GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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今回は二本立て、一本目は前回の続きでAXZ4話も元な本編11話の風鳴の外道爺余計なことしやがってと読者も思ったであろう松代でのやり取りの朱音視点です。


11.5 前進の狭間でB

 神樹様が作り出した結界(せかい)の中の日本列島本州と、快晴そのものと言っていい、透明感が広がる青空の狭間を飛ぶ黒点たちがいた。

 三角状を描くように編隊を組む黒点たち――飛行物体の正体は、陸上自衛隊の輸送ヘリだった。

 その一つのヘリ内部の、窓の一つから、ガラス越しに地上を眺めているのは、神樹様より平行世界の地球から半ば傭兵として召喚されたシンフォギア装者、草凪朱音その人である。

 

 

 

 

 

 最初のバーテックス襲来から三〇〇年経っても、碁盤の目が端整に張り巡らされた古都を、嵐の闇夜での柳星張との決戦(第二次世界大戦で、原爆を広島長崎に落としてしまったアメリカ軍すら行わなかった古都炎上をヤツとの戦いで犯してしまった経験があるだけに、少し苦い想いになる)以来の上空からの俯瞰図が通り過ぎ。

 国内で最も巨大な湖たる琵琶湖の真上を通り抜け、今にも『ワルキューレの騎行』のメロディが聞こえてきそうな、三角を描くように並んで飛び行くヘリたちは、神世紀ビ現在では〝旧〟が付く長野県の、歌野と水都の故郷たる諏訪市とそう遠くない長野市の南側に位置する松代地区に向かっていた。

 まだ到着まで暫くあるので、ローター音のメロディも堪能しつつ、まるで特殊撮影技術でお馴染みのミニチュアにも見えてしまう地上の街々や自然の光景を、私は眺める。

 自分自身が翼になって飛ぶまたは機体を自ら操縦するか、他の誰かが操縦する航空機に乗るか、どちらが好きかと言われれば、俄然前者であるけど、後者も嫌いと言うわけじゃない。

 こうしてじっくり地上を鑑賞できると言う、乗られる方の楽しみだってあるからだ。

 とは言ったものの、正直こう長時間、飛行物体の中で俯瞰風景を目にしていると、シートベルトを解き、機内から飛び出して自分で飛びたくなる衝動に駆られそうにもなり、理性で上手いこと御しながら、私は今の状態をキープさせていた。

 

「朱音さん」

 

 そこに、元から震えている声をより震え上がらせて強ばっている声音、私を呼びかける声が耳に入る。

 

「どうした雪花?」

 

 その相手は先日、静音とともに水都に呼ばれた時に話題にも上がった、北海道出身の西暦勇者の雪花だった。

 その水都から相談を受けてからほどなく、当初の予定通りに決行され成功は収められた第一次奪還作戦の直後。

 

 

 

 静音が雪花に話を持ちかける場面を目にしたのだが、あの後実際何を話したのかは、今はまだ聞かないでいる。

 コミュニケーションにおける相手との距離間や、踏み込み時は、きっちり見極めるのを怠らない性分だからな、当然踏み入れる時は、ちゃんと靴も脱いだ上でね。

 まあ直接聞かなくても、二人が二人なりに〝腹を割って話した〟ぐらいは察せられるし。

 実際前よりかは、彼女のフレンドリーな表の物腰の裏に潜む〝遠くから見ている〟感覚は、和らいでいる気がした。

 

「ま、まだ着かないんですかね? 松代」

 

 元から高所は得意と言えない性分だったみたいだが、この結界(せかい)での初陣で超高度を滞空するヘリから落下しながら変身して樹海に飛び込む洗礼を受けて以来、より苦手意識が高所込みで少々増してしまったようで、落ちませようにと主に祈願しているとばかり両手の五指を顔の前で握り合い、ヘリの振動ばりに身体を震えさせている。

 

〝酔い止めのサプリ、決めとく?〟

〝じゃあ一番利くのでお願いします……〟

 

 顔は薄暗い機内でもはっきり見えるほど青っぽく、勿論乗る前はサプリメントマニアの夏凜のご厚意で提供された酔い止め効果のあるカプセルを、水のがぶ飲みで一気に胃腸へと放り込んでいた。

