GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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前回の『東郷さんは嫉妬深く、チョロい』の続きでございます。途中からシリアス度が一気に増す仕様、朱音が東郷に何を打ち明けたかはゆゆゆ勇者の章参照。
ラストの人物が何者かは、ヒミツです。二重奏XDU本編で明らかになるまでお待ちを。
あと東郷さんがぼた餅に拘る理由は二重奏シリーズオリジナルなのでご注意を。


朱音からの忠告

[chapter:朱音からの忠告]

 

 時の流れがゆったりと感じさせてくる、落ち着いた色合いで和の情緒溢れ、橙がかった色味の灯りが照らす甘味処の、庭園を拝める窓際な座敷の一角で、卓袱台の前に正座で座り込む私と東郷は注文した和菓子を今か今かと待ちつつ。

 

「それにしても朱音さん、どうやってあの牛鬼を手懐けたのですか? 昔からあの子には色々苦労しているので、気になって」

「特に難しいことはしていないよ、ちょっとした発想の転換さ」

「転換?」

「東郷の言う通り時に厳しく躾けることも必要だけど、〝言いつけを破ると損する〟ことより、〝言いつけを守った方が得〟だと強調して伝えることも必要だ、食いしん坊君な牛鬼の場合だと、〝一人で全部食べてしまう〟より、〝みんなで一緒に食べた方が一番美味しいしお腹一杯〟とそれとなく認識させてあげることがコツかな」

「はぁ……なるほど」

「子どもと言うのは、私にとってはやんちゃさも含めて愛らしいが、同時にある種の怪獣、混沌の化身でもある、ただ抑えつけるだけじゃ、却って大暴れさせてしまうものなんだ」

「参考にさせていただきます」

 

 とりとめもないトークを交わす。

 ここ数分で頻繁に話題を取り換えて。

 ある時はさっきのように(主に牛鬼だけど)精霊たちの躾方だったり。

 

「でも天正一四年辺りの農民があんな柔なわけないよな、太閤様が刀狩りを出す二年も前なのに」

「私もそこは気になりました、完全に兵農分離する以前な上に、当時はどの国の百姓たちも叩き上げの侍だったわけですし、野武士どもになされるがままなわけがありません」

 

 またある時は、西暦一九五〇年代に最初に公開され、三時間以上の休憩付きな大長編ながら、日本国外の映画界にも多大な影響を与え、神世紀の現在でも傑作として伝わっている時代劇映画のことだったり。

 傑作扱いしているのに時代設定の矛盾を追及しているのは、まあ言うなればマニアのめんどくさい性の一種ってことで。

 

「(つまりこの駒を動かせる向きは、こうと、こうと、こうなんだね)」

 

 私たちがこんなトークを交わす傍ら、トトは東郷の四体いる精霊の中で最も彼女と付き合いが長い青坊主から、精霊の能力で実体化した小さな駒と将棋盤で、将棋の遊び方をご教授されている。

 

 グッド! チョーイイネ!

 

 青坊主は親指をサムズアップして、『その通り!』と言った。

 彼はトトの様に喋れないので、卵状の身体(なんか電子世界のモンスターに似たようなキャラがいたな)の割れ目から伸びる黒い手による身振り手振りのジェスチャーでレクチャーしていた。

 精霊は周囲にいる一般人には一切見えないので、トトも青坊主ともこうして堂々と現界しているわけ。

 

 さてさてと、本題に入る前に、前回の大まかな流れもおさらいしておこう。

 友奈からの折入っての頼みで、料理を教えていた私だったが、それを偶然見た彼女の大親友の東郷が妬き易い心に、エンヴィーな火を点けてしまい。

 それぐらいならまだ良かったが……毎日、どこの裏窓よろしくのぞき見と言う凶行に走ったが為に、義姉の静音と組んできっちりお灸をすわせて。

 その後、レシピこそ私からのものだが、友奈の手作り弁当を前に、あっさり嫉妬の感情が浄化させられた東郷から、一転してお礼にと、ここ――《甘味処 むらまつ》で奢ってもらっているのが、今である。

 

〝須美って……大和撫子を目指している割には杭が出過ぎるところがあってね、特に友奈が絡むとタガが外れやすくて、暴走機関車になるのもしょっちゅうで、色々と手の掛かる義妹(いもうと)なのよ〟

 

