仕事で覚える事が多いし、終わったら終わったですぐに寝ていたので書く時間がなかったんです。本当にすみませんでした
そして、俺の目の前に見知った少女がしっかりとした足取りでボスに向かっている。
「ダメよ、ユイちゃん!!」
「ユイ! 戻れ!!」
おい、何してんだ。戻れ、ユイじゃただ死にに行くようなもんだ。だから、戻れ。そう思っていても伝えられない。そしてユイは死神を前にしても一切の恐怖心を感じていなかった。そして、ユイは凛とした声音で俺達に向かって告げた。
「だいじょうぶだよ。パパ、ママ、にぃ」
言うが早いかボスは俺達の一番前にいるユイに向けて大鎌を振り下ろした。次の瞬間襲ってきたのは金属同士がぶつかり合った時のような大音響。そして、俺は視線をユイに向けると、ユイの頭上に【Immortal Object】の文字が表示されているのを、確認した。
何で、ユイが、それを持ってるんだ? プレイヤーが決して持つ事のない文字、システムによって保護された絶対的な不死、それが【Immortal Object】の文字の意味だ。
「ど、う、な、ってる、ん、だ?」
驚愕の言葉を漏らしたのも束の間、ユイが右手を上げたかと思うと、轟!!という音とともにその手から紅蓮の火焔が巻き起こり、辺りを炎色に染め上げた。
そして、周囲に散らばった炎が再び、ユイの手に凝縮し、形を変える。そして現れたのは炎と同じ色をした剣だった。その剣はボスが持っている大鎌と同じくらいの大きがある。
その剣が纏う火焔によって、ユイの服は焼け落ちるが、元々着ていた白いワンピースだけが残っている。ユイはふわりと宙に浮き上がり、長大すぎる剣の重さを感じないかのように、剣を振るう。
軽く振るっただけなのに、それだけで炎熱が発生し、周囲を赤く染め上げる。
「う、うそ、だろ?」
ボスが奇怪な声をあげながら、防御の体勢に移行したが、ユイは一切躊躇なく、剣を振り下ろした。ボスは大鎌で一度は防御するが、刃を斬り裂きながら、ボスを両断した。俺はその光景を見て困惑し、驚愕した。
「大丈夫ですか、サクラさん?」
「ユイ、君は一体・・・」
「全部、お話しします。わたしがどの様な存在なのかも、すべて」
安全エリアには、俺とキリト、アスナ、そしてユイがいる。シンカーとユリエールには転移結晶で先に帰ってもらった。
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・・・・・・
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ユイの話を聞いたものの、想像を遥かに超えたものだった。だけど、ユイがプレイヤーではない事と、ユイの話がこのソードアートオンラインの根幹なんだと言う事は理解した。
この世界は〈カーディナル〉とよばれるシステムで制御されている。カーディナルは人間の手を必要としないシステらしく、2つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、無数のプログラムによって、この世界は調整されているらしく、NPCやモンスターのAI。その他アイテムの排出率や通貨など、全てが〈カーディナル〉によって調整されていると言う事らしい。
これだけを聞くなら、完璧なシステムだと俺は思った。だけど、カーディナルでも綻びが存在した。それは、プレイヤーの心、人間の精神性に由来するトラブルだった。それだけはどんなに優秀なプログラムであっても対処ができず、ゲームマスターが必要とされるはずだったと言う。
そして、ここからが、ユイがどんな存在であるのかの話だった。ユイ、彼女の正体は開発者達が試作した《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》、MHCP試作一号、コードネーム《Yui》。それが彼女の正体だった。彼女は人間ではなく、人工知能、AIだった。
自らの事を告白したユイの瞳から、止め処なく涙が溢れ出し、同時にユイは俺達に謝ってきた。『感情模倣機能によっもたらされたこの涙も偽物』なのだと。それを聞いたアスナがユイを抱きしめようと一歩踏み出したものの、ユイはそれを拒否した。
話はまだ続いた。それは、《ソードアート・オンライン》が正式サービスを開始した日。〈カーディナル〉はユイにプレイヤーとの一切の干渉禁止命令を下したらしい。それによってユイはプレイヤーたちをただモニタリングすることに徹したらしいが、あの時の事を思い出すと、状況は最悪だったろう。
