ソードアート・オンライン (仮)   作:ナウ

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無謀な賭け、過去の想い

 公式チュートリアルが終了して、2日が過ぎた。俺はクラインと別れて、モンスターを狩り続けていたが、とある2人のプレイヤーを助けて、それから5日間、一緒にパーティーを組んでキリトに教わった事を教えた。

 

「サクラ、疲れたか?」

「いや、大丈夫だ。カイトにルオンの方こそ疲れてないか?」

「サクラが守ってくれるお陰で、大丈夫だ」

「そっか、それなら良かった。目的の物もゲットしたし、村に戻ろうか」

 

 俺たち3人が居る場所は始まりの街から出て、ホルンカの近くの森に居た。そこには強化すれば3階層まで使える片手剣が入手できるクエストがあり、パーティーの強化のために2度(自分のも合わせれば3度)も同じクエストをこなしていった。

 

「それじゃ、始まりの街に戻ろうか」

「そうだな、何にしても1週間振りの始まりの街か」

「転移結晶で帰るか?」

「いや、危険な時以外は取っておこう、転移結晶も安くはないし」

 

 俺の後ろを歩いているプレイヤー2人はそんな話をしていた。俺は【索敵】スキルを使用して、不意打ちされない様に見張った。

 

「そうだ!」

 

 見張りを続けながら、歩くと。後ろからルオンが声を上げた。敵に見つかるかもしれないのにと思ったが、まあ、ここで出て来るモンスターなら大多数でなければ、盾で護りきれると思い、静かにルオンの言葉を聞いて行った。

 

「ルオン、いきなり声を上げて、どうしたんだ?」

「ごめんごめん。上の層に行ったら、3人でギルドを立ち上げようと考えたんだ。どうだ?」

「ギルドか、良いね。ルオンがギルドマスターで、俺がサブマスター、サクラがタンクリーダーでどうだ?」

「どうだって、それなら。もっと人数を増やさないと。それか、少数精鋭でやっていくか。考えないとな」

 

 俺は2人の話を聞きながら、ギルドか、良いなって思った。だが、索敵スキルに反応があり、モンスターが近付いているのを確認した俺は、2人に声を掛ける。

 

「2人とも、話をするのは良いけど、お客さんだ」

「分かった。サクラ、前衛頼む」

「了解」

 

 俺の前に現れたのは2体のネペントが現れ、俺たちをターゲットしていた。俺は盾を持って、ネペントの前に立つ、後ろの2人もそれぞれ、武器を取り出した。

 

「はあ!」

 

 俺はネペントの攻撃を的確に防いでいく、盾で受け流したり、受け止めたり、回避したりといった感じだ。勿論、声を掛ける事は忘れない。基本的に俺は攻撃をせず、防御に徹する。

 

「これで、終わりだ!」

 

 それを何度か繰り返し、ネペントのHPを全損させた。ネペントを砕けていなくなった後、2人は武器をしまう。俺も片手剣を鞘に戻して、盾を何時でも構えられるように準備をしておく。そして、ルオンがポッケからある本を取り出す。

 

「ふぅ、しかしほんとガイドブック様様だな」

「ホントだよな」

「そうだな、サクラもそう思うよな」

「ガイドブックがあるのと無いのじゃ安全や効率も変わってくるからな」

 

 そう、始まりの街の道具屋には数日前にSAOの序盤の情報が掲載されており、俺たちニュービーズにはありがたいものだった。

 

『そこのニイさん達、この本はいらないカイ?』

『なんの本なんだ?』

『コレはSAOの序盤の情報が載っている攻略ぼんサ、ある人達が書いた著作物の代物ダ』

『え!? もうそんなのが出回っているのか!?』

 

 俺は、その本を見ながら、多分、βテスターが作った物だろうと予想を付けた。だけど、黙っていた。言わなくても良い事だと思ったから。

 

『それで何コルなんだ?』

『コレにお代はいらないヨ、持って行きナ』

『タダでいいの?』

『作った奴は出来るだけ死人を出さない為にこの本を仲間に頼んで製作しタ、その本に値段をつけられないサ』

 

 俺達は顔を見て、この頬にペイントを付けた女性に進言する。

 

