GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集   作:フォレス・ノースウッド

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さてさて今回もこちらは本編同様、諏訪奪還作戦回辺りのお話。
サブタイの『コーディネーター』は、うちのガメラズ=朱音とトトが本人たちはあくまで自分ができることをやってるだけなのですが、風鳴の外道ジジイのせいで静音が非情な作戦(一応説明するとバーテックスを混乱させるために諏訪全地域にまず砲撃したところを奇襲)を敢行せざるを得ず、不協和音でバラバラになりかけるチームを意図ぜず『調停』しようと奮闘してたからです(汗
全く余計なことしかしないよあのジジイは(2回目)


13.5 - Coordinator

 諏訪奪還作戦の結構前に先手を打たれた上、〝鎌倉の御仁〟からの理不尽な通告によって当初の予定より開始時刻が前倒しにされた直後。

 

「よし」

 

松代前線基地内に設置された、隊員用の食堂の調理場では、この場をお借りしてもらい、SONGの制式制服の上にエプロンを羽織り、葡萄色がかった黒髪をアップで纏めた朱音が、丁度作っていたサンドイッチたちを完成させていた。

 三枚の紙の皿に、三人分を均等に盛り付け、レストランの店員よろしく手に持った朱音は調理場を後にする。

 途中、ホルダー付き紙コップ三つ(内二つは朱音とひなたへのコーヒーで、一つは水都へのココアである)を乗せたお盆を持って飛ぶトトと合流し。

 

「おまたせ、私お手製サンドと――」

「(あおいの淹れたてな〝あったかいもの〟どうぞ)」

「ありがたく頂戴させてもらいます」

 

 食堂内の一角のテーブルで待っていたひなたと水都――巫女のお二人の前に置き、ひなたは感謝の一礼をした。

 

「もう少し時間と材料があれば、そば粉とうどん粉使ったパン生地作れたんだけどね」

「いえいえ、せっかく作ってもらったのにそこまでワガママ言えませんって」

 

 あわわと手を水都は振る。

 朱音はできることなら、蕎麦派の水都とうどん派のひなたに、それぞれの麺の粉も使ったパン生地から作りたかったのだが、いかんせん材料はなく、あっても一から作る暇もなく、トマトハムサンドと卵サンドぐらいのしか作れなかった。

 

「「「いただきます」」」

 

 作戦決行時間まで、お世辞にも長いと言えない時間を使って、心身へのエネルギー補給を主な目的としている軽食を取り始めた。

 

 

 

 

 

 さっきの、司令の公安警察時代の元上司にして郡千景の子孫でもある、現特機部司令官の郡千明との対面と、静音より明かされた〝事実〟で相当、身にも、特に心にも疲労が溜まった二人の為に、私は軽く料理を振る舞っていた。

 時間の制約上、そう凝った料理にもできなかったので、妥協の結果としてサンドイッチを選ばざるを得なかったけど、せっかくの休息に、何も食べないよりはいい。

〝病は食から〟、とも言うからね。

 それに、二人の食べっぷりから見る限り、食べられるだけの心の余裕は残っているようで、少し安心しつつ、自分の分のサンドを、いつもながら奥行きのある旨味な苦味を齎してくれる友里さんのホットコーヒーと合わせて食していると。

 

「あの……」

「何だ?」

 

 水都が何やら訊ねてくる。

 

「ちょっと聞きにくいことなんですけど……」

「いいよ、私は構わないから遠慮なく」

「それじゃ………朱音さんは………どこまでご存知なんですか?」

 

 少し歯切れの良くない調子で発せられる、水都からの漠然とした質問。

 

「私も、知りたくないと言われれば、嘘になりますね………なぜ少し先の未来の〝自分〟が、千景さんにあんなことをしたのかを」

 

 ひなたも、そう眼差しと一緒に、偽らざる胸の内を私に送っていた。

 彼女らが私に聞きたい問い具体的な内容は、わざわざ聞き直さなくても把握できている。

 西暦勇者一人である千景が、大赦の記録から存在を一時抹消されたのも含めて、自分にいた時代のその先の未来に、一体何が起きたと言うことを。

 そして、 この世界の西暦二〇一五年から神世紀三〇二年までの、約三百年の歴史、即ち二人にとっての〝未来〟を、どれくらい私が知っているのか? いつ知ったのか?―――と言うものだ。

