GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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今回はリディアン一回生組とワイワイしつつも、二重奏世界の実状を調べている朱音の日々でございます。
話題に上がるマリアの猫舌ネタは言うまでも無く555ですが、実は食卓も『綺麗な555の食事シーン』をイメージ。
草加が現れてからは言うに及ばず、序盤の食事シーンも割とたっくんとマリが喧嘩してそれを啓太郎が宥めようとして却って煽ってるなとこ結構多かったりと、和気藹々な場合があんまなかったり 


10.5 前進の狭間でA

 弦さん主催による、未開放地区解放作戦に備えた四日間かけての大規模訓練は、私たちの大方の予想の通り、半分は散々な結果となった。

 特訓と言うことで、いつもより一際やる気たっぷりな弦さんから繰り出される、存在自体が日本国憲法第九条を紙切れにしてしまいかねない驚異的かつ超常的、人のまま最終兵器もしくは怪獣になったも同然な戦闘能力を前に、いまや一個小隊クラスのメンバー数な私たち装者と勇者たちは、戦闘ってほどのものにすらならないくらい善戦も一矢報いることもできず、模擬戦とはいえ、あえなく全滅し………惨敗した。

 この敗北が、戦力向上と互いの連携、連帯感を高めさせる当初の特訓意図に繋がったかと言えば―――弦さん本人には申し訳ないが、ほとんどゼロである。

 むしろ一部のメンバーに無用なトラウマを受け付けただけだ。

 なので私と静音は心を鬼にし、ペナルティとして、日々自らの大人への道を極めるべく精進する弦さんには、大人としてのけじめとして、一か月のアクション映画鑑賞停止処分を下した。

 神世紀でも営業しているTATSUYAでの映画ソフトのレンタルは無論、ネット配信での鑑賞も期間中は禁止である。

 その間は、SONGの皆さんにもきっちりお目付役を全うする手はずも、静音と二人で予め手筈を取っていた。

 

〝朱音君……せ、せめて……そこは二週間ぐらいに短縮させてはもらえないだろうか……〟

 

 その弦さんが、いつもからは考えられない抑えきれない焦燥があふれ出た顔色の悪さで、譲歩を求めてきたけど――。

 

〝Well you can’t♪(そりゃ、無理、です♪)〟

 人差し指をちくたく振りつつの満面の笑顔で、全面却下しました。

 

 この宣告を前に、模擬戦では膝すら大地に付くことなく私たちに圧勝したさしもの弦さんも、両手ごと脚が崩れ落ち、項垂れて好物を一時でも禁止された絶望を味わったっとさ。

 組織の自浄は、きっちり内部で作用させておかないとね。

 

〝お、おっさんをああも簡単にへこませやがった……〟

〝静音と朱音って………ヤバいコンビになるんじゃない……〟

 

 でもその模様を見ていた仲間たちの一部から、畏敬の眼差しを向けられた気がするが、気のせいか。

 ここまで説明すると、まるで特訓は半分どころか全部失敗と言われるかもしれないが、そんなことはない。

 もう半分は、春信さんに神崎先生と安芸先生が丁寧に練りに練られて組み上げた計画(プラン)の下で行われた訓練で、当初掲げた目的はちゃんと達成できたからである。

 

 

 

 さて、この大規模特訓から数日後にして、造反神に侵略された『未開放地区』をこちらからの攻勢による奪還を目的として第一次解放作戦まで後数日なその日。

 その日の授業の後、私は、大赦の書庫にいた。

 色温度の低く淡めの薄明りが彩られた、明治期の趣きが漂う木造建築の中で、均等に並び立つ本棚の横一列一列に整然と、西暦二〇一五年七月三〇日から、神世紀の現在までの約三〇〇年に渡る史料(きろく)が――〝一応〟――粛々と保管されている。

 前もって静音から正式に許可を貰っている私は、こうしてこの書庫の戸棚たちから収められた史料たちを取り出しては、室内にある閲覧用の机に腰かけて、拝見していた。

 

「(朱音……)」

「どうした? テレパシーでも、こういう場所では声を控えて、心穏やかに本を読むものだよトト」

「(うん、そうなんだけど………それを言ったら朱音、本を読むにしてはちょっとしかめ過ぎだよ)」

 