 注文時に店員さんがサービスで持ってきた湯呑みの茶を一口飲んでいれば、ふとこの前の静音との早朝トレーニング中に交わした雑談(ガールズトーク)での、彼女の言葉を思い出す。

 心中、その通りだと思った。

 前々から友奈に対する慕情は強い(何せ似たような人間たちを知っている、はっきり言うと響の親友な未来であり、奏さんの親友だった翼である)とは思ってたけど、皮肉でも揶揄でもなく、想像の斜め遥か上を行っていた。

 聞けば、友奈に可愛がられた過去の自分が満更でもなく照れている様にも妬いていたそうで。

 一方で友奈の丹精を込めた手作り弁当によるランチ一つで、あっさりと、掌返ししちゃうところから見ても、筋金入りだ。

 そう言えば夏凜も、友奈絡みでそういうところがあるし(ただ生来のツンデレ女子な夏凜の場合、友奈に限った話じゃない)。

 外見も性格も名前すら友奈そっくりだが、違う時代に生きる別人な西暦勇者の一人な高嶋友奈と仲の良い、郡千景も然りだし。

 どうやらこの世界には――〝友奈〟と言う名前を持った人間を特に慕い、とことん惚れ込んだ人間は総じて〝チョロイン〟になる法則があるようだ。

 まあ前にも言ったが、想う誰か〝愛し方〟だって人それぞれの百人百様で、多様性がたっぷりな世界なので、東郷の友奈への慕う気持ちそのものは尊重しております。

 でもだからこそ、今回のような行き過ぎた事態――のぞき見と言うストーカー行為には厳しく対処させて頂きました。

 Love & peaceは私もこよなく愛しているが、時には――

 

〝Fight fire with fire(火は火をもって制す)〟

 

 ――ことも辞さない、これは私と静音が共有しているモットーの一つ。

 先日の牛鬼と東郷へのお仕置きの件を見ていれば、お分かりだろう。

 けれど遺恨と言う尾を引きずる気もさらさらないので、東郷からのお礼には快く、ありがたく頂戴させていただきます。

 

「お待たせしました」

 

 店員さんが持ってきた、私が頼んだ南蛮焼と抹茶オレ、東郷が頼んだ四色ぼた餅日本茶セットが、丸いお盆の上から卓袱台に置かれ、お皿と卓上との澄んだ接触音が鳴る。

 この甘味処は最近讃州市でもできた二号店で、本店は東郷の家がこちらに引っ越す前の地域のご近所にあったそうで、小さい頃――鷲尾家に一時養子になるまではよく家族みんなで食べに行っていたらしい。

 特にお店の看板メニューであるぼた餅は、東郷家でも通う度に必ず食べていたくらいの鉄板メニューであり、東郷のぼた餅へのあくなき拘りの原点の一つとも言えた。

 

「「いただきます」」

 

 合掌した私たちは、和の風味たっぷりなティータイムを始めた。

 律唱市にもこの南蛮焼と言う和菓子を売っている甘味処の支店があり、響たちと休日遊びに出た時はかの店によく通っていたりする。

 東郷によれば、この世界のこの店の南蛮焼は、西暦の代の店主が修行先の東京の甘味処から受け継いだもの、なのだそうだ。

 

「トト」

「(ありがとう♪)」

 

 その一つを、トトに手渡し、私たちはほぼ同時に頬張る。

 姿は見えなくても、和菓子は見えるのだから傍からは浮いて消える様に見えて不気味ではと思うかもしれないが、そこはトトが認識操作の機能も付いた結界を使っているので問題ない。

 柔らかくて弾力のある生地と、それに挟まれた黒糖にうどん粉も交わったあんのゆったりと舌に流れ込んでくる奥行きと品のある甘味が広がる。

 うん、私の世界で食べていたのと、寸分違わぬ同じ美味、何百年の年月に代々紡いできた美味しさ。

 私とトトの頬まで、ふんわりと緩み、口元の角が登っていき、お互いの食べる姿を見合うと、共有された美味しい気持ちが相乗されていった。

 

「お二人揃ってご堪能なさっているところ、すみませんが……」

 

 すると、讃州中学に入学して以来久方振りに、家族ぐるみの思い出の味を堪能している筈の東郷から、改まって正座姿の背筋を伸び直し、畏まった調子でこちらに振ってきて。

 