 

「召喚された次の日には、静音から彼女が知りうる限りのことはほとんど聞いたよ、さすがに今の特機部の司令が千景の子孫で弦さんの元上司だとは、私も初耳で寝耳に水だったけどね」

 

 コーヒー一口飲み挟んで、私は質問に答えた。今の返答で、二人には充分意味も伝わっている。

 

「だが――」

 

 手に持っていたカップを手に置き、私は二人の瞳と自分の瞳が、正面から合わさるように向き合い直し。

 

「私の口からは君たちにとっての〝未来〟を不用意に話すつもりはない、静音とは下手に口外はしないと約束を交わしたからね、すまないがそこは理解してもらえるかな?」

「はい……」

「うん……」

 

 静音から聞かされたその〝歴史〟を、自分の口からは二人にも、彼ら以外の他の時間軸より召喚された勇者たちにも、不用意に打ち明ける気はないことを伝え、了解を貰う。

 ただ……これだけでは、ある種彼女の気持ちを突き放す行為にも等しい。

 

「静音本人に訊くのも、今は、余りお勧めはしないよ」

「どうしてですか?」

 

 二人が一時的に表面上は納得できても、心の奥底では納得し切れぬ思いがしこりになってこびり付くことになりかねない懸念もあったので、もう少し、言葉を付け加えておこう。

 

「静音が私に話してくれたのは、過去から来た君たちと違って、私が平行世界(パラレルワールド)から神樹様に呼ばれた異邦人であることと、アメリカ人でもあることだ」

「それは……どういう?」

 

 水都は顔に疑問符を浮かべていつ一方、ひなたは今の私の言葉で理解できたようで。

 

「もしかして朱音さんがおっしゃりたいのは、〝言霊〟……ですか?」

「正解さ」

 

 今のひなたの返しに、肯定で応じた。

 私の世界でも、そしてこちらの世界でも同様に、日本と言う国には、そこに住む国民のほとんどが今でも無意識無自覚なまま〝信者〟となっている、この国の歴史古くから伝わる独自の宗教が存在している。

 その宗教の名は――〝神道〟。

 そしてこの宗教体系を構成する一部でもある信仰の一つが、ひなたが先程挙げた―――〝言霊〟である。

 

「水都も、言葉自体は聞いたことがあるだろう?」

「う、うん、一応……でもバーテックスが出てくるまで巫女なんてやったことなかったし、なってからも修行とかやってこれなかったから………いまいち意味は、よく分からないです」

 

 良い機会だから、この際水都にも、意味は知っているひなたにも改めて説明しておくか、それぐらいの時間はまだある。

 

「言霊と言うのはね――」

 

 この信仰を簡潔に表現してしまえば、胸の内に思っていること、考えていることを、実際に言葉として声に出したり、または文字に書き記したりすると、その事柄が現実に起きてしまう――と言う一種の霊的な力を指している。

 昔の日本人は、この言霊を本気で信じていた。

 

「二人とも昔にこんな経験はなかったか? 運動会前日に〝雨が降らないかな〟とクラスメイトの一人がそう言ったら、当日本当に雨が降って中止になり、周りから〝お前があんなこと言うならこうなった〟と発言した子が攻め立てられてた、なんてこと」

「あ、ありましたねそう言えば……私は運動苦手だったから、中止にはむしろ大喜びでしたけど」

 

 身近な一例を上げるなら、こういうこと。

 私も両親が存命の頃、日本の小学校で似たようなのを目にしたことはあったが、逆にアメリカのスクールでは、悪天候で予定されていたイベントが中止になっても、そうなったらいいなとぼやいた生徒が攻められる事態なんて、一切起きたためしがない。

 どうして口にしたことが実際に起きただけで、日本ではこうなるのか、これも言霊の影響によるもの。

 

「そう言えば……こっちに呼ばれる前に諏訪にいた頃は、勇者のうたのん相手はともかく、他の生き残った人たちとはバーテックスのことを話題にしないようにしてました………下手に口にすると本当に出て来てしまいそうで……あっ」

