GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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今回の話は『朱音と友奈はお料理師弟である その2』の続きとなっております。
割とドストレートなサブタイだけど、他に思いつかなかったんだ 
劇中に出てくる神社は、ゆゆゆ一期劇中でも出てきた聖地が元(微妙に名称を変えてありますが)。
和菓子の方は、うどん粉を使うに惹かれて先日見たバラエティから早速拝借。
店名は無論、科学特捜隊のキャップからです(おやっさんの方は既に響鬼で使われてたので)


東郷さんは嫉妬深く、チョロい

 さてさて、朱音ご指導の下、友奈が丹精込めて作ったミートボールスパゲッティら今日のメニューを、偶然通りかかった銀と夏凜と一緒にランチを取っている様を、引き続き嫉妬心を半ば剥き出しにして遠くのビルの上から双眼鏡で見ていた黒髪ロングの大和撫子。

 敢えて言うと………当然と言うかその少女とは、神世紀の日本で護国思想の強めな日本人でもある東郷美森その人だ。

 彼女が、朱音ご指導の下、友奈が料理の特訓に励む姿を見てしまったのは、あのだし巻き卵を作った初日だった。

 同日、いつものように友奈と帰ろうとした際。

 

〝ごめん東郷さん、今日はどうしても外せない用事があるんだ〟

 

 その友奈から、謝意を示す合いの手でこう断られた。

 どうしても外せない用事の詳細ははぐらかされながらも、一時は渋々了承した東郷だったが、直ぐに胸に引っかかりを覚え始め、その状態のまま友人たちと帰宅の途中。

 

「はぁっ!?」

「あれ……友奈に朱音?」

 

 寄宿舎の近くを通った際、見てしまった、見えてしまったのだ。

 丁度、エプロン姿の朱音と友奈が、仲睦まじくイェーイとハーイタッチした姿を。

 東郷の大和撫子に相応しい白磁の肌な顔は、一瞬で酷く青ざめ、浮浪者の様に足をふらつかせた挙句。

 

「嘘よ……嘘だわ……そんなの嘘よ……そんなことあるわけないわ……」

「友奈ちゃん、もしかして朱音ちゃんからお料理習ってる?」

「嘘だぁぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 傍らにあった電灯の柱にしがみ付き、悲鳴を上げた。

 その日以来、料理人としての師弟となった二人を出歯亀する日々が続いて今日に至る。

 

「いけない! 友奈ちゃん! 銀! これは罠よ! 欧米列強からの精神的侵略よ!」

 

 すっかり、お淑やか、とは程遠い取り乱し様。

 鷲尾須美(しょうがくせい)の頃の自分と親友だった銀、そして東郷美森に戻って以来の自分とは大親友な友奈。

 今の彼女からは、生涯の親友たちが、アメリカ人とのクォーターでもある朱音から、日本で言う戦国時代におけるキリスト教の布教も同然な、文化、価値観、精神の侵略行為を受けているようにしか見えなかった。

 それ以上に、嫉妬の感情もあったわけだが。

 

「こうなったら――」

 

 冷静さを失った東郷は、懐に置いていたバックに手を伸ばそうとする。

 中に入っているのは、小学生時代に園子が見た夢から生まれた、あるコスチュームだ。

 

《国防仮面》

 

 と、言えば大体分かるだろう。

 だが、その自警団(ヴィジランテ)的装束が、その時纏われることはなかった。

 東郷の視界(めのまえ)に、ビルの頂に仁王立つ足が二つ。

 

「須美~♪」

 

 鷲尾家の養女にして、先代勇者だった頃の自分の名を呼ぶその声を聞いた東郷は、心底から底冷えする戦慄と、そして恐怖が押し寄せた。

 

「き……清美姉さん」

 

 両腕を強く組んで、額に濃い影が射し込んだ満面の笑みで東郷を見下ろすのは――清美、かつて同じ鷲尾家の勇者であった義理の姉、静音だった。

 

「な~にをしているのかな?」

 

 真面目で堅物な静音がこんな笑顔を見せる理由は一つ。

 愛する者たちが犯した蛮行に対する、怒りだ。

 

「(お取込み中ごめんね)」

 

 するとこの場に、朱音の精霊であるガメラ――トトが現れ。

 

「(はい)」

「どうもねトト、動かぬ証拠も持ってきてくれて♪」

 

