俺のHPはレッドゾーンに入っており、残り一撃でも食らったら、死ぬくらいのHPしか残っていなかった。多分、キリトも同じくらいだろう。って考えながら、俺はハイポーションで減ったHPを回復していく。
「キリト君!」
俺が、ハイポーションを飲み終えた後、涙目のアスナがキリトに抱き付いた。俺達の周りには軍の生き残りと、風林火山のメンバーが周囲を囲んでいた。
「馬鹿、無茶して」
「あんまり、締め付けると俺のHPが無くなるぞ」
「だったら、これでも飲んどけ」
俺は抱き付いているアスナの邪魔にならない様に、キリトにハイポーションを渡した。キリトはいきなり、渡されて少し驚いていたが、それがハイポーションだと分かったら、小さくお礼を言って、飲んだ。飲み終わったら、クラインがちょっと前に出てきた。
「コーバッツと、後2人死んだ」
「ボス攻略で犠牲者が出たのは、67層以来だな」
「また、助けられなかった、か…」
「こんなのが攻略って、言えるかよ。コーバッツの馬鹿野郎が…死んじまったら、何にもなんねぇだろうが」
少し、顔を伏せて、言った。その姿は黙祷しているような感じだった。だけど、クラインは首を振って、キリトの方を見た。何となく、言いたい事の予想が付いた。
「それはそうと、おめぇ、さっきのは?」
「言わなきゃ、…ダメか?」
「たりめぇだ。見た事ねえぞ、あんなの」
本当に言いたくなさそうな感じがしたが、クラインはそれを押し切って、聞いてきた。キリトも少し考えて、諦めたのか、話し始めた。
「…エクストラスキルだよ。二刀流」
「しゅ、出現条件は?」
「分かってたら、もう公開してる」
「情報屋のスキルリストにも載ってねぇ、ってことはお前専用のユニークスキルじゃねえか。たく、水臭えな、キリト。そんなスゲー裏技黙ってるなんてよ」
クラインはキリトのスキルを聞いて、メニューから、情報屋から買っていたのか、現在の出現しているスキルを確認して、キリトの二刀流が無いと、少し明るそうに言った。
「半年くらい前、スキルウインドウを見たら、いつの間にか二刀流の名前がそこにあったんだ。でも、こんなスキル持ってるって知られたら…」
「ネットゲーマーは嫉妬深いからな。俺は人間が出来てるからともかく、妬み嫉みはそりゃあ、あるだろうな…。それに……。まぁ、苦労も修行のうちと思って頑張りたまえよ。若者よ」
クラインが良い事言ったと思ったら、顔が少し下種くなった。多分、キリトの状況を見て、修行とかいろんな意味を持った事を言った。
「勝手な事を」
「転移門のアクティベート、お前達が行くか?」
「いや、任せるよ。俺はもうヘトヘトだ」
「俺も遠慮だ。今日は、もう帰って寝たい」
「そうか、気を付けて帰れよ」
クラインはそう言って、俺達と別れて、次の75層に向かう為に、ボス部屋から出て行った。今回、俺は元々クライン達とパーティー組んでいなかったため、一緒に行かなくても問題なかった。
「おい、アスナ?」
「怖かった、キリト君が死んじゃったら、どうしようかと思って…」
「なに言ってんだ。先に突っ込んでいったのはそっちだろ?」
「そうだね。今回突っ走ったのはアスナだったよ」
アスナが素直にキリトの無事に安堵し、少し涙声で言っていった。俺達は先に走り出したのはそっちが先だろと言うと、アスナは少しだけ、言葉を溜めた。
「私、暫くギルド休む」
「や、休んでどうするんだ?」
「キリト君とパーティー組むって言ったのもう忘れた?」
「………」
俺はお邪魔みたいだな。こんな事になるならクライン達と一緒に75層の転移門のアクティベートしに行けばよかったな、なんて後の祭りか。…はぁ、出来るだけ声を出さずに、ひっそりとしておこう。
「ぁ…」
キリトの小さな小さな「あ」と言う言葉が聞えてきた。俺はキリトと背中合わせで居るから、キリトの顔が見れなかった。残念だな。
「分かった」
「うん」
2人のやり取りは、背中を合わせていた俺だけが、知っている。特等席ではなく、もはやお邪魔虫だろ、今ここに居る俺は。
「………
……
…もう喋って良いか?」
「え? あ!」
「あ、うん、忘れてたのね。俺の存在を、まぁ別に構わないけどさ」
「そ、そうだな。サクラ、ありがとう」
「おう、俺は先に帰るわ、お2人さんは仲良く帰ってね」
俺はそう言って、恥かしがる2人を背に、立ち上がり、急いでボス部屋の外に出て、転移結晶でアルゲートの自室に帰ることにした。自室に到着すると、緊張していた糸が解れたのか、何とか無理やり体を動かしてベットに倒れ込んで、泥沼のように眠った。