 

 ここまで言葉を繋いできた水都の顔に、はっきりと思い立った表情が現れた。

 

「そっか、言霊って……そういう意味なんだ」

「はい、今水都さんが思い至った通りです」

 

 さっきも言ったように、個人差は多少あってもほとんどの日本人は現在でも自覚がないまま、実際に言葉を声にして発した内容が実現してしまうと、意識しないまま知らぬ間の内に――〝信じてしまっている〟。

 その上――。

 

「それでも西暦二〇一五年までは、現代の日本人にこんなこと話しても、盛大に笑い飛ばされただろうけど」

「はい、あの日以来……私たちは思い知りましたからね―――かつて先人たちが信じ、畏敬を抱き崇めていた神々は、確かに〝実在〟していると」

 

 この時代の、正確にはバーテックスが初めて襲来した二〇一五年以降の日本人の一般市民は、人の世を守護してくれる神樹様そのものに対する信仰心こそ、表面上比較的緩い方ではあるが………深層意識ではむしろ、無自覚な言霊を含めた神道への心信が、強くなっている筈だ。

 何せ、神は本当に存在すると、証明されてしまったのだから。

 

「いわば私たち日本人は、エルフナインさんが言っていたところの、この国の気風そのものに備わっている〝哲学兵装〟の影響下にあり、神の実在でより強くなっていると言うことです」

「ああ、この国の人々ほど、ひなたの言う言葉の影響を大きく受けてしまう民族はそういない、二人も入れてね」

 

 この話の喩えにもってこいな表現を述べたひなたも、そして水都も、決して例外じゃない。

 おまけにだ。

 

「それに二人とも、さっきの疲れがまだ残っているだろう?」

 

 そんな状態で、彼女たちの本来いる時間からすれば人知では数えきれないほどの〝可能性〟が多くある未来の内の一つでしかないが、一方でこの時代では既に不変の過去となってしまっている………この先に待ち受ける運命ってやつを、迂闊かつ無遠慮に話してしまえば――。

 

「巫女の能力にも、何らかの支障が出てくるかもしれない……」

 

 日本独自の宗教事情も用いてまで、少々遠回しな表現で説明したのは、ある程度相手が自分から気づけるようそれとなく促した上で、主旨をはっきり伝えた方が記憶に残り易い、自分なりの伝達方法と言えるものだ。

 

「神託が私たちにとっての生命線の一つでもあるから、これ以上君たちの心を揺さぶらせたくはないんだ、だから今は、その気持ちをどうにか胸の内に秘めておいてくれないか?」

 

 シンフォギアと勇者システム同様に、巫女の力もまた、それを有し扱える人間の精神状態によって、キレにムラが出てしまう能力でもあり……最悪、神樹様が神託を送っているにも拘わらず、その意志を受け取れなくなる可能性だってある。

 だから、できるだけ他者の意志は尊重しようと心がけている私でも、二人がたとえ〝知る覚悟〟を決めていたとしても、自身の時代の、この世界の現在に繋がる〝その先〟を、静音含めたこの時代の人々より聞き出すことを、とても勧められはしなかった。

 これはひなたたちの巫女の能力に響きかねない懸念もあるが、ひなたたち自身にも勿論、案じているからこそである。

 

「私も東郷と同じく、一応神託を受けられる巫女ではあるけど、私一人の主観だけではどうしても限界がある、神樹様の意志をできるだけ正確にかつ詳細にみんなに伝えるには、二人の豊かな感性に、イマジネーションや表現力が欠かせないんだ」

「そ、そんな大袈裟ですよ! ひなたさんは分かりますけど………私なんて」

 

 お世辞にも自己評価が高いと言えない水都は、私からの賛辞で顔が急速に紅潮した。

 

「それだけ頼りにしてるってことだし、私たちがここまで戦い抜いてこられているのは、君のお陰でもあるんだよ、水都」

「そうです、私も同じ巫女として水都さんには助けられている身です、ありがたく受け取って下さい」

「はい……ありがとうございます」

 