 黒い物体を手渡し、その場から消えた。

 受け取った静音は、それを問答無用に握りつぶし、破片(スクラップ)と化したそれらを床へと無造作に放り捨てた。

 東郷が、こっそり調理場に取りつけていた盗聴器の、成れの果て。

 

(しまった……なんたる不覚)

 

 東郷は、相手に悟られることなく出歯亀(かんし)できていたのは、間違いであったと、思い知らされた。

 

「さあ、今すぐ私の部屋に来なさい~~たっぷり~可愛がってあげるから♪」

 

 

 

 

 

 数時間後。

 静音の部屋の片隅では――

 

「ぐすっ……」

 

 その間、義姉の静音よりたっぷり絞られ――もとい可愛がられた挙句、顔に『反省中』と書かれた紙を貼られ、正座を強いられたまましくしく涙している東郷がいた。

 静音からは、自分が張り紙を取るまで正座を解くなと釘をさされていた。

 もし勝手に解いたら、今回の含めた今までの蛮行諸行悪行の数々を、須美――過去の自分と、そして銀に洗いざらいぶちまけ告発すると言う、東郷にはある意味でこの上ない罰を与えるとも脅迫されている。

 なのでほとんど東郷は身動きを許されず反省を強いられ、もし下手に正座を崩せば――。

 

〝私が、六年後に貴方みたいな人になるなんて―――不愉快です! 最悪ですッ!〟

 

 須美(かこ)から、現在の己へ、徹底的に糾弾され。

 

〝須美をここまで堕ちぶらせるなんて……おっきい方の須美……見損なったっす!〟

 

 下手すれば銀からも失望される未来が確定してしまうので、東郷は必死に時を刻むごとに増す両脚の苦行(しびれ)に、ひたすら耐え続けていた。

 その光景を、後から部屋に訪れた篠崎奏芽と犬吠埼風は哀れに見え。

 

「清美、これはちょっと……さすがにやり過ぎじゃないかな?」

「当然の報いよ♪」

「いやいや、東郷だってこんな長い時間正座させられたらきついでしょ、せめて足くらい楽にさせたら……」

「楽にさせたらお仕置きにならないじゃない♪」

 

 減刑を主張するも、静音は一切二人の提言を聞き入れる気配はなく。

 静音が怒りの笑顔を解くまで、まだ当分は愛する義妹(いもうと)へのお仕置きは続きそうだった。

 

「そ、そうだ、朱音もここに呼ぼう奏芽」

「そうね、彼女も今の須美の姿見たら大目に見ようって言ってくれる筈」

「甘いわね二人とも」

 

 それでもどうにか刑罰を軽くしようと、朱音に助け船を求めようとする奏芽と風だったが。

 

「「え?」」

「だって今回のお仕置きは―――朱音(あのこ)と一緒に画策したのだからね♪」

「「なん……ですって……」」

 

 静音から突きつけられた、彼女と朱音は最初から結託していた事実に、二人の脳髄は荒ぶる閃光が走るほどの衝撃を受ける。

 奏芽と風がとっさに思いついた目論見は、初めからとうに崩れ去っていたのだ。

 

 

 

 

 東郷の出歯亀は、二人の料理特訓初日の翌日から始まっていたのだが、その日には既に朱音は鍛えられた感覚で、自分たちを〝監視〟している視線(けはい)の存在に気づいていた。

 初日にトトが、多大なショックを受けた東郷を目にしていたのもあり、視線の正体が彼女であるとも見抜いていた。

 しかし朱音は、気づいていながらしばらく何もせず、何日も素知らぬ振りを取った。

 本人に追及したりや、義姉の静音に報せると言った手も打たず、友奈に料理を教える自分への監視の目をポーカーフェイスで放置した。

 孫子の言葉の一つ、動かざること、山の如し――の如く。勿論、朱音はただ放置していたのではなく、相手を油断させつつ向こうの様子、出方を窺っていたのである。

 その間、トトのサポートもあって盗聴器の場所もちゃっかり把握し。

 

〝ところで、あの勇者部の凝った作りなHPって、誰がプログラミングしたんだ?〟

〝あ、あれは東郷さんだよ〟

〝あの人のパソコンスキルって凄いんだよね~~ほんの一、二分ちょっとで高速タイピングしてちゃちゃっとHP強化しちゃうし、勇者端末のアプリ改造だってやっちゃうし〟

〝それ……合法の範囲内なんだよね?〟

 

