後、少し文字数は短いですが、ご了承ください。
それから、ユイが目覚めたのは昼過ぎだった。そこから昼食を食べて、始まりの街に向かう為にユイの服装をどうにかしようとして多少の問題もあったが、まぁ、解決したから良いか。
「さ、じゃあお出かけしようね」
「うん。パパ、だっこ」
「分かったよ」
ユイのお願いにキリトは頷きながら、ユイの体を横だきに抱えあげた。
「後でにぃもだっこ」
「分かった分かった。後でな」
「サクラ君って、子どもには甘いの?」
「このくらい普通じゃないのか? それに子供のささやかな我が儘くらいは叶える余裕はあるよ」
まぁ子供は嫌いじゃないしな。そう考えながら、転移門前に行き、第一層・始まりの街へと向かって行った。
「1週間ぶりだな」
「そうだね」
ここ始まりの街はアインクラッド最大の都市だ。冒険に必要な機能は他のどの街よりも充実しているが、ここにはハイレベルプレイヤーは知りうる限りいない。理由としては<<軍>>の専横や、あの日のことを思い出すからだろう。全てが終わり、そして始まったあの日を……。
俺はルオンやカイトが居たから、だから、立ち止まろうとは思わなかった。ルオンとカイトが居なければ、この場所で何時までも燻っていたと思う。第一層で小銭を稼いで、その日をやり過ごす、そんな日々を送っていたのかもしれない。まぁ結局、俺は守りたい者が出来た、俺の命を使ってでも、あの平穏な日常を、送って欲しいって思った者が出来たんだけどな。
「どうした?」
「何でもない」
「そうだ、ユイ、見覚えのある建物とか、あるか?」
「んー……、分かんない」
キリトの質問にユイはあたりを見渡して、首を左右に振った。見覚えのある場所はないのか。
「まぁ、始まりの街は恐ろしく広いからな、覚えてなくても仕方がないんじゃないか?」
「そうだな、だったらまず初めに、中央市場に行ってみないか?」
「そうだね。色々見て回りましょ」
俺達はそう話し合って、次に向かう場所を決めながら歩き出した。
「ねぇ、キリト君、サクラ君」
中央市場を歩いていると唐突にアスナが話しかけてきた。
「ここって今、プレイヤーって何人くらいいるんだっけ?」
「ん~、そうだな、SAOの中で生き残っているプレイヤーが約6000、軍を含んだ約3割くらいのプレイヤーがこの街に居るから、2000人弱って所じゃないか?」
「その割には人が少ないと思わない?」
「軍が専横してるから出てきたくないのか、それとも普通に引き籠りしてるだけかもしれんな」
そう言いながら、俺とキリトはアスナの質問に答えていく。すると、何処からか、女性プレイヤーの声が聞こえてきた。その声を聞いたら、アスナとキリトは同時に走り出した。俺も知っている声だったから、アスナ達の後を追った。
「サクラ君はあの人を」
「分かった」
アスナとキリトはアインクラッド解放軍の連中の頭上を飛び越えて、少年たちの前で立ち止まった。俺は知り合いのサーシャの前で庇うように立った。
「え、サクラ君?」
「よぉ、サーシャ、大丈夫か?」
「え、えぇ」
俺はサーシャの無事を確認したら、なんだか前方から悲鳴が聞こえてきて、そちらの方に視線を向けると、アスナがランペントライトでアインクラッド解放軍のプレイヤーに攻撃していた。まぁ、圏内だからHPは減らないが、被弾時にダメージによってはノックバックが発生する。これは慣れていないプレイヤーからすれば、HPが減らないと理解していても、恐怖するだろう。
「お、お前らっ…み、見てないで……なんとかしろよ!」
アスナの攻撃を受けた軍のプレイヤーは甲高い声が聞こえ、その声で他の軍のプレイヤーがようやく我に返り、武器を取り出してアスナを囲むが、残念ながら攻略組最強ギルドの血盟騎士団、副団長のアスナ相手では分が悪いだろう。
それから凡そ3分で事態は終息した。何故かって? それはアスナの攻撃に軍のプレイヤーたちが耐えられず、リーダー(一番最初に攻撃されたプレイヤー)を残して逃げて行った。勿論、こちらに向かってきたプレイヤーは俺が体術スキルで相手をしたけど、弱かったとしか、感想が出ない。
「お疲れ様、アスナ」
「あ……」
アスナが冷静さを取り戻したところで、俺はアスナに声を掛ける。アスナはしょんぼりした表情で俯いていた。
「まぁ、大丈夫だと思うぞ」
「すげえ……すっげえよ姉ちゃん!! 初めて見たよあんなの!」
「このお姉ちゃんは無茶苦茶強い、って言っただろう」
と、キリトは嫁自慢を子供たち相手にしていた。
「二人とも強いんですね」
「もちろんだ。なんたって俺の親友達なんだから」
「良い笑顔しちゃって」
サーシャはキリトとアスナの事が強いって言った。勿論だと俺は自慢げにサーシャに言う。そして、子供たちがアスナの周りを囲んで、歓喜していた。
「みんなの……みんなの、こころが」
