第1層のボス戦後、キリトは、ビーターと言う名を貰った。それから、俺とキリトはそれぞれ、ソロプレイに戻った。だけど、たまにコンビを組んで攻略に勤しんでいる。
そして、リアルで新しい年を迎え、新たな新学期も迎えた。4月初め、キリトに新たな転機が訪れたそうだ。俺がそれを知ったのは、クラインのギルド、風林火山と一緒にレベリングをしていたときだった。
「クライン、そっちに行ったぞ」
「おおよ!」
クラインとそのギルドメンバーと一緒に狼ヶ原と言うエリアで、ウルフ系のモンスターをメンバーで一通り、弱らせていき、そのモンスターをクラインが刀スキルで倒したところだった。
「ふう、お?」
「クライン、どうした?」
俺も自分の担当するモンスターをギルドメンバーと一緒に倒して、クラインの方に近寄って、声を掛けた。
「キリトじゃねぇか! おい、雑魚は任せたぞ」
「本当だ。手伝いは必要か?」
俺とクラインは、キリトを見つけて、ギルドメンバーの方に振り向き、声を掛ける。
「おお」
「大丈夫だ」
その声を聞くと、俺たちはキリトの元に駆け寄った。
「最近、見かけねえと思ったら、こんな夜中にレベル上げかよ」
「キリト、久しぶり。…あれ? キリト、そのマークは?」
「おめえ、そのマーク、ひょっとしてギルドの?」
「あぁ、ちょっとな」
「おーい、次狩って良いぞ!」
俺とクラインがキリトのHPバーに月と猫があしらったマークを見かけ、ギルドマークだと理解した。キリトは少し俯き、答えた。そして、雑魚を倒したメンバーから、次に狩場を譲る言葉が言われた。
「じゃあな」
「おお、………たくよ、まーだ気にしてるのか」
「キリト…。気にするなって言ってんのに。それじゃ、俺は行くよ」
「おう、助かったぜ」
俺たちはそう言って、キリトが狩場に行く姿を見ているしかなかった。それから、クラインに挨拶をして、パーティーから抜けて、一人で街まで歩いて行く。
「はぁ、馬鹿だな。ギルドに入ったくらいで、俺たちは咎めるつもりはないのに」
そんな言葉を呟きながら、俺は大好きなゲームのオープニングを紡いでいく。それから、黒猫の危機が起こる、1ヵ月前の出来事だった。
それは数時間前の事だった。アルゴからのメッセージを受信した俺は、珍しい事もあるもんだと思いながら、指定の場所に赴いた。
「サー坊、27層の迷宮区に存在するゴーレムと小人型のモンスターからドロップする、強化アイテムの入手を頼みたいんだヨ」
「いきなりだな、強化アイテムか、別に良いよ。隠し部屋のモンスタートラップを使えば、30分も掛からず集められると思うから」
「良いのカ?」
「問題ないよ。レベルや装備的にも死ぬ事はないから。アイテムはアルゴが必要な物以外は全部貰っても良いんだよな?」
「あぁ、それで構わないゾ。依頼だから、きちんと報酬もよいしておくヨ」
「それは楽しみだ。そんじゃ、さっさと終わらせてきますよ」
俺はアルゴに指定された場所に赴くと、アルゴが一人でコーヒーを飲みながら待っていた。そして、俺が到着した早々に依頼の話を始めた。それはアイテム入手だった。俺は最前線のプレイヤーだから、27層のモンスターには倒されないだろうと思って、頼ったのかと考えた。
「そう言えば、キリトには頼らなかったのか?」
「キー坊には頼み辛かったんだヨ。だから、オレッチが知る中で生き延びそうなサー坊に連絡したって訳ダ」
「成程ね」
俺はそう聞いて、27層の迷宮区に向かった。27層の一部に結晶無効化空間の部屋が在ったはずだから、ポーションの所持数を確認し、問題なかったから、転移門で27層に移動した。
「はぁ、あの部屋のモンスターって、ゴーレムやピッケル投げてくる奴がいるんだったな」