プレイヤー達は恐怖、絶望、怒りと言った負の感情に心を支配され、時には狂気に陥った者もいたらしい。本来ならばユイがその場に赴いてプレイヤーをケアするのだが、〈カーディナル〉によって身動きの取れなくなったゆいはただただ、モニターを見るほかなかった。そうしたことが続きエラーを蓄積させたユイは、やがて崩壊していったのだという。
それらを全てをモニタリングしていたユイが壊れてしまうのは、至極真っ当なことだろう。普通の人ならば、耐えられない、耐え切れずに心が壊れるだろう、観たくないものを見せ続けられれば、目を背けるか、目を瞑るだろう、精神喪失してしまう方が簡単で楽だと思った。
その状態であってもユイはモニターを見続けていたらしい。そして、負の感情ではない全く別の感情、喜びや安らぎ、けれどそれ以外にもある不思議な感情を持つプレイヤーが現れたという。それがキリトとアスナだったのだ。AIからも良きカップルと認められたんだ。
っと話の続きは、ユイは2人に興味を抱き2人のモニタリングをつづけ、何時しか2人に会って話してみたいと言う感情を抱くようになったらしい。2人が結婚した後、一番近いコンソールから実体化してやってきたんだといった。
「サクラさん、あなたにもお礼を」
「俺はお礼を言われるようなことは何もしていないよ」
「そんなことはありません。あなたが2人の傍に居ることで笑顔が溢れていました。そのおかげで私はキリトさんとアスナさんに会ってみようと決意できたんです」
それに、と話しを続ける。
「あなたの感情は確かに負の感情も沢山ありました。それに心が折れかけていた事も何度もありましたが、それでも貴方の根底にある物は変わらなかった。折れず曲がらず大切な人が居る限り、貴方は盾の様なものでした」
「ありがとう、大切な人を守れるようにと、そう意識していたから、そう言ってくれて嬉しいよ」
「貴方が居たから、貴方を見ていたから、私は躊躇いを捨てて、御二人に会いに行けたのですから」
ユイは俺のあり方をよく理解していた。そして、俺を見て勇気が持てたと言ってくれた。それは俺の今までを肯定しているような感じだった。
「そっか、ねえ、ユイ、君は自分の意思で、キリトとアスナに会いに行った。これはユイ自身の感情じゃないのか?」
「それは…」
「確かに、ユイはプログラムで感情を模倣しているかも知れないけどさ、プログラムから生まれた感情が、偽物だとは、俺には思えないよ、そう言い切れないよ」
その感情が偽物だとしても、それが生まれた意思や思考が偽物だと、誰が決めつけられるんだ? 俺には、ユイの意思が、思考が、偽物だとは思えないんだ。誰かの為に流した涙が偽物な訳がない。
「ユイ、君が本当に望むことはなんだ?」
「わたし、わたしは……」
ユイは両手をいっぱいに広げ、涙ながらに告げる。
「ずっと一緒にいたいです! パパ、ママ、兄さん!」
その声に我慢しきれなくなったアスナが涙を流しながら、ユイを抱きしめた。キリトも2人を抱きしめる。俺だって、ユイの頭を撫でる。ユイがシステムだとか、プログラムだとか関係ない。もうユイは俺の、いや俺達の家族なんだ。
「でも、もう遅いんです」
ユイの言葉に俺を含め全員が疑問を抱いた。ユイは自分の座っている立方体に触れる。それはゲームマスターが緊急アクセスするためのコンソールだという。彼女が操作すると光の柱が立ち、電子音の後に淡く発光するホロキーボードが展開された。
「先ほどのボスモンスターはプレイヤーがこれに触れないようにするために、配置されたものだと思われます。わたしはアレを倒すためにコンソールからアクセスし、《オブジェクトレイサー》を使用してボスモンスターを削除しました。それと同時に言語機能も復元できたのですが、《カーディナル》は今まで放置していたわたしに気が付き、注目してしまっています。今はコアシステムがわたしを走査していますから、すぐにでも異物として削除されるでしょう」
「そ、そんな!」
「どうにかならないのか、ここから離れたりすれば!」
「ふざけんなよ! 何か、何かないのかよ!」
「パパ、ママ、兄さんありがとう。これでお別れです」
ユイの体が僅かに発光しはじめた。ついに削除が実行され始めたのだろう。本当に何も出来ないのか? また、大切な人を守れずに終わるのか?