 けれど彼女曰く、この前の大規模訓練の時に行った、ギアを纏いつつマリアの妹セレナが自らのギア――アガートラームから生成した、彼女の遠隔操作で飛行できるダガーに乗って空を波乗りする分にはまだ大丈夫らしい。

 

「到着予定時刻までもうちょっとだな、この先はまだ未開放地区だから迂回しないといけない」

「はぁ~~そうだった……星屑がうじゃうじゃいるから遠回りするのは分かるんだけど……」

 

 こちらの世界でも太陽電池である程度の機能は使えるスマートウォッチのデジタル時計で確認しながら答えた。

 ここまま直進すればもっと早く到着できるが、生憎そのルートはまだ造反神に侵略された地区だった。

 うっかり多数の星屑たちが跋扈する未開放地区入れば、その瞬間からヘリは空飛ぶ棺桶になってしまい、パイロットの自衛官は勿論、変身できる私たちでさえ運が悪ければその棺桶にもれなく直行しかねない。

 空の上でさえ、目的地一つ向かうのにも、場所によっては遠回りをせざるを得ないか、奪還するまで踏み入ることさえできないである。

 天駆ける姿から想像できる以上に、緊張感の中での綱渡りをパイロットの自衛官たちは行っているのだ。着いたら前線基地設置も織り込んだお礼のご馳走を歌唱付きのセットで振る舞ってあげよう。

 

「進路を変更します、しっかりシートにへばりついてて下さいよ、ベルトが仕事しないくらいに」

「了解しました」

 

 パイロットがユーモア込みで同乗者(わたしたち)に忠告すると、ヘリたちは取り舵で大きくカーブし始め、平行を保っていた機内は揺れを増して一時傾いた。

 両手を握りしめる祈祷状態のまま俯く雪花の背中をさするくらいは余裕を保っている私は、ふと………向かいの席で両腕を組ませて同乗しているこの世界の、同一にして別人な翼の顔を見た。

 機内の薄暗さでは説明がつかない暗色が、青味がかった前髪が下がる額に、漂っていた。

 

 

 

 

 

 そう言えば、なぜ私たちが長野の松代に向かっている理由を話していなかったな。

 時は遡り、それは数日前にして第一次奪還作戦から一週間経ったあの日のことだ。

 いつものように、実質メンバーの交流会の場と化しているSONG本部の潜水艦内のブリーフィングルームにて。

 

「みんな、例の未開放地区の解放からまだそれほど時間が経っていない中での突然の招集、まずはすまないと謝らせてもらいたい」

 

 いきなり弦さん――風鳴司令から頭を下げて謝られると言う奇襲(サッカーパンチ)を受けた。

 当然みんなは驚愕、困惑している中、自分の心中の驚きの荒波を鎮めようとしている私は、既に司令からの突然の謝意のわけを存じているらしい静音、奏芽、ひなた、水都の四人の、それぞれの険しい面持ちを目にする。

 性格柄、お役目中の時は険しさを常備してるリーダー格の静音やその右腕同然な幼馴染の奏芽はともかく、お役目中のよほどのこと以外は笑顔を絶やさないあのひなたや、引っ込み思案な方だが付き合いは良い水都までも先日の雪花の一件を説明した時以上に苦味のある表情を浮かべ。

 何より、豪放磊落を絵に描いた人柄で、かつては特機部二――突起物と揶揄されたこの世界では現在〝旧〟の一文字が付く特機二課――現在のSONGの司令塔として静音とともにみんなを引っ張る司令が、ここまで口元を強く噛みしめて、ひたすら耐え忍んでいる姿から見ても………重い話、と言うより〝指令〟を伝えられそうだと、自分の直感が語った。

 

「みんなに急遽、話さなければならないことができてな」

 

 司令は文字通り、苦虫を噛まされた様に固く結んだ口から打ち明け始める。

 

「実は――新たに解放する地域が決まった」

 

 このカミングアウトに、みんなまた困惑と驚愕に見舞われ、薄々そうではないかと感づいていた私の眉間も、静音たちくらいに険しくなった。

 

「朱音、東郷、こんな短期間に神託は来るものなのか?」

「いや、私の脳裏には一切、神樹様からの連絡は来ていない」

「同じく私もです、神託自体、そう頻繁に起きるものでもありませんし」

 