「先日のその節は、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 例の〝覗き〟絡みのトラブルの件で、東郷は慎ましく、頭を下げる。青坊主も同様の所作をした。

 日々、自らの求める〝日本人像〟な日本人たれと努めているだけあり、その佇まいは大和撫子と表するに相応しい美麗さがある。

 

「私の方こそ、友奈に弟子入りを志願したその日の内に貴方にお伝えしておくべした、なのでここはおあいこの手打ちと行きましょう」

「はい」

 

 私の方からも、謹んで、頭を下げ返しつつも。

 

「まあお陰で友奈とは、多分東郷(あなた)も知らない内緒の話もできたしね」

 

 はにかんだ口元の端に人差し指を添えて、こう言うと。

 

「っ―――! ナン……デスッテ?」

 

 東郷から発せられていた気品も漂う静謐な空気が一変した。

 

「ナ……ナイショ? ワタシノシラナイ………友奈チャンヲ……」

 

 東郷の全身から、奈落の底から轟音を響かせて這い出てくるような黒味たっぷりのオーラが放出され、濡羽色と呼べる美しい黒髪は、その髪を纏める水色のスカーフごとオーラの風で浮き上がっている。

 青坊主が抑えて堪えてと落ち着かせようとするが、効果が見られない。

 

〝黒い黒い黒いっ! 朱音!あんた何誤解招く言い方してんのよ!? 友奈じゃあるまいし!〟

 

 風部長がこんな感じで大慌てに突っ込んできそうな、トトの結界がなかったら周辺の他のお客様方が恐怖の余り一斉に急いで勘定して出て行きそうな状況に陥った。

 一服する余裕はあるので、グラスの抹茶オレを一口してほどよい甘さと苦さが噛み合ったオレの美味を味わう。

 なんでこうも平然とできるかと言うと、事態を収束する方法は既に把握しているからだ。

 

「なんてのは根も葉もないジョークさ、それに本当に私が東郷の知らない友奈を知っていたとしても、それ以上に友奈自身も知らない友奈を見つけて、本人に伝えてあげれば良いじゃないか? その方が君の親友も目一杯君を祝福してくれるよ」

「……っ」

 

 と、さらにもう一言発すると、ほらこの通り。

 また空気は一変し、東郷を纏っていた闇のオーラは一瞬で消え失せ、一転彼女は照れ気味になり、よそよそしい物腰となる。

 

「それに東郷と友奈はハイスクールを門出したら晴れて籍を入れるつもりだろう? それに水を差す趣味は私にはない」

「せ、せせせせせせき、籍を入れるッ!?」

 

 と、もう一発ダメ押しに発すると、東郷の顔の赤具合が一気に濃くなった。

 瞳も水中をせわしなく飛び回る魚の如く泳がせられている。

 大方、私の言ったシチュエーションを大真面目に想像して、笑顔を向けてくる友奈の姿にときめいている――ってところだろう。

 

「なんだ? てっきり私は東郷のことを、友奈といつでも婚姻届は出せるよう準備済みな、事実婚の通い妻だと思っていたが、違うのか?」

「ち、違います! わ、わわわわ私と友奈ちゃんはその………そう、あくまで大親友、大が付くくらい仲が宜しい親友なだけですから!」

 

 日頃、友奈への愛を色んな形で惜しみなく表現している東郷も、さすがにここまであからさまに言われたら、大いにたじろいていた。

 全く、〝面白国防三姉妹〟の末っ子だけあって、ついにやけたくなるくらい彼女も面白いね。

 三姉妹とは、翼と東郷と、そして静音ら三人のこと。

 彼女たちに直接の血縁はない。静音が今は弦さんの養子で、それ以前は東郷――須美とともに鷲尾家の養子だったので、それにちなんで私が勝手に〝三姉妹〟と見なしているだけだ。

 

「はぁ……」

 

 東郷は深呼吸を繰り返してどうにか落ち着きを取り戻すと。

 

「全く……清美姉さんと翼さんが、朱音さんのことを意地悪と称してましたが、今のでその通りだと思い知らされました」

「ああ、生憎と私はそういう性分でね♪」

 

 さらりと東郷の返しを受け流す。

 それに、この世界の翼からも奏さんばりに〝意地悪〟と言われたとなれば、むしろ私にとっては〝友達〟として、本望かつ名誉で光栄なことでもあったとさ。

 

 

 