 私と、いつもの微笑みを取り戻したひなたからの賛辞の言葉を、水都は照れがまだ少々残りつつも、受け取ってくれた。

 さて、当初は湿っぽさと暗さが少なからずあった場の空気が、大分さっきより和らいで温かくなってきたことだし。

 

「さあ、次なる神託をいつでもキャッチできるよう、食べて精をつけよう」

 

 一時止まっていた軽食の再開を、私は進めようとしつつ、人差し指と眼を天井の向こうの空へと向け。

 

「グランパは言っていった―――」

「きゅ、急になんです朱音さん?」

「『食の真なる語源は、〝料理の乗った皿に被さる蓋ではあるが、人が良くなると読めるのも確かである』とね」

「え、食べるの漢字ってそういう意味だったんですか?」

「そうなんですよ、元は――」

 

 我が祖父から送られた、数多くの格言の一つをきっかけに新たな話題を調味料に、トークを花開かせてサンドイッチを頬張る。

 それしても友里さんのコーヒーは、温くなっていても、格別だな。

 ほんと、グランパの言う通り〝食べる〟ことは人を良くしてくれるよ、確かに。

 

「すみません、ちょっと話題を戻すんですけど……朱音さんって、余り言霊に影響されなさそうですね」

 

 と、我が尊敬する祖父の言葉を噛みしめていると、水都からこんな質問を送られてきたので。

 

「私も言葉自体に〝力〟があるとは信じているさ」

 

 でなければ、自分でもなぜなのか分からないくらい、理屈抜きで〝歌〟と〝歌う〟ことを好きにならないわけないし、積極的に様々なジャンルの書物を読んで知識を吸収していったりはしない………んだけれども。

 

「さすがに思ったこと口にしたり、起きてほしくないことをただ口に出さなかったぐらいで、現実を改変できるのなら……世の中苦労はしないし、神樹様だって弱った身に鞭打ってまで私たちを―――」

 

 若葉たちのような過去の時代の勇者と、平行世界(パラレルワールド)の異邦人な自分を――。

 

「〝助っ人〟に呼んだりはしない」

 

 長いことアメリカ暮らしが長く、親日家にして趣味で日本文化の研究をアクション映画と俳優業に並んでライフワークとしてる祖父の影響を強く受けて育った日米双方のアイデンティティを持つ私は、言霊ひいては〝神道〟そのものに対し、きっぱりとばっさり言い切った。

 それともう一つ、自分の持論にして、日本外の常識とも言える事柄を言っておこう。

 

〝平和と安全は、ねだればタダで手に入る代物じゃない〟

 

 ――ってね。

 どうにかこの世界にいる間の内に、大赦の連中へと言っておかなきゃいけないな、と心に秘めて。

 

 

 

 

 

 こうしてひなたたちの心身は何とかできたんだけど………その後の諏訪奪還作戦決行の際に、勇者装者全メンバーの結束を揺らがしかねない、不協和音が、奏でられてしまった。

 この件を今詳しく述べるのは………よしておこう。

 それだけデリケートな件、ってことさ。

 

 

 

 

 

 

 決行時間がかの外道のせいで前倒しにされたことを、千景の子孫な現特機部司令より伝えられた直後から、数時間後。

 作戦はどうにか成功し、民間人も自衛隊員に特機部メンバー含め、負傷者こそ出してしまったが、幸い死者の方は一人も出ることなく、諏訪を取り戻すこと自体はできた………できたけど、歌野と水都の故郷でもあるかの地と、人々の生活そのものへの〝コラテラルダメージ〟自体は負傷者も込みで、残念ながら被らざるを、得なかった。

 

 

 戦闘後も、迎えが来るまでの間、ツーマンセルで班分けをして警戒任務に当たっていた私と風部長は、お迎えの陸自ヘリに乗り込み、作戦の一環で放たれた自衛隊の兵器の流れ弾による爪痕が残る諏訪の街を後にする。

 

「(ただいま)」

「おかえり」

 

 ヘリが垂直上昇から進行し始めた直後に、私からの〝頼みごと〟と、別エリアでの見回りで別行動を取っていたトトが、揺れる機内の宙に現れた。

 