そう言いながら、俺は隠し部屋の元まで移動していた。そしたら、俺のスキルの一つが反応した。
『転移、タフト!!』
「まさか! あの部屋に入ったのか!?」
転移の声が聞えてきたのだ。俺は聞き耳スキルと言う、音を聞くスキルを所持しているから聞えたのだ。だけど、その聞えてきた方角が、俺が向かっていた隠し部屋の方向だったのだ。だから、あの部屋に誰か入り込んだんじゃないかと思い、鍛えた俊敏性を駆使して走った。
隠し部屋に着いた俺は、速度のままに勢いを殺さずに扉を蹴り開けた。そこにはモンスターに襲われていた5人組を発見した。HPも赤色が見えたので、俺は盾スキルにある〈デュエル・シャウト〉を使用した。
「うおおおおお!! こっちだ!!」
モンスターは他のプレイヤーを攻撃を止めて、入り口に盾を構え、立っていた俺に視線を向けてきた。
「今の内に回復を!!」
俺は近くに居たモンスターに攻撃を入れていく。俺の盾スキルが高いお陰で、部屋の中に居るモンスターの8割は俺にターゲットにしている。俺はモンスターとのレベル差があるからか、モンスターを通常攻撃1~2回で倒していく。
「サチ、サチ!!」
「キリト!」
俺は盾を投剣スキルで投げて、少女に群がるモンスターを倒していく。そして、大声でアイツの名前を叫ぶ。
「うおおおお!!」
投剣で投げた盾が戻ると、他のプレイヤーに攻撃していたモンスターにまた、投剣スキルで盾を投げながら、近付き、片手剣と体術の2つのスキルを組み合わせて、モンスターから、男性プレイヤー3人を護っていく。
「3人とも回復を!!」
「手持ちの、ポーションは無いんだ」
俺は片手剣でモンスターを倒しながら、ポーチに空いた左手を突っ込み、3つのハイポーションを取り出し、3人に投げ渡した。
「それで、回復を」
「あ、あぁ、ありがとう」
「キリト! そっちは大丈夫か!?」
俺は3人がポーションを飲んだのを確認して、キリトの方に大声で確認した。
「ああ! こっちは大丈夫だ! サクラ、ありがとう」
「お礼はここを切り抜けてからだ!!」
「そうだな」
「キリト、宝箱を壊せ。それでポップはしなくなる!!」
「ああ! 分かった!!」
俺の言葉に従う様に、宝箱の近くに居たキリトは宝箱を壊した。何故、壊したか分かるかと言うと、部屋の中が、《Warning》と言う……英文が躍り出る。あのはじまりの街。全てが始まったあの日の血の様に赤い空の様に。赤かった部屋の壁の色が迷宮区と同じ色に戻ったからだ。それから、数分も経たないうちに、部屋の中に存在したモンスターは全て、ポリゴンの泡と消えて行った。
「おい、お前たち、大丈夫か?」
「あ、あぁ、ありがとう、…サクラ」
「とりあえず、この部屋から出よう、部屋の外に出れば結晶アイテムが使える様になる。何所かの街に転移しよう」
「あぁ、みんなもそれでいいな?」
俺の言葉にキリトやその仲間たちは息も絶え絶えな状態だったけど、生きていた。良かった。今度はきちんと守れたんだからと思った。キリトがお礼を言ってきたが、まずは安全な場所に移動しようと言うと、キリトやその仲間も頷いて、部屋の外に出て、俺も含めた全員で転移結晶で11層〈タフト〉に転移した。
そこで月夜の黒猫団のリーダーのケイタと呼ばれたプレイヤーと出会い、助けてくれてありがとうとお礼を言われた。俺は、あの部屋に用事があっただけだから、運が良かっただけだ。そして、これ以上はそちらのギルドの問題だと言った。キリトは自分の事をギルドに打ち明けた。
「ビーターのお前が僕たちに関わる資格なんか、なかったんだ! って、言いたいんだけど………。ああ! キリト、俺たちを強くしてくれて、ありがとう。それとサチ達を守ってくれて、ありがとう」