『ガイドブック3つ下さい』

『毎度、ちなみにオイラはアルゴって言うんだ、しがない情報屋さ、コルは払って貰うが欲しい情報を正確に伝えてやるヨ、ヨロシクな』

 

 この時、このプレイヤー、配布と同時に売り込みしてる・・・抜け目が無いなと思った。と、当時の事を思い出していた。

 

「しかし、俺たちも戦いに慣れてきたな」

「ネペントを相手に、蜂、狼、猪と色々戦ってきたからな、流石になれないと護る方の俺が苦労するよ」

「あはは、サクラにはホント感謝してるよ」

「あの時、サクラが助けてくれなかったら俺たち、2人ともHPを全損してたかもしれないからな」

 

 そんな風に笑い話ですんでいるが、本当に一歩遅ければ、2人のHPは無くなっていただろう。

 

「呑気だな」

「何だか、街が騒がしくない?」

「何かあったのか?」

「あ、丁度いい所に、おーい! アルゴ!」

 

 俺達は街の中に入ったら、周りには絶望した顔や泣き顔、顔を手で覆う者と少しばかり街の様子がおかしかった。俺は視界の端に難しい顔をしている『鼠のアルゴ』を見つけたので状況を詳しく知る為に近づいた。

 

「あ、コノ間の、片手剣は手に入れられたカ?」

「もちろん、仲間の分も手に入れたからな、ありがとう」

「オレラは情報を売っただけダ、手に入れれたのは本人の実力だロ」

「だけど、ありがとう。それより周りの状況なんだけど、何かあったのか?」

「デスゲームが始まってからこの1週間での亡くなったプレイヤーが・・・1000人を超えたらしイ」

 

 俺は何となくだけど、予想していたが、実際に聞くと精神的に堪えた。2人の方を見ると驚いていた。

 当然だ、たった1週間でログインしている1万のプレイヤーが1000人減った・・・1割の人間が短い期間にアインクラッドからも現実世界からも居なくなったのだ。

 

「おい・・・嘘だろ!? まだ始まって7日間しか経って無いんだぞ!!」

「嘘だと思うなら実際に見てみるといいさ、《生命の碑》なら確認出来るしナ」

 

 《生命の碑》俺たちプレイヤー1万人の名前が記されており、死んだプレイヤーはその名前を消され理由も明記する物だ。

 

「オイラはこの後、用事があるからコレで失礼するヨ・・・折れるなヨ」

 

 アルゴが真剣な眼差しで一言言い残し、立ち去った、その後、俺を含めた3人は顔を見合わせて《生命の碑》がある黒鉄宮と呼ばれる所に向かって行く。

 

「嘘…だ……ろ」

「サクラ、一週間でこんなに犠牲が出るものなのか?」

 

 生命の碑に載っていた名前の欄にはまだ1割とは言え、多くの名前に横線が入り、アルゴの言葉が嘘じゃない事を物語っていた。ルオンはカイトの声を聞いて、俺に訊ねてきた。

 

「ゲーマーや、早く帰りたい奴なんかは、楽観視して何も準備せずに奥に向かったか、初見殺しが多数設置されていた可能性がある」

「あ、おい、あれ!」

 

 俺が答えると、2人はショックが大きいのか、何も言わなかった。だけど、カイトが声を上げた。何か見つけたのだろうか? カイトが指さす方を見ると、プレイヤーの名前に横線が引かれていた。

 

「この名前、リョナ? この名前がどうしたんだ?」

「この人、βテスターで、一度助けてくれたんだ」

「そうだ、それに俺たち2人が始まりの街の周辺の森の奥地に行こうとしたら、危険だって教えてくれたんだ」

「………」

 

 俺は2人の言葉を聞いて、何も言えなくなった。そして、俺達は碑の前を後にした。

 翌日、睡眠を取り、広場に集まったがその空気は昨日とは豹変して、暗くなっていた。仕方ないのだろう、なんせ、助けてくれた恩人が死んで、それを知ったのだから。

 

「サクラ、カイト、聞いてくれ」

「なに?」

「昨日さ、寝ずに考えたんだ」

「なにをだよ」

「他のプレイヤーを集めて、アインクラッドから飛び降りてみよう!」

 

 ルオンのいきなりの道連れ発言に俺は唖然としていたが硬直から解かれた俺は怒号をあげた。

 

