お待たせして誠に申し訳ありません。
昨日は、キリトとアスナが一緒のベットで寝て、その隣のベットで俺とユイが一緒に眠った。いや、ユイが眠ったのを確認してから俺は床ででも寝ようと思っていたのだが、ユイが服の裾を掴んでいたせいで布団から出られず、結局、一緒に寝ましたよ。
「はいそこ、ニヤニヤすんな」
「兄妹の仲が良いねって思ってただけよ」
「サクラならユイの手を離す事も出来るだろ?」
「出来るか出来ないかと言われれば出来るけど。それをしたらユイが可哀そうだろ」
俺の言葉を聞いた2人がもっとニヤニヤの表情をしていて、俺はそれを見ないように背を向けた。まぁそんな夜の一幕があったが、そんな事はどうでもいい。
「サクラ、カケルが僕の焼き魚取った」
「代わりに目玉焼き上げただろ!?」
「ほら、よそ見をしてると、こぼしちゃうよ」
「サチ姉、ありがとう」
「サクラ!」
「俺の焼き魚上げるから、それを食べな。カケルも勝手に他人の物を取らないの」
「は~い」
「サクラ、どう私がこのサラダ作ったの」
「あぁ、美味しいよ。この前来た時より上手になってるね。それで、あいつには食べさせたの?」
「うん、美味しいって言ってくれたよ」
「そりゃあ良かったな」
「うん」
子供たちと一緒に朝食を食べると、毎回こんな感じで色々と騒がしくなる。それを見てキリトとアスナは茫然としていた。俺はサチと一緒に子供たちの相手をする。
「これは、凄いな……」
「そうね……。でも、凄く楽しそう」
サーシャとキリト、アスナ、ユイは少し離れた丸テーブルで一緒に座っていた。たまにユイから手を振られるから、俺も手を振り返して、子ども達に呼ばれるからそちらに視線を向けて、何があったのかを聞きに行く。
「毎日こうなんですよ。いくら、静かにしてって言っても聞かなくて」
「そうなんだ。なんかサクラ、手馴れてるな?」
「そうね。そう言えばサーシャさんは子供、好きなんですね」
「えぇ、向うでは、大学で教員職課程取っていたんです。学級崩壊とか長いこと問題になってたじゃないですか。子ども達を私が導いてあげないとって、考えてたんですよ。でも、ここに来てあの子たちと暮らし始めたら、何もかも見ると聞くとは大違いで…。子供たちやサクラ君、サチさんに頼って、支えられてる部分の方が大きいと思います。でも、それでいいって言うか、それが自然なことに思えるんです」
それを聞いてアスナは頷いて、ユイの頭を撫でた。その表情は穏やかで、優しいと思った。それから子供たちが一段落したのを確認してから、俺はキリト達の丸テーブルに向かった。
「話は終わった?」
「あぁ、軍のことを聞いたよ。半年前からいざこざが起きてたらしい」
「それは俺も知ってるし、俺の知る範囲、出来る範囲で治めてたけど、まさか上層部の方にも問題があったのか。それに気付けなくてすまない、サーシャ」
「ううん、サクラ君には頼りっぱなしだし、このくらい問題ないって思った私も悪いんだから、こっちこそ、すぐに相談しておけば良かったよ」
俺とサーシャは謝りあって、そして、本題に入ろうかと思ったところで、索敵スキルにプレイヤーの反応があり、玄関の方を見やった。キリトも同じなのか玄関の方を見ていた。
「誰か来るぞ、1人……」
「え……。またお客様かしら?」
「サーシャはここにいて、俺が見て来るよ」
俺はそう言って立ち上がり、玄関の方に行き、ドアを開けた。ドアの外で待っていた人物にも、見覚えがあった俺は、警戒を解いて、中に迎え入れた。
「よぉ、ユリエール、久しぶりだな」
「サクラさん、お久しぶりです」
待っていた人物は、長身の女性プレイヤーだった。銀色の長い髪をポニーテールに束ねた。クールと言う言葉がよく似合う、鋭く整った顔立ちのなかで空色の瞳が印象的な女性だ。彼女の名前はユリエール、確か、シンカーと言う男性プレイヤーと一緒に戦い方を教えたことがあり、シンカーとユリエールの相性や連携は悪くなかった事を覚えている。
