GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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今回は意外な正体だったこのシリーズでの現特機部の司令が明らかになるパートの朱音視点と、本編ではAXZ四話にも出てきたあのトマトのおばあちゃんを連れての戦闘中朱音がどうきりしらコンビに指示送ったかを描いた話となっております。
しかしトト君が郡ちゃんのご子孫と会話するパートがあるとか、自分でも予想外の展開出してくるなアウスさん。
それにしても本当に余計なことしかしない、事態の悪化しか招かない外道な風鳴のク○じじいですよ全く。




12.5 - 翻弄せし外道

 日本の政治を裏から操りしフィクサーの強行的姿勢によって端を発した、諏訪奪還作戦と言う名の人類の〝スタンドプレー〟。

 その状況に不安を覚えていた一部の装者勇者に巫女、SONGの面々の〝起きてほしくない〟願いを嘲笑うように。

 

「バーテックス出現! 松代より南南西付近から侵攻の模様!」

 

 諏訪方面にいたと思われるバーテックスが、人類及び神樹側の領土(エリア)に現れ、再度奪取すべく侵攻を開始しようとしていた。

 

「不味いわ!」

 

 しかも、群体のいくつかが、まだ避難をしていなかった農業を生業とする地元住民の収穫作業を手伝っているマリアたちの班のいるエリアに向かっていた。

 モニターに表示された地図には、事態を把握したマリアたちを示す光点たちが、その場から離れ出したが、民間人を抱えた状態では、星屑たちにいずれ追いつかれるのは避けられない。

 

「分かったわ! マリア、クリスたちの班が今そっちに向かっている。それまで頑張って!」

『言われなくとも!』

『デス‼』

 

 幸いマリアたちの班に最も近い地点にいた、クリスと夏凜、響、梨花、若葉、友奈の面々で構成された班が、静音からの連絡を受け、援護の為に急ぎ向かう中。

 

「朱音、どこに行くの?」

「基地(ここ)を狙う伏兵がいるとも限らないからな、いつでも迎撃できるよう、私は外で待機している」

 

 司令室が慌ただしくなる中、いつの間にか傍らにトトを呼び出していた朱音は大赦から支給された端末を操作しながら、司令室を後にしようとする。

 今日までの付き合いで、何の意図もなしに彼女がそう言う行動を取らないと悟っている静音と弦十郎は、敢えてと何も言わずに見送った。

 

 

 

 

 私が司令室を後にしたのは、司令たちに説明したのも理由の一つだ。

 マリアたちに襲撃をしかけた群体も込みで、あれが陽動で、本命の伏兵がこちら側の本拠地を攻めてくる可能性がゼロでない以上、少しでも素早く出撃して迎い撃てるよう、構えておいて損はない。

 が、もう幾つか実は目的がある。

 トトとともに基地内の回廊を進みながら、端末に搭載されているアプリ《NARUKO》を立ち上げて、地図機能を開き、マリアたちとクリスたち、そして星屑たちの現在地を同時に閲覧できるまでに範囲を広げた。

 

「(時間の問題、だよね……)」

「ああ」

 

 外に出た私たちは、現況を把握する。

このままだと、クリスたちの班が到着する前に、星屑どもが追いつく。

 仮に逃げ切れても、向かう先の民間人が大勢集まる避難所に、みすみす奴らを招き寄せるしまうことになる。

 なら今マリアたちが打てる最善は一つ――住民を避難所に送る役と、奴らを足止めする役の二手に分かれること。

 マリアの今頃その一手を思いついて実行しようとしているだろう………しかし、彼女がリーダーだからこその懸念もあった。

 

「(朱音?)」

「打てる手は打っておきたいからね、トト、すまないが霊体化して、基地周辺に敵が潜んでないか念の為見回ってきてくれ」

「(うん、もし異変を見つけたら直接司令室にも報告、だね)」

「そうだ」

 

 トトがテレパシーで意思疎通できる相棒(せいれい)として召喚されたのは、本当に有り難いと思う瞬間である。

 

「後、こっそり基地内の隊員たちの様子の確認も頼む」

「(分かった)」

 