「ふ、ふざけるな! 諦めたんなら諦めたで、街にでも籠ってろ!!」

「違うよ、ラグだ、ラグを利用してシステムの中枢のカーディナルに負荷を与えて緊急停止させれば、俺らは脱出できるかも知れない」

「アホか! こんな広大なデータを管理しているシステムだぞ!? そんな事で止まる訳ないだろ!! …考え直せ」

 

 俺はルオンの言っている意味を理解したが、だけど、賛成は出来なかった。絶対にその程度で止まる訳がないと思ったからだ。そして、ルオンの両肩を掴んで声を上げた。

 

「これしか方法が無いんだ!! 生きてここを出るにはこれしか!!」

「馬鹿野郎!! 何がこれしか方法がないだ!! まだ、クリア出来ないと決めつけるには早過ぎるだろ!!」

「無理だ……βテスターでさえも、10日も経たないうちに死んだんだぞ。俺たちに一体何が出来るって言うんだ」

 

 ルオンは顔を俯かせ項垂れる、俺はルオンに考えを変えて欲しくて語りをやめなかった。

 

「考える事を辞めるな、ネガティブな発想に陥るな、まだ、俺達は生きてるんだ。それに情報の大切さは身を持って知ったはずだ。なら時間を掛けて、情報を集めるんだ」

「時間、なんて……無いんだ」

 

 何を言ってもルオンは首を縦には振ってくれなかった。

 

「俺はさ、母子家庭なんだよ。・・・今まで、母と俺で生き抜いて来たんだ・・・だけど、俺の入院費で母に負担が掛かる・・・そうなったら母さんが死んでしまうかも知れないんだ!」

「だからって、安易に命を捨てるなよ! 死んで帰っても母親は喜ばねえぞ! 可能性の低い賭けに出てんじゃねえ!」

「サクラ、お前に俺の何を知ってんだよ!? 俺と母さんがどれだけ苦労したか知らねえくせに、勝手な事を言うな!」

「あぁ、知らねえよ。お前の事やお前の母親の事なんて、知る訳ないだろ! 俺とお前はここで出会って1週間も一緒に居なかったんだぞ、それ以上の事なんて知る訳ないだろ!」

「だったら、もう俺に構わないでくれ。頼む、俺と一緒にこのゲームを終わらせよう」

 

 俺の手を振り払い、俺の言葉にルオンは一切、聞く耳を持たなかった。否、反感を買っていた。そして、カイトに向かって頭を下げて、協力をお願いした。

 

「俺も早く出たいし、……協力するよ」

「ふざけんなよ、お前ら! 俺が、俺が何のためにお前らを助けたと思ってるんだ!! こんな、こんな自殺をさせるために、お前らを助けた訳じゃないんだぞ!! おいこっちを向け!」

「サクラ、お前に何と言われようと、俺らはやる。………あの時、助けてくれてありがとう」

 

 そう言って、俺の横を通って行った。俺は2人の腕を掴もうとしたが、空を切った。掴めなかった手を見て、俺の心の中は暗く、真っ暗の闇に落ちていく感覚に陥った。俺がもっと2人と話していれば、俺が殴ってでも止めていれば、俺が、俺が俺が、そんな後悔の想いしか出てこなかった。

 

『月詠、月詠なら、人を助けることも出来るさ』

『月詠、貴方が元気で生きて欲しい。夢を諦めないでね』

「…あぁ。…ダメだ、見つけないと。自殺、なんて。していい、訳がない」

 

 それから、30分ぐらい、俺は後悔の想いに圧し潰されそうになったが、両親の最後の言葉を想い出した。だから、俺は勢いよく立ち上がり、走り出した。ルオンとカイトを探すために、まだ間に合うと信じて。

 だけど、その思いも空しく、その日の夕暮れ時、始まりの街で30人以上の人が同時自殺をする大事件が起こった。

 

………

……

 

「ルオン、カイト、俺は最前線に行くよ。………」

 

 俺は生命の碑の前に街で売っていた花束を二つ置いた。それはルオンとカイトの分だった。碑の前で俺は最前線に行く事を伝えた。本当はもっと、沢山言いたい事があったはずなのに、何も出てこなかった。

 

「本当はさ、お前ら2人と一緒に行きたかったんだよ。ギルドも立ち上げてみたかったんだよ。でも叶わぬ夢になったな」


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