「ごめん!」
俺は彼らの方を見ると、ケイタがお礼を言い、他のメンバーが頭を下げ、謝っていた。キリトは暴言や罵られると思っていたのか、ポカーンと口をあけて見ているとダッカーは笑顔で顔をあげる。
「キリト、守ってくれて、ありがとう!」
「俺たちからもなありがとう」
「ありがとう」
「ありがとうね・・・キリト」
「え、いや、俺が隠してみんなを危険に晒したのは事実だし、お礼は・・・」
急なお礼に戸惑ったのかキリトがしどろもどろに狼狽えていると、サチがキリトの片手を両手で包み、微笑む。
「キリトは私達を強くしてくれた、トラップ部屋で私達を守ろうと必死になってくれた・・・あなたがどんな人でもそれは変わらない」
「サチ…」
「今は一緒にいるのは無理だけど私達は必ず少しずつ強くなって、あなたの場所まで辿りついてみせる! だから…また会ったらよろしくね?」
「あぁ、上層で会おう!」
俺は今まで、このゲームで生きてきて、嬉しいって感じた事はなかったんじゃないかなって思ったんだ。だって、今のキリトの顔はスッゲー、いい表情してるんだから。あぁ、守れてよかった、キリトの心を、俺と同じにならなくて本当に良かった。そして、ケイタが微妙そうな表情で、みんなに聞える様に声を出した。
「なあ、こんな雰囲気で言う事じゃないんだろうけど。キリト、ギルドを脱会するのか?」
「「「「あ」」」」
「うん、…俺はこれで抜けるよ、今回は俺のせいでもあるんだし、これ以上は迷惑かけられない」
「…そうか」
キリトの言葉を聞いたケイタは了承したのか、ウインドを開いて、操作する。それが終わって、メニューを閉じたら、キリトのHPバーから、月と猫のマークが消えた。ギルドから除隊したのだろう。
「…また、会おう」
キリトはそう言って、転移門の前に行って転移した。俺も後を追う様に転移門から転移した。そして、キリトは俺を待っていたかのように、16層の転移門前に立っていた。俺は何も言わずに、キリトと噴水広場のベンチに座った。
「キリト、ほれ、飲めよ」
「あぁ、…悪い」
「《アルティアの葉》で入れたハーブティーだ。カモミールに似てるから、リラックスできると思うぞ」
俺がメニューから水筒とカップを取り出して、キリトに渡した。キリトは素直に受け取ったが、顔は少し暗い。まあ、当たり前だろう、15歳くらいの少年が命を背負ってるんだ、溜め込んだ感情もあるだろう。…どれだけ、ゲームが上手でも、それは関係なく、まだ、心は脆いのだ。
「サ、サク、ラ。あ、ありが、とう」
キリトは声を震えながらも目から涙をだし、俺に言葉を伝える。
「俺、俺は…もう少しで、取り返し、がつかない事を、してた。だから、ありがどう」
座りながら顔を俯かせ泣き始めたキリトに俺は、頭を撫でて夜空を見上げて、自分の思いを小さな声だけど、言った。
「キリトは学んだんだ。なら、二度も同じ過ちはしないだろ? 今のキリトなら、誰だろうと守れるさ。あぁ、キリトならもう大丈夫さ、俺みたいにはならないよ」
「…ヒック……サクラ?」
「何でもない、キリトは何でもかんでも、背負い過ぎなんだよ。もし、人手が必要なら、俺を呼べよ。し、親友のためなら、少しくらい無理してでも駆け付けるからさ」
「・・・あ~~~!!」
キリトは俺の服に顔を埋めて泣き出した。俺は驚きながらもキリトが泣き止むまで頭を撫で続ける。こいつの心に刻んだ傷は深い・・・なんてったって、守るべき命が失われかけたんだ、無理もない。けど、それに対してキリトは後悔した、きっとこれからこいつは大きい成長が出来るはずだ。…俺には出来なかった事が、キリトなら今後は出来るだろう、親友のこれからの成長を期待する。