 棗から質問投げかけられた、巫女の資質保有者でひなたたちと同様に神託を受けられる私と東郷は、それぞれ応じた。

 

「今から理由を説明するわ」

 

 司令に加わる形で、静音たちも説明役を担い始める。

 

「今回の件は、主に日本国政府から直々の依頼――と言うより、〝指令〟ね」

 

 予想通り、静音の言葉の中に……〝指令〟と言う胸をざわめかけさせてくる一言が、混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 そして一週間後の今日。

 私たちを乗せたヘリは全機無事に、松代にて前もって設置された前線基地に到着した。

 

「六番から五八番のグループの方はこちらにお集まり下さい――」

 

 ヘリから降りて早々、私は自衛官たちと、現特異災害対策機動部の職員たちの指示に従って避難中な松代の住民たちの姿――な光景が目に入り。

 

〝避難とは、住民に生活を根こそぎ捨てさせるものだ〟

 

 口の中に苦さが広がると同時にかの怪獣王の映画にて、劇中の怪獣災害でその時の内閣の大臣たちのほとんどが死亡したために臨時に総理になったある大臣の台詞(ことば)が思い出されて、申し訳ない気持ちになり。

 

〝簡単に下さないでもらいたいものだな……〟

 

 内心、この状況を作り出した者たちへの怒り含めたやり切れなさに、前世(かつて)自分も生み出す側にいる身でもあった自分は、その総理とほとんど同じ言葉を呟いた。

 避難用に用意されたバスたちが住民を乗せて、次々に松代から離れ行く様から目を離せずに私は、みんなと基地指令所に入った。

 

 今回、表向きは〝日本政府〟からとなっている、私たちに下された指令は――歌野たちの故郷たる諏訪地域を、先に展開中とのことらしい風鳴機関所属部隊の支援並びに、諏訪を奪還せよ――と言うものだった。

 

〝よって、直ちに我々SONGは日本国政府の指令に従い、長野へと向かい作戦を決行することとなった、突然の事だが、直ちに準備を開始してもらいたい〟

 

 よって私たちはこうして、神樹様の意志が介在していない二度目の大規模解放作戦の為、こうして松代の地に降り立ったのであった。

 まだ本格的に作戦が決行されるまで、住民たちの避難も込みで猶予はあるものの、私達もそれまでただ待機と言うわけではない。

 指令所の周辺地域に、避難せずに残っている住民を捜して回る調査も含めた警戒任務と、指令所の防衛。

 この戦争に於いて欠かせぬ戦力ではあっても、戦闘能力そのものは持たない巫女のひなたたちの護衛役。

 小隊規模なメンバーを数組に分けた上でこれらの役目を分担し、定期的に交代も行い休憩時間も設けた上でとり行われている。

 最初こそ、突然の指令にみんな戸惑うばかりだったが。

 

〝これは、中々順調な感じなんじゃない〟

〝あぁ、短期間にさらに一つの土地を奪い返せる〟

 

 再びこちらから攻勢で打って出る方針に対し、今日までの間に大半のメンバーはすぐさま意気も士気もうなぎ登りになり。

 

〝絶対に諏訪を取り戻すわ!〟

〝ああ、私も力の限り手伝うぞ、歌野!〟

〝ベリーベリーサンキューね若葉!〟

 

 特に、正にこれから奪還する地たる諏訪が故郷の歌野と、この世界で直接対面する以前から、四国と諏訪の間を結ぶ通信機での声越しとは言え交流があった若葉は、俄然気合いが全身から溢れんばかりに放出して決行の火蓋が切られる瞬間を待ちわびて警戒任務に当たってさえいた。

 彼女たちの心意気に水こそ差したくないけど、さっき大半って言葉で表した通り、例外なメンバーも少なからずいる。

 内何人かを上げるなら――指令所内のある一室にいる司令、静音、奏芽、ひなたに水都、今はこの二人の護衛役に付いているこの私と。

 そして、諏訪奪還作戦の報を伝えられてからこの一週間、口数は多すぎないが少なくもない口を、さっきのヘリ搭乗中の込みで、堅く結んだまま黙していることが多くなっていた翼だった。