 

 

 中学の時は引っ越しと足の障害と勇者部の活動で、高校も造反神の一件で讃州市に戻るまでは首都にあるリディアン本校の寮生活だったのもあり久々な、思い出の味を日本茶と一緒に深く味わう手を止めずに、私の口からは溜息が一つ。

 また朱音さんから、まんまと手玉に取られてしまったが為の、己が未熟さにだ。

 なけなしの反撃をしてはみたが、朱音さんは全く動じずに抹茶牛乳をさらにもう一飲みする。

 彼女が神樹様より異世界から召喚されてから数か月、それまで積み上げてきた交流で分かったこの人の人物像の一端は、あの奏さんばりに気に入った相手ほど揶揄う癖があることだった。

 しかも、故意なのか偶然なのか、それとも修羅場を潜り抜いて磨き上げた技かまでは定かじゃないけど……的確な時機を狙い撃ちでこちらの不意を突いてくるので、相手はまんまと嵌められてしまう。

 かくいう私も、今丁度嵌められ、一本取られた。

 けど嫌な気までにはなっていない。

 奏さんにも言えることだけど、あの二人の揶揄いは加減と限度が絶妙で、絶対に相手を不愉快な気分にまではさせないのだ。

 

「意地悪な自分が言うのはあれだけど、実際掛け値なしに、東郷と友奈は大親友だろう? それこそいちいちやきもちする必要がないくらいに」

「………」

 

 そ、それに――。

 

「確かに友奈は――これは高奈にも言えることだけど、人間どころか動物にまで愛嬌を振りまいて引き寄せる天然の人たらしなところがあるから、気が気でなくなるのは分からないわけじゃないが」

 

 これも奏さんにも言えることだが、意地悪な以上に、面倒見のいい一面もあった(ちなみに補足として、朱音さんはそのっちのご先祖様な若葉さんとともに西暦から召喚された友奈ちゃんと生き写しにそっくりな高嶋さんのことを〝高奈〟と言うあだ名で呼んでいる)。

 

「そんな誰に対しても底なし好意と笑顔で接する友奈が、何よりも〝一番に特別な相手〟としているのが東郷、貴方でしょう?」

「っ……」

 

 下手な本物の宝石よりも麗しい艶に恵まれた、朱音さんの翡翠色の瞳に見つめられると同時に、水面のさざ波に似た声と言い回しで伝えられる、的を射たお言葉に、私は縮こまる想いになる。

 ちらっと窓に視線を向ければ、淡い鏡面に自分の照れ顔がはっきり見えた。

 気を紛らわそうと日本茶を飲むも、同じ茶の筈なのに、味がほとんど味わえない。

 

「それぐらいの強い縁で通じ合っているんだ、妬かれるくらい慕われるなら友奈も親友冥利に尽きるだろうけど、余裕も持ってどんと構えてた方が良いと、私は思うけどね」

「はい……」

 

 また溜息が零れそうになる、理由はまたしても、未熟な己に。

 これでも……自覚は、できてはいるのだ。

 友奈ちゃんに向けられる、自分以外の誰かの好意に対する、過敏で過剰な反応………と言うのは回りくどいので、もう端的に言ってしまえば、我ながら漆黒な、嫉妬の感情。

 その対象は、中学の時に友奈ちゃんへ恋文を送った顔も名も知らぬ同級生だったり、夏凜ちゃんだったり――。

 

〝須美ちゃんイイここイイこ、なでなで♪〟

〝ほほ~~須美、嬉しそうじゃないか~~ん?〟

〝そ、そんなこと……〟

 

 ――挙句、神樹様の導きで召喚された過去の自分である須美ちゃんにまで、この黒い感情を向けてしまった……我ながら多岐に渡っている有様。

 困った悪癖だと重々承知しているんだけど、いざ件の状況に鉢合わせたり、立ち合ったりすると……途端に激情に一瞬で呑まれて我を忘れ、我ながら禍々しい色合いをした炎に心中埋め尽くされ、後から理性が戻った時は何をやってるのだと内なる自分に問いただしたくなる〝奇行〟をやらかしてしまい、その度に、主に清美姉さんから大目玉をくらい、お仕置きを受けてきた。