 トトは私のスマホのカメラアプリを立ち上げ、内側のレンズが捉えた私の顔が、画面に表示される。

 紙上に刻まれた文字たちと向き合うには、とても芳しくないgrumpy face(しかめつら)だった。

 この表情(かお)は、この前も見たことがある。

 リディアン四国分校通学初日に、大赦の連中が送迎の為お越しになった時に、寮のエントランスのガラスに映っていたものと、ほとんど同じ表情(かお)だった。

 

「確かに穏やかにほど遠いな、ご忠言ありがとう」

 

 手に持っていた史料の一冊を、開いたまま机上に置いた。

 

「(ええ……なにこれ?)」

 

 丁度、私が〝読もうとしていた〟ページを見たトトが絶句する。

 そのページは、先に書かれていたであろう、縦列に並ばれていた文字たちが、全て墨で塗りつぶされいたからだ。

 トトはせわしない調子で、他の記憶も開いてパラパラと捲ると、段々私のとよく似た苦虫を噛まされているくらいのしかめ面に変わっていった。

 

「(これ、記録としてわざわざとって置く〝意味〟、あるの?)」

「nothing(ないね)……」

 

 私は背中が腰かける椅子の背板との密着を強め、両手を後頭部に付けて淡い灯りが照射されている天井を見上げ。

 

「とまでは行かないけど、少なくとも、当時を知る手がかりとしては、余りあてになりそうにないな」

 

 大赦の記録保管方針を、ばっさり断じた。

 

「しいて言えば、静音の言ってた大赦の体質(げんじょう)が、確たるものだったと教えてくれる証拠くらいにしかならない………こいつは神世紀三〇〇年の歴史を書き記す行為としては下の下だよ」

「(この間見せてくれた仮面ラ○ダーに出てきた地○の本棚を検索できる能力が、欲しくなってくるね)」

「I agree(同感だ)、風の都の名探偵たちの手も欲しくなるよ」

 

 こんな調子で辛辣に皮肉げに述べ合う私たちが読んだ史料には、いずれも、全てのページにて、大小なり黒く太い墨の線で、文字の一部が上書きされていた。

 正直喩えに使いたくないが……また父と母が生きていた昔、季節は夏だったか、どこかの資料館で現物を見たことがある……第二次大戦終結直後の、当時の学校で使われていた教科書に瓜二つだ。

 ページによっては、紙面の文字全てが無情に塗りつぶされている箇所さえある。

 潰された箇所は悉く、大赦の人間の大半にとって都合の悪い、目を背きたく耳も塞ぎたい、そして絶対に向き合いたくない〝事実〟の一端が記されているのは、どうにか見当がついた。

 まだ書庫(ここ)に保管されている記録の一部しか閲覧していないが……恐らくほとんどの史料がこの状態だろう………焚書されていないだけ、まだ幸いかもな。

 私がこうしてこの書庫で史料を読み込んでいるのは、異邦人であるがゆえに神世紀の歴史を改めて把握しておこうと思ったのが、数ある理由の〝一つ〟だ。

 静音が語ってくれたことは真であると信じてはいるけど、だからこそ自分の眼で、この世界の歴史の〝実像〟に近づきたかったのだ。

 だがご覧の通り、西暦二〇一五年、七月三〇日―――初めてバーテックスが、天空より人類の前に姿を現し、殺戮と暴虐の限りを尽くしたその日から始まった、この世界の地球の、三〇〇年の歴史を記した貴重な史料たちは、残念ながらその記録としてのお役目をまともに果たしていなかった………いや、全うできないようにさせられたと言った方が良い、書物(かれら)もまた、大赦の組織の闇に翻弄された被害者であるのだから。

 これでは愛する人の為に手段を選ばず生き残り、仲間だった勇者の存在を抹消し、当初は大社だったかの組織を〝赦し〟を入れ替え大赦とした――を含めた汚れ役の泥を被ったひなたたちの、いつかの未来で、人の手で災いそのものたる神々から世界を取り戻す礎を築こうと、手と足をべとつかせてまでの努力が報われないじゃないか。