そして、翌朝の2024年10月19日、第50層・アルゲートのエギルの店に俺は呼び出された。
「よーす、エギル、売れてる?」
「おぉ、サクラ、昨日はお疲れだったな」
「まぁね。出来れば次が無い事を祈るよ。それよりキリト居るよな?」
「おう、奥に居るぞ」
「そんじゃ、失礼ま~す」
俺はエギルと一言二言話して、見せの奥にある倉庫に入って行った。そこにはしかめっ面の親友がエギルに入れたのか、飲み物を飲んでいた。
「くそ、どこか遠く離れた場所に、人が誰も来ないような辺鄙な田舎フロアに引っ越してやる!」
「引っ越しするのは良いけど、金あるのか? それに誰も人が来ないような辺鄙な場所ってあったっけ?」
「……探せばあるはず、きっと、多分」
「はいはい、まぁ1日2日でどうにかなるかは知らないけど、一応調べておくよ」
「冗談だけど、ありがとう」
俺はキリトの愚痴を聞きながら、それに真剣とはいかないまでも、聞き流さずに一応調べると約束した。まぁ、そんな辺鄙な場所があるかどうかは知らないが、人が少なくて緑豊かな場所なら多少なりとも検討は付くから、そこらへん辺りから調べてみますか。
「軍の大舞台を全滅させた青い悪魔、それを単独撃破した二刀流使いの50連撃。そして、悪魔の攻撃を一身に受けてなお、立ち続け、仲間を守った守護者って。これは随分大きく出たな。ははは」
「へぇ~、俺のも載ってたんだ、それより守護者って何だ?」
「多分、二つ名みたいなモノだろ、気にせんでいいと思うぞ」
「ふ~ん、まぁ、どんな呼ばれ方をしようと、俺は仲間を守るだけだよ」
エギルが店から奥に顔を出して、今日掲載された新聞を朗読していた。そこにはキリトの二刀流が書かれていたが、尾ひれが付いており、正確な情報ではなかった。そして、俺の情報も載っていた。
「尾ひれが付くにも程がある。そのせいで、朝から剣士やら情報屋に押しかけられて、ねぐらにも居られなくなったんだからな。サクラの部屋に行こうとしたら、先回りされてるから、仕方なくここに来たんだよ」
「そりゃー、あんたの自業自得なんじゃないの? あたし達だけの秘密だって言ったのをバラしちゃったんだから」
キリトがそう愚痴ると、店の裏から誰かが入ってきたようで、キリトと仲が良い会話をしていた。知り合いかな? と言うか、秘密をバラしたって、この女性もキリトの二刀流を知っていたのか。
「あ、そう言えば、リズはサクラと会うのは初めてだったよな?」
「えぇ、そうよ。あたしはリズベット、48層でリズベット武具店の店主をしているわ。よろしく」
「あぁ、キリトのもう一本の片手剣を作った鍛冶師か、サクラです。よろしく」
「よろしく」
俺とリズベットは、まぁ互いに軽い自己紹介をした。そして、何事もなかったかのように話を戻そうとすると、ドタバタとこの場所に走ってくる音が聞えてきた。
「はぁはぁ、どうしよ。キリト君。大変な事になっちゃった!」
「??? アスナ、大変な事だけじゃ、分からないから。主語を言って欲しい」
「え、サクラ君も来てたの!?」
「おう、20~30分前にメッセージで呼ばれてね。今日は完全にオフにしようと思ってたところにエギルの店に来てくれって言われたんだよ。それで、何が大変なんだ?」
「そうなんだ。あ、団長がね、キリト君に会って話がしたいって、言って来たの」
「へぇ、血盟騎士団団長のヒースクリフがね、キリトに会いたいと、何のようなんだ?」
俺はアスナをもう少し話せるように落ち着かせて、何があったのか、聞いてみる事にした。そうすると、アスナから、珍しい人物の名前が出てきた。団長、それはアスナが所属しているギルド、血盟騎士団のトップに居る人物、俺が知る中で一番最初のユニークスキル、神聖剣の所持者にして、最強の盾や鉄壁、スキルの名通り神聖剣などの名高く、攻略組のトップと言っても過言ではないプレイヤー、ヒースクリフの事だった。
「昨日……あれから、グランザムのギルド本部に言って、合った事を全部団長に報告したの。それで……ギルドの活動をお休みしたい……って言って。その日は何も無くて戻ったんだ。……でも」
アスナは息を呑んだ。てっきり承認されるとばかり思っていたんだけれど……それは違ったんだ。
「その……団長が一時退団を認めるのには条件があるって……、キリト君と立ち会いたいって……」
「な…」
「必死で説得したんだけど、どうしても聞いてもらえなくて」
「……でも、珍しいな。あの男がそんな条件を出してくるなんて」
「そうだね。そこに関しては同感だ」