「どうだった?」

「(案の定と言うか、例のおじいさん、作戦終わった途端通信入れて、千明と特機の人たちにネチネチ文句垂れてた)」

「案の定だな、『無様だな』とか言ってなかったか?」

「(うん、言ってた言ってた、それも含めて端末に送ってあるから)」

「Thanks♪」

 

 実は作戦中の間、トトにもう一度特機部と戦士隊の様子を窺ってくるよう頼んでいたのだ。

 今度は千明司令の手腕も含めて、直に見てきてほしいと付け加えてね。

 

「(でも……言い難いんだけどあの後僕……うっかりやっちゃって)」

 

 お陰で目当ての〝代物〟は手に入った一方、思わぬ誤算があったことをトトから聞かされる。

 

「感染呪術か……」

 

 なまじ勇者を輩出した家の者な上に、日々聖遺物に触れている職業柄の影響で分かり易く言えば〝霊感〟が研ぎ澄まされていた千明司令には、作戦開始直前からとっくに存在を感知され、鎌倉の外道爺からの通信の後に向こうからトトにコンタクトを取ってきたと言う。

 観念したトトは、私からの指示で視察していたことを正直に打ち明けたと言う。

 

「(『余り深入りすると痛い目に遭う、でないと先祖の千景みたいになる』って、釘も刺されちゃった……)」

「いいさ、むしろ嬉しい誤算だよ」

「(どうして?)」

「ご丁寧に忠告をしてくれるくらいには、あちらの司令も良心的な人柄の主だってこと、もしその気だったなら、わざわざトトに伝える必要もない」

 

〝氷の司令官〟。

 千明司令官が公安の管理官だった時代に付けられた揶揄とブラックユーモアたっぷりの異名は、彼女自身の人柄と言うお山の一角でしかないと教えてくれるには、その前の通信の最後の一言含めて充分な、ありがたい〝ご忠告〟である。

 これでこちらも蛇が出さずに藪を突いて情報を仕入れられる許容範囲もある程度見極められるし、今後の行動の進め方の参考にもなったし。

 何より、根っこには確かな〝良心〟や〝義理人情〟をお持ちな、信頼できるお方であることが、トトとのやり取りを想像するだけでもよく分かった。

 

「(確かに良い人だったね、実は他にも〝伝言〟を預かってて)」

「何だ?」

「ちょっとちょっとそこのお二人さん」

「「はい?(はい?)」」

 

 いきなりここで、向かいの席に座っていた風部長が、怪訝そうなお顔で私たちに呼びかけてきた。

 

「あんたたち、結界貼ってまで一体何ひそひそ話してんのよ? さっきから羨ましっ………じゃなくて気になるったらありゃしない」

 

 テレパシーで喋れるトトの存在で、自身の精霊(パートナー)である犬神たちとお喋りしたい願望が一瞬漏れたのは横に置いといて。

 私とトトのさっきまでの会話は、トトの防音結界とヘリの駆動音もあって当人以外は全然聞こえない仕様にはなっていたが、敢えて風部長に会話している模様は見える様にはしていたので、いずれ聞いてくるとは読んでいた。

 ある程度はこの勇者部初代部長にも話しておきたかったが、どこまで内容を伝えられるかチェックする時間は欲しかったので、わざとこういう仕様にしておいたのだ。

 そうだな………トトの眼(カメラ)がばっちり撮ったものくらいは見せても良いだろう。一時は大きくなったリーダーの静音に対する不信もより払われるだろうし。

 私はまず、密かにトトに特機部の視察の指示を出していた件を打ち明ける。

 

「朱音………ちょっと危ない橋渡ろうとしてない? トト君まで巻き込むの勘弁してよ」

 

 苦言(ツッコミ)を貰うのも、想定の範囲内。

 

「重々気を付けはしますよ、でも私がこうしているのは、昔の貴方たちのような目に遭ってほしくないからでもあります」

「っ………」

 