 かと言って、天井を眺めて黄昏続けてもいられず、もう少し何冊か読んでみることにした。

 歴史の実像に近づく上では、これらもまたそれをより明確に形作らせる為に重要な欠片(てがかり)たちではあるからな。

 相変わらず、太い墨の線(ベール)だらけの記録を読み進め、特に重要だと直感で過った記述を持参したノートに纏めていくと。

 

「っ……」

 

 視力はかなり良い方なのに、思わず瞳とページとの距離を縮めるくらい関心が沸き上がる〝事件〟を見つける。

 それは、暦にして神世紀七二年の年の項目に記載されていたもので、〝表向きの記録〟では、カルト集団の自殺――

 

「(朱音、メールが来てるよ)」

「あ、ああ……」

 

 とそこへ、サイレントに設定していたスマホにメールの着信が入り、トトが端末当人に代わってそれを報せてくれた。

 送り主を確認すれば。

 

「水都か……」

 

 その相手は、西暦時代の諏訪の勇者、白鳥歌野の相棒である巫女――藤森水都からであった。

 彼女からのメールを読んだ後、もう少し読み進め、書き纏めてはいたけど、根の詰め過ぎは禁物なので、今日の〝この世界の現状に行き着くまでの流れと実状〟に関する調査は、この辺で一度お開きにすることにした。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 話も空気も、それらの色合いを急に変えるが、その日の私の、いや、それを言うなら、私と切歌と調と英理歌らリディアン一回生組は、私の寮部屋にて、そろってテーブルを囲んでディナータイムとトークとセットで満喫していた。

 

「今日も調とあやちゃんのお料理は、ベストマ~ッチ!な美味しさなのデス♪」

「切ちゃんってば、また覚えたての言葉を早速使って調子乗るんだから」

「でも、切歌のハイテンションも分かるくらい、今日の麻婆豆腐も、冴えた美味しさ、ピリリとくるのにまろやか」

「光栄だ、二人の良い食べ具合を見てると、私たちも料理人冥利に尽きるよ、なあ調」

「そうだねあやちゃん」

 

 料理人同士、互いの健闘のたたえ合いを示す、サムズアップを向け合った。

 同じ学年で、かつ同じクラスと言うこともあって、リディアン四国分校での寮暮らしな学生生活になってからほどなく、ごくごく自然な成り行きで、夕食はこの面々で一緒に食することが日課の一つに定着していた。

 必然的に料理担当は、その手の技術を有する私と調になったが、お互い苦にはなっていない。

 一方食卓の場に選ばれる寮部屋の方は日によって半ばローテーションで変わり、今日はたまたま私の部屋だった。

 そんな今日のディナーのメインは、テーブルの中央に鎮座するミニIHヒーターに乗る鍋の中で少々集めに保温される特製麻婆豆腐、それと春雨サラダにザーサイ、卵スープな中華の組み合わせ。麻婆は鍋から各々適量を取って食べる形式だ。

 こうなった理由は、今日の放課後にて帰宅中に切歌からの――。

 

〝第一次解放作戦決行日までもう一週間とあとちょっとな今、活力をつける為にも今日は麻婆豆腐をご所望するのデ~ス!〟

 

 ――この一声がきっかけ。

 切歌の意志意向は可能な限り尊重する親友の調と、特に食べ物に対し好き嫌いはない私と英理歌には、反対する理由も言葉もなかったので、即、決定。

 でも口ではそれなりに高尚っぽい理由を述べてた自称〝常識人〟の切歌だったけど、実際はたまたま帰りに通りがかった中華料理店から空気に乗って流れてきた匂いから急に食べたくなったのが実情だったと、私たちには筒抜けなのでした。

 しかしこれが中々の食わせ物だった。料理そのものでなく、食する面々にだ。

 自分と英理歌は、何も問題ない………厄介なのは、ザババコンビ。

 切歌は性格から予想できる通りに、肉系は大好き。

 反対に調は、ベジタリアンってほどでもないが、野菜を好む方。

 そして調本人と一緒にアイディアを張り巡らせた結果、本物の鳥ひき肉と、低カロリーながらタンパク質は本物と変わらぬ大豆ひき肉を5:5の割合で掛け合わせ、油も控え目にしつつミルクも織り交ぜた、ヘルシーさと高タンパクを両立させ、かつ麻婆らしいスパイスさも辛味も利いた〝特製麻婆豆腐〟となったと言うわけ。