 まだその清美姉さんの、朱音さんとの結託による今回のお仕置きの影響が残っているから、思い出そうとするだけで背後に我が義姉が立っていると錯覚して身の毛もよだつ悪寒が過るのだが……先日の友奈ちゃんのお料理修行を盗み見と盗聴していたかの一件も然り。

 どうにかしたいとは、思っている。 かの悪癖は、自分にとっても、友奈ちゃんにとっても、芳しくないもの。

 友奈ちゃんの、誰も彼も、性別も年代も種族も問わず惹き寄せてしまうあの〝天然たらし〟な一面も含めて、私は〝結城友奈〟と言う女の子に、心奪われたのだ。

 自分の邪な独占欲の為に、そんな友奈ちゃんを友奈ちゃんたらしめる友奈ちゃんらしさに抑圧なんてするなど、断固あってはならない………ではあるのだけれども。

 

「それは……そうなのですが……」

 

 冬の季節のものではない寒気をどうにか悟られまいと平静を心がける私の声は、車いすだった頃のようなか細いものになっていた。

 

「で、では……」

 

 朱音さんからのお言葉を粛々とありがたく受け止める気はあるけど。

 

「もし、朱音さんが友奈ちゃんと大親友で、他に友奈ちゃんに恋文を送るくらい好意を抱いている輩が現れたら、どうしますか?」

 

 負けず嫌いで頑固な〝自分〟は、思わず彼女に今の質問をぶつけてみた。

 

「そうだな、『のぞむところだ、いくらでも相手になってやる』とその相手に敬意を以て言ってやるさ」

 

 でも、それが大いなる過ちだった。

 

〝朱音ちゃんの味噌汁おぉ~~いしい! 毎日でも食べたいよ♪〟

〝友奈がお望みなら、味噌汁に限らず毎日いくらでもご馳走してあげるよ、勿論食後のぼた餅とセットでね〟

〝わ~い♪ ありがとう!〟

 

 不覚にも私は、今思い浮かべた、友奈ちゃんと朱音さんが満面の笑顔を向け合う、二人が大親友の間柄な様の、想像の濁流に――

 

(いやぁぁぁぁぁーーーーーーー!!)

 

※自分の想像に自分で大ショックを受けました(ピンポ~ン)

 

 

 

 

 

 突然だが、突然東郷がフリーズした。

 もっと具体的に言えば、樹海が形成される直前に起きる、勇者装者以外の人間やあらゆる物体の動きが時間ごと停止する感じで、固まってしまっている。

 顔なんて、どこのホラーコミックに定評のある漫画家が描く絶叫したキャラみたいな顔芸をお披露目おり、これまたトトの結界がなかったら周りの客は恐怖で慌てて店から出て行ったことだろう。

 私は東郷の顔の前で手を振り、同時に青坊主が彼女の耳元で指を鳴らしてみるも一切反応なし。

 多分待てば自然に再起動するだろうけど。

 

「What’s up doc?」

 

 と、英語で『どったの先生?』と言ってみると。

 

「はっ!」

 

 日々、自身の理想とする純日本人を目指す東郷は、アメリカ暮らしで鍛えられた私のネイティブな英語の響きによって、一瞬で目が覚めた。

 

「すみません……意識がフリーズしていました、本当にごく希になのですか……私のハードディスクはこうなる時がございまして」

 

 なんて、高性能だがポンコツなハードディスクだか……まあそれは風部長にもマリアにも言えることだけど。

 でもその〝ごく希に〟が今起きるとか………大方〝もし友奈と○○が親友〟だったらをイメージしたのが窺えるが、誰をご指名したらそうなるのやら、義姉の静音か、彼女の幼馴染の奏芽か、それとも棗か若葉辺りか?

 

※貴方です(ピンポ~ン)

 

 ちなみに、主に英語からの派生な外来語(例:チョコレート→猪口令糖)も和製英語が一般的な名詞もできる限り純日本語で使う徹底振りの東郷だが、特技の一つであるPC関連の単語に限って普通に横文字を使っていたりする(ただしブルースクリーンは全くお手上げらしい)。

この東郷の一面はここで置いておくとして。

 

 本当、ここまでぞっこんで、心から想われてる友奈や銀は果報者だよ。

 奇行に走って義姉や仲間たちを困らせちゃうところはともかくとして。

 出会ってからの数か月で、東郷美森と言う女の子は、友奈や、銀に園子に限らず、自分と繋がりを結んだ大切な人たちとの縁を、どこまでも大事に携え抜くお人なのだと言うことが窺えた。