 私たちが独自にこうして調査を進めている理由の一つを述べると、部長の表情の苦味は増してそのまま押し黙ってしまう。

 私も眼(めせん)からでも、大赦の大人たち、神樹様、そして勇者システムに備わっていた機能――〝満開〟の隠された残酷なる代償と、勇者としてのお役目の狭間で苦しめられ、半ば〝消耗品〟扱いされた自身と愛する妹と仲間たちの記憶を追想しているのが見て取れた。

 

「そしてさっきも話しました〝いざという時〟の為にも、トトが撮ってきたこれを見て頂けますか?」

 

 私はシートベルトを外し、比較的機動が安定した機内を渡って風部長の隣に座り直す。

 

「トトも含めて、精霊には自分が見たものをパートナーの専用アプリに記録することもできるんです」

「え? そんな機能もあったの?」

「はい、トトから聞きました」

「はぁ~~ますます神樹様には犬神たちに喋らせてほしいわよ」

 

 全くの初耳だったようで、精霊と《NARUKO》の一機能に両目を点にさせている部長をよそに、端末を操作して例の映像を再生させる。

 画面に表示された特機部の司令室内に、立体モニターが現れ、一人の男の姿が映される。

 その姿は御簾のベールに遮られ、シルエットぐらいしかお目にかかれないが。

 

「まさか、こいつが……」

「はい、この男こそ――風鳴訃堂、翼や弦さんの肉親にして………この国の影の宰相ってやつですよ」

 

『諏訪の開放が鳴ったのだな、郡よ』

 

 映像内のモニターから、威厳こそあっても、おおよそ人の温かみが一切感じられない、地の底より這い出てくるような渋く低音な声が響いた。

 かつて翼は、〝感情無き剣〟に固執していた時期があった………その道を進んでしまった成れの果てが、こいつだと言えよう。

 

「ちょっと待って、今『こおり』って」

 

 私は、目線(カメラ)千明司令の横顔に移った時点で映像を一旦止める。

 

「『郡千明』、現特異災害対策機動部の司令で、公安時代の弦さんの元上司であり、千景の子孫ですよ」

「え、どえぇぇぇぇぇぇーーーーーー!」

 

 千明司令の大まかな身の上を話すと、予想はしてたけど、風部長は機内どころか外にまで響き渡りそうな驚愕の絶叫(リアクション)を上げた。

 トトが防音結界を貼ってくれなければ、操縦中なヘリのパイロットさんもびっくりして機内は大揺れだったかもしれない。

 しかし日頃自ら豪語するだけあって女子力は高いお人だけど、翼とはまた違った意味で天性のコメディアンの資質あるな、新○劇に出たら瞬く間に売れっ子街道を登りそうだ。

 

「ちょ、ちょちょちょ待って………頭がしっちゃかめっちゃかで、整理が全然追いつかないんですけど」

「無理もありません、私も今日知ったばかりで驚かされましたから、詳しくは後日静音辺りに改めてってことで」

「そうね……じゃあ続きを見せて」

「はい」

 

 画面中央の再生ボタンを押して、再開。

 

『はい、訃堂殿……』

『無様なモノよ……神樹なんぞの言いなりとなり、国土安全保障の要が何たるかを履き違えしモノどもの落とし子どもに救われるとは』

「かぁ~~~むかつく言い草ね………あんたのせいで私たちと諏訪の人たちはとんだ貧乏くじよ」

 

 何となく重要なことな気がして繰り返すが、自ら豪語するだけあって女子力は高い一方、血気盛んな面もあるこの風部長は、かの外道の傲岸そのものと言える威圧さで相手を屈服させんとする態度に、苛立ちを露骨に見せた。

 

『彼らの働きがあってこその、諏訪奪還にございます、そこは素直に賞賛すべきことでは?』

『果敢無きかな……よいか郡、此度の諏訪奪還において彼の者どもの勇者風情の力を借りるは大赦の者どもへ貸しを作るための砥糞にすぎぬ』

 

 やはり今回の作戦を皮切りに、この造反神との戦争の舵取りを乗っ取り、あわよくば直接指揮をも実質的に牛耳る気でいたな………。

 

「これ下手すると、今後もこの爺さんの無茶苦茶な指図受けてバーテックスと戦う羽目になってたって……ことよね?」

「その通りです」

「最悪……」

 