 

「熱加減はこれぐらいで大丈夫だったかな?」

「無問題(も~まんたい)なのデス♪、でもマリアだとクレームが出そうな熱さデスね」

「マリアってあの猫耳ヘア通りの猫舌だから」

「どれくらい苦手なんだ?」

「そうだね……」

 

 調は茶碗内の米粒幾つかを箸でつまみ上げ、結構念入りにふ~ふ~と吹きかけた。

 

「これぐらいの温かさなご飯でも、こうしないと食べられないくらい猫舌」

「そしてそれを追及されると、ムキになって――」

 

〝違うわよ! 癖よ! つい出ただけよ! 断じて猫舌なんかじゃないんだからッ!〟

 

 なんて感じで、頑なに突っぱねるらしい。

 

「癖なら充分猫舌だよそれ」

「だよね~」

「ここまでバレバレなのに猫舌であることを絶対に認めないのデス、マリアもその辺素直じゃない困ったさんデスよ」

 

 これまた歌手業の時にはお目にかかれない親しみやすく、揶揄い甲斐のあるお人柄なこと♪

 じゃあ今、この場に彼女もいたら――。

 

〝ふ~ふ~してるうちに私の分が無くなるじゃない! いいわ……私は冷奴食う! 絶対にね! あっちゅぅ……〟

 

 ぐらいは言いそうだ。

 

「これだど鍋焼きうどんにもなれば――『猫舌にとって大の天敵なのよ! いっくらふ~ふ~しても全然冷めないのに!』とも言いそうだね」

「あ、結構似てる……」

「うんうん」

「お墨付きのお言葉、恐悦至極に存じます」

 

 即興で物真似をしてみたら、彼女ろ付き合い長い三人から意外に好評を貰った。

 多分今喩えに上げた猫舌なガラケーラ○ダーと、一瞬でガッチリ握手して意気投合しそうなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 てな感じで、トークで華も彩らせながら、みんなとのディナーを満喫し。

 食後、私が皿を洗っているのをよそに、ネットが繋がれているテレビが表示するネット用チャンネルから、クリスから熱烈かつツンデレ風味全開でお勧めされたと言うアニメ『快傑うたずきん』。

 タイトルと裏腹に大層シリアスな本編と正反対に、全編ギャグテイストな一話一〇分ほどの短編スピンオフが一話から今週の最新話までまとめて放送中なのを、みんなが見ていたのだが。

 

「むむむ……」

「どうしたの切ちゃん?」

 

 EDに入ったところで急に切歌が、本校同様学生寮の部屋にしては破格の広さな部屋の片隅に置かれている机の――上に置かれた本たちを凝視した。

 本はおおまかに二種類ある。

 一種目は、二輪免許資格試験の問題集と、バイクのカタログ。

 

「あやちゃん今度免許でも取るおつもりデスか? バイクの」

「もちろんさ、こっちでもお役目の傍ら、趣味は味わっておきたいんでね」

 

 神樹様の結界内〝設定〟では、私は自分の世界と同様アメリカからの帰国子女となっており、バイクの免許も向こうの方だが取得済みとなっていた。

 とは言え暫くこの結界の日本暮らしは続くのは予想できるので、今のうちに免許の切り替え試験(国によって試験は免除できるがアメリカは例外なので)をしておいて、ついでにバイクも買っておく予定。

 実は召喚されてからほどなく、大赦のから静音が眉を潜めるくらいの、バイク一台は買ってもおつりがたっぷり残る大金を〝特別手当〟として提供されたのである(これは他の時代から召喚された勇者装者たちも同様)。

 これを使わない手はなかった。

 あ、言っておくが、射撃訓練を名目とした指定の銃器の仕入れは味をしめたからではないぞ。あれは敢えて〝無茶振り〟を大赦にけしかけることで、組織の成員(かおぶれ)たちのそれぞれの反応から、内部の〝相関図〟をこちらで掴んでおく為に仕掛けたものだからね。