 それとなく響たちから聞き込みして、迂闊に電話やメールを使えばハッキングされる可能性も突き止め。

 そして、ミートボールスパゲッティらのメニューの日の前日の早朝。静音とともに毎朝のトレーニングの場として使っている公園で、鍛錬の傍ら、彼女に友奈に料理を教えている件と、その模様を義妹(とうごう)より盗み見されている件を口頭で報告。

 

〝実は今、友奈からの折入っての頼みで料理を教えているんだけど、それを毎度盗み見している輩がいてね〟

〝その輩って……まさか……〟

〝まだ確証はないが……多分、東郷だ……ハッキングされるかもしれなかったから、端末で連絡できなくて〟

 

 当然、身内の諸行を聞いた静音が、額に青筋(いかり)のマークを浮かべた笑顔になったのは言うまでもなく。

 

〝明日、何とか監視中を取り押さえて君の義妹(いもうと)にお灸を据えたいのだが、どうかな?〟

〝断る理由がないわ♪ 喜んで協力するわよ♪〟

〝ありがたい、これ以上友奈の一生懸命を、親友の彼女に水を差されたくなかったからな♪〟

〝ええ、日頃親友と豪語しておいて肝心な時に友奈の想いを察しない愚昧には、相応の報いを与えないとね♪〟

〝Hah―――hahahaha♪〟

 

 との、朱音からの申し出にも快く了承、協力を約束し、二人は爽やかな朝の下には似つかわしくない、ダーティーな笑顔を交わし合い結託。

 その日の放課後の特訓の後の夜にて、東郷が監視に使っている場所を静音が運転する車でともに回りながら絞り込みつつ、盗聴の心配はない彼女の車内でお仕置きの算段を立てて練り。

 そして当日、朱音は敢えてパスタと言う西洋の麺料理メインのラインナップで東郷の冷静さを奪い。

 まんまと術中に嵌った彼女は盗聴現場を義姉(しずね)にまんまと押さえられ、ダメ押しにトトが盗聴器をわざわざ静音に渡してそれを壊す――までに至ったわけである。

 

「じゃあ、この東郷のお仕置きも、朱音と一緒に考えたって……こと?」

「当然じゃない♪ ほんと朱音を呼んでくれた神樹様には感謝しているわ、問題児どもをどう御するか、俄然やりやすくなったからね♪」

 

 奏芽と風は、静音と朱音の二人に対し改めて戦慄、息が止まりかけるほど絶句。

 そう言えば……と前にあったある出来事を二人は思い出した、否、思い出させられた。

 仲間の精霊にも(さすがに本当に食べはしないが)かじっちゃう牛鬼が、朱音の精霊にして同じガメラのトトにもそのお約束(?)を、しようとした際。

 

《激突貫――ラッシングクロー》

 

 直前、電光石火の勢いで朱音は牛鬼の柔らかい口元を鷲掴みにし。

 

〝牛鬼く~ん♪ 私のかわいい相棒(トト)に、何をしようとしたのかな~?〟

 

 その時にも、晴れやかに瞼を閉じた聖母の如き笑顔から、今にもハイプラズマを放射しそうな威圧力で周囲を凍えさせ。

 

〝まあいい、丁度いい機会だから一つ君に聞きたいことがある――〟

 

 ゆっくりと瞳を開き、災いたちへの怒れる翡翠の眼光を突きつけ。

 

〝――Tell me………Do you bleed?(教えてくれ、血は流れるのか?)〟

 

 こう、言ったことを(無論、スーパーヒーローの映画劇中からの引用である)。

 この一件もあって、トトは園子の精霊の一人(?)――セバスチャンこと烏天狗と同様に、同じ場で一緒に端末から実体化していてもかじられない側になっていた。

 

 真面目で堅物な方な静音と、おおらかで朗らかな方の朱音。

 同じ黒髪ロングの似合う大人びた美貌ながら、表面的な性格は真逆な二人だが、ルックス以外にも共通項は多い、

 内一つが、一度怒った時の凄みだ。

 

〝絶対あの二人を同時に怒らせてはいけない、でないと涙どころか血が流れ、地獄を見る〟

 

