ソードアート・オンライン (仮)   作:ナウ

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蘇生アイテムと忘れないと誓った思い出

 黒猫団の一件を解決してから、半年近くが過ぎた、2023年12月22日。45層に存在するダンジョン、骨塚谷。骸骨系のモンスターがポップ場所に籠っている。

 

「はぁはぁ」

 

 通常であれば、骨塚谷の骸骨系モンスターは、そんなにポップ事は少ない。だけど、丑の刻の間だけ、骸骨モンスターが異常な程、大量にポップするのだ。そしてダンジョンの骸骨は 確かに攻撃力は高い。だが、それに反比例しているのか、防御力、そしてHPが思いの他、低く設定されているのだ。

 骸骨系やアンデッド系が苦手なプレイヤーは基本的に近づかないし、夜中にこんな場所に来るプレイヤーも少ないからか、知る人ぞ知る穴場スポットなのだ。勿論、アルゴにはこの情報の事を話している。

 

「はぁはぁ、はぁはぁ。後、1時間」

 

 そして、そんな丑の刻に骸骨を倒しているプレイヤーが1人だけ存在した。俺の事だけど、俺は12月24日のイベントボス、背教者ニコラスを一人で倒すために、それが可能なレベルまで上げているのだ。

 

「くぅ……!」

 

 骸骨の攻撃を受け流せず、受け止めてしまい、バランスを崩し、倒れた。当然、俺自身が戦っているのだから、ずっと集中なんて出来る訳ない。集中力が途切れれば、動きが鈍くなり、被弾する可能性が増す。そんな事、理解はしていた。

 そして、骸骨は倒れている俺に向かって、剣を突き立てようとしていた。だけど、その剣が俺に突き刺さる事は無かった。

 

「…キリト」

「そんな無茶してたら、死ぬぞ」

「死ぬつもりはないよ」

 

 キリトは骸骨を衝撃で吹き飛ばし、HPを全損させた。そして、残り数体の骸骨を倒したキリトはこちらを向いて、俺に手を差し伸べた。

 

「悪い、助かった」

 

 俺もキリトの手を取り、立ち上がり、この場から離れた。離れて、安全エリアに到着すると、俺の身体は操り人形の糸が切れたように、真冬の地面に倒れ込んだ。

 

「俺が入らなかったら、お前」

「大丈夫だよ。あれ位の攻撃、ボスの連撃よりは捌けるさ、まあ、キリトが入ったから時間は短縮できたけど」

 

 俺は強がりでも何でもなく、これまでの経験から判断して言った。そんな時だった。

 

「ったくよー! ほれっ」

 

 後ろから、クラインが回復ポーションを投げ付けた。俺はしっかり受け取り、ありがたく頷き、栓を親指で弾き、一気に飲み込んだ。

 

「うえ、やっぱり酸っぱいな………」

「文句があるなら、返せ」

「もう飲んじゃったし、返せないよ。ありがと、クライン」

「キリトの言うとおりだろ? いくらなんでも無茶しすぎじゃねェのか、サクラよ。おめぇ、今日は何時からここでやってんだ?」

「確か、19時くらいからだった様な気がする」

 

 俺の言葉に呆れた様子のクラインとキリトは、更に19時から骨塚谷に籠っていたことを知ると、2人ともため息をして、『やれやれ』と言っている様な感じで俺を見ていた。

 

「無茶な事すんなよ」

「無茶でも何でもするさ、時間が足りないんだから」

「って、無茶を通り越してんだろ! 19時だったら、7時間は此処に篭ってるじゃねえか! こんな危ねぇ狩場でんな無茶しやがって、気力が切れたらそく死ぬぞ!」

「一番危ない時間以外はそれほど、無理してないから、大丈夫だよ」

 

 言っていて、凄く嘘くさかった。だけど、無理ではなく、無茶はしていたからか、クラインから目を背けて言った。

 

「ってかよぉ、ここ最近、サクラはよくこの狩場で見かける。レベル上げの仕方が常軌を逸してるっだ感じだぞ? マジで。なんで そんな無茶をしなきゃならん! ゲームクリアの為。……なんてお題目は聞きたかねえぞ?」

「………分かってんだろ。イベントボスの為だよ」

「ソロ攻略か?」

 

 クラインの質問に、嘘偽りなく、簡潔に答えた。キリトの言葉に静かに頷いた。

 

「ソロ攻略なんて、やめろ! 俺らと合同でパーティを組めば良いじゃねえか!」

「蘇生アイテムはドロップしたプレイヤーの物で、だろ? それじゃ駄目だ。ルオンを、カイトを、生き返らせるためには、ここで確実に蘇生アイテムを手に入れないといけないんだ」

「サクラ……」

「大丈夫だよ。死ぬ気は無いから」

「だけどよ! 死ぬ気が無いなら、俺らと組めばいいじゃねえか!」

「だったら、無条件で蘇生アイテムを譲ってくれるのか? 無理だろ! だからだ、だから、一人でやるしか、ないんだよ」

 