 同時に、口の中全体に、憂いが混じった苦さが広がる。東郷のこの一面は、静音の言葉越しに知った……彼女の勇者としての戦いによって、育まれてしまったものでもあると、改めて……思い知らされたからだ。

 でもこれで、決心がついた

 前々から私は、勇者部としてのボランティアと、東郷の表現を借りて国防活動と、それと友奈の料理指導等々の傍ら、この世界の〝現状〟と、そこに至る歴史を独自に調べていた。

 そして――ある〝可能性〟に、行き着いた。

 それは……まだ可能性の問題とは言え……かの四年前のバーテックスとの戦いを生き抜いた勇者たちにとって、残酷な事実。

 私がかつて、レギオンに禁忌の技を使う決断を下したその先にも等しい運命。

 だが、だからこそだ。どんな形であれ、神樹様が弱っているのは目も耳も塞げぬ事実であり、その裏には災いに立ち向かう勇者たちを待ち受ける現実と言う名前を持った〝魔物〟が、牙を潜めて今か今かと待ち受けており、いずれ友奈たちに容赦なく襲いかかるのは明白。

 幸いなことにまだ当分、この結界(せかい)の中での、造反神との戦いが続く今だからこそ……ちゃんと、伝えておかなきゃならないことでもあった。

 

 

 

 

 

「東郷……」

「どうしました朱音さん? 急にそのような真剣なお顔になって」

 

 突如として、眉が鋭利になった朱音の、翡翠色の瞳から放たれる真剣な眼差しに訝しむ。

 

「丁度いい機会だから、今のうちに貴方へ話しておきたいことがある、まだ私の推測の域を出ないが、とても皆がいる勇者部の部室では打ち明けにくい、余り気持ちの良い話じゃない……忠告と言ってもいい」

「それは一体……どういうことです? 忠告だなんて……」

 

〝忠告〟と言う単語から、東郷の脳裏に不穏な気配が潜り込んで来た。

 

「言葉通りの意味さ、それを話す前に一つ、前置きがある―――ともに国防活動をして分かったことだが、東郷、貴方のその明晰でカミソリのように切れて勇者部の活動に欠かせない頭脳は、同時に〝アキレスの腱〟だ」

 

 日本の諺――〝弁慶の泣きどころ〟と同様の意味を持つ言葉を聞いた東郷の意識は、一層緊張の糸が張り詰められて、息を呑む。

 

「私は決断に求められるスキルが二種類あると思っている、一つは即座に判断して実行できる瞬発さと、もう一つは深く念入りに思案する為の慎重さ、貴方の場合、前者は秀でているが、後者の方はむしろ苦手としている………加えて、強い激情に駆られるほどの問題が目の前に現れた時、なまじ切れすぎる貴方の頭脳は、悩む段階を飛ばして激情に流されるまま、極端が過ぎる手段を選んでしまうところがあると、私は見た」

 

 張り詰め過ぎて固くなった全身は、震えそうになり、俯く東郷の視界は正座した脚の上に置かれた両手から

 今まさに、東郷は正確に的を射抜くほどの図星を、突かれる格好となっていた。

 

「きつい言い方になるけど、その選んだ極端な手段が生み出すものは、悲劇だ」

 

 実際に四年前、東郷は友奈たち勇者部と静音たち旧特機二課との国防活動の折に突きつけられた残酷な真実を前に、友も家族も世界すらも巻き添えにした〝心中〟と言う過ちを犯してしまったことがある。

 神樹様の壁(ベール)に包まれた地獄を目の当たりにしたあの時の東郷は、〝悩み〟を打ち明けられる仲間とともにいたと言うのに、自身の劇場の熱に魘された機敏過ぎる頭脳は、朱音の見立て通り悩む間もなく極端が過ぎる手段を選び取り、あわや実現させてしまうところだった。

 今でも東郷は、その過ちを絶対に忘れてはならない〝戒め〟として、自らの胸の内の奥に、刻ませている。

 

「………たとえ最悪の事態は免れても、貴方が愛する親友たちに、大きな代償を背負わせかねない」

 

 朱音が打ち明けようとしているものの具体的な形までは、まだ東郷には図りかねずにいる。

 しかし……それはかつて、勇者システムに備わっている機能――精霊と満開、そして自分たちが身を置き生きるこの世界そのものの〝隠された真実〟や、かつて融合症例だった響の〝ガングニールの侵食〟にも匹敵する重さを秘めた代物であると、察していた。

