「終わったの・・・か?」
スカルリーパーの姿が光の粉になったのと、Congratulationの文字がボス部屋の中央に表示されたのを確認するかのように、誰かが声を出した。
「何人、やられた?」
「11人だ」
クラインの呟きにキリトがマップを出して、入った時の人数と生存者の人数を比較して、すぐに答えを出した。そんなにやられたのか・・・。
「う、嘘だろ」
「後25層もあるんだぜ」
「本当に俺達はてっぺんまで辿り着けるのか?」
確かに、このまま戦い続ければ、攻略組が壊滅するのが先だろう。壊滅すれば、後は攻略組より実力の劣る準攻略組や上層組とかだろう。
「キリト?」
「キリト君?」
俺はキリトが立ち上がるときに声を掛けたがキリトはそれを無視して、ヒースクリフに向かって突撃した。それに驚いた俺とアスナは直ちに立ち上がりキリトの傍に向かった。
「Immortal Object・・・だと」
「システム的不死って、どう言うことなんですか? 団長」
「この男のHPゲージはどうあろうとイエローまで落ちないようシステムに保護されているのさ」
俺達3人の言葉を聞いた周囲のプレイヤーの視線がヒースクリフに向かった。
「この世界に来てから、ずっと疑問に思っていた事があった。・・・あいつは今どこで俺達を観察し、世界を調整しているんだろうってな。でも俺は単純な心理を忘れていたよ。どんな子供でも知っていることさ、他人のやっているRPGを傍らから眺めるほどつまらない事はない。そうだろ、茅場明彦」
キリトがヒースクリフの事を茅場明彦と呼んだことで、周囲のプレイヤーは動揺を隠せなかった。
「なぜ気付いたのか、参考までに教えてくれるかな?」
「最初におかしいと思ったのはデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも速すぎたよ」
「やはりそうか、あれは私にとっても痛恨時だった、君の動きに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまった。・・・確かに私は茅場明彦だ。付け加えれば、最上階で君達を待つこのゲームの最終ボスでもある」
ヒースクリフが最終ボスだって、笑えないな。最強のプレイヤーが一転して最悪のラスボスとか。しかも通常のアシストを越えたオーバーアシストがあるとか、本当に笑えないよ。
「趣味が良いとは言えないぜ、最終のプレイヤーが一転して最悪のラスボスとは」
「中々良いシナリオだろ、最終的に私の前に立つのは君だと予想していた。二刀流スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担うはずだった。だが君は私の予想を越える力を見せた。まぁこの想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな」
キリトの持つ二刀流スキルが力と勇者の称号兼ね備えていると言うことか、成程な、どうりで他のプレイヤーが二刀流を取得出来ない訳だ。そう考えていたら、血盟騎士団の団員がヒースクリフに向かって剣を掲げて飛び掛かった。
だが、ヒースクリフはすぐさまメニュー画面を操作して飛び掛かった団員を麻痺さ、そのままキリト以外のプレイヤーも麻痺させていく。
「どうするつもりだ? この場で全員殺して隠蔽する気か」
「まさか、そんなら理不尽な真似はしないさ。こうなっては致し方ない、私は最上層の紅玉宮にて君達の訪れを待つとするよ。ここまで育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君達の力ならきっと辿り着けるさ」
そう言ってヒースクリフは盾を地面に突き刺し、そのまま言葉を続ける。
「だが、その前にキリト君、君には私の正体を看破した報酬を与えなくてはな、チャンスをあげよう」
「チャンス?」
「今この場で私と一対一で戦うチャンスだ。無論不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウト出来る。どうかな?」
「駄目よキリト君、今は今は引いて」
俺は倒れた状態でキリトの様子を伺うと、アスナの声も聞こえていないようで、小さくふざけるなと、声を出していた。
「良いだろう、決着を着けよう」
「キリト君」
「ごめんな、ここで逃げるわけには行かないんだ」
「し、死ぬつもりじゃ無いんだよね」
「あぁ、必ず勝つ、勝ってこの世界を終わらせる」
「分かった、信じてるよ、キリト君」
ヒースクリフの挑戦をキリトは受けた。アスナも最終的には頷いた。ここから先はキリト次第、ヒースクリフは全てのスキルモーションを知っている、これだけでもキリトの方が圧倒的に不利な状況だ。それを理解していても、戦う様でキリトは立ち上がり背中に背負った片手剣を鞘から抜いた。
「キリトーー!」
「エギル、今まで剣士クラスのサポート、サンキューな。知ってたぜ、お前の儲けの殆ど全部、中層ゾーンの育成に注ぎ込んでたこと」
「ぇ」
「クライン、あの時、お前をお前達を置いて行って悪かった」
「てめぇキリト! 謝ってんじゃねぇ! 今謝るんじゃねぇよ! 許さねぇぞ、ちゃんと向こうで飯の一つも奢ってからじゃねえと絶対許さねぇからな!」
「分かった、向こう側でな。・・・サクラ、ありがとう。俺は、サクラが居たから一人じゃなかった。孤独じゃなかったんだ、お前があの時、一人にはさせないって言ってくれたこと、凄く、嬉しかったよ」