「今日はどうしたんだ?」
「はい、昨日ALFの団員を軽くあしらった人たちにお願いがあって来ました」
「…あぁ、アインクラッド解放軍の略称か、俺らは軍って呼んでたから、一瞬解らなかったよ。昨日の軍をあしらった人物はこの中に居るよ」
「後、サクラさんにもお願いがあってきました」
「はいよ。なら、中で話そうか」
俺はユリエールの要件を聞いて、まぁ、悪い事にはならないだろうと思い、教会の中に入れて、キリト達が居る食堂の方に歩いて中に入って行く。ドアが開いて、子供たちやキリト達がこちらと言うか、後ろのユリエールに気付き、彼女が軍の服装をしていたため、子どもたちが一斉に静まり返った。
「みんな、こいつは大丈夫だ。俺の知り合いだ」
俺の言葉を聞いたら、みんなホッとしたようで肩の力が抜けて、またさっきの様に喧騒が戻ってきた。俺はユリエールを丸テーブルまで案内して、椅子をを勧めると、ユリエールは軽く一礼をして、椅子に座った。俺はユリエールの隣に立った。
「こいつはユリエール、どうやら、俺達3人に用事があるらしい」
「初めまして、私はユリエールです。ギルドALFに所属しています」
「ALF?」
アスナにはユリエールの所属ギルドの通称は知らないのか、首を傾げて問い返した。ユリエールは小さく首をすくめた。
「あ、すみません、アインクラッド解放軍、の略称です。正式名称はどうにも苦手で……」
「はじめまして。私はギルド血盟騎士団の………あ、いえ、今は一時脱退中なんですが、アスナと言います。この子はユイ」
ユイはスープを飲み終えていたのか、次はフルーツジュースらしき物に挑戦している。本当、この子はチャレンジャーだな。子供なら、このくらいチャレンジャーな方が可愛いか。とそんなことを考えていたら、ユイが顔を上げてユリエールを注視した。わずかに首を傾げるが、すぐにニッコリと笑い、視線をフルーツジュースに戻した。
「KoB……。なるほど、道理で連中が軽くあしらわれるわけだ」
「……つまり、昨日の件で抗議に来た、ってことですか?」
「いやいや、とんでもない。その逆です、良くやってくれたとお礼を言いたいくらいです」
「ユリエール、どうしてこうなったのか話してくれ、今の発言じゃ、余計に混乱するから」
「あ、はい、すみません」
そして、ユリエールは事の本末を話していった。俺はユリエールから聞いて、簡単に説明すると、シンカーと相手の一対一で会話したいから、迷宮区の最下層にある安全地帯で武器を装備しないで会う。と言った感じだ。
その説明を聞いて、ユリエールがキリト達と俺にお願いするはずだった以来内容ぎ簡単に理解できた。まぁ、知り合いが亡くなるのは嫌だから、助けにいくけどさ。
「俺への以来内容はシンカーの救出か?」
「承けてくれるんですか!?」
「まぁな」
「サクラさん、ありがとうございます!」
俺はユリエールと知り合いだから、騙す可能性は少ないがそれでもと思ってしまうのは俺の弱さなんだろう。
キリトは眉間に皺を寄せている、アスナも同様である。言っていることが本当なら、助けたいと思っていても、この話の裏付けが取れてない、故に迷っている。
「だいじょうぶだよ。パパ、ママ、その人うそ言ってないよ」
ユイはユリエールを見て、言ったことに嘘は無いと告げた。まぁ、子どもは大人の感情に敏感だと聞いたことがあるからそれなのかな? って思った。
ユイのこの言葉でキリトとアスナは一緒にダンジョンに同行することになった。
「ぬおおおおおお」
気合の声を上げながら右手の剣を振るい。
「りゃあああああ」
今度は左手の剣で続いて突撃してきたモンスターを切り裂いていく。物凄く楽しそうで羨ましいですね。
アスナはアスナでキリトの活躍を見ながらはしゃいでいるユイを宥めていた。
俺達3人はユイを教会に預ける予定だったが、結果的に3人が折れて、ユイを連れていく事になった。