 ああ、全く以て同感………最悪だ。

 

『されど、まんまと櫛名田如きの子に、してやられるとはな』

 

 痴れ者めが、こちらとしては――ざまあみろだ。

 祖国の片割れたるこの日本は、地球内で存在する国々の中で最も戦争及び軍事面で酷い音痴な苦々しい負の一面も持つ国家だが、こいつは私の知る限りその中で最も極地にいる無知蒙昧な――You bastard!(クソヤロー)――だ。

 この爺にだけは、国防だの安全保障の何たるかだのを言われたくはないし、筋合いは一切ない。

 その点では、どうにか〝借り〟を外道に作らずにしてやった、仲間からの反発も、一般市民の犠牲すらも覚悟で奇襲作戦を敢行した静音の采配が、結果的に功を奏したわけだな。

 

『まぁよい、国土安全保障の要たる諏訪の奪還、大儀であった、されど貴様の家が我ら風鳴により救われたというその事実、忘れるな、郡よ』

『無論…………』

 

 最後に千明司令を通じて郡家そのものに釘を刺した外道は、言いたいことだけ一方的に彼女たちに付きつけ、通信を切った。

 映像自体も一時停止させる。

 

「朱音………最初に翼の爺さんの話聞いた時、『昔の大赦と一緒じゃない』って言ったわよね?」

「はい」

「あれ……撤回する、この憎たらしいジジイに比べたら静音の言う通り、大赦の方がまだ良心的だったわ………今とあの頃ひっくるめてね」

 

 大赦に対しては、勇者たちの中で最も悪感情を抱く風部長にまでこう言わせる。

 上には上がいる、と言うことだ。

 

「静音って、こんな連中と毎日付き合ってたのね………それも考えずにぶつくさ言ってたさっきの自分を叱ってやりたいわよ」

 

 そうだな……。

 この後も、最も苦労が待っているのは、何を隠そう………静音だ。

既にヘリは、いくつものライトが灯される松代基地の上空にいた。

 窓の向こうの地上を見下ろせば、先に到着してヘリから降りたばかりの静音の姿を目にする。

 私の眼には、確かに見えていた。

 夜天の下、灯りに照らされ毅然と歩を進める彼女の背中に、今回の〝戦い〟にて新たに加えられたものも含めて、背負っているものを。

 

 

 

 

 

 深夜の約三時間に渡っての戦闘でもあった為、松代基地に戻った装者勇者一向の〝ほとんど〟は、ほどなくこの一日で蓄積された疲れを癒す眠りに就いた。

 ただほとんどと記した通り、例外もいるのだが。

 SONG側の指令所内の一室では、静音がPC端末の前でデスクワークに勤しんでいた。無論次期大赦代表候補の多忙な職務の一環である。

 二重の五指に叩かれるキーボード。

 端末の駆動。

 静音自身の呼吸、慎ましく鼓動する心臓。

 多少なりとも〝音〟は存在しつつも、それでも静寂が室内を回り、流れゆく中、静音の背後から自動ドアが開かれた音が鳴り。

 作業を一度止めた静音は振り返る。

 

「Excuse me(失礼するよ)」

「あ、朱音、貴方も起きてたの?」

 

 訪問者――淡い緑のナイトウェアに同色のカーディガンを羽織った格好の朱音は流暢なネイティブのアメリカ英語で、部屋に入ってきた。

 

「次期代表候補殿は今夜も仕事が大量に残ってると思って、ちょっと軽い夜食をね、おにぎりとグリーンティースムージーだ」

 

 丸型のお盆の上には、海苔が丁寧に巻かれて丸み気味の三角形なおにぎりが、手にべとつかない為の配慮で竹の葉の上に乗せられた二つと、湯気沸き立つ、例のマリアたちが助けた農家のおばあさんからのおすそ分けな地元野菜の栄養もたっぷり混ざった緑茶が入った湯呑みが添えられており、それを机に置く。

 

「なぜ私が仕事中と?」

「薄々感づいてたけど、ヤタ君がトトに教えてくれてね」

「ヤタが?」

 

