした様子だった。私は認めざる終えなかった。私の愛した優子は消えてしまったのだと。ならば、ならばいっそ、合法的殺人が可能なこの世界に居る間に優子を永遠の思い出の中に封じ込めてしまいたいと願った私を、誰が責められるのだろう?」
「そんな理由であんたは奥さんを殺したのか?」
「十分すぎる理由だ。君にも何れ分かるよ、探偵君。愛情を手に入れ、失われようとした時にね」
俺はグリムロックの話を聞いた時に、思い出したのは両親の姿だった。俺の知る限り、夫婦喧嘩が絶えなかったけど、結局、その都度仲直りして、その都度、俺に互いの良い所や悪い所、新しく発見した所を見惚れるくらいの笑顔で教えてきた顔だった。
「なあ、グリムロックさん、あんたはグリセルダを愛してたんだよな?」
「勿論だとも、私に可愛らしく、従順な優子を愛していたさ!」
「俺の両親は、小学校の頃に交通事故で亡くなったんだ。だけどさ、俺が覚えている両親は何時も喧嘩して、言い争ってたけど、絶対に仲直りして、嬉しそうに、互いの新しい所を見つけたんだって、子供の俺に交互に話しかけてきたんだよ。俺はグリムロックさんの言いたい事が分からないよ。だって、だってさ、もう話せないんだよ。もう、怒ってくれないんだよ。頑張ったねって褒めて貰えないんだよ。笑顔で笑ってくれないんだよ。料理、一緒に作ってくれないんだよ。キャッチボールだって、ハイキングだって、海に行ったり、山に登ったり、出来なくなるんだよ? 何で、なんで思い出の方が良いの? 傍に居てくれるだけで、嬉しいじゃん、居なくなると、悲しいじゃん。グス、だから、分かんないよ。グリムロックさんの言いたい事が、全然、分かんないよ。これが親か妻かの差なの? 妻だから、思い出にするために殺せるの?」
これが俺の本心だった。泣きながら、俺は言っているのだろう。だって思い出は薄れるし、忘れる事もある。だから、俺はもっと話しておけばよかったと思っていても、話せない、笑顔を見たいけど、見れない。見れるのは写真や思い出の中だけだ。そんなの嫌だよ。
「グリムロックさん、間違っていたのは貴方よ。貴女がグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない、貴方が抱いていたのは唯の所有欲だわ!」
「………」
誰かが、崩れる音がしたが、俺は涙が止まらなかった。そして、泣いてる俺の横をさっきまでヨルコさんの肩を抱いていたカインズさんが通って行った。俺はしっかり結末を見届けるために、目元を擦って、グリムロックの方を見た。
「キリトさん、この男の処遇は私達に任せてくれませんか?」
「分かった」
グリムロックの肩をカインズとシュミットの二人でしっかり持って、この丘をゆっくりと去っていき、よるこさヨルコさんが俺達3人にお辞儀した。俺達はお辞儀を返して、4人が見えなくなるまで見送った。
「ん、あ~」
「あはは、結局、徹夜になったな」
「ねぇ?」
「ん?」
「何?」
「もし君なら、仮に誰かと結婚した後になって、相手の隠れた一面に気付いた時、君ならどう思う?」
「ラッキーだったって思うかな。だ、だってさ、結婚するって事はさ、それまでの見えてた面は好きになってる訳だろ? その後、新しい面に気付いて、そこも好きになれたら、に、二倍じゃないですか」
「ま、いいわ。そんな事より、お腹が空いたわ、さっきも食べそびれちゃったし」
「そ、そうだな」
結局、今日は徹夜をしてしまい、朝陽が丘の上にある木を照らす中、アスナはキリトに視線を固定して、結婚相手の新たな一面を見たらと尋ねた。キリトの返答が良かったのか、何事もなかった。
「二日も前線から離れちゃったわ。明日からもまた、頑張らなくちゃ」
「あぁ、今週中に今の層は突破したいよな」
「そうだね。頑張るよ、貴女が出来なかった分を、俺達が頑張るから」
「サクラ?」
俺はグリセルダのお墓を見ながら、そう呟いた、キリトには届いたらしい。そして俺の方を向くと、歩いて行こうとするアスナの腕を取って、お墓の方を向かせた。
「ぁ」
キリトとアスナにも見えているのだろう。彼女の姿が、ここはゲームの世界なのに、現実世界でもないのに、幽霊なんて出る訳ないのに、何て思ったけど、多分、こんな考えは無粋なのだろう。
「ねぇ、キリト君、フレンド登録しようか」
「え?」
「今までしてなかったでしょ? 何時もはサクラ君を経由して連絡取りあってたけど。それじゃあ、不便だわ」
「いや、でも俺はソロだし、サクラを経由した今まででも十分だと思うけど」
「別にパーティーを組めって言ってる訳じゃないし」
「俺的には2人が、フレンド登録してくれれば、手間が省けて嬉しいんだけどな」
「サクラ君もこう言ってるんだし。それに少しは友達作らないと」
「そ、そうか? サクラも居るし、不便はないけどぉ!」
お二人さん、仲がいいな。なんだか俺の両親みたいだな。なんて思うのは失礼かな? そう思いながら、2人を見ていく。これから先、この二人の感情がどう変化するのか、見ものだと思った。
「ご飯食べるまでに考えておいて。じゃあ、まずは街に戻りましょうか」
「あ、あぁ」
俺は少しだけ、立ち止まり、2人の後姿を見ていた。そして、すぐさま2人の後を追った。
これで、長い長い、圏内殺人は終わりを迎えた。グリムロックやシュミットたちの今後は俺は分からないけど、少しだけ良いモノになってくれてると良いなって思い、願った。