 

「女子高生が乗るにしては……このバイク、ごついと思う」

 

 カタログに目を通して三人の内、英理歌はペンで赤丸が書かれた目当ての機種を見て、無表情でいることの多い美貌に微かな動揺を表した。

 

「日頃乗りこなしてるからノープログレムさ」

 

 ワルキューレウイングF6D。

 自分の世界でも販売され、愛用している大型クルーザーバイクである。私の時代から三〇〇年ぐらい経つのに現役ばりばりで存在していたのは幸運だった。

 

「それで……こっちの〝逆説の神道史〟とかの歴史本って」

 

 もう一種は、昨日大赦の書庫からの帰りに寄った市立図書館から借りてきた、今の神樹様への信仰にも繋がっている日本独自の宗教――〝神道〟に関する書物の数々。

 

「若葉たちと違って、私は完全に異邦人だ、この三〇〇年の神世紀の歴史を、私なりに調べて把握しておきたくてね」

「授業の教科書じゃ物足りなかったの?」

「大いに物足りないね」

 

 結論から言うと、歴史の授業の教科書には、〝結果〟しか記されていない。

 歴史の流れを大きく変える程の出来事一つ取っても、発端、原因に経緯や過程、結果に直接的に関わる〝瞬間〟と言った、結果までのストーリーやらドラマやらが省かれ、英語に喩えるなら5W1Hがほとんど書かれていない。

 ただ時代ごとに起きた〝結果〟だけの羅列となっている。

 

「喩えるなら、料理の名前と完成図しか載ってなくて、必要になる材料とか調理器具とか、そしてどう作るか過程のレシピが、一切書かれてない写真本みたいなものさ」

「あ~~……何となく分かったデス……どうりで授業で一番眠たくなるわけデスよ」

 

 担当の先生が聞いたら噴飯ものだが、私も同意できる。

 やれつまらない、やれ退屈だのとぼやく学生たちが少なくないのも無理ないくらい、歴史の教科書は味気ない代物なのである。

 私も実際、こちらに来る以前からリディアン指定の歴史の教科書は授業以外に開いたことがないし、淡泊な文面に目を通したこともない………既に大体のことは頭に入っているしな。

 なので切歌とは違う意味でだが、私も彼女と同様、かの授業の時は英語に並んで押し寄せる睡魔との戦いとなっていた。

 

「切歌の場合、眠気が来るのは歴史だけじゃないでしょ?」

「そ、そそそそんなことないデスよ!」

 

 実際はどうなのかは、あえて明言しないでおこう。

 皿を洗い終わった私も、テレビの前に座ってうたずきんのスピンオフアニメの逆展開にみんなで大笑いしながら鑑賞する。

 けど、一方で私の理性的な思考は、二つの〝考え〟に対して、思案を止めようとしなかった。

 こちらも二種類ある。

 一つは水都からの、第一次解放作戦決行日まで丁度後一週間になる明日、静音と私に〝折り入って話したいこと〟があると言うメール。

 静音ならまだ分かる。次期大赦代表であり、この度招集結成されたチームのリーダーであるからだ。

 となると……翼や奏さんや、マリアに奏芽に風と、メンバーの年長組を差し置いて私を選んだ理由は――置いておこう。明日、直接本人に聞けば分かることだ。

 そして、もう一つは……大赦の記録に載っていた一つの記述。

 神世紀七二年、最初のバーテックス襲来の洗礼を直に受けた最後の生き証人が、老衰で天寿を全うした年でもあるらしいその年。

 

〝カルト集団の一斉自殺〟

 

 表向きはそうなっているが、実際はあの年にて――

 

〝天の神を盲信する新興宗教の狂信者たちが、大規模テロを引き起こした〟

 

 ―――などと言う惨劇が、起きてしまったと言う。

 宗教、イデオロギー、狂信者、テロ。

 いずれも私にとって(日本人としてもアメリカ人としても、一人の人間としても、そしてガメラとしても)、文章にすれば〝嫌い〟に分類される言葉ばかり並びたてられる代物だったこともあり、かの出来事に対する疑念は、私の頭の中から………離れずにいた。


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