75層のボス部屋が発見されたと報告があった。
「よ、ベスタ」
「あぁ、サクラ、今日はどんな用事だ?」
「装備のメンテをお願いしたくてね」
「メンテって、先週したばっかりだろ?」
「あぁ、だけど、発見されたからね」
俺はベスタの工房に来ていた。ベスタは装備のメンテは先週してもらったばかりなのに、もう一度お願いしたと聞いて不思議そうに感じていたが一言伝えるだけで、意図を読み取ってくれた。
「そっか、分かった、メンテしておくよ」
「よろしく頼む。いつ頃取りに来ればいい?」
「明日の夕方ごろで」
「了解」
「サクラは今からどうするの?」
ベスタは俺の装備を受け取りながら、明日中に直してくれると言った。本当にベスタにはお世話になりっぱなしだな。
「明日、20人でボスの偵察に行くらしいし、俺は明日まではゆっくり休むさ」
「そうした方が良いよ。サクラは無理してるんだから、たまには何もない休日を謳歌したら」
「はいはい、それじゃ装備頼むね」
「メンテは任せとけ、それじゃ、また明日」
そう話し合って、俺は自分の家に戻っていった。ベスタが無理してるって言ってたけど、そんな無理はしてないよ。
そして翌日の昼頃に、血盟騎士団団長のヒースクリフからメッセージが届き、俺は急いで55層のグランザムに向かった。
「偵察隊が壊滅しただって!?」
クォーターポイントであることと七十四層のボス部屋が結晶無効化空間であったことを踏まえて、今回は二十人の偵察隊を派遣し、先見として十人がボスに侵入。だがボス部屋の扉が突如として閉まり、次に開いたときには誰もいなかったという。七十四層では結晶無効化空間ではあったらしいが、ボス部屋の扉は開いたままだったはず。結晶が使えない上に退路も絶たれる。ファーストコンタクトがラストアタックになる。
「あぁ、もちろん、生命の碑での確認も終わっている」
「分かった。教えてくれてありがとう」
「サクラ君、彼らにもこの事を伝えてくれ」
「………」
俺はヒースクリフから偵察隊の半壊を聞かされた。そして、彼らとは、あの二人を指しているのだろう。
「サクラ君だって理解しているだろう、2人が必要なことくらい」
「分かってるよ! だけど、まだ2週間だ。たった2週間なんだぞ」
ヒースクリフの言いたい事は理解しているし、俺も同意できる。確かに2人が抜けた穴はデカい、一人は戦力として、もう一人は士気として。
………
……
…
結局俺は、断り切れず、22層のログハウスの玄関前で立ちすくんでいた。正直気が重いし、まだ二人には新婚生活を楽しんでもらいたいと思っている。
あの二人はユイの一件以来、何時にも増してイチャつくようになった。ご飯に誘ってくれるのはありがたいけど、目の前でイチャつくのは止めて欲しい。子の前で親がイチャイチャするのを見るのは慣れてるけど、キリト達と俺の親では感じ方が違うんですよ。ちょっぴり殴ろうかとも思ったけど、思い止まったよ。
そうそう【軍】は一気にその勢力を縮小した。キバオウのヤツも除隊させられたとか。まぁ、自業自得だな。なんて現実逃避をしていたが、後ろから声が聞えてきて、俺を現実に戻した。
「サクラ君?」
「珍しいな、サクラがメッセも無しに来るなんて」
俺が後ろを振り向くと、アスナとキリトの姿があった。アスナはバケットを持っていたから、出掛けてたのかな?