 気になって緒川さん聞いた限りでは、歌手業の仕事自体は問題なくこなしているらしい(この世界の翼は、念願の海外デビューを既に果たしているのだが、結界での疑似世界ではお役目に支障を来すと神樹様が判断したのか、国内での歌手活動を続けていることになっている、同様にマリアも結界内では日本を拠点に活動中と言う〝設定〟になっていた、神の仮想世界だけあり、人間一人の身の上の設定改変などお手の物)

 

「西暦時代、旧日本陸軍が大本営移設のために選ばれたここ、松代には特異災害対策機動部の前身となる非公開組織、風鳴機関本部も置かれていたのだ」

 

 今指令は、私達になぜ今回の作戦の前線基地にこの松代が選ばれた理由を説明している最中だ。

 私の世界でもこちらでも、特異災害対策機動部の前進組織は、第二次大戦時の旧陸軍傘下の特務組織であった〝風鳴機関〟と称された諜報組織で、その本部は、大戦当時東京に代わる本営地の候補でもあったこの松代に置かれ、当時から聖遺物も含めた先史文明期の異端技術の研究もこの地で行われていたらしい。

 この点も、私の世界と事情は大体同じ。

 しかし、二〇一五年の最初のバーテックス襲来から始まった、若葉たちの戦いも含めた西暦末期の終末戦争を経て神世紀に改暦された後、大赦の構成員でもあった当時の風鳴家は離脱、改めて古巣も同然な松代に現在の風鳴機関を置いたとのこと。

 

「ひなた君はやはり不満か? 今回の日本政府からの要請に関しては……」

「正直な話し……その通りとしか言えません」

「はい、私もひなたさんと同意見です」

 

 一通り説明を終えた司令は、未だ浮かない顔のままの面々の一人であるひなたに問い、本人は正直に、不服の意を示し、水都もそれに続いた。

 かくいう私も同意見である。今の時点でも、神樹様からの神託(れんらく)は全く己の脳内に届けられる様子がない。

 これは前にも言ったことだが、この戦争の相手は神樹様の一部であった造反神、神そのものだ。下手にこちらからアクションを起こすものなら、造反神がその人知を超えた超常の力で、どんな報復を返してくるのか、人間側の自分たちでは予測も検討も碌につかない。

 なので今までは、未開放地区の奪還に関しては、神託を通じた神樹様の意志に沿う形で、当初は向こうから仕掛けてきたところを迎撃する防衛戦で勝利と一緒に地区を少しずつ取り戻し、先日は満を持してこちらから打って出て大幅に領土を奪還し、ここまでこの〝戦争〟を進めてきたのだ。

 なのにここに来て、日本政府の要請とは言え、前回と違って今回の〝諏訪奪還作戦〟は、神樹様からの新たな神託がない中、つまりこの世界の秩序の維持の大半を担う神々(かれら)の意志は一切介在していない状況で、完全に実質、私達人類の〝独断〟によって行われようとしている。

 巫女たる彼女たちが納得しかねる状態なのは、無理もない。

 造反神(やつら)がどうこちら側を窺っているかは、元神の私でも推し量れないが、さっきのヘリから見たような俯瞰の視点をお持ちなら、こっちが仕掛ける準備中であるのが筒抜け………加えて人間たちのみの独断ともなれば、むしろ向こう側が対処しやすい筈。

 

「今回の未開放地区開放は、現在の特異災害対策機動部との共同で行うと兼ねてから聞いていましたし、そのことを鑑みた退去命令にも理解はしています、ですが――」

 

 ここに来て翼は、両腕を固めに組ませたまま、ようやく重々しくなっていた口を開く。

 

「どうしても納得しかねます……今回の件は、あまりに大赦やこの地に暮らす人々に対し、無理を強いているのでは!?」

 

 巫女の立場ならではの観点で苦言を呈したひなたたちと少し違い、どちらとも世界の翼が日頃標榜する独特の国防への拘りから形成されている守護戦士の概念――〝防人〟ならではの視点によるものだが、現在の方針に不満や納得しかねる思いを抱いている意見自体は翼も同意同様で、段々と語気を強められるくらいに、今回の作戦の方針に対し司令へ諫言を申し立てた。