小さいが、良く通る声が響き、俺とアスナは顔を上げた。キリトの腕の中でいつのまにか目覚めたユイが宙に視線を向けて、右手を伸ばしていた。
俺とアスナは手を伸ばしている方向に視線を向けるが、そこには何もなかった。
「みんなのこころ……が……」
「ユイ! どうしたんだ、ユイ!」
キリトが叫ぶとユイは二、三度瞬きをして、きょとんとした表情を浮かべた。俺とアスナは慌てて走り寄り、ユイの手を握った。
「ユイちゃん。…何か、思い出したの?」
「あたし……あたし……」
ユイは眉を寄せ、俯いた。
「あたし、ここには……いなかった……。ずっと、ひとりで、くらいとこにいた……」
何かを想い出そうとするかのように顔をしかめ、唇を噛む。と、突然――。
「うあ……あ……あああ!!」
「ユイ、ユイ!!」
その顔が仰け反り、細い喉から高い悲鳴が迸った。俺はユイの手を強く握って、声を掛ける。だけど、ザ、ザッという、SAO内で初めて聞くノイズじみた音が俺の耳に響いた。直後、ユイの硬直した体のあちこちが、崩壊するように激しく振動した。
「ゆ……ユイちゃん」
アスナは悲鳴を上げるユイの身体を両手で必死に包み込む。
「ママ……こわい……ママ……!!」
か細い悲鳴を上げるユイをキリトの腕から抱き上げ、アスナはぎゅっと胸に抱きしめた。数秒後、怪現象は収まり、硬直したユイの身体から力が抜けていった。
「なんだよ……今の…」
「分かんねぇよ。くそ!」
キリトのうつろな呟きに、俺が小さな声で何も分からない自分を罵る。
ユイは、幸い数分で目を覚ましたが、すぐに長距離を移動させたり転移ゲートを使わせたりする気にならなかった。
「でしたら、教会の空き室を使いませんか?」
「え、でも」
「迷惑なんて考えなくていいんですよ。子ども達を助けてくれたお礼みたいなものですので」
「…それじゃ、今日一日お世話になります」
サーシャの熱烈な誘いにアスナが先に折れて、今日は教会の空き室で夜を過ごすことになり、東七区の教会へ移動した。
「本当に良いんですか?」
「はい、それにこの教会の持ち主はサクラ君ですから」
「え、サクラの?」
「んだよ、悪いか。………1年前にこいつらに戦い方を教えたのが、サーシャとの出会いだったんだよ。それで子供たちが全員で住める所があればいいなと思ったんだ。それでこの教会を見つけて、エギルとかアルゴとかに色々協力して貰ってやっと買ったんだ。そんでサーシャがこの教会を管理する事を条件に貸してるんだよ」
キリトとアスナがサーシャの言葉を聞いて、こちらに顔を向けてきた。俺は顔を背けながら、当時の事を思い出しばがら、ぶっきらぼうに説明をした。
「そんな事してたんだ。サクラ」
「まぁ」
「サクラ君らしいね」
「はいはい、っと着いたよ」
笑いながら教会の前に立ってドアを開けて中に入って行く。入ってすぐには誰もプレイヤーはいないが、索敵スキル持ちのプレイヤーなら、隠れていることは容易に知ることが出来る。そして、サーシャが中に入って子供たちを呼ぶと、子ども達が各自の部屋や隠れている場所から出てきた。
「あ! サクラだ!」
「え? ホントだ!!」
「サクラ!!」
「おっと、おいおい、急に跳びついて来るなよ。危ないだろ?」
子供たちが俺を見つけると、走ってきたり、抱き付いてきたりしてきた。俺は抱き付いてきた子どもを諭しながら降ろした。
「あ、サクラ、来たんだ」
「よぉサチ、元気か?」
「うん、元気だよ。今日はどうしたの?」
そして、一番最後に出てきたのは、月夜の黒猫団のサチだった。サチは黒猫団の所属は変わらないが、現在はこの教会で子どもたちの面倒を見たり、狩りに出る時に一緒に同行したりして、過ごしている。戦闘に関しては最下層クラスのモンスター相手なら、戦える程度には精神的に安定した。
「この子の親か兄妹が居ないか、探しにきたんだ」
俺はアスナが抱えているユイを指さしながら、サチの質問に答えていく。
「さて、それじゃ、キリト達はこっちね」
俺はキリトとアスナとユイを連れて、教会の中の一室に迎え入れた。
「ん? この部屋は?」
「あぁ、今日、キリト達3人が休むならこう言う風な大きな部屋が良いだろ?」
「にぃは?」
「ユイ、俺は外のソファで寝ればいいから、今日はパパとママに甘えときなさい」
「にぃも、にぃも一緒が良い…」
部屋に4人が入れば流石に窮屈になる。だから、俺は一階のソファで寝ようと思っていたら、ユイから一緒が良いとお願いされた。
「いや、流石に…」
「別に良いじゃない、私達と一緒なのはイヤなの?」
「諦めろ」
「…キリト。はぁ、分かったよ。俺もここで寝させてもらうよ」
「やった~」
アスナの言葉とキリトの諦めの言葉を聞いて、俺は折れて、今日はキリト達と一緒の部屋で眠ることになった。勘弁してくれよな。そして結局、俺はアスナとキリトとユイと一緒に同じ部屋で眠った。