 何とか動揺する精神を落ち着かせようと、湯呑みに残っていた日本茶を口にする。

 礼儀礼節に対し、昔銀から半ば口うるさいと揶揄されるくらい敏感な性格上、普段は絶対にしない一気飲みで、最後の一滴まで飲み尽くした。

 息まですっかり荒れてしまっている。

 

「ここまではっきり言ったのは、貴方のその優しさが、大事な人たちを傷つけてしまう悲劇に繋げたくはないから………まだ聞く準備(こころがまえ)ができていないなら、今無理にここで話しは、しないけど……」

「いえ……」

 

 その息を、繰り返し深呼吸で整え直し。

 

「私とて……前に朱音さんが地獄と称した戦場に、覚悟を以て馳せ参じ、国防に務める身です、お願いします」

 

 背筋を伸ばして深く、朱音にお辞儀をし、朱音の翡翠の瞳と目線を交わした。

 たとえ朱音から告げられるものが、どれだけの残酷さを帯びていようとも、今ここで聞いておかなければ、後々―――〝あの時〟以上の、一生拭えない強い後悔に見舞われる。

 東郷自身の直感が、そう告げていたのである。

 

「分かりました、では今の前置き念頭に置いた上で―――これから私が話す〝本題〟を聞いて下さい、まだ〝可能性の問題〟ですが……事実神樹様が弱体化している以上、あり得ないと一蹴もできない事柄ですので」

 

 さらなる念を前もって置きつつ、朱音はガメラとしての戦いも含めたこれまでの経験と独自の調査から導き出した〝可能性〟を、東郷に打ち明け始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、朱音は愛用のバイク――ワルキューレウイングF6Dで讃州市内の臨界公園の、両腕を置いたフェンス越しに、夕焼けに染まった瀬戸内海と、その向こうに佇む神樹様の壁を見つめていた。

 造反神との戦いが終われば、跡形もなく消え去る運命なこの神々が作り上げた結界(まぼろし)な、ほんの一瞬に煌めいて咲き散る儚い運命なこの世界も、〝生きている〟と実感して以来、朱音は日々時間を見つけては、世界のあらゆる風景を鑑賞するようにしていた。

 少しでも……確かに〝存在していた〟と、自身の脳裏に焼き付かせる為に。

 

 

 

 

 私の脳は、瞳(レンズ)が捉えた数々の光を、夕焼けの海に形作って投影すると同時に、自分が打ち明けた未来の〝可能性〟を聞かされた東郷の姿も同時に再生し続けていた。

 かなりショックを受けさせてしまったのは、避けられなかった。話すことを無闇に先延ばしにすれば、もっと大きな代償となっていたとしてもだ。

 だって、バーテックスとの戦いの最中、勇者システムに備わる決戦機能――満開の実態も知らされぬまま、代価の支払いとして捧げられた供物が帰ってきたと言う祝福は、ある意味で偽りも同然だったと私は突きつけたのだから。

 首に下げた勾玉と一緒に、胸に手を当てる。

 当然だけど、ただ伝えたままそれっきり東郷たちの心を放置にする気はないし、今胸の内に淀む痛みから逃げる気など毛頭ない。

 この痛みは、私たちに未来の命運を委ねるしかなかった弦さんたちが背負ってきた痛みに他ならないからだ。

 いわば今日私は、この世界の弦さんたち大人と、同じ〝十字架〟を背負った身。

 なら、その十字架を背負いし者の責務を、果たすまでだ。

 私は、壁の向こうの神々へ、引き締めた瞳で見据え。

 

〝聞こえているか? 私は自ら、もう一つお役目を自身に課した……それは、勇者以前に、一人の人間な少女たちを、神々の淫蕩から守ることだ〟

 

 決意を表明した上で、その場を後にする。

 また今日も、誰かの視線を感じたが、意に介さない振りをして、愛機(バイク)のエンジンを吹かし、アスファルトへと走らせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も簡単には手の内を見せてくれないか………まあそれぐらいの強かさを見せてくれないと、こっちも張り合いが足りなくなるから良いけどね――最後の希望、ガメラ様」

 

 いまだ―――姿を見せぬ敵が、呟いた。

 


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