 静音も、表情と眼差しの鋭さから、翼と同意見であることが分かる。

 

 私も私で………あの日通達した司令たちの様子から踏まえても、この諏訪奪還はその日の内に急遽決定したものであることも、その決定から一週間、この瞬間にもほとんど突貫工事の勢いで、ここの指令所の設置含めた作戦の前準備が行われていることも。

 何より、現場に携わる自衛官たちや現特機部の職員たちには相当どころじゃない負担を背負って自らに課せられた仕事(おやくめ)を全うしていることが、容易に想像できた。

 翼も言った通り、地元住民たちにもそう。

 住民たちには、表向き大規模災害を想定した避難訓練だと説明している。

 実際に災害が起きた時の為に備えをすること自体は間違ってないが………実際の理由を踏まえれば………私達の都合であの人たちを騙して、その人ら自らが身を置く土地を、生活を、日常を………私たちが、本来守ろうとしているものを、たとえ一時とは言え、奪っているのだ。

 私の、歌を生み出す原動力たる〝胸〟には、罪悪感のしこりが漂い、手を当てた。

 戦闘にまで影響は出ないだろうけど、当分手の血肉や熱にも伝わってくるこの感覚は、消えそうにないな。

 

 それに、今回の作戦の指令を出した〝日本政府〟。

 この有無を言わせぬ性急さ、強制具合から見ても、実際に下したのは、この国の政治の表舞台に立つ者達じゃない。

 むしろ、その裏側にいる――。

 

「実はな――」

 

 翼たちからの諫言に、最早この場にいる私達に実態を隠し通すのは無理だと判断司令は、傍からでも読み取れるくらい苦味に苛まれている重い口を開く。

 

「今回の件には……〝鎌倉〟が強い意向を示しているのだ……」

 

 余りに端を折った表現に、ひなたと水都は当然ながら首を傾げて意味を理解し切れずにいるに対し。

 

「鎌倉……ですか……」

「やっぱり……」

 

 翼と静音は、言葉の内に入っていた〝鎌倉〟の一単語だけで、実情をほぼ把握できていた。

 なら私はどうなのか? と言うと――。

 

「そう言うことか……」

 

 成程……今ので大体分かった。

 

「ひなた、水都、今司令が挙げた相手は―――俗にいうこの国を陰で操るフィクサー、黒幕という奴さ」

「その通りだ、朱音君……故に、その意向に政府は勿論大赦ですら抗い難いものがあるんだ」

 

 私が黒幕(フィクサー)と称したその人物の名は――風鳴訃堂。

 この世界では、静音の生家である『櫛名田家』と、先代勇者時代の静音――鷲尾清美の戦友である篩梨花の生家『篩家』並び大赦を創設した〝御三家〟の一面も持つ(が、神世紀五五年から始まった聖遺物研究に関する方針の違いで、最初のバーテックス襲来の最後の生き証人が死去した年でもある七二年に離脱、同年独自に聖遺物研究機関としてここ松代に『風鳴機関』を設立したそうだが)、日本の国防を諜報面から担ってきた風鳴家現当主。

 弦十郎司令、彼の兄にして翼の父たる風鳴八紘内閣情報官らの、生みの親である。

 司令が自らの父を〝鎌倉〟と称したのは、実際に初めて武家政権が誕生した地にて居を構えているからである。

 こちらの世界でも、かつては特異災害機動部の初代司令であったが、私の世界と同様、日本政府が所有していた聖遺物の損失(ただし、私の世界ではクリスの使うイチイバルであったが、こちらでは奏芽が愛用するシンフォギアとなっている、古代イングランドの叙事詩『ベオウルフ』に登場する魔剣――《フルンティング》と言う違いがある)による引責辞任で、表舞台から退きはした。

 しかし、それはあくまで表向きのこと。

 現在でも、SONG、風鳴機関、現特機部、そして日本と言う国の政治そのものに対しても、強大な権限を手にしたまま、それに裏打ちされた絶大な発言力、影響力を現在も尚、有していると言う。

 実際、この諏訪奪還作戦の、勇み足にも等しい、度が過ぎて早急かつ無理やりな進行具合から見ても、何より溜息が零れ続ける静音たち当人の様子から見ても、事実だと窺い知れた。