出てくるのは60層クラスのモンスターだ。これはユリエールが教えてくれた情報通りであった。そう言えば、今潜っている迷宮区は〈始まりの街〉の地下に存在している。この迷宮区は所謂、開放型の迷宮区なのだろう。
「ユリエール、シンカーの様子は?」
「はい、場所は探知できているので安全地帯に居ると思われます。そこまで行けば転移結晶が使えるでしょう」
ユリエールは俺の質問に、ウィンドウを開いて見ている。アスナと一緒にユリエールのウィンドウを覗き込むと、紫色の発光するウインドウの中にシンカーの名前と、彼のカーソルが赤く表示されていた。
「でも良いんでしょうか。キリトさんに任せきりで・・・」
「ん? あぁ、別に大丈夫だ」
「あれは最早、病気よね、サクラ君」
「そうだね、タンク泣かせなんだよな・・・」
俺らはキリトの後ろを歩きながら、ただ話をしていた。まぁ、きちんと索敵して、敵がこちらに来てないかとか調べてるからな! ・・・誰に言ってんだろ。と考えていたら、キリトが巨大カエルの大群を蹴散らしてスッキリした表情で戻ってきた。
「いや~、戦った戦った」
「ドロップアイテムは?」
俺は戻ってきたキリトに問いかけると、キリトは何故か誇らしげにウィンドウから、赤々しい若干グロテスクなアイテムを取り出した。アスナはそれを見た瞬間、悲鳴を上げた。
「さっきのカエルからドロップしたの?」
「おう、《スカベンジトードの肉》ってアイテムだ。アスナこれ後で料理してく・・・」
言うが早いかキリトの手の中の肉は姿を消した。見るとアスナが遥か後方に放り投げた後だった。さらに後ろでは煌めくポリゴンとなって消えたのが見える。
「あーあ、もったいねー」
「もったいねー」
アスナがなにやらウィンドウを操作してる。共通化されたストレージから《スカベンジトードの肉》を破棄してると思う。
「ユイちゃん、女の子がそんな言葉遣いしちゃいけません。サクラ君も、そんな言葉遣いしちゃダメでしょ」
「分かったよ」
「よろしい」
と言葉遣いを正された。まぁ、ユイが真似して、教育に悪いとか思ってるのかもしれないな・・・。
「いくらなんでも捨てることはないだろアスナ! ゲテモノほど旨いって言うじゃないか! 一回くらい料理してくれても」
「絶対嫌ッ!!」
「普通のカエルならまだしもスカベンジ、腐った肉を主食にしてるのは、俺もさすがに遠慮したい」
「だったら、62層にいる蛇をーーー」
「どんな理由があろうともカエルも蛇も絶対に料理しません!」
「え~!!」
俺もスカベンジトードの肉は食べたくないと言うと、キリトはガックシしながらもまだ諦めずに、ゲテモノを料理してと言ってやがる。
「あ、お姉ちゃん、はじめて笑った!」
キリトは心底残念そうにへこたれたが、このやり取りを見ていたユリエールは我慢できずに「ぷっ」と吹き出してしまった。それを見たユイが嬉しそうに声を上げた。その声は本当に嬉しそうだった。
時間にして2時間ほど迷宮を進み、水生生物系からゴースト系や骸骨系のモンスターを相手にし、キリトが骸骨剣士を吹き飛ばしたところでその奥に光が漏れる通路が見えた。
あの光が漏れる通路の奥が安全エリアだろう。先ほど確認したシンカーの位置情報と照らし合わせてもあそこでほぼ間違いないだろう。
「いるな、あそこに」
「ああ」
俺とキリトは索敵スキルを使用して、シンカーの居場所を言うと、キリトも頷いて同意したところで、ユリエールが駆け出した。
「シンカー!!」
安堵と嬉しさの色を孕んだ声でシンカーの名前を呼びながら駆け出した。俺達もユリエールの後を追った。安全エリアまでの距離は遠くなかったようで、すぐに安全エリア手前の十字路にやって来た。
「ユリエーーール!!」
「シンカーー!!」
「来ちゃダメだ!! その通路には!!」
シンカーの言葉で走る速度を緩めたが索敵スキルに強力なモンスターの反応を感知した俺は、ユリエールに追いつき、彼女の手を握り、こちらに抱き寄せ、盾を構えた。