「俺も同じだよ、キリトが居たから俺は、強くなれた。お前が居たから俺は、護れるようになれたんだ、行ってらっしゃい、生きて戻ってこいよ」
「あぁ、行ってくる」
そう言って、キリトは視線をこちら側から外してヒースクリフに向けた。
「悪いが、一つだけ頼みがある」
「何かな」
「簡単に負けるつもりは無いが、もし俺が死んだら暫くで良い、アスナを自殺出来ないように計らってくれ」
「ほぉ、良かろう」
「キリト君、駄目だよ。そんなの、そんなの無いよ!」
システム的不死が解除され、ヒースクリフは盾に収めていた剣を取り出し、構えた。それから刹那の空白の後、キリトがヒースクリフ目掛けて突撃した。
手数はキリトが多いがキリトはソードスキルを使えない、だから、ソードスキルを使用せずに戦っていく、キリトの剣が激しくそして、速くなっていくが、ヒースクリフの防御は抜けなず、カウンターでヒースクリフの攻撃が頬に擦った。
「はぁぁ!!」
「ふ」
勝負を焦ったのか、キリトはソードスキルを使用した。俺はもう麻痺とか身体が動かないとか、そんな事を考えている余裕は無かった。立ち上がれとあいつの元まで走れと、その事だけしか頭に無かった。
「うおぉぉ!」
「さらばだ、キリト君」
誰かの声が聞こえた。目の前にはキリトの黒いコートが見えた。キリトの前に栗色の髪の毛が見えた時にはキリトの肩を押し退けて前に手を伸ばす、肩、手、間に合わない。それを瞬時に判断したから、栗色の髪の毛に手を伸ばし握って引っ張った。
「俺の命で勘弁しろや」
ヒースクリフの攻撃はキリトとアスナをどかした結果、俺の右肩から斜めに振り下ろされた。武器を持つ余裕なんて無い、盾だって置いてきた。あぁ、これは死ぬな。
「サクラ!」
「サクラ君!」
「2人とも無事か?」
後ろに倒れそうになったところをキリトが受け止めてくれた。HPはイエロー半分の所で止まっていたが、ヒースクリフに斬られたから、徐々にHPが0へと近づいてゆく。
「ああ、俺達は無事だ」
「そっか、良かった。アスナ」
「何、サクラ君!」
「髪、引っ張って悪かったな」
「ううん、良いよ、助けてくれてありがとう」
「後、少しは俺達の心配を減らしてくれ、心臓に悪いなんてもんじゃ無かったよ、まぁそれがアスナの良いとこでもあるのかな」
俺はアスナの方に顔を向けて、アスナの言葉を聞かずに言いたいことだけを言い紡ぐ、2人と会話をしたかったが、そんな時間は俺には残されてはいない。だから次にキリトの方へと顔を向ける。
「キリトの馬鹿野郎、スキルは駄目だろ、何時もの冷静さはどうした?」
「そうだな、ごめん」
「キリトの剣、折れちゃったな、代わりがないなら、俺のを使え、そこまで良い武器じゃないし、あの剣の代わりにはならないかな。・・・後は頼んだぞ、し・・・」
「サクラ!!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「いや何処だよ、ここ」
ヒースクリフに斬られた事は覚えてる。アスナに髪を引っ張ったのを謝ったことも、キリトに剣を渡せし、渡せたよな? 譲歩出来てるよな。
「サクラ君」
「え、ヒースクリフ? あ、いや、茅場明彦と呼んだ方が良いのか?」
「どちらでも構わない」
「そっか、なら前々から呼んでたしヒースクリフで、それよりヒースクリフ、何でお前がここに居るんだ?」
俺は周囲を見渡していたら、後ろから知っている声が聞こえてきた。好きなように呼べばいいと言われたため、プレイヤーネームの方で呼ぶことにし、何故ヒースクリフが居るのか聞いてみた。
「最後に君と話をしておこうと思ってな」
「そうか、キリト達は?」
「キリト君、アスナ君を含めた6348人の現実世界への帰還を終了した」
そっか、2人は現実世界(リアル)へ帰れたと言うことは・・・。
「ヒースクリフ、負けたのか」
「あぁ、2人は私の想像を越えた力を魅せてくれたよ」
「製作者様としては嬉しそうだけど、1プレイヤーとしては悔しそうだな」
「そうだな。オーバーアシストが無くても、焦りや視野が狭い状態のキリト君には負けるとは思ってなかった。まさか2人も邪魔が入るとは思ってなかったがな」
その邪魔は俺とアスナの事を言ってるんだろうな。まぁ、俺達もキリトを死なせるわけにはいかないからな。ここはこの言葉を言わせて貰うよ。
「想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味なんだろ、ヒースクリフ」
「ふふ、確かに」
「それで、俺のお迎えは何時になるんだ?」
そう、俺は負けた、死んだのだ。だから何時、俺と言う存在が消えるのか。正直怖い、恐ろしい、死にたくないと言った、負の感情が溢れてくる。それを無理矢理理性で抑え、ヒースクリフと話している。
「サクラ君、君にはあちらに帰って貰う」
「死者はどの世界でも蘇らないんじゃないのか?」
「その通りだが、ならばこの言葉を送ろう"敗者は勝者の言葉に従え"と」
「・・・ち、何を言おうと、決定事項は変わらないってか?」
。ヒースクリフは静かに頷いた。それにしても何故ヒースクリフは俺を、俺なんかを生かそうとするのか。・・・少し考えただけじゃ、全く全然、思い浮かばない。天才の頭の中は常人には理解できないってか。
「なら俺からも一言、2年間、辛い事や忘れたい事、色々あったけど総合的にSAOは神ゲーでした! 楽しい時間をありがとうございました!」
「罵倒の言葉を浴びせられると思っていたが、まさかの感謝とは。こちらこそ、楽しい時間をありがとう」