 もう一つトトに頼み事もした私は、端末の地図を表示させたまま、予め耳に装着していた通信機でマリアの班にいる調と切歌へと通信を繋いだ。

 

『そんな、私たちだって』

『適材適所よ! 血を流すばかりが戦いではないわ!』

 

 なんてタイミングで繋がったのやらだ。

 自分が予想していた懸念通り、切歌たちはマリアからの〝役割分担〟の指示に対し、明らかに食ってかかっている。

 

「こちら朱音――調、切歌、聞こえるか?」

『っ!?』

 

 二人の驚く息遣いが聞こえる。こちらからの言葉が伝達できるかは、今のリアクションで充分確認できた。

 時間がないので、本題へ一足飛びに切り出す。

 これが、私のもう一つの目的(いと)。

 

「状況は大体把握している、私たちのお役目の基本は、『危険に晒される命を守る』こと、戦闘は一手段であって目的じゃない、はき違えるなッ!」

 

 張り上げた私の声に、向こうの二人の口がハッとする声音が鳴った。

 マリアたちの中で、最も迅速に民間人を送り届けられるのは、オートモービルへの可変機能で高い機動力を発揮できるイガリマとシュルシャガナの担い手な調と切歌の二人。

 けれど二人は二人とも、血気に逸り易く、かつ特に近しい人からの指示ほど、素直に聞き入れられなくなる一面もあると、まだ短い付き合いながらも、私は汲み取っていた。

 いつもなら二人のヒートした頭を冷やすのは英理歌が担ってくれるのだが、今はそのストッパー役ご本人が同伴していない為。

 

「その人を最も確実に助けられるのは、君たちなんだッ!」

 

 状況の悪化を少しでも進ませず、逆に人命を救える確率を高める為に、私からも戒告と喚起の言葉を送ったのである。

 

『分かったデス!』

 

 切歌からそう活力たっぷり返答が来てほどなく、地図上から、二人の光点がマリアたちから離れていった。

 ほどなくして、星屑たちの光点が、マリアたちのものと接触、戦闘が開始されたのを私に報せる。

 

『あやちゃん、ありがとう』

「例には及ばないさ、今のところマリアたちは一体たりとも通していないが、警戒は怠るなよ」

『うん』

 

 そこへ調からお礼の言葉が来て、こう返しておいた。

 攻撃力の高い高嶋と歌野、精霊の力で七人に分身できる千景、蛇腹剣にキャノン砲と手数の多いマリアなら、どうにか迎撃し切ってくれるだろう。

 

「(ただいま)」

 

 トトが見回りから戻ってきた。

 

「(今のところ基地周りは異常なしだよ)」

「部隊の方々の様子は?」

「(『別命あるまで待機』って感じ、いつでもみんなの支援に行けるよう準備万端な様子でもあったけど)」

「そうか……」

 

 そして今のが、さらなるもう一つの目的(ねらい)。

 共闘することになる現特機部の前線部隊の、統制具合も含めた兵の〝質〟の把握だった。

 私の視界内で把握できる範囲だけでも、緊張感は維持されたまま、隊員たちは落ち着いた様相で待機状態にいるのが窺えた。

 

「相当な〝切れ者〟、だな」

 

 私はまだ顔も知らぬ現特機部の司令官への印象を、そう言い表して、端末内の地図を見直す。

 丁度、クリスたちの班が合流した――瞬間、まだ数の上では有利な星屑(バーテックス)たちは、一斉に撤退を開始して相見えていたマリアたちから離れていく。

 

「やはりな……」

「(最初から連中の目的は、小手調べだったってこと?)」

「そうだ、特機の司令もそれを見抜いていたからこそ、部下に待機を徹底させていた筈さ」

「(なら確かに、切れ者だね)」

 

 その後、住民は無事に避難所に送り届けたと切歌たちから連絡が入り、一応のほっとする息を吐く。

 けれども、厄介な事態になってしまったな、。

 これで連中にはっきりと、私たちがこちらから諏訪を攻めようとする意図が知られてしまった。

 もし造反神側が、今回の作戦には神樹様がほとんど関与していないとも感づいていたとしたら……いや、もうとっくに感づいているだろう。

 先の戦闘では、一切樹海化現象が起きていなかった………相手側がこちら側の現況を把握するには充分な情報だ。

 