「ぐぅう!!」
「サクラ!?」
モンスターの武器が俺の盾に当たり、盾の上から凄い衝撃と重圧を受けた。それだけで、たったそれだけで敵が自分より格上だと理解した。重圧が消えて、敵を見ると、敵は《The Fatal Scythe》、ザ・ファイタルサイズ ボスは大鎌を使うモンスターなのか? 見た目は完全に死神だな………。
「キリト、見えた?」
「いやデータが何にも見えない」
「90層クラスのモンスターって事か」
ボスと相対すると、何だか無性に恐怖を感じる。アスナは俺達の会話を聞いて声が詰まった。キリトも頬に汗を浮かばせて、焦っていた。俺は2人が焦っているのを感じた。
「キリトとアスナはユイとユリエールを連れて安全エリアに行ってくれ」
「・・・」
「サクラ君は!」
「はっ、俺はタンクだぜ、4人が安全エリアまで着くまで抑えとくよ」
俺はそう言って、盾を両手で持って、殿の準備をする。ここなら結晶アイテムが使えるから、即死以外なら何とか、4人が逃げ切るまでの時間は稼げるだろう。
「それに、シンカーは装備無しで切り抜けたんだ。フル装備の俺なら何とかなる。だから、行け!」
俺は振り向かずに2人に言って、2人より前に出る。キリトは俺が前に出ると同時にアスナとアスナに抱っこされているユイとユリエールを連れて、安全エリアに向かって走り出す。鋭利な大鎌が振り下ろされ、俺は両手で盾を持ちながら受け止める。さっきは片手で受け止めきれなかったが、両手ならSTRの補正は1.5倍だからか、先程より受け止めている時間が長くなっていった。
「くっ、重い…」
防御のタイミングと盾を両手で持っているため、HPはまだグリーンを保っているが、一撃で3割削られたのがHP残量で解った。そして、キリトやアスナの2人では防御が上手くいったとしても、半分は確実に削られると否が応でも理解させられる。
「サクラ! はあああ!!」
盾で防御していたら、キリトが二刀流で、アスナが細剣で攻撃を仕掛けた。何故来たんだ。俺なら大丈夫だと言ったはずだ。
「ユリエールさんは、シンカーさんと合流できた」
「それならさっさと転移すれば良かったんだ。それに俺から大丈夫だと言ったはずだけど」
「心配だったんだ、俺達とサクラならなんの問題も無いだろ?」
「サクラ君なら、守ってくれるんでしょ」
「・・・分かった。だけど、俺より前に出過ぎるなよ。カバー出来なくなるから」
「分かった」
「分かったわ」
ボスはターゲットを俺からキリトに変更した。多分、キリトの方が多くダメージを入れたからだと思う。2人の前に立って、盾を構え攻撃を防御していく。だけど、防御してもダメージが入るから、長時間は攻撃を防ぎきれない。
「左ステップ!」
キリトの声を聞いて、俺は左にサイドステップで大鎌の斬り落としを回避する。そして、回避が成功した次はボスを視界に捉えながら、回復結晶を使用する。その間にもキリトかアスナの声を頼りに回避していく。
「つぎ防御!」
「分かった!」
俺が回復が終わったらすぐ、盾で防御する。ソードスキルの硬直時間の間、数秒でも、立ち止まるのは拙いとキリトとアスナは理解しているようで、2人はソードスキルを使用しない攻撃でダメージを少しずつ与えていく。
だけど、ボスは盾の下から鎌ですくい上げる様なモーションを見せてきて、俺は盾を手放してバックステップしたが、大鎌の柄部分で打撃を入れられた。
「サクラ!」
「サクラ君!」
拙い拙い拙い拙い、俺のHPバーの下に雷のマークが入っていた。多分、頭部打撃による麻痺だと理解できた。そしてHPもレッドゾーンに至っていた。あぁ、これは死ぬな。俺は現状を冷静に理解していた。
「サクラ!!」
駄目だ、こっちに来るな、俺の事は捨てて逃げろ、そう言いたかったが、残念ながら頭部による麻痺状態の場合は十数秒間、プレイヤーは声が出す事が出来ないから、伝えようにも伝えられなかった。