 そんな二人が結託すれば、どれだけ恐ろしいことになるか忘れてはならないと、己に言い聞かせた。

 

 結局、件のお灸すえはもう数時間続いた後に、やっと東郷は解放され、現在も結城家とお隣同士な東郷家(じっか)への帰宅を許された。

 本人の名誉の為に、お仕置き終了直後の彼女の様子は、敢えて明記しないでおく。

 

 

 

 

 

 ようやく愛する義妹への怒りが沈んで、機嫌が平時に戻った静音は。

 

「これ朱音とトトが撮ってくれた写真なんだけど」

「うわ~……私から見てもすんごい美味しそう、ミートボールなんて肉汁たっぷりだし、私も今度パスタやってみようかしら」

 

 

 朱音やトトが撮り、静音のスマートフォンに送られた特訓の後のランチの模様を奏芽と風に見せた。

 味わっているのは装者勇者だけでなく。

 

「銀も夏凜も、友奈が作ったのもあって嬉しそう、あ、あの牛鬼が珍しく行儀よく食べてるなんて」

「本当ね、口元はクリスばりにソース塗れだけど全然こぼしてない」

 

 一度お菓子に手を出せば、食い尽くすまでテーブルに滓をばら撒いちゃう牛鬼が、トトから食べ方のレクチャーを受けつつ、フォークでパスタをくるくる丸めて頬張っていた。

 後日トト本人に聞くと――『パスタはフォークで丸めてソースを零さず食べるのが〝一番美味しい食べ方〟』――だとアドバイスしてあげたそうだ。

 

「銀の精霊も、大層堪能なさってる」

「てかあの子お口あったんだ……」

 

 見れば銀の精霊な鈴鹿御前も、閉じている時は全く目立たない小さな口を開けて口にしている。

 それはもう皆、精霊たちも入れて笑顔満面な、朱音の指導下で友奈が一生懸命に作った料理を味わっている昼食模様であった。

 

「樹と一緒に徹夜して、プリンもどき作ってたあの頃はもう遠い昔だわ」

「あ~あの翼のアバンギャルドな絵心並みにトンデモだったプリンのことね」

「何のこと?」

「奏芽は知らなかったわね、私たち旧二課が四国に来る前の話なんだけど」

「ひょんなことから、樹と友奈がサプライズで洋菓子作るって急に言い出してね」

「先に言ったらサプライズにならないんじゃ……」

 

 尤もなツッコミをした奏芽に、ウコンや魚醬らを使い、心身削って徹夜まで作った甲斐もなく、朱音からも曰くク○ゥルフ系と表された友奈と樹の特製とんでもプリンのエピソードを、風が打ち明ける。

 

「私も最初に聞いた時は、人類を滅ぼすのにわざわざノイズやらバーテックスやら差し向ける必要はないと思ったわね」

「あの須美がケーキに紅茶を自ら作ると言い出すのも納得だわ……」

 

 あれだけ和風に拘る東郷が自分から洋菓子に手を出すに至らせた、まさに絵に描いた料理下手っ振りに、奏芽は苦笑いした。

 

「けどまあ、こんな楽しいひととき見せられちゃ………東郷も大人しくはしていられないわね、前から銀絡みでやきもちよく妬いてたし」

 

 東郷の、朱音に対する人物評は決して悪くはない。むしろ良好以上である。

 ガメラと言う少女一人が背負うには重すぎる前世を抱える境遇にはシンパシーを少なからず覚え。

 ともに国防の為災禍に立ち向かう戦友としても、アメリカ人のクォーターで帰国子女ながら、新日家の祖父の影響もあって日本暮らしの日本人以上に日本文化への知見にも精通している彼女には、日本人としても敬意を評し。

 面倒見も乗りもよく自然体な彼女個人の人となりにも、好意的である。

 ただ……だからこそと言うべきか、時に鷲尾須美(かこのじぶん)にさえ嫉妬してしまう、生来の妬き易い東郷の気質が刺激されてしまうことも少なからずある。

 内一つが、朱音を〝あや姉さん〟と呼び慕っている、小学生時代の親友の銀(尤も、ゲーマー繋がりで千景、ボーイッシュ繋がりで球子、姉繋がりで風と、朱音以外にも風が特に慕う諸先輩方はいる)。