『朱音、もう存じてると思うけど敵は撤退したわ、司令室に戻ってきて』

「了解」

 

 司令室へ戻る道中、私は思わず。

 

「頃合いを見誤ったな……」

 

 この一連の元凶であり――

 

〝守るべきは人ではなく、国〟

 

 ――などと、自分の眼(しこう)からすれば軽挙妄動にも程がある、国を運営していく姿勢としては最悪に値する言葉をほざき、大勢の国民(ひとびと)の日常と命を弄び、いたずらに掻き回すかの〝鎌倉の意志〟へ。

 

「痴れ者が……」

 

 憤りの熱も帯びた毒のある言葉を、険しさが増していく顔の一部たる口から、零した。

 

 

 

 

 

 司令室に戻った私が最初に目にしたのは――。

 

「司令、静音さん……特異災害対策機動部駐屯基地から入電です」

「やはり来たか!」

「繋いで!」

 

 現特機部から丁度、こちらに通信を寄越され、即座に応じようとしている司令たちの姿と、それを神妙に眺めるしかないひなたたちだった。

 戦闘が終了してからまだ五分の経っていないのに、この手際。

 空気が張り詰める宙に現れた立体モニターに、その通信相手――現特機部司令官の姿が映し出される。

 私や静音に勝るとも劣らぬ艶やかさと、それ以上に色濃く長い黒髪と、刀や槍よりも、長柄の鎌の刃を連想させる鋭利な眼(まなこ)を中心とした、冷ややかで険のある、どこか見覚えのある美貌を持った女性だった。

 

『久しいものだな、弦』

 

 冷々たる佇まいのまま、明らかに弦十郎司令とは因縁浅からぬ〝縁(つながり)〟を持っていると、初対面な私でも分かる物腰と言い様で、司令官は第一声を上げる。

 櫻井博士でさえ〝弦十郎君〟だったのに、私以外の人間で彼を〝弦〟の一文字で呼ぶ人間が、他にもいたとはね。

 

「そちらもな……郡千明管理官、今は――」

『現特異災害対策機動部の司令だ、お前がS.O.N.Gの司令をやるくらいに、こちらも出世している』

 

 こちらの司令も、いつもより一際厳めしい面持ちで特機司令官に応じ………待て、今彼は彼女相手に何と言った?

 順を追って整理しよう。

 まず〝管理官〟と言う役職、司令――風鳴弦十郎がかつて公安の警察官を務めていた頃もあったことを踏まえれば、警視庁、警察庁、全国の地方警察問わず日本警察の、事件の捜査指揮を担う官職の方であるのは間違いない。

 その上で司令の経歴と、モニター越し対峙するの両者の態度を見れば、二人はかつて、公安警察内の上司と部下の間柄だったことが分かる。

 

「郡……まさか、そんな!?」

「郡って、ひょっとして……」

 

 そして、特にひなたと水都の心境をざわめかせている、郡(こおり)と言う名の、聞き覚えがあるどころではない、苗字一文字と、とある勇者の面影と重なる、特機司令官の容姿。

 何より、まだこの世界に来たばかりの頃、静音が、異邦人である身の上な自分だからこそ打ち明けてくれた勇者たちの〝戦い〟の記録。

 

「これはこれは……」

 

 これだけで私は司令官の女性、〝郡千明〟の正体に、正確には彼女のご先祖が何者であることに、行き着いた。

 

「静音、もしやと思うが、今の特機部の司令官とやらは……」

「ええ……」

 

 まだ戸惑いが拭えないひなたたちの疑問どうにかしようと、静音に問いかけ、肯定を私たちに示した。

 

「幸いここには当人たちはいないし、ひなたと水都の二人にならそれなりに情報を与えても問題はなさげだから話すわね」

 

 静音は打ち明ける前に、念を入れ過ぎるほどの断りを、ひなたと水都相手にまず前もって述べ、二人は疑問すら言葉にできずに困惑するばかりだ。

 これから話す〝真実〟を踏まえれば、過剰に前置きを重ねた、はっきり口にするのは憚られる態度になるのも………無理はないか。

 だって、この方のご先祖は、何を隠そう――

 