「2人はどこかに出掛けてたのか?」
「湖の主釣りに」
「凄い大きかったね。サクラ君にも見せたかったよ。キリト君が焦って逃げる姿とか」
「ちょ、アスナ、勘弁してくれ」
ログハウスに通されて、飲み物を出して今日起こった事を幸せそうな顔で話していた。ここからあの話に入るのは物凄く辛い、だけど、俺は諦めてあの話をした。
「偵察隊が壊滅…」
「ヒースクリフからは説得を依頼されたけど、俺は2人には来てほしくない。個人的には80層まではのんびり新婚生活を送って欲しいと思ってる」
「用件は分かった。サクラの気持ちも嬉しいけど、行くよ、俺たち。サクラ以外が説得に来てたら追い返してたと思う」
「それだとサクラ君にばっかり負担を掛けちゃうしね」
「サクラも俺達の家族なんだ。家族一人だけに無理させる訳にはいかないよ」
俺の事なんて気にしなくても良いのに、お人好しすぎるよ、それに言い出したら聞かないんだから・・・。
「分かった。ヒースクリフには了承したと連絡を入れとくよ。日時は追って連絡する」
俺はそう言って、話を終わらせ、ログハウスから出て行こうとしたら、キリトとアスナが出て行こうとするのを止めた。一緒にご飯が食べたいらしい、まぁ家族だし良いけどさ…、出来れば毎日メッセージで呼ぶのは止めてくれ。毎日は来れないから。
………
……
…
リアルなら11月7日、この日75層のカームデットの転移門前には多くの攻略組プレイヤーが集まっていた。
キリトとアスナもカームデットの転移門前に到着すると周囲のプレイヤーは二人を見てざわついた。
「待たせたな、サクラ」
「お待たせ、サクラ君」
「別に待ってないよ。準備万端か?」
俺を見つけた二人は歩いて来た。準備は終わってるかと聞くと、二人とも頷いた。話していたら、クラインとエギルがこっちに来て話し始めた。
「キリの字、久しぶりだな」
「よう、クラインまだ生きてたか」
「当ったり前よ」
「まぁ、そう簡単に死ななそうだしね」
「サクラよ、それはどういう意味なんだ?」
だって、恋人が出来るまで死んでたまるかとか言ってたじゃん。
そんな感じに談笑していたが、【血盟騎士団】のメンバーが転移してきたのをきっかけにプレイヤーの談笑が消えていった。
「欠員はないようだな。皆よく集まってくれた。状況は既に察していると思うが、これより始まる戦いは今まで以上に厳しく、苛烈なものとなるだろう。だが私は、君達の力ならは突破できると信じている。解放の日のために!」
ヒースクリフがそう言うと、ボス線に挑むプレイヤー達は頷いた。そして、希少なアイテム回路結晶を使い、全部隊を直接ボス部屋の前に転移する手筈になっている。
確かにボス部屋に到着するまでの消耗を減らし、足並みも崩れることはない。
「では皆、ついてきてくれたまえ」
ボス部屋の前に全部隊が到着した。
「皆、分かっていることだと思うが今回の討伐に際してボスのパターンは分かっていない。基本的に前衛を我々KoBとサクラ君が務め君達にはそれぞれ柔軟に戦って貰いたい」
全員が頷くとヒースクリフは扉に向き直った。
「行こうか」
扉に手をかける様子を他のプレイヤー達は緊張した面持ちで見ていた。俺は盾を取り出して、直ぐに行動できるように周囲を警戒する。
「戦闘開始!」
力強い声と共にボス部屋に足を踏み入れ、それに部隊全員が続く。中に入ると部屋がドーム状であることが分かった、広さはかなりある。そして皆が室内の中央辺りまで来た直後、背後こら轟音と共に扉が閉められた。
「どこにも居ないぞ」
どこかしらでそんな声が聞こえてきた。確かに、周囲にはボスモンスターの影も形も見えなかった。だけど、俺には聞こえていた。
「上だ!」
「上よ!」
俺が声を上げるとほぼ同時にアスナの声が聞こえた。俺らの声を聴き、プレイヤー達は上を、天井を見上げた。天井を見上げると、2つの赤い目がギョロっとこちらに向いた。
「来るぞ!!」
その目がこちらに向いた瞬間、俺は声を上げた。ボスは自由落下に従うように降りてきた。
「固まるな、全員距離をとれ!」
ヒースクリフの鋭い声に呆然としていたプレイヤー達が一気に距離をとり始めるが、反応が遅れたのか三人が逃げ遅れている。
「何してるんだ! 早く逃げろ!!」
キリトが3人に逃げるように叫んだが、彼らが走り出すと同時にボスが降り立ちフロア全体が大きく揺れた。
そこで、ボスの全体像が顕になった。ボスは《The Skullreaper》、骸骨の百足の様な姿をしており、頭骨の両脇からは大鎌を思わせる鋭利な刃が覗いている。
「くそが!」
「サクラ!」
俺は壁盾をその場に捨てて、逃げる3人のもとまで走り出した。後ろからキリトの声が聞こえたが無視して走った。ボスは左大鎌を薙ぎ払った。
その薙ぎ払いに一歩遅れていた2人のプレイヤーがまともに食らい宙を舞った。一番前を走っていたプレイヤーの手を握って、後ろに突き飛ばす。
「受け取れ、キリト!」
払った鎌を戻すような攻撃に合わせる様に剣で受け止める。受けきれるとは思っていなかったから、逆らわないように後方へジャンプし、ダメージを最小限まで抑える。
「サクラ!」
「キリト、ナイスキャッチ」
「ナイスキャッチじゃないだろ!! 無茶しやがって!」
「悪い、最小限に抑えてもHPの6割持ってかれた」
「サクラは回復に専念しろ、その間は俺がボスの攻撃を受け止める!」
「くそ、回復結晶が使えれば」
そう悪態をキリトがボスの攻撃を受け止めたが一人では圧されてしまうが、アスナがボスの鎌をソードスキルで弾いた。なるほど、キリト一人では無理でもアスナと一緒なら耐えられるか。その間、俺はポーションを使用してHPが6割り以上になるのを待った。
「キリト、アスナ! スイッチ!」
「おう!」
「分かったわ」
HPの回復を確認したら、俺はキリト達と変わるようにボスの前に立ち、鎌に向けて盾を構えて、受け止める。