 好奇心たっぷりで、世話焼きな一面を朱音と共有して気が合うのも慕う理由の一つだが―――弟たちの影響で、ヒーローものも自然と嗜好の一つとしている銀にとって、朱音はフィクションの壁を飛び越えて現れた本物の〝スーパーヒーロー〟そのものなのである。

 映画を通じて目の当たりにされた、彼女の前世(ガメラ)の境遇にはさすがに一時はショックを受けたものの、それをも乗り越え今でも人々を守る為に戦う勇姿に、憧れを持てないわけがなかった。

 朱音も、自身が愛する〝子ども〟なお年頃である銀には満更でもなく、自ら彼女に戦闘訓練だけでなく、銀の苦手な勉学にも教え役を買って出たりなどよく面倒を見てあげている上に、時に彼女がやる〝ビバーグ〟にも気前よく付き合ってあげてさえいる。

 東郷もそれに対し頭では理解しているのだが………心は複雑。

 何せ、死に別れてから六年を経てまた巡り合えたの親友なのだから……無理もない。

 その上、大親友の友奈にまで仲良く料理を作る姿を見せられては、嫉妬で気が気でいられなくもなるだろう。

 

「実際やったことは全く褒められたことじゃないけど」

 

 静音の言葉もまた然りではあるが。

 

「清美……ま、まだ根に持ってるの?」

「まさか~~須美の悪事諸行の数々は今に始まったことじゃないのよ、いちいち根に持ってなんて~~いられないわ♪」

 

 とは言いつつも、またにっこりと微笑む静音。その微笑が何を意味しているか、聞くのは止めておこうと風と奏芽は心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 さてと、妬き易くてやきもち深いお人柄な東郷の今後が心配になっている者も多いだろうが、その心配は無用だ。

 なぜかと言うと―――さらに数日後の休日。

 

《甘味処――むらまつ》

 

 讃州市内にある、大正時代からかれこれ四百年近い長い歴史のある甘味処の店内の、窓際の座敷の一角にて、姿勢正しく気品すらも感じさせる大和撫子然とした正座姿で腰かける女子二人。

 

「朱音さん、何にいたしますか?」

「じゃあこの南蛮焼と、抹茶オレでいいかな?」

「おお、お目が高いですね♪ この和菓子には我ら香川県民の血肉の一部であるうどん粉が入っているのです」

「あ、やっぱりあの南蛮焼か………この世界の神世紀(このじだい)にまで伝わっているなんてね」

「○×代目が修行先の『大里(おおさと)』から受け継いだ逸品なんですよ」

 

 たおやかでもある雰囲気で向かい合う、朱音と東郷のお二人である。

 

 

 

 

 

 どうして東郷が、一時は嫉妬で狂い咲きしてしまいそうだった相手と、偽りなき睦まじさで和菓子を食べようとしているのか………過程を飛ばされると急展開にしか見えないだろう。

 それは、静音(あね)たちからお仕置きを受けたから二日が過ぎた月曜日のことだった。

 

「東郷さん!」

 

 その日のリディアン高等科四国分校、友奈たちが在籍するクラス。

 午前の授業の終わりを告げるチャイムがまだ残響する、お昼の始め時、今日もひとりでに端末から出てきた牛鬼を頭に乗せた(精霊は基本、勇者と装者以外には目に見えない)友奈が、いつもの一緒に昼食を催促してきた。

 

「一緒にお昼食べよう♪」

「う、うん………ん? 友奈ちゃん? その箱って」

 

 東郷は友奈の手にぶら下がっている、風呂敷に包まれた箱を指さした。

 

「これね、私が作った―――私と東郷さんの分の〝お弁当〟♪」

「っ……?」

 

 お弁当。

 親友の口から響いたそのたった一言で、東郷の全身は意識ごと、一時凍結した。

 

「と、東郷さ~ん? ワッツアップドッ~ク?(どったのせんせ~?)」

「はっ!?」

 

 眼前で手を振ったりなどして友奈が呼びかけると、どうにか東郷は覚醒。

 

「ゆ、友奈ちゃん……い、今の……本当?」

「本当♪ 今日のお昼は私のご馳走、勿論食後は東郷さんのぼた餅でね♪」

「ええ!?」

 

 友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、 友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、 友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り――ッ!?