「彼女は、西暦の終末戦争の後に名を消され、その存在自体がなかったこととされた勇者、郡千景の子孫よ」

 

 ――今静音が言った通り、若葉ら西暦末期の勇者の一人、郡千景その人なのだから。

 当然ながら、静音の口から齎された〝事実〟に、巫女二人は全身が凝固してしまいそうなくらい驚愕する。

 特にひなたは、相手が自身の仲間の血縁者であること、その仲間が〝存在を抹消〟されていた時もあった。

 

「ッ!? 千景さんの……それよりも、名を消された……」

「ええ、ほかならぬ貴方の手でね、上里ひなた」

 

 何よりそれを実行したのは、他ならぬ〝未来の自分〟だったと言う事実を前に、日常での微笑みを絶やさぬ物腰と、お役目の時でも、どんな事態を前にしても動じず冷静に凛と対処しようとする姿と打って変わって………酷く狼狽している。

 日頃の大人びた態度で忘れられがちだが、彼女もまだ、一四歳のあどけない少女である何よりの証明だった。

 

『なるほど、噂は本当か、上里の開祖がこの時代に呼び出され、お前たちを導いているというのは』

「まぁ、そんなところですよ」

 

 お陰さまでね――私も内心で呟く。

 私が召喚された神託を受け取ったのはひなたであり、トトもいたとは言えいきなり単独でバーテックスと、それも銀が差し違える代償と引き換えにやっと追い返せた強敵三体を相手にさせられた私に静音たちが間に合うことができたのも彼女のお陰でもあり、私にとって恩人の一人だ。

 

「あの……」

『なんだ、上里の開祖よ』

 

 そのひなたから声を掛けられた瞬間、郡千明司令官の様相が変わった。

 元より鋭利な一対の瞳に宿る冷気が増し、殺気すらも帯びた見るものの背筋も凍らせかねない眼光で、彼女を睨みつけてくる。

 自らに向けられた………〝憎悪〟と呼べるものを前に、なぜ〝未来の自分〟がそのようなことをしたのか聞こうとしていたひなたは完全に閉口して委縮し、水都は今にも泣きそうになって身体の震えを隠せずにいた為、せめてものと私は彼女の崩れ落ちそうな両肩を自身の手で支え、背中をさすり、少しでも落ち着かせようとする。

 私もあの〝眼光〟を、かつて目にした。

〝柳星張〟と燃え盛る京都で対峙した時、テレパシー越しに、私が修羅となってまで倒(ころ)してきたギャオスどもの怨念をも取り込んでいた奴と精神感応する〝彼女〟から……突きつけられたその目と、同じものだった。

 傍から見ているこちらすら不愉快な気分にさせられる様態だが、郡司令官がこの態度を見せるのも、理解できる。

 若葉たちとともに、天より遣わされた災厄(バーテックス)に立ち向かい、最後には悲惨な最期を遂げたご先祖たる千景を、一時とは言え、後に大社の最高権威に上り詰める当時のひなたらによって存在を〝消された〟からだ。

 大赦の保管庫に所蔵されている史料にも、徹底して千景に関する記録は消され、黒く塗りつぶされ、初めから〝いなかった〟ものとされていた。

 子孫からすれば、先祖の千景はと天の神と大赦(大社)によって二度、〝殺された〟も等しい。

 そう言えば、今でも読むことが多々ある日本の時代小説たちの作者(うみのおや)が生前残した言葉に、こんな一節があった。

 

〝封建社会は、恨みが何代にも渡って伝えられる〟

 

 実際一つ喩えを出すと、かの関ヶ原で敗者となった長州藩は、策謀の一環で領土安堵の約束を取りつけていながら、一方的に反故にして減封させた江戸幕府に対し、幕末の時代にまで胸の内に憎しみを宿し続け、最終的に討幕を成し遂げ、長い積年の恨みを晴らし切るまでに至った。