「ダメだ! ユイ、行くな!!」
「パパとママがいればみんな笑顔になった。わたしはそれが嬉しかったです。だから、これからはわたしの代わりに……みんなを、助けてあげてください。二人の喜びを……みんなに分けてあげて……」
「嫌だ!嫌やだよ、ユイちゃん!ユイちゃんがいなかったら私笑えないよ!!」
消えてしまいそうな手を握りながらアスナは大粒の涙を流す。ユイは彼女に答えるようににこりと笑みを浮かべて、アスナの頬を撫でるが…。一際眩い光が視界を支配した。再び目を開けるとそこにユイの姿はなく、ただただ泣き崩れるアスナと悔しげに膝をつくキリトの姿があった。その二人を見て、目頭が熱くなるのを感じた。そして俺の瞳からも涙が溢れ始める。
「……ざけんな、ふざけんな!!」
俺は片手剣を抜いて、目の前の黒い立方体に迫り振り下ろした。無造作だけど、力強い一撃は立方体を捉えたはいたものの、発生したのは立方体の破壊ではなく、【Immortal Object】と表示される紫色の無機質で機械的な冷たい表示。
「ふざけんなよ! お前に、お前なんかに、ユイの生き方を奪う権利があるのかよ!! ユイは生きたいって、一緒にいたいって言った! AI、偽物の感情、そんなの知るか! ユイの感情は、思いは、意思は本物だ!! それをエラーコード一つで…、俺の、俺達の家族を奪ってんじゃえね!!」
その行動に意味はないのかもしれない。それでも自分を抑えることが出来なかった。絶叫し、一際強く片手剣を振るったが、【Immortal Object】の文字に阻まれて剣が吹き飛ばされ、背後の石畳に突き刺さった。そして、不意にキリトがホロキーボードを展開した。
「キリト、お前何して…」
「今なら、まだ間に合う! サクラの言う通りだ。これ以上、好き勝手はさせない!! 俺とアスナの娘をサクラの妹を返してもらう!!」
言いながら凄まじい速さでキーボードを叩き、いくつものコマンドを入力する。そして小さなプログレスバー窓が出現し、横線が右端に到達しようとした瞬間、突如として黒い立方体が発光し、キリトの体を弾き飛ばした。俺はキリトが弾き飛ばされた瞬間にキリトの後ろに回り、キリトを受け止めた。キリトは駆け寄ったアスナに笑みを見せ、掌にあったものをアスナに渡した。
「大きな涙滴型のクリスタル?」
「これは?」
「ユイの心だよ。さっきGMアカウントでアクセスしてシステムに割り込みをかけて、ユイのプログラムだけを取り出してオブジェクト化したんだ」
「それじゃあユイちゃんは……」
「ああ、そこにいる」
その言葉に驚きを通り越して感動を覚えた。あの一瞬でシステムに割り込みをかけて自分の娘を救ったのだ。
「まったく、大したヤツだよ。お前は」
キリトは苦笑いを浮かべ、安堵の涙を流すアスナの肩に手をかけた。その光景に幸せそうに微笑むユイの姿が見えたような気がした。