 俺の心の奥底からの言葉に、キリトは何も言えずに、クラインはそれでも、一緒に戦おうと俺の事を心配してくれる。だからこそ、俺の本音を言って、立ちあがり、また、骸骨と戦闘するために、骨塚谷の奥の方に移動する。

 

 そして、12月24日、俺は最前線の49層、ミュージェンのベンチに腰を下ろした。

 

「サー坊、無茶なレベル上げをしているそうだな」

「………なんだ、アルゴか。新しい情報はないのか?」

「金を取れる情報はないナ」

「情報屋の名が泣くぞ」

「βテストの時にも無かった初めてのイベントだ、情報の取りようがねえヨ」

「そりゃそっか」

 

 俺はアルゴの言葉に納得した。

 

「クリスマスイブ、つまり明日の深夜、イベントボス〈背教者ニコラス〉が出現する。あるモミの木の下にナ。有力ギルドの連中も血眼で探してんゾ」

 

 俺は何も言わずに、ベンチを立ちあがった。そしたら、アルゴが聞いてくる。

 

「サー坊、目星ついてるんだロ?」

「まぁな、35層〈迷いの森〉に巨大な枯れたモミの木がある、多分そこだと思う。確たる証拠はない、俺の予想だ。好きに扱って構わない」

「分かった。サー坊、…まだあの時の事を気にしてるのカ?」

「当たり前だ。俺があの時、殴ってでも止めてればって、考えなかったことはないよ、昔も今も。これに今回は俺の我儘なんだよ」

「我が儘?」

 

 俺はアルゴの言葉に、暗い言葉で返していく。だけど、小さく言った言葉をアルゴに聞かれた。

 

「あぁ、1層の時、最前線に出る前に碑の前でさ、『2人と一緒に行きたかったんだ、とギルドを立ち上げたかったんだ』って言ったんだよ。だから、これは我が儘だ、俺のな。じゃあな」

 

 アルゴに言って移動した。宿に入り、メニューウインドウのフレンドの項目を触り、今フレンドになっているって、10人くらいしか居ないんだけどな。その内2人はフレンド情報が見れない。それは死亡しているからだ。

 

「ルオン、カイト。まだ、間に合うかな? それとも、もう手遅れだろうか?」

 

 俺は2人の名前を撫でて、目をつぶった。生き残る覚悟をするために、帰ってくるために。

 

「必ず、生きて帰るよ」

 

 俺は装備を最新版に入れ替えて、宿を出た。向かうはアルゴにも喋った、35層〈迷いの森〉にあるモミの木を目指して、持てる力を使って、走って行く。

 

「誰だ!!」

 

 俺は、目的の場所に到着したら、後ろから誰かに着けられていたようで、索敵スキルに反応があった。俺は立ち止まり、後ろを警戒する。すると、どうやら何者かこの場に転移してきたようだ。

 

「………キリトか」

 

 後ろから出てきたのはキリトだった。なぜこんな場所に居るのか? 何故、俺の後を追ってきたのか? そんな考えが頭の中を過った。

 

「追跡スキルで追って来たんだ」

「そっか、アルゴに聞いたんだと思ったよ」

「アルゴに、教えたのか?」

「…あぁ」

 

 スキルで追って来たキリトに、アルゴから聞いたのかと問いかけると、首を傾げた。知らずに追って来たんだと理解した。

 

「サクラ、俺は蘇生アイテムをドロップしたら、サクラに無条件であげる。それを承知でサクラを追って来たんだ」

「俺が言えた義理じゃないが馬鹿だろ! 蘇生アイテムだぞ! デスゲーム唯一と言って良いアイテムなんだぞ!? 例えボスを倒してもアイテムを無条件でくれるだって。確かに俺がそう言ったが、それは絶対に受けないと思ったからだ!」

「そんな、馬鹿が1人居たんだよ」

「キリト…」

 

 心底、驚いていた。無条件で蘇生アイテムをくれる事、俺の条件を飲んだ事に。

 

「死ぬかも知れないんだぞ」

「サクラには大きな恩があるし、親友だからな。死んで欲しくないし、助けたいんだ」

「キリト」

「それに、サクラが守ってくれるんだろ?」

「あぁ、守るさ、何度だって。だから、手伝ってください」

「勿論だ」

 

 俺はキリトに頭を下げて感謝した。

 

「じゃあ、このまま進むか。サクラ」

「あ、あぁ、ありがとう」

「お礼はボスを倒してからにしてくれ」

 

 そうして、俺たち2人は、枯れたモミの木の前に到着した。それから、5分と経たず、上空から鈴の音が聞えてきた。その音を頼りに、上を向くと、この漆黒の夜空、光が伸びていた。それはよくよく眺めて見ると奇怪な姿をしたモンスターに引かれた巨大なソリらしい。

 

「グロテスクなサンタクロースだな。こいつが」

「あぁ、背教者ニコラスだろうな」

「なら、倒させてもらう」

 

 その奇怪な姿をしたモンスターは、サンタを思わせる巨大なソリから飛び降りてきた。ズズンッ と言う衝撃音と共に、盛大に雪を蹴散らして着地したのは背丈がゆうに3倍はあろうか程の怪物だった。

 