 

「訃堂氏は今の大赦を腑抜けと呼び、そのやり方に関してあまりいい感情を抱かない人物でもある」

 

 大赦が〝腑抜け〟。

 その点は、ある意味で同意できるなと思いつつも。

 

「きわめて強い護国思想の持ち主でもあり、今回の諏訪の件に関しても、自分たちの領地近くがいつまでも敵の領域にある事を快く思っていないのでしょうね」

 

 静音の発言に入っていた〝護国思想〟と言う単語に、黙って聞き手に徹していた私の口元は思わず、皮肉たっぷりに鼻で笑った。

 そんな小奇麗な言葉で片づけられる人物では、断じてない。

 

「まさか司令、守るべきは〝人ではなく国〟だとでもその〝鎌倉の意志〟とやらがほざいたのですか?」

 

 以前から薄々感じ取っていたが、咄嗟に発した私の問いの中に籠めた単語が。

 

「言うまでもなく、そのまさかさ……」

「あの風鳴のおじじの事だから、そのくらいの無茶は言い出してもおかしくはないわよ……」

 

 一言一句違わず、合っていたことで、確信を得た。

 風鳴訃堂と言う輩は……〝人類〟を愛するガメラとしても、一人の人間としても、最も反吐が出て虫唾が走る存在(タイプ)。

 過剰で凝り固まったイデオロギーに支配された――外道。

 この世界では、幕末からも第二次大戦からも、江戸の太平の世以上に時を積み重ねてきたと言うに、時代錯誤の極みにして、国体維持の為なら多数の人民を犠牲に切り捨てても全く厭わぬ〝国枠主義〟に囚われた、人にして人ならざる怪物――だとね。

 

「というか、朱音も知っているのか? お爺様の事」

「直接は知りませんけど、元の世界で既に風鳴八紘情報官には会っていますし、その雰囲気とあなたとの関係から、なんとなくだけど想像は尽きますよ」

「そうか……」

 

 やはり……相当な〝業〟を風鳴家は秘めていると、翼の顔から離れずに居座り続ける影から垣間見えた。

 

「実際に、俺如きが意見したところで、聞き入れはしないさ」

「それどころか大赦関係の人間の言葉ですら聞き入れる余地なんか持っていないわ。たとえそれが正式な抗議であろうともね……櫛名田の現当主、私の母でも彼の御仁の下した決定を曲げることはできないもの……」

 

 司令達の諦観の言葉を前に、自分たちの世界の、遥か先な未来の実状の一端を目にしたひなたと、水都は、すっかり言葉を失ってしまっていた。

 相変わらず………意識を集中しても神託が響いてくる気配がない。

 神樹様は、人間(わたしたち)の愚かしいスタンドプレーに対し未だ何も応えず、黙秘を貫いたままだった。

 

 何事も起きてほしくないとは……私も思ってはいる。

 だが何事も起きないなどと、甘い考えは抱いてはいない。

 一筋縄ではいかないことは……確実に起きると。

 なら、覚悟を一層、引き締めておかないとな。

 何が起きても、どんな災いが待ち受けていようとも―――立ち向かえるように。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「静音さん、マリアさんたちの班より通信が」

「繋いで」

 

 暫くして、巡回任務に就いていたマリアから通信が入った。

 

「こちら本部、マリア、一体どうしたの?」

『ごめんなさい、ポイント26で252発見』

 

 この252とは、逃げ遅れ、要救助者を意味しており、つまり今マリアたちがいるエリアに、まだ避難していない住民が残っていると言うことだ。

 

『されど当の住人曰く夏野菜の収穫の最盛期であるために、可能な限り収穫を行いたいとの要望が……それに言い辛いんだけど』

「いい……大体は察したから」

 

 どんどん言い方に歯切れが悪くなって気まずさが増していくマリアの報告とその内容を前に、静音は呆れを包み隠さずに溜息を零した。

 経緯を説明すると、マリアをリーダーに、調と切歌と歌野に、高嶋友奈と、その高嶋と親友でどこか………私たち〝怪獣〟に人生を翻弄された〝彼女〟を思い出させられる郡千景で構成された班は、こちらでスマホで調べたところトマト畑含めた夏野菜を育てている畑が広がるエリアにて、地元住民を発見。