 大赦と、そして風鳴家、二つの組織の気風(じったい)を踏まえれば、どちらとも江戸の世に近い、実質封建社会であると分かる。

 つまり今の郡家の一人が、特機部の司令官に任じられるほどの出世の階段を上ることができるのは、郡千明当人の能力の高さもあるにしても、風鳴家の傘下にいることでもあると他ならず。

 その風鳴の影響で、約三〇〇年過ぎた現在にまで、ひなた含めた上里家への恨みが連綿と紡がれるに至ってしまった。

 まあこれは、あくまで現状掴める情報から組み上げた自分の見立てなので、〝かもしれない〟に留めておくとしても……また一つ、私は風鳴と言う家の〝業の深さ〟を垣間見た。

 せめて願わくは………この特機司令一個人には、そこまで昏い情に染まり切っていてほしくはないと、信じたいところでもあるだけど。

 

「ひなたよしなさい。いくらなんでも〝今のあなた〟で真っ向から渡り合える相手じゃないわ、それに、知ったところできっと何も変わることはない……」

「静音さん……わかりました」

 

 引き止めた静音の判断は賢明だ。丁度自分も、ひなたのコンディションをこれ以上悪化させない為にそうする気でいたし、そろそろ本題に入らないと。

 これ以上人間同士の内輪揉めで、予断の許さぬ状況下で話を停滞させるわけにもいかない。

 

「こうして通信を入れたのは、そのような些事の為ではないのでしょう郡司令官。鎌倉で……動きがあった……そうでしょう?」

 

 こちら側を代表して本題の詳細を問い詰めた静音に対し。

 

『賢しすぎるは考え物だぞ、〝櫛名田の子〟よ』

 

 皮肉さを大量に混ぜ込ませた不敵な笑みで、郡司令官はそう言い放ち。

 

「…………私がそう呼ばれるのが嫌いなのを、あなたもご存知でしょう」

 

 水都たちどころか、幼馴染の奏芽、義姉妹の翼すら息を呑んでしまうほどに、静音は内なる激情を抑えつつも、それでも微かにあふれ出た怒気の籠った、尾を踏まれた虎の如き形相で、郡司令官に睨み返す。

 どうやらこの二人の間も、大変芳しくない関係性なようで。

〝櫛名田の子〟と呼ばれたことになぜそこまで静音が怒りを見せたかも含めて気になるところだし、今のやり取りだけで櫛名田家の――静音のお家事情には合う程度想像つくが、その気持ちごと詮索は控えて行こう。

 また本題から逸れるし、今さっき〝賢しすぎるは考え物〟と揶揄されたばかりだしな。

 

『相も変わらず可愛げがないな、姉の方がまだ話しやすい』

 

 しいて補足すると、静音には双子の姉がいるが、関係は今でも良好な姉妹だとは言っておこう。

 

『まぁ、確かにこのようなことは些事よ、ああ……その通りだぞ、弦、静音』

「ということはやはり……か……」

『〝鎌倉の御仁〟は、先の星屑どもの襲来にご立腹だ』

 

 それもそうだ、こちらから先手を打つ準備を急ピッチで進めていたところに、虚を突かれて先に小手調べの戦闘(けんか)を売られて、鼻先であしらわれたのだから。

 こうなる可能性も、実際に起きるまで全く考慮してなかったとしたら、ある意味でおめでたいよ。

 

『全く厄介な事よ、先祖が先祖故の因果かは知らぬが、どうも貧乏くじばかりを引かされる……』

 

 静音の言葉から聞いた千景の生涯を知っている身だと、微笑にもできそうにない自虐のジョークだ。

 

「それはあなたの性格も込みでしょ。元〝氷の管理官〟」

『貴様も、私がそう呼ばれるのを嫌っているのを知っておろうが……』

「さっきの仕返しですよ」

 

 これなら〝やられたらやり返す〟なところもある静音の意趣返しの方が、場が場でなかったら、まだくすりとできる方だな。

 当の本人にとっては不名誉な〝公安時代〟の異名なのには違いないけど、何しろかの称号、名前と性格と仕事振り、その三つを揶揄する三重な〝ブラックユーモア〟の意味合いで付けられた代物に他ならない。

 

『鎌倉の御仁はこう言っていたぞ――』

 