「あぁ、まずは防御優先、ボスの攻撃パターンを調べるぞ。サクラ、防御頼む」

「分かってる。前に出過ぎるなよ」

 

 そう言って、俺たちはニコラスとの戦闘を始めた。

 背教者ニコラスの攻撃方法は、斧を使用した攻撃と、袋からの吸い込み、プレゼント投げが、主だった。だけど、HPバーが1本ずつ、削れていくと、攻撃パターンが変化し、弾き飛ばしや、袋から雪玉を投げ飛ばして、行動を制限するデバフを掛けたりした。

 それ以上にも、防御に移行する瞬間、ランダム仕様の中にも、必ず法則性はある筈なのだが、それでも変わり続けてた。

 

「キリト、バック!」

「あぁ!」

 

 俺がニコラスの攻撃する瞬間、キリトとの位置を変更して、俺の壁盾(タワーシールド)でキリトと自分の前に壁を作り、斧の攻撃や吹き飛ばしから、守っていく。

 

「サクラ、大丈夫か?」

「問題ない、回復アイテムやバトルヒーリングも使用してるから、HPは安全値(グリーン)を留めてるよ」

「なら大丈夫か」

「キリトもHPが警戒値(イエロー)に落ちたら、回復していいよ。その間の時間は稼ぐから」

「その間は頼む」

 

 俺も攻撃をしながら、ニコラスから視線を外さない。ニコラスの様子が一瞬でも変化したなら、キリトに言って、防御か回避主体に変えてもらっている。

 

「キリト、プレゼント!」

「デバフには掛かるなよ!」

「そっちもな!」

 

 それから、30分の時間が経った。ニコラスの攻撃を何度も何度も、弾き飛ばし、受け流す。デバフに掛かっても、壁盾の能力でデバフの効果時間が短縮されているので、問題ない。

 

「決めろ。サクラ!」

「これで、終われえぇぇ!!!!」

 

 俺は壁盾を放り捨てて、体術と片手剣の複合スキルである、7連撃のメテオブレイクを使った。最初は斜め斬り下ろして、そのまま斜め斬り上げて体当たり、回転斬り、左肩で体当たり、左から水平斬り、最後に剣を捨てて殴った。そして、ニコラスのHPを全損させ、終わらせたんだ。

 

「はぁはぁ、サクラ」

 

 俺はニコラスを倒した瞬間、ドロップウインドウを見た。そこには、〈還魂の聖晶石〉のアイテムを見つけ、取り出し、アイテムの効果を確認した。その内容は、プレイヤーが死亡した場合、『10秒以内』であれば蘇生することができる。

 

「あはは、はは」

「サクラ?」

「理解…していたさ。あぁ、分かっていたよ」

「サクラ!」

 

 俺は、アイテムの効果を確認すると、乾いた笑いが出て、膝を折った。キリトは俺に声を掛けて、近付いてきた。俺はキリトに持っていたアイテム、還魂の聖晶石を放り投げた。

 

「な! これって」

「あぁ、やっぱり、思っていた物とは違うか」

「やっぱりって、知ってて来たのか?」

「可能性の問題だ」

「可能性?」

「あぁ、過去に亡くなったプレイヤーを蘇生できるアイテムなのか、それとも、完全に脳を焼かれる前に助け出せるアイテムを、蘇生アイテムと呼ぶのか、分からなかった。だから、確かめたんだ。自分の目で。今回は後者だっただけだ」

 

 俺の言葉が聞えていたのか、キリトは聞き返してきた。そして、自分が考えていた可能性をキリトに言った。俺が欲していたアイテムではなかったものの、蘇生アイテムはレア中のレアアイテムであることは間違いない。

 

「キリト、ありがとう、こんな馬鹿に付き合ってくれて、そのアイテムはお礼として受け取ってくれ」

「サクラ!」

 

 俺はそう言って、立ち上がり、トボトボと遅い足取りで、歩こうとしたら、キリトに呼び止められた。

 

「お前、自殺するつもりか?」

「そんな事はしないよ。ただ、話に行くだけだ」

「…俺も付いて行っていいか?」

「好きにすればいい、キリトの行動にとやかく言わないよ」

「そっか」

 

キリトはそう言って、俺の横に着いて、歩き出した。俺もまた、ゆっくりだけど、歩き出した。そして向かった場所は1層、始まりの街の生命の碑の前に居た。

 

「ルオン、カイト、蘇生アイテムは残念ながら、2人を生き返らせる様な物じゃなかったよ、だから…」

「サクラ…」

「だから、俺、前を向くよ。2人を止められなかった事の後悔は、多分、一生消えないんだろうな。グス、後悔を受け入れて、前に進むよ。2人の事、絶対に忘れないよ。1週間も満たない時間だったけど、俺にとって、大切な時間だったから」

 

 俺は言いながら涙を流していた。その涙を拭いて、顔を上げた。

 

「だから、俺は最前線に行くね」

 

 それは奇しくも、最初に最前線に向かうときに言ったセリフと似ていた。そして、振り返り、キリトの方を向いた。多分、キリトには俺が涙を流している所を見られているだろうが、その顔は少しだけ、晴れていたと後から聞いた。

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