 それを聞いた静音は、懐から端末を手に取り、自分が勇者のお役目を務め始めてからの長い付き合いである相棒の精霊、ヤタこと八咫烏(やたがらす)を呼び出し。

 

「本当なの?」

 

 と問うと、猛禽類を連想させる、片方に歴戦の古傷の如き稲妻の模様が走る鋭い眼のまま八咫烏はこっくり頷いた。

 園子曰く他の勇者の精霊よりもワンランク上で、自らバーテックスに攻撃することも可能な八咫烏だが、〝喋れない〟点では他の精霊と同様で、ゆえにテレパシーで人間と直接会話できるトトを通じて、疲労が残る身体で仕事に励む主人を助けてほしいと朱音に頼んできたのだ。

 

「それはどうも、世話をかけたわね、ヤタも朱音も、ありがたく頂くわ」

 

 そろそろ小休止を考えていたところでもあったので、丁度いい助け船である。

 早速静音はまずおにぎり一個目を一口、柔らかさと弾力さのバランスが秀逸に取れ、米そのものの甘味を邪魔しない適度な塩加減と海苔の風味で合わさった旨味が広がった。

 

「さすがね」

「お味がよろしいようで光栄だ」

 

 さすが、東郷(すみ)に風に調やマリアに並ぶ卓越した料理の腕の持ち主だけあると噛み締めつつおにぎりを味わい、茶葉の苦さと野菜の風味が調和を持って混ざり合った緑茶スムージーで一服する。

 

「でも、わざわざこんな夜遅くに私のところへ来たのは、それだけじゃないでしょ?」

「ご名答、実はトトがあるお人から伝言を預かっていてね、早い内にお伝えしておこうと思って」

「伝言? 誰からなのその物好きは?」

「郡千明司令」

 

 ある種の天敵とも言える相手であるその名が朱音の声に乗って静音の耳に入った瞬間、熱いものには比較的強い身ながら、彼女は驚愕で咽て、咳き込んだ。

 

「あ……貴方のアメリカンジョークって………わけじゃないわよね?」

「いくら私でも時と場合と場所くらい選びます、証拠をご所望ならお見せしますよ」

 

 朱音は、自身のスマホの画面を見せる。

 トトの眼を通して記録された映像の一部を静止画したものだが。

 

「………」

 

 そこには、少なくとも自分の記憶では、よく見積もってもほとんど見た覚えがない………微笑みを浮かべて、勝利の歓びを仲間たちと共有し合う先祖の千景の姿が映し出されたスマホの画面をトトに見せている姿が、映っていた。

 

「トトによればこの写真を見せてくれた彼女は『私個人には上里家への恨みはない』と、それと奪還を成し遂げた静音と弦さんに『よくやってくれた』と、彼女なりの感謝も明かしてくれたそうだよ」

「そう……」

 

(私たちの前では、言われるのを嫌う癖して〝氷の管理官〟の仮面を碌に外してくれないと言うのに、あの人も大概………素直じゃないわ)

 

 静音は内心、幼馴染の奏芽や翼に奏に風辺りから――『お前がそれを言うか』―――と突っ込まれそうな独白を零す傍らで。

 

「言伝を伝えてくれたことと、この夜食には改めて感謝しておくわ、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 感謝を述べ立て、朱音は温かな笑顔で応じたのだった。

 

 

 

 

 

 

「とそれとさらにもう一つ―――またちょっと無茶なお願いがあるんだけど」

「いいわ、そのお願いが何なのか、まずは内容を教えてもらえる?」

 

 今日の……否、今日も含めた諏訪奪還に関する風鳴訃堂の理不尽な要求の数々を乗り越えた後なら、朱音のお願い程度、どんと来いの気持ちな静音に朱音は――。

 

「おそらく今回の諏訪奪還作戦と今後の方針の件で、大赦の幹部会が開かれるだろう、そこに私も傍聴役(オブザーバー)で、参加できないだろうか?」

「え……?」

 

 そう申し立ててきた。

 このさすがに無茶も無理もあり過ぎる〝お願い〟に対しては、どうしても呆気に取られ、一時的に何も言えなくなる状態にまでに陥られてしまう、我らが勇者たちのリーダー静音であった。

 


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