 さて、やっとわざわざ通信を寄越してきた主題だ。

 私の、いや……私たちの予想が正しければ。

 

『「諏訪は国土安全保障の要たる松代の橋頭堡。その地をいつまでも異界の賊どもに踏み荒らされるなどまかり成らぬ」とな……諏訪奪還作戦の決行時刻が早まった。作戦決行は本日000だ』

 

 やはりか……と、溜息をつく。

 先手を打つ筈が、虚を突かれて逆に打たれてしまった以上、いっそ作戦そのものを中止にする手もある………いや、ダメだ、今となっては最早叶わぬ相談。

 我(わたし)よ………忘れたわけではないだろう?

 この造反神との戦争において、敗北は一切許されない、常に私たちは〝背水の陣〟に立っている。

 一度でも、敵に勝利の花を送ってしまえば………この世界は破滅の奈落に堕ち、天の神の思うつぼとなってしまう。

 ゆえに、獅子身中の虫も同然な鎌倉の意志より〝弱腰〟となじられようとも、敵側の襲撃を迎え撃つ防衛戦にしても、この前のような満を持してのこちらから打って出た攻撃戦にしても、神樹様との連携を怠らずに、堅実かつ着実に領土をここまで解放してきた。

 けれども、鎌倉の意志より端を発したとは言え、人間側(わたしら)が調子に乗ってスタンドプレーに走った挙句、先手を打たれ、賽は投げられてしまった。

 こうなった以上、むしろ退くことはもうできず、敵が待ち構えているであろう諏訪へ決戦を臨むしかなく、だからこそより慎重な戦略の練り直しが必要だと言うのに、。

 ところがあの〝痴れ者〟め、よりにもよって作戦決行の前倒しと言う、限られた選択肢の中で最も無謀極めた最悪なる愚策を捻じ込み、特機部の戦士隊含めた〝現場〟に押し付けてきた。

 スマートウォッチで時間を確認すれば、変更後の決行まで残り時間が半日すらない。

 筋肉隆々な元コマンド部隊の隊長が、さらわれた愛娘を取り戻せるタイムリミットさえ、十一時間はあったと言うのに、それよりも刻限が短すぎる。

 

「ぐっ!」

 

 同じく作戦の前倒しだと薄々見当ついていた司令は、苦虫を強く噛みしめ。

 

「あのくそたれジジイ……よくもまぁ、そんな馬鹿げたことを……」

 

 静音など、義理の祖父に対し憤怒の情を以て、はっきり糾弾の口上を口走らせた。

 

『報告は以上だ、こちらもそれなりには働きかけたが、彼の御仁の決断。一度下されれば止めること叶うものではない、くれぐれも用心を怠らぬことだ』

 

 本題を伝え終えると、郡司令官はさっさと通信を切った。

 この引き際の潔さと、忠告をわざわざ送ってくれたことから見ても、彼女の切れ者具合と、根にはちゃんと〝血も涙も〟も確かにあると、窺い痴れた。

 そうだな、決断とも言いたくない愚行だが、作戦決行の時を変えられない、まして中止することもままならない以上、郡司令官からせめてもの、ささやかなありがたい〝ご忠告〟の通り、せめて〝用心を怠らぬ〟ように、重々承知して努めてことにして。

 さて……次はどんな〝鬼か蛇〟が飛び出てくるか、覚悟も新たにしておこう。

 それと。

 

「静音、ひなたと水都を少し休ませてくる、今ので相当疲労が溜まってしまったからな」

「分かった、二人のことは朱音、貴方に任せるわ」

 

 巫女の二人には、少しでも心身を休める必要がある。

 勇者と装者同様、巫女の能力も当人のコンディションの影響を受けやすい、繊細な代物だからな、放っておけば疲れで神託を聞き逃してしまう可能性も、ないと言い切れない。

 時間は決して多くないが、なあに、幸い限られた中にも一時休められるよう有効的に使える分ぐらいはある。

 

「ああ、それと静音」

 

 さらに私は――。

 

「君にも〝用心〟の為に休息が必要だ、特に頭(ここ)と心(ここ)にね」

 

 静音にも今は自身を休ませる時だと、伝えておくのであった。

 


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