 

 友奈が持つ弁当の意味をどうにか呑み込んだ東郷の白磁の美肌な頬が、一瞬で紅潮。シンプルだが、彼女にとっては多すぎる情報量と大きすぎる情報密度を前に脳内(ハードディスクドライブ)の温度がまたショート寸前に急上昇し。

 

「ええええぇぇぇぇぇーーーーー!」

 

 教室中に、東郷の驚愕(ぜっきょう)が轟いた。

 

 

 

 

 

 琴彈八幡宮(ことびきはちまんぐう)。

 リディアン四国分校、そして讃州中学から歩いて一分の距離にある神社境内の一部な公園のベンチに、友奈と東郷は腰かけていた。

 この公園は二人が、二人きりの時によく使っている場所である。

 

「それじゃ開けるね」

「待って友奈ちゃん」

 

 弁当の風呂敷を解こうとした友奈を東郷は一時、待ったをかけた。

 公園に着く頃には平静を取り戻した彼女だったが、落ち着いたら落ち着いたで、ある疑念が過ったのだ。

 

「どうしたの?」

「牛鬼、まさかとは思うけど、友奈ちゃんが丹精込めて作った弁当の中身、つまみ食いしてないでしょうね? あと私のぼた餅も」

 

 ブルブルブルッ!

 煌めく疑惑の眼光を東郷から向けられた牛鬼は、何かと彼女から怒りを買われて縄に縛られ吊るされる等のお仕置きを受けてきた(例の『三段お重ぼた餅消失事件』も込みで、大抵牛鬼自身が撒いた種が原因ではあるのだが)のもあり、大慌てで首と手を振り〝やってないやってない!〟と無罪を主張する。

 

「なら論より証拠、本当かどうかは私のこの目で確かめさせてもらいます、お口をお開けなさい!」

 

 しかし、それだけでは納得しない東郷は、牛鬼の口端を掴んでぐい~っとかつぐににっ――と、きつめに引っ張り、口を大きく開かせ、ご勘弁をと両手を上下に小刻みで振り、涙目で懇願する親友の精霊(あいぼう)の口内を隅々まで厳しく検閲。

 

「あわわ~東郷さ~ん、その辺にしてあげて~!」

 

 幸い、牛鬼の腫れた口元にも口内にも、つまみ食いをした物的証拠たる食べ物の食べ滓は一切発見されなかったので、掛けられた疑惑は解消された。

 

 

 

 

 

「「いただきます(ま~す)」」

 

 ようやく風呂敷が解かれ、合掌して蓋を開けると。

 

「はぁ~~……」

 

 東郷の口から感嘆の息が零れ落ちる。

 箱の中には、海苔巻き三角おにぎり、鮭の塩焼き、野菜入りだし巻き卵に、カボチャの煮物にごぼうサラダらによる和風弁当の光景が広がっていた。

 この時の為に、友奈は朱音に弟子入り志願をしたわけである。

 

「これ全部……友奈ちゃんが?」

「うん♪ 東郷さんのぼた餅も一緒に食べるのを見越して朱音ちゃんがレシピを書いてくれたんだけど、何とか私一人で作ったんだ、お母さんもびっくりしてたよ、『友奈いつの間にこんな腕上げたの!?』って」

 

 箸を手に取った東郷は、だし巻き卵を掴んだ。

 

「特にこれが自信作だよ♪ 食べてみて」

「うん」

 

 頬張ると、ふんわり柔らかに焼き上がった卵に宿った美味が――

 

(はぁ………友奈ちゃんの優しさが、愛が……伝わってくる)

 

 ――一緒に、口の中に広がっていき、とろけた表情になるくらいに、東郷は舞い上がる気持ちになっていた。

 

「美味しいよ、友奈ちゃん♪」

「ありがと東郷さん♪」

 

 お互い、満開の花の如くな笑顔たっぷりに昼食を堪能する親友二人。

 気がつけば、東郷の心の内にこびりついていた嫉妬の感情は、洗いざらい………親友の手作り弁当による一緒の食事を通じて、〝浄化〟されていった。

 まさに――人が良くなると書いて、〝食〟である。

 

 

 

 

 

次回『朱音からの忠告』に続く。

 




この世界の東郷さんと義理の姉妹な二重奏シリーズの主人公の静音さんの怒った時の怖さは、これくらいで作者(アウスさん)本人から『これくらい当然だな』と言うレベルです(汗

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