「そうなのよ。……団長は普段ギルド活動所か、フロア攻略の作戦とかも私達に一任して全然命令しないの。でも……今回に限って何で……」
アスナが必死で訴えたのに、その要望は聞かずに条件を出してくるなんて、ヒースクリフにしては珍しいなと思った。
「まあ兎も角、オレも一度グランザムまで行くよ。あの男に直談判してみる」
「いってらっしゃい」
そう言って、アスナとキリトはグランザムの血盟騎士団ギルド本部に向かった。見ていて、キリトの足取りは重かったが、行くしかないと諦めたのか、アスナの後ろをトボトボと歩いた。俺はその後姿を眺めていた。
「サクラは行かなくてよかったの?」
「リズベットか、俺は呼ばれてないし、ただ話し合いに行くだけだろ? 何もデュエルをして奪い合う訳じゃないんだから」
「まあ、そうよね。後、あたしの事はリズで良いわよ」
「良いのか?」
「えぇ、キリトとアスナから何度も話は聞いてたからね」
「なら、リズ、よろしくな」
キリトとアスナがリズに対して何の話をしているのか気になったが、まぁ、聞かない方が良いかも知れないし、聞かない事にしよ。そして、リズは用事が終わったのか、自分の店に戻っていった。
「それじゃ、エギル、買取頼むわ」
「お、ボスのドロップアイテムか?」
「まぁ、全部で1000コルで良いよ」
「おいおい、流石にそれは」
「その代わり、人が少なくて自然豊かな階層にある家を探してくれないか?」
「それでも、まだ、価値が足りんだろ」
「別に俺はそれだけで、良いんだよ。ご馳走様」
俺はエギルにボスのドロップアイテムを売りつけたが、それだとつり合わないと言われてしまい。だったら、キリトが家を探していたから、その探すのを代わりにして貰おうと押し付けて、立ち上がった。話はこれで終わりと言うように。
「それじゃ、俺は帰って寝るわ、今日は家から出る予定は無かったんだけどな…」
「はぁ、分かった。家に関しては探しておくよ」
「ありがとう」
俺はそれから、家に帰り、もう一回寝る事にした。と言うか、寝た。休日は1日中寝ているのが、俺の休日の過ごし方なのだが、今日は寝ても起こされる一日だった。
「聞いてるの? サクラ君」
「おぉ、聞いてる聞いてる。キリトとヒースクリフがアスナを奪い合う為にデュエルするんだろ、大丈夫聞いてるから」
「ち、違うわよ。団長もキリト君も、私の話聞いてくれないのよ…」
「そんな、嬉しそうな雰囲気醸し出されながら言われても、説得力ないぞ」
俺はアスナにメッセージで話を聞いて欲しいと言われて、寝ていたのを、無理やり起きてアスナの家に向かった。まぁ、そろそろ醤油とかの料理アイテムが無くなりかけてたから、補充しに行かないとなって思っていたから丁度良かったんだけどね。
アスナの家に着いたら、さっそく血盟騎士団のギルド本部に到着した後の事を聞かされた。だから、結果だけ簡潔に解りやすく言った。と言うか、リズに言った通りの事が起こって、正直笑いそうになったのを必死に堪えていた。だって、奪い合いなんて起きる訳ないと思っていたからだ。
「う、嬉しそうな雰囲気なんて醸し出してないわよ!」
「そうですか、まぁ、ヒースクリフが勝ってもキリトが勝っても、アスナはどっちでもいいだろ。正直なところ」
「え、どうして?」
「だって、キリトが勝ったら、そのまま、キリトとパーティーを組み続けるんだろ。そして、ヒースクリフが勝ったらキリトは血盟騎士団に所属するから、副団長命令でも何でもいいから。一緒に居れば良いだろ?」
「あ…」
アスナは俺の言葉で、どっちが勝ってもキリトが自分の隣に居る事を想像できたのか、顔が少し赤くなっていた。
「それじゃ、アスナの愚痴を聞くのはこれで終了、あ、醤油、ありがとう」
「え、あ、うん。どういたしまして」
「まぁ、アスナがどっちを応援するのかは知らないけど、キリトもヒースクリフもどっちも簡単に勝てる相手じゃないよ」
「そうね。話を聞いてくれて、ありがとう」
「どういたしまして、出来れば次からはリズとか、女性の知り合いに愚痴を聞いてもらえ、俺はこれでも男なんだ。キリトやエギル、クラインとか、知り合いなら誤解だって言えば分かって貰えるから大丈夫だけど、知らない人からすると、ゴシップになるから気を付けろよ」
「えぇ、ありがとう。気を付けるわ」
「そんじゃ、おやすみ」
俺はそう言って、アスナの家から出て行った。一応、醤油とかの料理アイテムを貰っているから、これで明日からの料理が楽しみだった。明日はヒースクリフとキリトのデュエルがあるため、今日は早めに寝て、心身ともに万全な状態で見ようと試みた。