 直ぐに避難するよう呼びかけたが、その畑の主である農家の方なご年配の女性は、丁度自分の育てる作物が実りの時だったこともあり、少しでも収穫しておこうと一人残っていたそうなのだ。

 これを聞いた農業をライフワークとする歌野は、この手の大変さを重々知っているのもあり是非手伝いたいと言い出し、響や結城友奈に負けず劣らず人助け好きな高嶋も乗り、結構その場のノリに乗り易い調と切歌も賛同。

 

「千景さんもいたでしょうけど……おそらくは友奈さんが賛成に回った結果そちらに賛同してしまったのでしょうね」

「マリアの苦労が手に取るようにわかるわ……」

 

 最初は反対していたであろう千景も、高嶋(しんゆう)の説得に折れ、静音たちの了承を貰えれば、との条件を付けてマリアは渋々承諾し、こちらに連絡してきたってところか。

 

「どうします司令?」

「うむ……本来ならすぐにでも避難させるべきなんだがな……こうなっては彼女らも聞かんだろうし……仕方がない」

 

 司令も顔こそ渋らせていたものの、結局なし崩しに、歌野たちによる住民の農作業の手伝いを了承した。

 

「些か甘いんじゃないですか? 〝弦さん〟」

「分かってはいるさ、だが、変に揉められてもな」

 

 私は敢えて、公的な場では呼ぶのを控えている愛称で、司令に釘を刺した。

 諜報機関に携わってきた家の出で、かつては公安の警察官だったキャリアを持ち、豪胆な性格なのにこういう時は甘ちゃんになるところは、どちらの世界の弦さんも一緒だった。

 私個人はそんな弦さんのお人柄はむしろ好きではあるけど、ことこの手の〝お役目〟においては厄介なアキレス腱である。

 実際、ルナアタックの時は、一連の事件の首謀者にそこを突かれての串刺しを受けて深手を負わされたわけだし。

 まあそう言う私も、人のことは言えない、人との繋がりを断ち切れなかったガメラな〝甘ちゃん〟の身ではあるんだけどね。

 

「多分うたのんがいるから勝手は分かるだろうし、効率よくやればそう時間はかからないかもしれません、私たちが長野にいた時もこういったことは結構頻繁に起きていましたから」

 

 フォローに入った、自分が生きる時代の諏訪では勇者及び巫女活動の傍ら、歌野と生き残っていた人々ともに農作業にも従事していた水都の言う通り、実際勝手が分かっている彼女もいるから、早めには終わりそうだけど………。

 

「でも……やっぱり不服ですか? 朱音さんも」

 

 その水都から、続けざまにこう問われた。

 どうやら気弱な性格の水都が不安を覚えるくらい、重々しい表情になっていたらしい。

 

「これが作戦決行の直前じゃなくて、勇者部の活動の一環だったら、私も喜んで賛成の手を挙げて手伝ったさ」

 

 一人の人間としての〝自分〟は、むしろ歌野たちの行為と意志には大いに賛同してはいる。

 けど、一方で戦士としての……守護者(ガメラ)としての〝自分〟は……その対極。

 

〝早急に避難しなければ、逆に人命を危険に晒すことになる〟

 

 と、私に警告を絶えず投げかけていた。

 

「だが、水都も忘れてはいないだろ? 今私たちは、神樹様と碌に連携を取れていない状況にある、それを見逃してくれるほど、敵は甘くはない………君もそれを嫌と言うほど知っている筈だ」

「は……はい」

 

 水都に、ガメラとしての自分の意見を、述べた直後だった。

 

「っ―――!?」

 

 脳裏に突然走る、フラッシュバック。

 

「朱音さん! 水都さん!」

「ああ、私たちも受け取ったさ」

 

 ここに来て訪れた神託(おつげ)。

 全く………落ち度は強行的に独断に走った人間(こちら)側にあるとは言え、もう少し早く報せてほしかったものだな。

 

「バーテックス出現! 松代より南南西付近から侵攻の模様!」

 

 ほどなくして、指令所中に、敵が出現したことを知らせるエマージェンシーが、響き渡った。

 


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